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8. チープな展開?なんとでも言うがいい


私が泣き止むまでずっと、先生は頭を撫でてくれた。


「先生…ありがとう…ございました」


私はちょっと鼻声でお礼を言った。

泣いたことでだいぶすっきりした気持ちになった。

後はこの鼻水を止めるだけだ。泣き顔は仕方がないが、鼻水はだめだ。女として。


手で鼻から下を隠しつつ見上げ、目があってまた下を向いた。

部屋は当然暗いからよく見えないのだが、吐息がかかる距離にある顔にドキドキする。


先生は肩を抱く手はそのままで、ローテーブルから冷えたお茶のカップを取り寄せ口を付けた。すぐそばで喉仏が上下する。少しだけ飲んで、まだ中身が残っているカップを置く。

そしてソファの背もたれに再度身を沈め、ポンポンと私の背中を叩いた。


これは…まだ一緒にいてくれるということだろうか。

どうしよう。無言の優しが心地よすぎてはまりそうだ。

いっそうのことタイトルを変更してがっちり恋愛ものにしてしまおうか。「異世界診療所~先生と私の秘密のカルテ~」みたいな。でもそうなると年齢制限がなー。いやん。


「眠くなったか」


静かになった私に先生が声をかけてきた。


「い、いえ!あの…もうちょっとだけいいですか?」


暗に、部屋に戻るかと問われ、とっさにNOと答える。

よく考えたら、今は先生とゆっくりお話しする貴重なチャンスだ。アホなことを考えている場合では断じてない。

この世界に来て4日経つが、初日に聞きたかったことがほとんど聞けていないのだ。


「もう少しだけお話しさせてください。この世界のこと、教えてほしいんです」


先生は首をわずかに縦にふることでYES。

ああ、寡黙なイケメンと私のラブラブカルテを連載したい。


「スライムみたいなモンスターって、普通にいるんでしょうか」

「普通に?」

「あ、すみません。私の世界ではおとぎ話の中でしたかいなかったものですから…」


私の言葉に先生はちょっと驚いたようだが、丁寧に答えてくれた。


「スライムは下位モンスターだが、繁殖力が高いゆえどこにでも生息しているな。

村の周りには簡単な魔除けの術をかけてあるから普通は入ってこれんのだが、おそらく村へ入る荷車にまぎれて入ったのだろう」

「そうですか。村の外は危険なんですね」


やはり人里から出てしまうとモンスターとエンカウントするのか。

ここは日常的に命の危険がある世界はなんだと実感する。だからこそ回復魔法があり、子供が遊びの中で剣の稽古をしているだろうが。


「あと、あの…失礼な質問だったらそう言ってほしいんですが…先生の職種ってお医者様ですよね?」


前に、ステータスについての質問はタブーだと言われたので、おずおずと低姿勢で尋ねる。


「ああ、魔法医だ」

「ですよね!あのあの、私も魔法使えたりしますか!…って先生?笑ってます?」

「いや…すまない」


魔法というワードに、つい食い気味になってしまった自覚はあるが、静かに笑わないでほしい。レアすぎてキュン死にしてしまう。

先生は横を向いてクツクツと喉を鳴らした後、穏やかな眼差しを私に向けた。

頬に手が置かれ、その指がまだ乾ききっていない涙の後をぬぐうように滑る。

さっきまで小さな子供のように大泣きしていたことを思い出して今更ながら羞恥がこみ上げてきた。

月明りのみでは顔色はわからないだろうが、頬の熱は確実に伝わっているはず。

大人な先生はそこには触れずに静かに質問の答えをくれた。


「お前に適正があれば使えるだろう」


何気にお前って呼ばれたよ。イケメンに呼ばれたよ。これもう好感度MAXじゃね?やばくね?

身内っぽい呼ばれ方に心臓が小躍りしだしたが、表面上は平静を装う。私、大人だし。


「適正…」

「魔法を理解し、操ることができるものは一握りだ。適正のないものはたとえ何年高名な魔導士の元で修業しようと無駄だ」

「適正を知る方法はありますか」

「事前に知る方法はないが、遅くとも10代後半までには、誰しも職種が決まる。一度習得した職種は一生変わることはない」

「え゛」


なんだって。

今ものすごく怖いことを聞いたぞ。

私は今現在3つのジョブを習得している。変更はできないが、複数所持することは可能というこだろうか。

ほら、関連するジョブを極めると上位職が解放されるみたいな。

そうなるといくつまで所持できるのかが問題だ。是が非でも魔法を使ってみたい。


「先生。職種っていくつまで習得できますか」

「?」


しばし無言で見つめあう二人。

そのまま、顎に指をかけてもいいんですよ、先生。

いえ、すみません。なぜそんなことを?って聞いてるだけですね、その目は。


「えっと、普通は一つだけだったりします?」


首を縦に振られた。

普通は1つしか持てないジョブを複数所持している私。

こ、これはもしや!


「先生、私のステータスなんですが」


言いつつ、他者に見える形でステータス画面を表示させる。

暗がりの中場違いな光を放つウィンドウに視線をやる先生。その目がすこしだけ見開かれる。


「これは…いや、驚いたがひとつ思い出したことがある」


ごくりと唾を飲み込みつつ、次の言葉を待つ。知らずに緊張しているようだ。


「例外があるのだ。世界の創造主の使いとして、特別な使命を授かった魂だけは複数の職種を使いこなすこことができると」


定番、テンプレ、なんとでも言うがいい。


「その者は、勇者と呼ばれている」


異世界トリップのお約束、チート能力来たぁー!!






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