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第2話 襲撃

 2つの勢力が向き合って銃撃戦を繰り広げるターミナルに、ヴァルが走り出た。

 両手には1丁ずつ拳銃を構えている。

 少女の外見からは想像もつかない俊足で疾走し、敵に向かって1発、2発、3発と発砲すると、岩の陰から銃撃をしていた敵が3人、額を穿たれて糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


 ――なんだ、あいつは!?


 テロリスト達も警備兵も、皆同じ感想を抱いた。

 ただ、攻撃を仕掛けられた以上、テロリストたちにとってはその少女が敵であり、そして、その動きから危険な存在であることはすぐに分かった。


 ヴァルに向かって銃撃が集中するが、彼女にかすりもしない。カツンッ カツンッと岩や資材に弾丸が当たる音だけが、空しく鳴るばかりだった。

 彼女はその俊足で不規則にジグザグに走る。そして、近くの岩の背に身を隠しては、銃撃の合間に再び走り出し、発砲する。

 彼女の銃が火を吹く度に、戦闘不能に陥る人数が増えていった。


「ふ、頭に風穴あけてやるから、あの世で頭を冷やして反省するんだな、お前の弱さ――」


 ヴァルは不敵に笑みを浮かべ、この前読んだ漫画のセリフを得意げに述べようとした時だった。

 突然、火の球が唸りを上げて飛んできた。

 敵は銃撃でダメなら魔法だとばかりに、範囲の広い魔法攻撃を仕掛けてきたのである。

 火球が着弾する寸前で、ヴァルは飛び込むよう跳躍し、くるっと地面を転って近くの資材の陰に隠れた。


「もお、最後まで言わせてよ! 一生懸命練習したのに!」


 資材の陰で悔しそうに脚をバタバタさせた。


「よし、このまま奴の足止めをしろ」


 敵の指揮官らしき男の指示を皮切りに、ヴァルの隠れている場所に集中して魔法攻撃が断続的に放たれた。完全にヴァルをその場から動かさないつもりだ。


「あち、あちち!」


 放たれる火球が障害物に当たり、バンっという衝撃と伴に弾けると同時に火柱が上がる。防ぎきれない熱がヴァルの肌や髪をチリチリと炙った。

 ヴァルが釘付けされ、また両勢力が拮抗状態に戻るかと思われたときだった。


 シュ――ン、パンッ!


