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音楽は世界を救う!  作者: 御神楽 緋
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第九話 僕の周り

 僕たちはどうやら勇者として召喚されたらしい。って、そんなの誰が信じるんだろう。

 運動しか取り柄のない僕、加藤修輔は、偶然学校のアイドル田中君に100メートル走で勝ってしまったとき、田中君爽やかな笑顔で「次は負けないから。」と握手してくれた。女子の視線は怖かったが、田中君はそれはもう男の僕から見てもイケメンで眩しかった。きっと僕の顔は真っ赤になっていたことだろう。


 そこで田中君と一緒にいた彼、浅野祐司君と出会った。浅野君は田中君と並んでも全く見劣りしない、その赤みがかった瞳は少し吊り上がっていて、近寄りがたい雰囲気をかもし出していた。が、彼の言葉に僕はそれはそれは驚いた。彼は、

「おい、お前同じクラスの加藤だよな?俺の下僕になれよ。」

 いきなり俺様発言をしたのだ。っていうか下僕?意味が分からない。そう言ったら彼は、

「下僕は下僕だ。まあせいぜいパシリか子分ぐらいだから安心しろよ。」

「いやいやいや。そういうことじゃなくて、いきなりそんなこと言われたって了承するわけないだろっ!」

 そう叫んでしまった僕は悪くないはず。

「まったく、俺が下僕にしてやるって言ってんのに文句つけるんじゃねえ。仕方ないから友人Aな。」

 まったく、素直に言えないのか?仕方ないので承諾しておいた。それから僕は浅野君といることが多くなった。田中君とも話す機会が増えて、だんだんイケメン耐性がついてきたと思う。そして、浅野君に紹介されて井上さん、桐嶋さんとも仲良くなった。ボブ、というのだったか。短めの髪型は、青みがかった髪を持つ動物的な井上さんに似合っている。桐嶋さんは、おじいさんがヨーロッパの人らしく、色素の薄い髪はストレートで腰のあたりまで伸びている。おっとりお姉さんな彼女は、しかし弓道部で、その凛とした姿を見た人は誰でも目を奪われるだろう。


 ところで、今僕はこの三人とともに、玉座に座る、王様然とした人の前に連れてこられた。っていうかこの国の王様らしい。そういえば田中君も帰ってこないし、香椎さんもどっか連れていかれるし、浅野君も少し圧倒されたのか、先程から王様の方を向いたまま何も言わない。二人の女子も不安そうにしている。


 その時、一人の騎士が王様の方へ駆けていくと、跪き、慌てた様子で報告をしだした。

「恐れながら陛下、ご報告申し上げます。勇者様の一人が手洗い所から逃亡したようです。探させたほうがよろしいですか?」

 すると王様はとても耳に心地よいバリトンボイスで、

「ふはは、なんと・・・。よい、ほおっておけ。」

「えっ・・・よろしいので?」

 騎士が驚いたように言うと、王様は少し不機嫌になった。

「何度も言わせるな。我は今から勇者たちと話さねばならん。さがれ。」

 張りのある声でそう言われ、騎士は途端に勇ましい顔つきになり、背筋を伸ばした。僕も思わず背筋を伸ばす。これが王の風格なのだろう。さっき会ったお姫様もそうだったけど、カリスマ性を感じる。


「で、そなたらがユリティアに召喚された勇者達であるな。」

 不意に声をかけられ肩が跳ねる。

「ふひゃいっっっ!!!」

 僕の声が玉座の間に響き渡ってしまったのは・・・えっと、不可抗力だといいたいけど穴があったら入りたい・・・・。僕が恥ずかしさに顔を腕で覆っていると、

「おい、そこのお前、俺は今の状況を知りたい。包み隠さず話せ。」

 浅野君は腕を組み、仁王立ちで王様を見据え、そう言い放った。王様をお前呼ばわりしてしまって、不敬罪とかにならないかと僕が内心慌てていると、

「面白い。」

 そう一言、王様は言った。

 僕はびっくりして玉座に目を向ける。

「勇者よ。順を追って説明する。暫し我の話を聞いてくれ。そういえばまだ名を名乗っていなかったな。我はこのウィブラータ王国の国主、アズバーント・フォン・ウィブラータだ。」

 アズバーントさんは人の好さそうな笑顔でそう言った。

 その時だ。左側の扉が開かれ、さっきのお姫様と、お姫様と同じ銀髪の男が入ってきた。そしてなんと、その後ろから、田中君と香椎さんが歩いてきたのだ。田中君は少しすまなさそうな顔でこちらを見、香椎さんはいつもと同じ無表情でこちらをちらりと見た。さっぱり何があったのか分からないが、田中君がすまなそうな顔をしているのは僕らを置いてどこかへ行ってしまったからだろう。田中君はいつも気を遣ってくれる人だ。だがそのせいで、いささか損をすることが多いと思う。


「父上、勇者様、お待たせいたしました。」

 そう言って、お姫様は笑った。


「そこの二人は勇者と・・・勇者でない異世界人であるな。」

「「「「えっ」」」」

 アズバーントさんの言葉に四人で声をそろえてしまった。香椎さんは勇者じゃなかったのか!?いっせいに香椎さんの方を見ると、お姫様が一歩踏み出し、香椎さんと僕らの間に入った。そして優雅に身をひるがえし、アズバーントさんに向き合った。

「確かに、キノは勇者ではありませんでしたが、十分わたくし達の役に立ってくれるかと思いますわ。それに何より、わたくしがこの子を気に行ってしまいましたの。どうせ戦う力は無いようですから、わたくしの直属の部下にしました。」

 そう言ってお姫様はにっこりと綺麗に笑った。後ろに狸が見えたのは気のせいだろう。・・・うん。王様は相変わらず迫力のある目でお姫様と香椎さんを見ている。お姫様は笑顔を崩さない。香椎さんは心なしか緊張した顔になっている。

「・・・ふっ。お前が認めたならば良いだろう。そこの、キノだったか。ユリティアを頼む。」

 ニヤリと笑うとそう言った王様は目を細め優し気な表情になったのは気のせいだろうか・・・。




 それから王様は人払いをし、田中君と香椎さんに事情を聞いた。香椎さんが連れて行かれたのを不審に思った田中君がトイレから脱走したらしい。なんとも行動力があるものだ。僕たちは不安で他の人のことなど微塵も考えなかったのに。少し落ち込んでいると、浅野君に頭を撫でられた。桐嶋さんと井上さんにも慰められた。さらに落ち込んだ・・・。


「さて、話は終わったか?そろそろ説明をしよう。」

 僕らは姿勢を正し王様の声に耳を傾ける。

「まず、一番に言いたい。・・・すまない。我はおぬしらを家族から引き離し、利用しようとしている。今、この国におぬしらを再び元の世界に送り返す為に使える魔力は残っておらぬ。それに、我が国が勇者召喚の儀式を行ったことはまだ伏せておきたい。よっておぬしらに勇者をしないという道はない。しないと言うならばおぬしらを生かしておくことはできないのだ。」

 僕らは絶句する。薄々気ずいていたことだがやはり帰れないのだ。家族にもう会えない。そう考えるとすっと心が冷えていく。重くのしかかる言葉に僕らは顔を暗くしていた。

「おい、じゃあ俺らは向こうで行方不明になっているのか?親に心配かけてんのか?勇者って何なんだ?」

 浅野君は少し震えた声だが、冷静に努めた言葉で王様たちに訊ねた。

長くなりそうなので切りました。

次から紀乃視点に戻ります。

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