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6. 剣士 レベル1

 

ルイ先生にご褒美(頭なでなで)をもらい、うきうきな気分で診療所の外に出る。

午前中に干した洗濯物を取り込む為だ。

いいお天気だったからきっとよく乾いているだろう。


井戸と洗濯場がある診療所の横手に回ると、何枚もの白いシーツが風にはためいていた。  

客室清掃のバイト時代の癖で、掃除といったらまずはベッドメイキングからということで、病室のリネン類をすべて取り換え、洗濯をしたのだ。

それを見たルイ先生に、少しだけ目を細めて「助かる」と言葉少なにお礼を言われた時のことをを思い出し、にやにやしながら乾き物を回収していく。

いくら小さいとはいえ、村で唯一の診療所を男手一つで回すとなると、行き届かないところもあるだろう。掃除などは緊急性がない分後回しになるだろうし。


黙々と作業していると、カンカンと、何かを打ち合うような音が聞こえてきた。

次に「痛ってぇ!」という小さな男の子らしき声。

喧嘩だろうか?

気になったので洗濯籠を一旦その場に置いて、声のする方へ行ってみることにした。




診療所のすぐ裏は、空地になっており、数人の男の子がチャンバラをしていた。

尻もちをついた少年の近くに木刀が転がっている。怪我はしていないらしく、さっと起き上がって木刀を拾い、素早く構えていた。


おお~勇ましくてかっこいいではないか、異世界男子。

遊びといえば家にこもってゲームをやる現代もやしっ子とは雲泥の差だ。


よく見るとギャラリー徹している子の中に、先ほど肩の治療を受けていた少年もいる。

なるほど、これが怪我の原因か。


少年はサラサラの茶髪、利発で素直そうな顔をしている。

アイドルグループにいたらものすごい人気出そうだ。金のにおいがする。


私の下世話な大人思考は置いておいて、何とはなしに見学していると、男子たちの横手の草むらが不自然にざわめいた気がした。

ガサガサと何かが移動しているような…


夢中で打ち合っていた少年たちもそれに気づいたのか、勝負を中断して蠢く草むらを凝視している。


ガサガサ…ガサ…


一瞬の静寂

誰一人動けない


いやな予感フラグがする。

言葉にできない衝動に突き動かされ私は走った。

音の発生源とその近くの少年の間に躍り出る。

その瞬間


ビュシャッ、ジュワ…


音と痛みは同時にやってきた。

足に激痛が走る。

見ると右膝から下が硫酸でもかけられたように爛れていた。


「ひっ!スライムだ」


後ろで少年の甲高い声がする。

それと同時にズルッと何かが草むらから這い出してくる。

それは、青いゼリー状の物体だった。

大きさは洗面器いっぱい程度。


「逃げろ!」


複数の少年たちの足音が遠ざかる。


「お姉さんも!」


スカイブルーの物体にくぎ付けな私の腕が強く引かれた。

が、足の痛みに膝をついてしまう。


「早く!」


サラサラ茶髪男子が賢明に腕を引くが、無理だ。

壮絶に痛い。


「ごめん、大人をっ…呼んで来て…」

「でも!」


綺麗な顔が悲壮に歪む。

ああ、いい子だ。

他の子たちは我先に逃げ出したのに、やはり金の生る木(イケメン)は違う。


私がどうやっても立ち上がれないとわかると、少年は迷わず木刀を拾ってスライムと対峙した。


逃げてと言葉にする前に、ぴょんっと、ごく軽くスライムが飛び跳ねる。

体当たりを受けた少年が転がってすぐそばの建物にぶつかる。

壁にぶつかった衝撃で少年の手から離れた木刀が弧を描き、私の目の前にカランと落ちた。


視線をあげると、私をロックオンしたらしいスライム。

 

最初に遠距離攻撃(酸の発射)で獲物を足を狙い、動けなくしてから捕食するのが彼らの定石なのだろう。

ゆっくりと、私の方へ這ってくるスライムを前に、私の思考は妙にクリアだった。

スライムというRPGの代表格を目の前に、現実感が薄かったのだと思う。


自分でも信じられないが、ぴょんと飛びかかられる寸前。

私は目の前の木刀を握り、スライムへ叩きつけた。


ビシャッ 


スライムがつぶれる。

一撃だった。


「へ?」


間抜けな声を出す私。

スライムはシュウシュウと音を立てて消えていった。


なぜに?

私、攻撃力1じゃなかった?


と、思った瞬間ステータス画面が立ちある。

__________________


 【名前】リア

 【レベル】7


 気力:5/17

 体力:2/11

 魔力:10/10

 攻撃力:2(+5)

 防御力:2

 俊敏性:2


 【装備】祝福の木刀(クリティカル小)


 【職種】剣士 レベル1

 【スキル】剣技1


 【職種】心理士 レベル1

 【スキル】カウンセリング1


 【職種】家事手伝い レベル5

 【スキル】掃除4 料理1

__________________


日常生活ではあまり目減りすることのない気力が、ごっそりと減っている。

あと体力が2って、怖っ!

一撃で倒せなかったら、私、人生のゲームオーバーだったじゃん。


それから、新しく【装備】という項目がある。一撃で倒せたのは間違いなくこれのおかげだ。

ただの木刀かと思ったら結構な付与効果がついていた。


おそらくだが、今のはクリティカルだったのだ。

でなければ、日ごろからチャンバラで鍛えている少年を体当たりで吹っ飛ばすようなモンスターに、私がダメージを与えられるわけがない。


そこまで確認したところで、急に耐え難い痛みを思い出し、上体がぐらりと倒れる。

念願だったの新ジョブの喜びに浸る前に、私の意識は途切れた。


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