 テロリストの頭上に向かって何か小さな物が飛んで行き、破裂した。

 直後、キラキラと光る粉が降り注ぎ、テロリストたちの視線は、その光景に奪われる。

 次の瞬間――


「ぐはっ!」


 魔法攻撃をしていたテロリストの1人が崩れ落ちた。

 ヴァルに気を取られているうちに接近したメリッサが、一撃を加えたのである。

 1人を袈裟懸けに切り伏せ、2、3歩離れた敵にさっと距離を詰める。敵は慌てて銃口を向けるが、メリッサは、振り下ろした剣を敵の首めがけて切り上げた。


「はっ!」


 メリッサの掛け声と伴に、剣が敵を切り裂く。

 敵は短く唸ると、数発の銃弾をあさっての方向に打ちながら倒れて動かなくなった。

 倒れる仲間を視界の隅に捉えたか、その襲撃に気付いた敵がヴァルに向けていた魔法を彼女に向けた。

 音を立てて燃え盛る火球が、メリッサへと迫る。

 しかし、メリッサは剣を構え、肩の防具を火球に向けながら突進した。

 火球は容赦なく命中し、立ち上る大きな火柱。

 彼女の姿はその中に呑み込れてしまった。


「うわ、あの嬢ちゃんヤバいんじゃ――」


 先ほどの通路口から見ていた警備兵が、アルレッキーノに言いかけたが、すぐに無意味な心配だと分かった。

 火柱からメリッサが剣を構えたまま駆け出してきたのである。

 それには、敵も動揺を隠せなかった。一瞬、反応が遅れる。

 その間にも、メリッサは加速したままに、段々になっている近くの岩を1段、2段と蹴り上り、魔法を撃った敵へと跳躍した。


「はあぁぁ!!」


 空中から着地ざまに、素早く剣を振り下ろす。その一撃に、敵は鮮血を迸らせて地面へと倒れ込んだ。


「さっきの花火には、魔法を弱める粉が入ってたのよ。あ、俺のお手製ね」


 チチチッと指を顔の前で振りながら、自慢げにアルレッキーノは警備兵に言った。


「あんたは戦わないのか?」

「あ、俺はメカニックとか後方支援が専門だから」

「……そうか」


 目の前の痩せた男も、実はすごい人間なのかと兵士は一瞬期待したが、早々に落胆に終わる。


 そんなやり取りの間にも、少女2人の奮戦は続いていた。

 近くには銃で武装した敵が2人いたが、彼らがメリッサに銃口を向けた瞬間、グニャリと力なく倒れた。

 釘づけ状態から解放されたヴァルの射撃が、彼らを仕留めたのである。


「ナイスタイミング、お嬢様」


 ヴァルがにっこり笑った。

 まだ残る敵に構えているメリッサは、ヴァルに返事は返さなかったが、彼女の射撃の腕を頼もしさに一瞬口元が綻ぶ。しかし、すぐに歯を噛みしめ、残る敵に向かって行った。



 そこからの戦いはメリッサ、ヴァル、警備兵たちと三方向からの攻撃で、敵の制圧は時間の問題――のはずだった。


 事態の急変を告げたのは、突然響いた機械の駆動音だった。

 次いで、テロリスト達が背にしている通路口から光の筋。それが警備兵たちの方へ駆けた。

 その直後、光の筋が到達点で爆発し、警備兵たちの防御網の一角が吹き飛んだ。


「なんだ!?」


 突然の出来事に、メリッサは攻撃の手を止め爆発の方向を見るも、黒煙と火の手が見えるだけだった。

 近づいてくる駆動音。

 彼女の視線はすぐに光の筋が出てきた通路口へと戻され、2体の巨大な影を捉えた。


「ゴーレムだと!?」


 メリッサは、ゴーレムの姿を見て一瞬たじろいだ。

 ゴーレムが、テロリストが保有出来るような兵器ではなかったからであり、そんな代物を使ってきたことが想定外だったからだ。

 先ほどの爆発が、この乱入者による砲撃であることは明らかだった。そして、危険だというシグナルが、脳から全身に、瞬時に広がる。

 危険を察知した獣のように、メリッサは反射的に近くの資材の陰へと飛退いた。 


 ダダダダダダダッ!


 直後、その動きを追うように、ゴーレムからの機銃掃射。


(く、敵はゴーレムまで使うのか。あれを相手にこんな武装じゃ太刀打ちできないぞ……)


 乱入してきたゴーレムは、鉱山の警備用ゴーレムとは別の機体だった。

 こちらのゴーレムは使えないのに、敵は使える。

 唯一の武器は手に握られている剣だけ。

 メリッサは、手も足もでないことに心の中で歯噛みした。


 しかし、その間にも機銃から放たれる大型の弾丸は、隠れている資材をけたたましい音を上げてボロボロにしていく。

 メリッサが同じ様になるのは時間の問題だった。


(まずい、このままでは蜂の巣だ……)


 危機的状況を打開してもらえないかとヴァルの援護を期待して、彼女の方を見る。

 しかし、ヴァルはもう1体のゴーレムを相手に奮闘していて、こちらを援護できる余裕は無さそうだった。

 アルレッキーノは、テロリストの残存勢力による攻撃に足止めされているし、何より彼に攻撃的支援は期待できない。

 焦りが額の汗となって表れる。


 このまま蜂の巣になってしまうという危機感を募らせたとき、機銃の音がぴたりと止んだ。

 メリッサは機銃止まった理由が分からず一瞬じっとして様子を伺おうとした矢先、ふっと何かに感付く。

 そして、脱兎の如くその場から後方に走り出した。


 先ほど警備兵を吹き飛ばした攻撃やゴーレムの姿を見ていたからできた判断なのかもしれない。しかし、コンマ何秒で判断から行動に移せたのは、本能や勘によるものであった。


 彼女が走り出したと同時に、ゴーレムは、肩に担いでいた使い捨てのロケットランチャーを構え、メリッサの隠れていた場所に向かって発射したのである。

 シュンと空を割くような音の直後、放たれた砲弾が爆発した。


 メリッサは走っていた方向に吹き飛ばされ、地面に思い切り叩きつけられながら、二転三転した。

 一瞬真っ白になる視界。

 キーンという耳鳴りがして、水の中にいるように周りの音がくぐもって聞こえる。


(くぅ……体が……体が動かない)


