表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/56

第6話 闇の世界

 メリッサが目を開けると、暗闇の中にいた。光も何もない漆黒の闇。

 ただ、暗闇ではあるが、自分の体ははっきりと見える。先ほどまで着ていた服を着ている。真っ暗で、上も下もないようだが、自分が立っていると、はっきり分かった。


「ここは……」


 今まで鉱山にいて闘っていたはず……

 突如として目の前の景色が一変したことに、メリッサは困惑した。

 妙な所だ。

 ここに来る前の記憶を思い出す。


「私は、ゴーレムの攻撃を受けて……死んだのか……」


 思考は、当然の結論に帰結し、腹の底が冷たくなうる様な不安に駆られた。死というものを実感できていなかったが、目を開ける直前の記憶は、敵に攻撃される瞬間のものだった。

 どう考えても、自分は死んだんだ、そうとしか思えない。


「ここは、冥界という場所なのか……みんなは、大丈夫だろうか……」


 色々考えるが、混乱していて思考が纏まらない。

 途方に暮れて、はぁっと溜息が漏れた。

 そんな時、ふと闇の中に小さな青白い光が見えた。


「あれは……」


 それは見たことのある光だった。

 視界に何度も現れた穴の中に見た、青白い不思議な光。

 思い当たったメリッサは、はっとする。


 ――ココダ……


 あの“声”もした。呼んでいる。

「怪しい」と警戒する気持ちもあった。それでも、無性に「行ってみよう」という気に駆られ、平衡感覚が揺らぐ闇の中をよたよたと歩き始めた。

 光は、メリッサが歩みを進めるほど、大きくなっていった。

 確実に光源に近づいている。

 そして、ある程度近づくと、その光が何から発せられているのかが分かった。

 大きなクリスタルだ。

 光りが放っている。淡く、ぼんやりとした光だ。


「浮いている……のか?」


 クリスタルは、装飾用にカットされた宝石のような美しい形をしており、闇の中に静かに浮いているように見えた。闇の中では、はっきりしないが、彼女にはそう見えた。

 大きさはメリッサの身長とさほど変わらない。

 よく見れば、透明なクリスタルの中に青白い光の球体が入っており、先ほどからの光は、この球体が根源であることが分かった。


 ――ソウダ……モット……モットチカクニコイ……


 怪しげな声は尚もメリッサを誘う。

 しかしなぜだろうか、人を惹きつける不思議な輝きだった。

 メリッサは、吸い寄せられるように、そのクリスタルに手を伸ばした触れてみた。


 ピシピシッ


 彼女が触れた途端、クリスタルにひびが入ったのだ。

 あっとメリッサは声を上げた。

 驚いて手をさっと引っ込めるが、ひびはクリスタル全体へ渡り、とうとう音を立てて弾け飛んでしまった。


「ぐっ」


 自分に向かって飛んでくるクリスタルの破片に、メリッサはとっさに腕で自身を庇った。

 しかし、不思議なことにクリスタルの破片は、彼女の体に当たることなく、空中で消えてなくなった。

 ぐっと細めた目でクリスタルのあった場所を見ると、そこには先ほどまでクリスタルの中で光っていた球体が、青白い光を失わず浮いていた。


「今のはいったい……」


 この暗黒の空間といい、突然割れたクリスタルといい、訳が分からない。

 もう声も聞こえなくなった。

 彼女が状況を呑み込めずにいると、光る球体は空中を滑るように移動し始めた。


「あ、待ってくれ!」


 彼女は訳が分からなかったが、追いかけなければという気になり、咄嗟にその球体を追いかけた。

 ふわりふわりと飛行し、少し進んだところで停止する球体。

 行き止まりなのだろうか。

 闇の中に、同じ黒なのだが、何となくだが壁の様なものが見える。

 よく見ると球体の先の空間が少し波打っていた。まるで真っ黒な水のカーテンがあるようだ。

 球体は、カーテンの前で完全に停止している。


「この先に何かあるのか……」


 球体が、この先だと言っている気がした。

 メリッサは、誘われるように、今度はそのカーテンを恐る恐る触った。

 すると触った場所から、闇に穴が開き、光が広がっていく。そして、みるみると真っ暗だった空間全体が眩い光に包まれていった。

 そのあまりの眩さに、またメリッサは目を瞑ってしまった。




「お嬢おおぉぉぉ!」


 誰かが叫ぶ声に、はっと目を開けた。

 そこは、鉱山のターミナルだった。

 目の前には、片手を広げたゴーレムが立っていて、突き出した腕からは、白い煙が所々から出ている。

 あの閃光を放った直後といった状態らしい。


「………え?」


 再びの周囲の変化に、今の状況が呑み込めずに、素っ頓狂な声を出してしまった。

 自分は夢でも見ていたのか、それとも幻だったのか。

 色々と考えるが、考えが纏まらず混乱するばかりだ。


