表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/56

第39話 舞い降りた不死鳥

 防御も間に合わない、例え間に合ってもこの攻撃を防ぐ術がない。

 全てが燃え尽されてしまう。

 死を覚悟したその時、思いもよらないことが起こった。



 ――振り降ろされた炎の剣が止った。



「…………どういうことだ」


 メリッサは自分の目を疑った。炎の剣は止まったのではなく、止められていたのである。

 誰によってか。

 メリッサは視線を、止められている大剣に沿って走らせた。

 何者かが宙に浮かんで、迫る炎の大剣を止めていた。それは、先ほどまではこの場にはいなかった者。目の前のフェネクスと同じ、ローブを着た人物だった。


「フェネクスが……二体だと!?」


 驚いたことに、もう一人のローブの人物の背中からは、赤い炎の翼が生えていた。目の前のフェネクスと炎の色が異なるだけで、特徴が瓜二つなのである。

 赤い翼の方が、自らの燃える剣で、振り降ろされた攻撃を受け止めていた。

 メリッサだけでなく、全員がその光景に困惑し固まった。


 赤い翼の人物は迫る剣を跳ね上げると、急降下し、地上のフェネクスに一瞬で肉薄した。そのまま斬撃を繰り出す。が、フェネクスは後ろに大きく飛び退きこれを躱した。

 そして、フェネクスも飛び退いたところから浮遊し、赤い翼の人物に向かって飛翔すると、一撃を振るう。


 剣と剣が激突する。

 火花が散り、金属のぶつかり合う音が鳴り響く。


 そこからは、壮絶な空中戦が繰り広げられた。ガキン、ガキンと音を迸らせ、上昇しながら何十合と打ち合っていく。高度が上がると飛び回って切り結んだ。

 地上からは、青い炎の翼と赤い炎の翼の二羽が、夜空に戯れる幻想的な光景に見えた。

 緊迫した状況のはずなのに、言葉を忘れてメリッサ達はその光景を見入ってしまった。


 しかし、拮抗して見えた戦いも、突然、終結を見ることになった。

 二人が上空でぶつかり合った後、赤い翼の方が急降下を始め、そのまま庭の真ん中に墜落したのだ。


 けたたましい音が響き、土煙が舞う。

 一体、どうなったんだ。

 メリッサ達は墜落地点に駆け寄り、様子を伺った。

 平坦だった邸宅の庭は抉れ、小さなクレーターが出来ている。その真ん中に、赤い翼の方が力なく横たわっている。

 メリッサ達がその光景を見ている最中、ビュウッと言う空気を切る音がして、青い翼のフェネクスが恐ろしい速さで降ってきた。剣を真っ直ぐ構え、追撃を掛けるつもりだ。


 フェネクスが落下の勢いのまま、まさに剣を突き刺すという刹那、赤い翼の人物が身をよじると同時に、自らの剣を突き出した。


 ザンッ!


