第六話 お城の中へ
私は廊下を通り、お城の中に入った。かなり横幅が広い石造りの廊下を通り階段を上って、また廊下を進んでいると、いつの間にか壁が豪華に、っていうか白くなっていた。
しばらくすると、ある部屋の前についた。しかもなんと取っ手の所に金の獅子のドアノックがついている。(分からない人は、千と●尋の神隠しに出てきた素晴らしくハッスルなおばあちゃんの部屋のドアを思い出してね)
コネルさんがそのドアノックで三回扉を叩き、
「姫様、失礼いたします。」
と声をかけた。中から先程召喚された大広間で会ったお姫様の鈴のなるような美しい声で返事が聞こえた。どうやらここはユリティアの部屋らしい。コネルさんが扉を開け、中に入っていくので私はその後について部屋に入る。
そこには予想通りユリティアの姿と、同じく大広間で会った、銀髪の男がいた。
「ようこそ、キノ。先程名乗りましたが、わたくしはユリティアと申します。こちらはわたくしの兄第一王子のユリス・ロデリック・ウィブラータですわ。」
へー兄だったんだ。
「え・・・兄、ってことは王子様ですよね?」
第一王子って、普通一番に国を継ぐものではないのだろうか?それにしてはユリティアが主に話しているし、騎士のように後ろに控えている。
「ああ、言いたいことは分かります。ですがお兄様がわたくしの警護をして下さっているのにはいろいろ事情があるのですわ。」
今の言い方はこれ以上聞くなということだろうか。まあ私には関係ないから別に聞かないけど。ここは話を切り替えよう。
「ところで、私を呼んだ理由は何でしょうか。」
「あら、理由を聞かないのですか?」
「聞いてはいけないような雰囲気でしたので。」
そう言うと、ユリティアは天使のような笑顔でにっこり笑った。
「良かったですわ。あなたが空気も読めない無能でなくて。」
「それは暗に空気は読める無能と罵っておられるのですか。」
「あら、勇者でもない役立たずのあなたを拾ってあげたのは恩人に対して無礼ですわよ?」
あ、声に出ていたようだ。ユリティアが再び天使の笑顔で微笑む。吐いたのは素晴らしい毒であったが。私は恨めしくにらんでおいた。命を助けていただいたわけだからね、あまり文句は言えない。
「こほん。」
ユリティアが可愛らしく咳ばらいをした。
「さてコネル、人払いをしてくれるかしら。」
「はい姫様。」
すると、みるみる部屋にいたメイドさん、執事さん?が部屋から出ていく。それ見て私は、授業の移動教室のだらだら具合を思い出して恥ずかしくなった。
部屋にはユリティア、ユリス、コネルさん、そして私だけになった。良く知りもしない私の前で王女、王子が護衛もつけずにこんな少人数になっていいのだろうか。
「キノ、さっそくだけど自己紹介をしてくれないかしら。あなたがどの程度自分のことを分かっているのか知りたいわ。」
そう言われたので嘘偽りなく自己紹介をした。と言っても話すことはたいしてないが。
「えーっと、香椎紀乃です。16歳です。特技はトランペットを吹くことと、歌うことかな?私が勇者ではなくて、ただ召喚に巻き込まれた一般人であることは知っています。」
お、どもらず自己紹介できた自分を褒めたい。人前で話すのは大の苦手なのだ。
「成程、あなたが自分の可能性について何も知らないということは分かりました。」
「はあ、可能性、ですか?」
ユリティアの可能性という言葉に首をかしげる。可能性とは何のことを言っているのだろう。もしかして実は私もチートを持っていたりするのだろうか。そう思うと期待がどんどん高まっていく。ユリティアの次の言葉を期待を込めて待った。
「まあ、使えるかどうかはまだ分からない可能ですから、一応確認はしようと思って連れてこさせたのですが。あなたに利用価値がないのならスッパリ切り捨て、もとい処分します。そこのところをお忘れなきよう。」
その言葉に背筋が寒くなる。これには私の命がかかっているようだ。不安が出ないよう深呼吸をして、ユリティアの透き通るような蒼の瞳を見つめ、私はかすかに頷くことができた。