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《11》


「佑真、また放課後な」

「おう、お疲れー」

 部活仲間と挨拶を交わし今日の朝練を終えた佑真は、体育館を抜け出した。

 そのまま2階に向かって颯爽と階段を駆け上がる。


 教室のドアを開くとすでにクラスの親しい仲間達は真ん中に揃っており、すぐさま輪の中へ飛び込む。


「佑真、朝練お疲れー」

「おう」

「今日も汗くせえぞ、佑真」

「うるせえ、ほっとけ」

 仲間達から明るく歓迎され一緒にふざけ合いながら、佑真も楽しく笑った。


 今年高校3年に進級し新たなクラスとなって数か月、新しいクラスメイト数人の男子生徒とあっという間に仲良くなった。

 今までの佑真は周りの生徒に関心がなく、近付きも近付かれもしなかった。

 春の新学期が訪れ、クラスに1人でいるのもなぜか無性に寂しくなり初めて心を開くと、周りの生徒もすぐに傍へ近寄ってくれた。

 

「佑真ってけっこう軽い奴だよなぁ」

「俺、元からこんなんだよ」

 佑真が軽い冗談1つ口にすれば、仲間達はちゃんと笑ってくれながら感心もする。

 今までとっつき難く近付きにくかった佑真が思いのほか明るく社交的だったので、最初周りは驚きつつも喜んでくれた。

 女子には相変わらず素っ気ない佑真だが、逆にそれが男子生徒には好印象として生まれ変わった。

 

 新しくできた仲間達と毎日教室で騒ぐのはとても楽しい。

 今年受験生だというのに、佑真は初めて知った複数の仲間関係に毎日笑って過ごしている。

 本当に楽しくて、今まで余計な人間関係を避け続けてきた自分を今更ながら後悔する。

 佑真の学校生活はようやく高校3年で花開き、最高の充実を迎えた。


「佑真、次移動だって」

「おう、行こう」

 さっそく1時間目の授業から移動教室になり、鞄から教科書のみ取り出し片手に持つ。

 仲間の1人と一緒に教室を後にした。


 無駄口を叩きながら廊下を歩いていると、いつのまにか隣の別校舎に辿り着いた。

 3年に進級し文系クラスになった佑真は、普段関わりのない理系クラスの前を今日初めて通り掛かる。

 先の廊下をゆっくり進みながら、1つの教室を何気なく入口ドアから覗き込んだ。


「佑真」

 仲間と歩く佑真は静かに声を掛けられた。

 まさか滅多に訪れる機会のない別校舎で名を呼ばれるとは思ってなく、ビクリと肩を跳ね上げる。

 手にある教科書がそのまま足元の廊下に落ちた。


「玄」

 名を呼ばれた背後に振り返ると、友人の彼がすぐ近くに佇んでいた。

 今だ驚く佑真が彼の名をとっさに呟く。

 彼は佑真の足元に落ちたままの教科書を代わりに拾い上げた。

 

「ほら」

「うん、ありがと」

 彼に教科書を手渡され、すぐに礼を言い受け取る。

 自然とそのまま向かい合った彼は静かに佑真を見つめた。


「久しぶりだよな、玄」

 佑真が急いで久々の再会を明るく伝えると、彼は頷いた。


「何だよ、お前ずいぶん無口じゃん。ちゃんと喜べよ」

「ああ、ごめんな。佑真はそこの理科室か?」

「うん、そう……あ、お前はこの教室だっけ? 俺初めて通った」

「俺も初めて佑真を見た」

 彼のいる別校舎で初めての再会を互いに確認し合う。

 すぐに会話が途切れると、再び彼は静かに佑真を見つめた。


「じゃあな、佑真」

「ああ、またな」

 引きつり笑顔の佑真にちゃんと気付いた彼は、ようやく佑真を解放させた。

 そのまま自分の教室へ入っていく彼の後ろ姿を見送りながら、詰めた息をゆっくり吐き出していく。


「怖え……何あれ。あいつ、あんなんだった?」

 ようやく一緒にいた仲間の声に反応し、隣に振り向く。

 佑真は彼の教室にまだ視線を向ける仲間の顔をまじまじと凝視した。

 自分も今こんな表情を浮かべているのだろうか。

 慌てて平常心を思い出し、再び先の廊下をさっさと歩き出す。


「……なあ佑真、さっき久しぶりって言ってたけど知ってた? あいつ去年ヤバかったらしいよ」

 1人先を行く佑真の隣に仲間がすぐ追いつくと、さっそく彼の噂話をこっそり囁き始める。

 そういえばつい最近親しくなったこの仲間は、昨年まで佑真と彼がクラスメイトだったことを知らなかったかもしれない。

 ようやく足を鈍らせた佑真は先の廊下をまっすぐ見つめ、彼の情報を教えてくれる隣の仲間に耳だけ傾けた。

 

「突然おかしくなっちゃったみたいでさ、教室で大声発した後パタッと学校来なくなったんだって。夏休み明けようやく来たと思ったら、今度は死人みたいだったらしいよ」

「…………」

「あいつと今同じクラスの奴に聞いたんだけど、用事以外誰とも喋んないで黙々と席で勉強してるんだって。それがまた異様らしくてさ……周りは怖くて誰も近づかないってよ」

「…………」

「お前、よくあいつと笑って喋れたよな……俺はマジ無理。あの目で見つめられたらゾッとしちゃう」 

 彼を怖がりわざとらしく身震いする仲間の隣で本気で身震いするなど、佑真は当然知られるわけにはいかない。


「なるべく関わんねえほうがいいかもな」

 何も失い彼の目で見つめられた佑真は、笑いながら小さく震えた。 


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