 赤い翼の人物の肩には、フェネクスの剣が深く突き刺さっていた。一方、フェネクスの脇腹にも、突き出された剣が突き刺さっていた。

 一瞬止まる両者。

 一拍の後、フェネクスは空中でよろめきながら後退し、刺さった剣を体から抜くと夜の空に飛び去ってしまった。

 壮絶な戦闘を前に呆然と固まっているだけだったメリッサ達は、辺りに静けさが戻ってはじめて、我に変えった。


「こいつもテストゥムなのか? まぁ、よい。こやつから封印だ」


 クロードが倒れて動かないローブの人物に、黒いオーラを纏った右手を向ける。既に赤い炎を羽根は消えていた。


「やめてください!」


 卒然、叫ぶ声と伴に男が庭の木の陰から走り出てきた。


「お願いします、やめてください!」


 叫ぶ男は、クレータの斜面をザザーと滑って下ると、両手を広げ横たわるローブの人物を庇う様に前に立った。

 その男の顔を見てメリッサが驚きの声を上げた。


「あなたは、グリューエン先生!」


 目の前に現れたのは、レマール湖で会った放浪医、ヨハン・グリューエンだった。

「お願いします。彼女を……ジーグリンデを殺さないでください!!」



 ♦  ♦  ♦



 再びポンパドール夫人邸宅の客間に、メリッサ達は集まっていた。ただ、この部屋にいる人間に、ヨハンとジーグリンデが加わっていることが、先程と大きく異なっている。

 あの後、ジーグリンデを庇って懇願するヨハンを見て、メリッサは作戦の終了を皆に告げ、ヨハン達を保護することにした。

 何か事情があるようだった。

 ヨハンも攻撃させることがないと分かると、ジーグリンデを背負い、大人しくメリッサ達に付き従った。


 その後、客室に通され、ソファーにジーグリンデを寝かせると、ヨハンは彼女の枕元に腰を掛けた。そこまでは良かったのだが、ジーグリンデを心配そうに見つめたまま、彼は何も喋ろうとはしなかった。

 重い沈黙の中、クロードが口を開く。


「おい、貴様、ヨハンとか言ったか? 貴様とその女はいったい何者だ? 何故、あの様な力が使えるのだ? あの青い炎の羽の者は何なんだ?」


 クロードが疑問を矢継ぎ早に次々とぶつける。


「クロード、そんなにいっぺんに聞いても答えられないぞ」


 メリッサが諌める。


「すみません、ヨハン先生。ですが、これだけ聞かせてください。ガルシア氏の邸宅にオブビリオン商会への襲撃、あれはあなた方がやったのですか?」


 メリッサの瞳が、ヨハンを真っ直ぐ見つめる。


「……違う、私たちじゃない」


 ヨハンが小さく答える。


「……やはりそうでしたか」


 メリッサの反応にヨハンが以外といった顔をする。


「ええ、私もそうではないかと思っていたんですよ。湖の塔で私たちが遭遇したのは、ジーグリンデさんですね? あの時、彼女は手加減して戦っていた。もし、一連の事件の犯人が彼女なら、あの場で容易く私たちを消し炭にしていたでしょう。

 私は、あの青い翼の方が一連の事件の犯人で、あなた方はあれを止めるために動いていると考えています」


 メリッサの語り掛けは優しく、その顔には微笑を浮かべていた。少しでもヨハンに心を開いてもらおうと、丁寧に、かつ、真摯に彼に向き合った。


「そして魔法の秩序を守るという使命を持つ我々にとっても、あの青い翼は止めなければいけない存在なはずです。もし、私の考えの通りなら、どうか我々にあなた方の協力をさせて頂けませんか?」


 メリッサは柔らかいが真っ直ぐな眼差しで、ヨハンを見つめた。ヨハンもじっとメリッサを見つめる。


「ヨハン……この方たちに協力してもらいましょう……」


 その時、ジーグリンデの消え入りそうな声がした。


「ジーグリンデ!」


 ジーグリンデが意識を取り戻したのだった。

 ヨハンは、心底嬉しそうに彼女の名を読んで、その顔を覗き込んだ。


「ふふふ、泣かないで、ヨハン。私は平気だから。直に回復するわ。あなたはいつまで経っても泣き虫ヨハンなんだから」


 涙で顔をくしゃくしゃにするヨハンの頭を、ジーグリンデが慰める様に優しく撫でた。

 そのまま少しして、ヨハンが落ち着くと、ジーグリンデはソファーから上体を起こしてメリッサに話掛けた。


「メリッサさん、私たちや青い翼が何者か、どうして青い翼と戦うのか、どうして不死鳥石を追うのか、全てお話します。ですから、どうか私たちに協力してください」


 ジーグリンデの真剣な眼差しに、メリッサは黙って頷いた。それを見てジーグリンデがほっとしたように表情を緩めた。

 目を閉じ、ふぅっと小さく息を吐く。


「……少し昔話になってしまいますが――」


 ジーグリンデは、その透き通る声でゆっくりと、そして自分でも噛み締めるように、自身の過去を話し始めた。



フェネクスは、ヨハンの助手、ジーグリンデだった。では、フェネクスだと思っていた青い炎を纏うあいつはいったい……そして、不死鳥石はジーグリンデたちの過去にどう関係あるのか。

次回、明かされるフェネクスの過去。


というわけで、回想に入ります。絶対みてくれよな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