「お嬢! 無事なのか!? お嬢!」


 ゴーレムに押さえつけられながら、ヘルマンが必死に叫ぶ。それもメリッサの様子がおかしいからだ。見た目にダメージはなさそうだが、彼女は立ち尽くしていた。

 ヘルマンには、それが無事なのか、ダメージがあるのか分からなかったのだ。

 叫び続ける彼に対して、ゴーレムは、押さえつけながら彼の側面に、空いた左腕を叩き込んだ。

 ドガッとぶつかる音がして、ヘルマンが吹っ飛び、地面を二、三回転がった。


「ヘルマン!」


 咄嗟にマリアが、悲鳴にも似た声を上げた。


「やべぇ、ヘルマンの旦那が不味いの喰らっちまった……」


 マリアの横でアルレッキーノの顔面も蒼白になる。その場の全員も表情が凍った。


「ぐはっ……あ、あいつ、あの魔法の後は停止するんじゃ……かはっ……ねぇのか」


 ヘルマンは紙一重で受け身を取り即死は避けた。が、ダメージは大きく、地面に這いつくばって吐血した。


「ヘルマン!」


 ヘルマンが攻撃されたのを見て、やっとメリッサが我に返って、叫んだ。

 すると、その声に反応してか、ゴーレムはヘルマンに止めを刺さず、即座にメリッサの方に反転して襲いかかってきた。

 はっと意識を赤いゴーレムに向けると同時に、頭上から迫る大きな赤い腕がメリッサの視界の隅に入った。すかさず、彼女は横に飛び退きその攻撃をかわす。

 ゴウッという空気を切る音が、メリッサの頬をかすめ耳を抜けていく。直後、重量感のある鈍い音をたてて、ゴーレムの腕が地面にめり込んだ。


 咄嗟に回避行動を取ったが、意識と身体がまだ上手く繋がっていないのか、横飛びの後、脚がもつれ尻もちを着いてしまった。

 ――しまった! 

 追撃が繰り出されると思われた時だった。



 ガシャンッ! と金属の塊どうしが衝突するけたたましい音。

 後方から何か大きな物に衝突され、ゴーレムは跳ね飛ばされると、その衝撃で地面に転がった。

 ゴーレムを突き飛ばしたのは、鉱洞内でトロッコなどを牽引する大型の自動車だった。その牽引車も、衝突の衝撃で横転し、煙を上げている。

 何が起こったのかと呆然と眺めるメリッサの視界の中で、横転している牽引車の運転席から、のそのそと人が這い出てきた。


「スターチ殿!」


 メリッサが、声を上げ牽引車に駆け寄る。


「大丈夫ですか? しかし、なぜ?」

「う、痛っ。ああ、あんたらばっかりに任せておけなくてな」


 痛みに表情を歪めながら、スターチはメリッサにほほ笑んだ。

 そうしている間にもゴーレムは、片膝をつき、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。その姿を見て、アルレッキーノが叫ぶ。


「マリアちゃん今だ! 拘束結界を使ってくれ!」

「はい! 拘束結界、発動!」


 運が良いことに、牽引車の衝突によって、ゴーレムを、アルレッキーノが指定したポイントに入れることが出来たのだ。

 マリアの掛け声とともに、ガラスのように透明なドームがゴーレムを中心に広がる。すると、そのドームから抜け出そうゴーレムがともがき出した。


「ダメ! 十秒ともたないわ!」


 術を発動させながら、マリアが叫ぶ。


「任せろ!」


 アルレッキーノが勇ましく声をあげ、地面に両手をつき魔力を込めた。それに合わせて、ゴーレムに破壊された六機のブロッケンの残骸が、青く発光し始めた。

 次の瞬間、ゴーレムを覆っていたマリアの結界を、更に覆うように青い透明のドームが作られた。

 目の前に出現した2重の結界は、この危険なゴーレムが激しく暴れても、まったく影響を受けていない様子である。


「これは……結界が強化されたの?」

「そうさ、マリアちゃん。一般的にゴーレムには、駆動用に魔法強化の鉱石が使われているからね。だから、ブロッケンの残骸を魔法陣でつないで、マリアちゃんの結界を強化するのに利用したのさ」

「だから残骸たちの輪の中に赤いゴーレムを誘導してほしいっていったのね」

「そゆこと。どう? 惚れ直した?」

「ふふふ、うちのメカニックは流石ね」


 アルレッキーノがマリアにウィンクを送る。マリアは美しい微笑を返し、素直に彼の機転の良さに感心した。


「やるじゃん、アル!」

「いたっ! へへ、どうも。でも、ヴァルちゃん痛いよ……」


 アルレッキーノに駆け寄って来たヴァルが、背中を強く叩くと、彼は照れくさそうに叩かれた背中を擦った。


「よし、今のうちに撤退するぞ!」


 メリッサはヘルマンに肩を貸し、撤退の号令を掛けると、全員、急いでターミナルを後にした。

 強化した結界であっても、いつまでもつか分からないのだ。

 撤退するメリッサ達の背後では、赤いゴーレムが結界を破ろうともがく音が鉱洞に重く響き、彼女たちの逸る気持ちを更に急き立てるのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