4. 家事手伝い レベル5
「うぉやぁぁぁぁぁ、ふんっ」
がらがらがら、ざばー
のっけから雄たけびをあげて、何やってるかというと、井戸で水汲みです。
特に戦闘とかではありません。
水道ないってきつい。1回で腕プルプルする。
異世界トリップ3日目。
モンスターにプチっされることもなく、元気にやれております。
それもそのはず。はい、現在のステータスオープン。
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【名前】リア
【レベル】5
気力:15
体力:10
魔力:10
攻撃力:1
防御力:1
俊敏性:1
【職種】家事手伝い レベル5
スキル:掃除4 料理1
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まずは、名前が決まりました。
なんと、ルイ先生命名です!
「実名の響きはこの世界とかなり違うから、違和感のない名前を一緒に考えてほしい」って言って頼み込んだのだ。
とっても可愛くて気に入ってます。
何より、先生の艶のある声で「リア」って呼ばれるともうね。それだけでトリップした甲斐あったね。
それから、レベル5になりました。
やったね!
…すみません。職種はスルーでお願いします。
この3日間いろいろ忙しくて、ふと気づいた時にはすでにこうなっていたのだ。
いや、私だってね、もし異世界トリップしたら最初の職業は魔導士がいいって決めてたよ。
やっぱ最初の魔法はファイヤーボールだよね。でも実際は水系の魔法の方が生活上便利だからそっちからになるかな。あ、電気ないから照明用の光魔法は必須だよねとか、もう小学生の時からシミュレーションばっちりだったよ。読者様だってまずは近くの森採取クエストからの不意打ちスライム退治コースかなーとか予想してたよね?私もだよ!
さて。
魔導士にしろ何にしろ、まずはこの世界の基本情報収集してから…と思ってたけど、まずそこから難しかった。
ルイ先生、村で唯一のお医者様だから、当然忙しいのだ。
なんだかんだで、患者が途切れることなくやってくるから、健康体な私に長々と時間を割いていられない。
先生の手があくまで、診察のお礼にできる範囲で家事をお手伝いできないかと申し出た。
所持金0の私に、「今は他に入院患者もいないから」とご厚意で病室に泊めさせてくれるって言うし、せめて労働くらいはしないとね。
だが私は、この世界の家事をなめていた。
現代で言う、ちょうど中世ヨーロッパくらいの文化なので、当然水道、ガス、電気のライフラインはない。
水汲みは井戸と家の間を1日に何往復もしなくちゃいけないし、洗濯は当然手洗い。先生は水魔法も使えるらしいが、魔力は本業の治癒魔法用に温存するので、普段の生活では使わないといのこと。
料理をするにも台所は釜戸だ。ただでさえ料理苦手な私は初めて見る設備に四苦八苦なのだが、男の一人暮らしを心配してか、診察に来た患者さんが何かしら差し入れをしてくれるので助かっている。
結局家事だけで疲れ果てた私は、先生に時間ができる夜にはバタンキューとなる。
そんなこんなでもう3日たってしまった。
でも、この3日でレベルが4つも上がったことは単純にうれしい。
あと『気力』というステータスも少し上がった。
これは基本無料プレイのゲームアプリにありがちな『行動力』に値する。(と思う)おなかがすいたり、疲れたりすると減り、食事や休息で回復する。
まぁ、職業『家事手伝い』だけどね!
まったく、早めに剣技とか魔術とかのステータスも上げて、ちゃんと最後はエンディング分岐させないと…ってどこぞのお姫様メーカーじゃないんだから。
余談だが、掃除の数値が高いのは、ホテルの客室清掃のバイトをやっていたからだと思われる。ベッドメイキングとか、実は得意だ。
「ととっ」
くだらないことを考えていたら、裏口の手前でよろけた。
やばい、こぼしたらまた汲みなおしだ。
ぼすん。
「気を付けろ」
とっさに閉じていた目を開けると、先生が抱き留めてくれていた。グッドタイミングだ。やはり異世界のイケメンは違う。
「すみませんでした。ありがとうございます」
お礼を言うと、少しだけ口の端を持ち上げて微笑まれた。
「いや、ご苦労だったな」
そう言って私の頭をひとなでして、先に家の中へ入る先生。
私が持っていたはずの、水桶2つを持って。
もう一度言おう、異世界のイケメンは違う。