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第29話 豪華絢爛

 赤いビロードの絨毯、煌めくシャンデリア、様々な贅を尽くした大きなホール。高級な酒や料理が並んでいる。

 集まっている人々も華やかで、ドレスやタキシードに身を包んでおり、一目で財力や地位など一般人とは一線を画す人達だと分かる。

 そのセレブ達の宴の中にメリッサはいた。ただ、彼女は他の人々とは違い、黒いスーツに身を包み、ビシッと張り詰めた雰囲気で佇んでいる。


「メリッサちゃんも何か飲む?」


 色鮮やかなドレスを着たポンパドール夫人が、シャンパンの入ったグラスを片手にメリッサに話しかけてきた。


「いえ、職務中なので結構です。お気遣いなさらず」 「あら、そう?」


 黒いスーツのメリッサと華やかなドレスの夫人。対照的な組み合わせだが、こういう光景はこの会場では珍しくない。セレブの集まりではよく見る、ボディーガードとそのクライアントである。


「本日はありがとうございます。夫人のお力添えがなければ、このオークションには入れませんでした」

「いいのよ。それより……」


 夫人は人懐っこい笑顔を返すと、メリッサに近づいて声を潜めた。


「このオークションに来たのって、あの湖での一件が関係しているのでしょ?」

「ええ、まぁ……」

「あ、でも極秘任務ってやつなのよね? あんまり大っぴらに話せないわね。ふふふ、スパイ小説みたいでドキドキするわね」


 表情が好奇心に輝く夫人に、メリッサは困ったような笑みを返すだけだった。

 はしゃぐ夫人を横目に、メリッサは、ここに来る前のミーティングを思い出す。



♦  ♦  ♦



 湖からロウラムの事務所に戻ると、メリッサ達は湖で見たことを踏まえ、話し合った。


「あのローブ野郎が火の鳥だったとはな……」


 ヘルマンが呟く。


「火の鳥、不死鳥、それが奴の正体だ。つまり、奴は不死鳥のテストゥムということだな」

「それって、不死鳥の悪魔ってことですか?」


 メリッサの言葉に、ヴァルが質問する。


「……フェネクス……不死の命持ち、業火を操る強力な悪魔。フェネクスが降り立つ時、その土地は灰燼に帰し、全ての命が焼き尽くされる。しかし、その羽根には、どんな傷や病も癒し、死者をも蘇らせる力があると言われている」


 おもむろにクロードが淡々と語る。皆の驚いたような視線がクロードに集中する。


「へぇ、随分と詳しいんだな。フェ、フェネクスだっけ? そんな名前、初めて聞いたぜ」

「ん、あぁ、クロードには古い文献を調べてもらったんだ」


 アルレッキーノの指摘に、メリッサが慌てて割って入る。


「それでだ……今後、フェネクスの足取りは、不死鳥石について調べることで糸口が見えると思うんだ。あいつはあの時、紛い物の不死鳥石を回収し、設備を全て破壊していった。石は破壊せず回収したことから、偽物であれ、奴にとって重要な物であることは確かだ。もちろん、赤いゴーレムについても引き続き調べよう。奴と関係が深いのは間違いないからな」


 メリッサの説明に皆が頷いた。相手はテストゥムだ、それぞれの目に強い覚悟の光が灯る。

 語られた今後の方針を受けて、マリアが口を開いた。


「でしたら、今度ウエザビーホールで開かれる、オークションに行かれたらいかがですか?」

「オークション?」


 メリッサが聞き返す。


「はい。そのオークションに不死鳥石が出品されるそうですよ。私たちは本物を見たことがありませんし、見ておくのもいい機会かと。何か分かるかもしれませんよ」

「なるほど。しかし、あそこは確か、会員制だったな。私達みたいのがおいそれと入れないぞ……」


 腕を組んで、渋い顔になる。


「ふふふ、それでしたら大丈夫です。会員の方に、随伴させていただきましょう」


 微笑むマリアの言葉に、メリッサは首を傾げた。しかし、翌日、ポンパドール夫人からボディーガードの依頼が来て、合点がいったのだった。



♦  ♦  ♦



「お嬢様、もう少しでオークションが始まるみたいですよ」


 マリアが、メリッサに声を掛ける。今回のボディーガードの任についているのは、メリッサとマリアの二人だった。


「ああ、そうか」

「ふふふ、それにしても……」


 メリッサの姿を眺め、含みを持った笑みを浮かべる。


「どうした?」

「いえ、お嬢様のスーツ姿とっても凛々しくて、絵になるなって。私の見立ては間違いなかったです」


 マリアの着ているスカートタイプのスーツと違い、メリッサは男性と同じ背広にスラックスである。 

 キリッとした顔立ちのメリッサにはこの方が似合うと、マリアが押し付けてきたものだった。


「さっきご婦人方が噂してましたよ。ポンパドール夫人のボディーガードは、若くてハンサムだって」


 数人の若い貴婦人達がこちらを見ているのに気付き、そちらを見る。すると、恥ずかしそうにして、目線を逸らされてしまった。それでも、ちらちらとこちらを見ては嬉しそうに黄色い声を挙げて盛り上がっている。


「今のメリッサちゃんは王子様って感じよね。ご婦人方がほうっておかないわ」


 ポンパドール夫人が楽しそうに話しに加わる。


「ハンサムに、王子って……」


 苦手な髪のセットや化粧をしないでいいから、背広を着ることにしたが、複雑な気分だ。

 着飾ることは苦手なだけで、女性として綺麗に見られたいという人並みの願望はメリッサにもあった。


「今度、ドレス着ようかなぁ……」


 俯いて、しょんぼりと呟く。しかし、その台詞を待ってましたとばかりに、マリアと夫人が目を輝かせた。


「それは本当ですか! お嬢様! では、お化粧も髪もばっちり私が指導いたしましょう。絶対にお嬢様なら、お綺麗になられますよ。もちろん女性らしい所作もしっかり覚えてもらいますからね」

「ドレスね! いいわ! メリッサちゃんなら絶対に映えるわね。そうだ! 私のブランドの新作のモデルになってちょうだい。あ、ファッションショーもいいわね」


 二人に矢継ぎ早に詰め寄られて、メリッサはたじろいだ。

 興奮する二人の表情は鬼気迫るものがあり、少し怖いぐらいだ。ぽろっと溢した言葉を後悔した。


「お集りの皆様、大変お待たせいたしました。オークション会場の準備が整いました。どうぞこちらからご入場ください」


 ホールに、案内の声が響く。ホールの奥の扉が開き、ぞろぞろと人々がオークション会場への歩き始めた。


「ほ、ほら、入場が始まりました。私たちも行きましょう」


 二人から逃げるように、先を歩き始める。

 マリアと夫人が同時に舌打ちをする音が背後から聞こえたが、メリッサは聴こえなかったことにした。


今日から第3章! 事件が展開していきますのでお楽しみに!

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