7. 現在の好感度が知りたい
ブックマーク、ご感想ありがとうございます。
大変うれしいです。
眠れない。
草花も眠る丑三つ時。
4つ並ぶベッドの内のひとつで、私は何度目かもわからない寝返りをうつ。
昼間のスライム戦のせいだ。
あの後すぐ、子供たちが大人を呼んできてくれた。
私は診療所に運ばれ、溶かされかけた足はルイ先生の治癒魔法で綺麗に治っている。
体当たりをかまされていた少年も目立った外傷はなし。運が良かったと本当に思う。
だが、スライム相手とはいえ初めての戦闘。
モンスターと対峙した興奮も、皮膚を焼かれる痛みも、被捕食者になった恐怖も、すべて覚えている。
生々しい記憶から逃げるように寝返りをうった先で、ベッド脇のテーブルの上にある小瓶が目に入り、慌てて反対側に向き直った。
ガラスの小瓶の中には、スライムのドロップ品が入っている。
スライムゼリーという、スカイブルーのゼリー状物体だ。薄い膜につつまれており、某柔軟剤入り洗剤のジェルボールのようなものがいくつか。
何に使うのかさっぽりだが、拾ってわざわざ私のところに持ってきてくれた村人がいたので、ありがたくもらうことにした。
が、視界に入るたびにその場面がよみがえり、ちょっと後悔している。
私はため息を一つつき、起き上がった。
眠ることをあきらめ、何か温かいものでも飲んで落ち着こうと、台所へ足を向けた。
月明りと、小さなオイルランプの明かりが照らし出す台所には、先客がいた。
「ルイ先生?」
おそらく寝間着代わりだろうゆったりとしたシャツとズボン、肩に軽く羽織をひっかけただけのラフな姿。
かっちりとした仕事着しか見たことなかったので新鮮だ。
「お湯を沸かしているんですか?」
「ああ」
私の登場に、驚いた風もなく答える先生。
「丁度、お前に持っていこうと思っていた」
「私に?」
「ああ。眠れないのだろう」
先生、なぜわかったんですか。
「モンスターに襲われた患者は皆そうだからな」
あ、そういう患者さん多いんですね。
「下級モンスターとはいえ、怖い思いをしただろう」
その慈愛の困った眼差し、反則です。
「よく頑張ったな」
惚れてまうやろう。
私が気恥ずかしさに目をそらしたとき、ちょうどお湯が沸騰した。
先生は手早くお茶を入れると、居間にあたる暖炉のある部屋へ移動した。
暖炉の間には、ローテーブルを挟んで二人掛けソファが2脚ある。
当然向かい合わせに座ると思っていたのに、私の隣に座るんですか、そうですか。
ちょっぴり緊張しながら、先生の入れてくれたお茶を飲む。
花のような、嗅いだことはないがさわやかな香りがする。たっぷりのミルクが入っていて優しい味がした。
「はぁ、美味しいです」
「そうか」
先生もカップに口を付ける。
二人で黙って温かい茶をすする。
コトッ
先生のカップが置かれる音。
「無理しなくてもいい」
脈絡のない言葉。
だが、私は固まった。
「顔が強張っている」
動けない
「平気なふりをしなくてもいい」
ダメだ
「我慢するな」
きっと
大きな手が、私の背中に寄り添う。
私は
「泣いてもいい」
優しく落とされた声に抑えていた感情があふれだし、一気に頬を伝った。
いい年をしてみっともないと思いながらも、止められない。
せめて声は出すまいと歯を食いしばったが、優しく肩を抱き寄せられ、あまつさえもう片方の手で頭を撫でられたら、もうダメだった。
「ふっ…う…っ」
「お前は、意外に意地っ張りで頑固なのだな」
恥ずかしいが、その通りです。
「普段は謙虚だが、実は見栄っ張りだ」
欠点を挙げられているのに安心する。私を撫で続ける手が、好意を伝えてくれるから。
この人に、私をもっと知ってほしいと思った。
体の力を抜き、そのの胸によりかかる。
細身に見えるのに、私をやすやすと包み込む程広い胸板。
羞恥も遠慮も放り投げて、私は泣いた。