 声にならないほどの激痛に顔を歪ませた。体中が悲鳴を上げている。


(……動け! 動かないとやられる!)


 朦朧とする意識の中、体全体がバラバラになりそうな痛みと闘いながら、何とか這って物陰へと移動した。

 呼吸を整える。口中に充満する血の味。

 吹き飛ばされた時に口の中を切ったのだろう。ただ今は、その鉄臭い嫌な味が、自身が生きている証拠だった。


 一命は取り留めた。しかし、メリッサは一時的に命を繋いだに過ぎず、事態が好転したわけではない。ゴーレムは再び物陰に隠れたメリッサに対し、確実に止めを刺そうと格闘戦用のナイフを抜いて、彼女の方に直進し始めた。


(くそ、止めを刺しにきたか。武器だ、剣はどこに……)


 先ほど吹き飛ばされた時に剣を手放してしまった。メリッサは首を動かして辺りを見回すと、幸い、剣は今いる位置から数歩の距離に落ちていた。


(よし、あの距離なら……)


 メリッサが落とした剣を見つけ、僅かな希望を感じた時だった。突然、彼女のいる場所が影に覆われた。

 はっと見上げた目線の先には、まさに振り上げた凶器を振り下ろそうとするゴーレムの姿があった。


「ぐっ」


 とっさに転がり、迫りくる刃の横にかわす。空振りしたナイフが地面に衝突し、ズンッ! と重い衝撃音が響いた。

 ナイフと言ってもゴーレム用であるため、人間にとっては大剣と変わらない。一撃で人間を真っ二つにできる凶器である。


 メリッサは転がったところから、そのまま落ちている剣の方にさらに前転し、剣を拾い上げ立ち上がった。

 そこに間髪入れず迫るゴーレムからの薙ぎ払い。

 メリッサは、姿勢を低くして刃をかわす。

 頭上をかすめる風圧。

 低い姿勢のまま一気に懐に滑り込んだ。


「はっ!」


 ゴーレムの脇にできた装甲と装甲の隙間に、剣を突き刺した。

 ガキンッという金属音と共に、バチバチと火花が散り、ゴーレムの片腕が力が抜けた様にだらりと垂れた。


「はぁ、はぁ、これで片腕は使えまい……」


 彼女の言う通り、メリッサの一撃はゴーレムの腕の駆動部を貫いて破壊しており、その片腕は動かすことができなくなっていた。

 窮鼠猫を噛む、まさに追い詰められた状態から一矢報いたことで、一種の高揚感を覚える。しかし、それが慢心になったのか、メリッサに一瞬の隙を生んでしまった。


 次の瞬間、ゴーレムは腰を軸に上体をブンッと高速で回転させた。

 メリッサは突き刺したままの剣を引き抜く暇もなく、回転の遠心力で投げ飛ばされると、ガシャンッ! と置かれていたコンテナに叩きつけられ、地面に落ちた。

 一瞬息が止まる。目の前がチカチカし、脚もふらつく。

 それでもメリッサは、なんとか体制を整えようとするが、その間にも、ゴーレムは機銃の砲塔を回して、彼女に照準を定めた。そして――


 ダダダダダダッ!


 火を吹く機銃のけたたましい発砲音が、鉱洞に響き渡った。


主人公で若い女社長の、メリッサ。「貴方が私のマスターか?」とか問う感じのきりっとした剣士女子。


凄腕ガンマンのヴァル。性格はお気楽元気っ娘。


メカニックのアルッレッキーノ。軟派な伊達男、いやチャラいです。


主要人物はこんな感じです。


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