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自分の「なろう」小説に転移したオレが、現実に帰ってきた件

作者: 北佳凡人

異世界のイージスのサブストーリーです

http://ncode.syosetu.com/n9862de/


本編も完了してますので、そちらも楽しんでいいただければ、うれしいです。


 オレは、自分の書いたなろう小説のザコキャラに転生した。

 http://ncode.syosetu.com/n9862de/


 あの日から、いったい何年がたったろうか。


 会ったことすらない異世界の、血縁上の親のしでかした所業のあおりを受け、監禁されたのは遠い昔のこと。あんな話を書くんじゃなかったと、5分おきに後悔する日々が続いた。昇る太陽に元の世界に戻れる奇跡を願い、沈む太陽に打ちひしがれる。いつしか、月日を数えることはなくなり、夏と冬が過ぎていくことすら走馬灯のごとくだ。生きている実感がないって、なによ。


 とはいえ、黙って投獄されてるだけのオレじゃあない。


 牢屋仲間だった爺さんから、魔法の使い方を習った。魔法はイメージだと爺さんはいった。芝桜のセリフまんまだが、魔素が万延する異世界の法則は、作品を生み出した張本人のオレにも適用されるらしい。


 新しい魔法をひとつ覚えるたび、脱獄を試してきた。何度か成功し、狭い牢獄から抜け出たこともあった。だがこのクレセントは、異世界の中でも特異とされる魔法国。建物から逃げ切るまえに感知されてつかまった。そのたび、セキュリティが強化されていき、脱獄の難易度が増していった。


「さすがわ、オレの作った世界だぜ――――くそっ……」


 作家のオレが監禁されたなら、作品は停止するのが道理だと思う。だがストーリーは順調に進んで、ハッピーエンドの噂が風の便りで聞こえてきた。


「作品が終わったんなら、解放されても良いではないないかよ」


 そこから数年。今日も悔し涙に日が暮れる。

 本日も、光と空気は通すが物も魔力の通らぬ窓から、夕日が差し込んでくる。


 なぜ、オレはここにおる?

 奇跡は起こらないのか。






 板に薄っぺらいマットが敷かれただけの、硬いマットに座りこむ。

 目閉じて、そのまま背中から倒れこんだ。


 ぱふんっ。


 やわらかい感触が背中に当たる。いや、包み込んできた。


こ、これは?


「まさか、戻ったのか」


 指でまさぐる。慣れ切ってしまった硬さはない。押した指を跳ね返しそうな、そうでもなさそうな、経年劣化で弾力性が低下した棉布団。


「マイルームのベッド!」


 待ちに待った感触だ。

 夢なら覚めないでほしい。


 おそるおそる、硬く閉じた目を開いていく。夢であれば、目を開ける行為すら無駄に終わる。だが見て確かめないことには、時間は動き出さない。ガッカリしたく気持ちは強いが、妄想を拗らせ満足できるドリーマーではない。


 バッチリ開いた瞳のなかに、最初に飛び込んできたのは。


「丸い。蛍光灯だ……」


 やった ――――――――――――――――――――――――――


 戻ったぞ!!!

 あの、カビだらけのゴツゴツした牢屋からオサラバしたのだ。

 手足を縛られて、伸び放題の髪と髭をザンギリ切られる苦痛も。

 一日一回の、冷えたスープとパンからも。

 脱出失敗のたびに受ける、嬉しそうな看守が振るう折檻からも。


 ―――――――――――――――――― 終わったのだ、すべてが!


 バンザイ三唱を三回唱えた。

 合計9回うなり叫びながら、ベッドの上で跳ね上がる。

 天上に頭がぶつかるが、そんなことはどうでもいい。

 帰ってきたのだ、あの異世界から。

 奇跡はおこったのだ。

 もう二度と、小説など書かんぞ!!


「やったー!」





「誰?」


 突然開いたドア。驚きと疑惑が入り混じった表情の女の子が、取っ手を握っていた。黒い瞳。うっすら赤いおさげ髪。可愛い部類に入るだろう。まぎれもない日本人の高校生くらいの子。


「君こそ、誰だ?」


 オレの家族にこんな子はいない。


 女の子は、右手の人差し指と中指で、胸の前の空中に向かってなにかをする。お祓い? この年代はオカルトに凝りやすい。オレの妹も、根拠のない呪文ポーズで霊を払いのけるつもりになってたものだ。


