第七話 星に願いを
蒼い瞳を見つめていると、ユリティアは一呼吸おいて話し始めた。
「識の水晶、は分かるかしら。」
「あ、はい。」
私はしっかりと頷いた。
「識の水晶は触れた人間の本質を見抜きます。そして見る人によってもまた内容を変えるのです。魔力が多ければ多いほどより詳しく、相手を知ることができるのですわ。たまに例外もいますけれど。この国は魔力の高いものが地位も上になるので私達王族は魔力がこの国で最も大きいのです。」
「ってことはユリティアさんはあのおっさんより詳しく見れるということですか?」
「おっさん・・・。」
ユリティアの説明に私は確認してみた。あ、ちゃんとお姫様だし、さんつけて呼んだからね。なんかユリスさんが呟いてたけど、私には聞こえなかった。
「ええ、なので、クルルサーガが知らないあなたの情報を、実は私が、というかお兄様が見て、クルルサーガには伝えず私に教えてくださったの。」
「なるほど。その情報というのが私の存在意義なのですね。」
ユリティアは頷く。そしてユリスさんに何か耳打ちした。ユリスさんはそれに頷き、さっと取り出したのは、あ、私の荷物。
「そして、あなたの本質は勇者ではなかった。だけれどけして一般人でもありませんでした。あなたは音楽の女神に加護を享けた御子なのです。」
「・・・みこ?」
「ええ、ですが音楽など貴族が嗜むもので、庶民は触れる機会などないといえます。全ての人間に平等に与えられていないモノを司る神など・・・存在するかも怪しい。音楽の女神など聞いたこともありませんわ。」
酷い言いようだ。この世界では音楽は一般的ではないのだろうか。だが民謡の一つ二つ有ってもいいと思うが・・・国歌なんかもないのか?
「まあ、それを確かめるためにあなたには音楽を披露してくださいな。どんな規模になるかもわからないので一応この部屋は魔法で音も魔力も遮断して外に漏れないようにしていますわ。」
どうやら何か披露しなければならないらしい。こうなればとびきりの演奏を・・・あれ、今魔力って言いませんでした?気のせい?まさか私にも魔法が使えっちゃったりしたりするんじゃないの!?そりゃあ勇者召喚とかもろファンタジーのテンプレですもんね。あるかもしれない。生きる希望が湧いてきた!自分の命をつかみ取らなければ!
「よしっ、やりますよ!楽器をください!」
「わたくしには異世界の楽器は分かりません。荷物を返しますが、くれぐれも変な動きをしましたら叩き切りますわよ。」
「・・・はい。」
ユリスさんがこちらに荷物を手渡してくれた。いやー近くで見ると美形の迫力はすさまじいね。
荷物を床に置き、変な動きと判断されないよう、人質をとった犯人を前にした警察官の気分でゆっくりとした動作でトランペットを取り出し、構える。
「ごくり。」
唾を飲み込む音が聞こえた。自分が立てた音なのか他の誰かの音なのか分からない。耳にすべての音が集まっているように感じる。まるで耳元に誰かがいるように息も、衣擦れの音もはっきりと聞こえる。
緊張で唇が震えてしまわないよう、私はゆっくり深く深く息を吸った。だが初めの音は優しく優しく、子守唄のように。
『星に願いを』
私は願いを込めて吹いた。まだ昼だけど。昼にも星は出てるんだよ、見えないだけで。
どうか、音楽の美しさが、素晴らしさがユリティア達に伝わりますように。
どうか、向こうの世界の家族が、幸せに生きていけますように。
どうか、向こうの世界の友達が、私のことを忘れたりしませんように。
どうか、どうか・・・・・。
頬に雫が落ちるのを感じた。
ああ、私はまだ、死にたくない・・・。
そして、演奏は終わりを迎えた。
しばらく別の視点からの話が続きます。