 オレは、幽霊かっ。


 いや、あの指の動きには意味があるように思える。

 そう、スマホやタブレットのアプリ操作に酷似してる。

 ちらちらオレの顔をみながら、指先の動きには集中してる少女。


 空中に、タブレット操作ってか。まさかな。

 まるで未来のAR(拡張現実)だ。


 怪しげな動きを終了した女の子は,なにをしようと企んでいるのか。


 「なんで!?」


 さっきとは別種類の驚きの。

 なんでって言われてもなあ。


 起こるはずだった何かが起こらず、二重にびっくりしてる様子。

 なにをやってるんだ、ってか、この子は誰よ。

 オレの家族は三人。両親と幼い妹。

 繰り返すが、こんな子は……


「妹?」


 オレの妹がこんなかわいいはずがない。いや、母はけっこう美人に属するか、オレは父似だったけどな。引きこもり気味の性格を形成した一因でもある。


「ていや――」


 部屋を見回して目に留まった金属バッド。それを持って殴りかかった。

 妹が。

 オレに。


「あぶね」


 母は運動おんちだった。そのDNAは顔と一緒に引き継がれたらしい。ちょいと身をかわしただけなのに、妹はすっころんだ。ベッドにヒザをぶつけ、その拍子に前のめりに転び、振り下ろしたバッドが手から離れ床にあたり、握り部分に突っ込んで、自分の鼻にぶつけた。


「ぎややぁ」


 150センチもなさそうな体型とはいえ、アルミニウム合金の直径数センチの突起に、全体重をかけたのた。重量と速度。かかる加重は面積が小さいほど大きくなる。消しゴムで押されるよりシャーペンでつつかれるほうが痛いという法則にしたがって、妹の鼻がつぶれた。複雑骨折はまぬげれないであろう。真っ赤な血液が大量のヘモグロミンを伴って、どっくんどっくん、流れ出てる。


 絨毯は真っ赤。妹は真っ青である。


「なにやってんだ、ちょっと待ってろ」


 オレはヒールで、怪我を治してやった。

 何を驚いてるんだこいつは魔法くらいで。

 驚いてばかりいるやつだな。





 顔をタオルで拭いて、血をぬぐい取る。

 すこしスッキリしたのか、ぽつりと話し始めた。


「あたしのこと、妹って言った?」


「ああ、いったな。お前、彩奈だろ。オレは凡人(ひろと)だ。何年たった?今年は西暦何年だ」


 クローゼットにかけられたカレンダーを見たが2016年。オレが覚えてる最後の年だ。好きなアニメキャラが、双剣を構えたポーズで鋭くにらんでるヤツだ。少なくとも5年、いや、当時5歳だった妹の成長度合いからみて、10年は過ぎてるはずだろ。


「2029年」


「な……」


 13年?

 13年も牢獄にいたのかオレは。高校性だったオレが、いつの間にか29歳。

 魔物闊歩の異世界で無為に過ごし、文明の進んだ都市へ浦島太郎。乙姫の踊りでも歓待されたのなら楽しかったろうが、狭い小部屋に一人きり。学校も就職も機会を逃した年令での再登場だ。


 どうやって生きていく?

 スネかじり?

 本気のニート?

 カッパライで再犯するムショ帰りの気持ちがわかったぜ。


「お兄ちゃんなら…………」


 胸の前で、また、なにやらいじりだした。

 ARか。13年もたったなら実用化もありうるな。よくみれば、右側の耳の上あたり、髪の毛のあいだにアンテナらしきものがあるこの子には、操作できるパネルが見えてるんだろう。。オレには見えないけど。


「…………どこにいたのか知らないけど、この13年何があったかわかる?」


「さぁ? オレも死にかけ……」


「誘拐説。他国陰謀説。バラバラ殺人説。蒸発説。これわかる?」


「説? 小説の題材か?」


 オレの背中に冷たい汗が流れた。イヤな予感がする。






「あなたがいなくなったことで、わが家にかけられた言いがかりよっ!」


 いいがかり、とな?


「人間ひとりが失踪する。しかも普通の高校生が着の身着のままで。警察が調べにくるのは当たり前よね?」


 たしかに。

 クレセントじゃ、魔物のせいにされたがな。


「捜索願いはだしたけど、見つからない。普通は誰を疑う?」


 魔物を疑うが。


「その家の大人でしょう? 父さん母さんが、疑われて調べられて、大変だったんだから。おかげで父さん出て行っちゃうくらいに」


「離婚したのか?」


「警察がやってきて、壁をはがしてや庭を掘るの。兄さんの死体を探してね。殺して埋めたと思ってるのよ。なあにも出なかったら、スープにして食べたとまで。その晩に父さんは荷物まとめて出て行った」


 あの短気オヤジなら、出て行くな。

 むしろ、警察に殴りかかって捕まってもおかしくない。

 それにしても、そこまで一般市民を疑うのか警察は。


「ミステリーの読みすぎだ。でもオレはこうして生きてる。警察は諦めるしかなかったはずだ」


「警察は、ね」


「ほかには、なにが?」


「マスコミと、世間よ。玄関も窓も鍵は中からしまってる。死体もないし、日本のどこにも見つからない。現代のミステリーって、百人の記者とカメラに、二ヶ月囲まれた」


「そんなことが……」


 ひでぇな。

 魔物をけしかけて追い払ってやりたい。

 ああ。この世界には、ゴブリンっていないのか。

 あの世界が長すぎで、常識の枠がずれてるようだ。

 でもオークならいるよな? ヒグマがいるくらいだからな。


 しかしオレが転移。転生か? ……したせいでそんなことになっていたとは。

 やはり小説は書くべきじゃない。


「ごめん。それじゃ普通の生活は送れなかったな。母さんはパートだったな。仕事も首にされたんじゃないのか。どうやって食べてたんだ?」


「異世界のイージス」


「ぶほっ!」





 いま一番触れられたくない言葉がでてきやがった。

 妹の口から。


 オレが書いて、なろうにWEB投降して。

 ……オレが閉じ込められた異世界。

 この13年間、牢獄に繋がれた忌むべき世界。

 そこでの冒険ストーリーだ。


 登場キャラたちは楽しかったろう。

 オレがいなくても世界は動いてたからな。


「なんで知ってる?」


「なんでもも何も、マスコミがみつけたのよ。消失したあなたのことを調べる過程でね。あと、FBで恋愛相談はやめてね。はずかしすぎるから」


 ……。

 マスコミめ。

 本屋へ行ったときは、週刊誌を破いて捨ててやろう。

 もちろん代金は払う。本屋に罪はないからなっ。


「ストーリーありき。ウィルってなによ、体内か別空間か不明。思いつきでキャラ投入しすぎ、誰が誰かわからない。誤字脱字。そもそも日本語がおかしい」


「そ…………それって?」


「小説の話しよ、もちろん。」


 ぐぁっ!!!!!


「それと子爵。カナント?カントナ?どっち?」


 ぐぁ―― …………ん?

 そんなキャラは知らん。

 投獄された後の勝手な展開だろ。きっと


「そういうことが、解説本に書いてあった」


 解説本?

 それこそ知らん。


「謎の失踪を遂げた、本当のミステリー作家の作品として、ベストセラーになったのよ。ドラマとアニメにもなってね。印税生活ができたおかげで、生活には困らなかったわけ」


「う――そ?」


 目が点とは、このことだ。

 オレの小説がアニメ化?

 そんな、アメリカンドリームが、オレのいない日本でおきてたのか?

 ならばオレはベストセラー作家。

 堂々と、世間に姿をさらけ出せる!!


「作品がいいってわけじゃないから、勘違いしないように」


 トドメ、キタ――――!






「さて、時間かせぎはもうおわり。やっと来たようね」


 妹の眼差しが、厳しくなった。

 フレンドリーっぽかった顔が、他人を見る目つきに変貌した。

 他人、というよりゴミを見下すような、片付ける汚物を仕方なく見るてる感じか。


 家の外が騒がしい。

 13年たっても、変わらない騒々しさ。

 懐かしいとはいえないが良く耳にした音、サイレンが鳴ってる。


「あなた、ウソにもほどがあるよ。兄?そんな、私と変わらないわけないじゃん。どうみても10代でしょ」


「そんなはずあるか、13年たったならオレは29で、このとおりヒゲも……」


 横の鏡を見た。そこには当時のままのオレの顔。ヒゲなど生えてなく、シワのひとつもない、若々しい肌の高校生があった。


「似てるから、ARの身体偽装でもしてるのかと思ったけど、解除できなかった。私の解除プログラムが通じないなんて、どんな高度なアプリ使ってるの?」


「オレが本人じゃないっていうのか?さっきの話は?内内のことを話してるだろう。アカの他人に、そんなことを」


「いまさらよ。マスコミが、さんざんぶちまけたからね、さっき程度の家庭事情は、そこらの古本屋でもみつけて買えるわ。10円で。あなたが、うちの中のことを知っていても、おかしくないってこと。わたしが今年受検でどこの大学を受けるとか。そんな程度のことも知らないあなたが、兄のはずがない」


 どんどんッ

 一階から、ドアを叩く音が響いてきた。


「さあ出て。あなたが、失踪した凡人(ひろと)だって言い張るなら、警察の相手もカンタンでしょ?」


 バカ言え。

 本人だっていう証明は、本人でない証明と同じくらい難しいんだ。


 指紋にDNA。それくらいしか、証明方法はないだろう。

 いや、ARが進んだ社会のようだ。するとバイオテクノロジー的にも、DNAを誤魔化す方法が生まれてるかもしれない。


 もしそうならば、自分を自分だと言い切る方法が、まったく思いつかない。


「逃げるか……魔法なら」


 横をあけた妹をすり抜け、部屋を出た。

 そこは和室を貴重とした室内とはまったく異なったリビング。

 オレの記憶にある、北海道の標準的なアットホームな団欒ルームではない。


 機能的ではあるが落ちつかない、未来的空間に変わっていた。


「13年か……」


 そうつぶやいたとき、頭に衝撃が走った。

 うっすら暗く消えていく視界にはバットを構えた妹の姿。


「じゃね、お兄ちゃん」


 この先オレは、どうなるのだろうか。



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