第三話 命の危機
後ろの小さい方の扉(と言っても見上げるほどに大きい扉なのだが)をとおり、長い螺旋階段を降りていく。どうやら思っていたより高い所にいたようだ。下が見えない螺旋階段なんて初めて見たよ...。
しばらく歩くと騎士が止まった。下と上ばかり覗いていたから危うくあの堅そうな鎧にぶつかるところだった。まったく、止まるときは言って欲しい。(前を注意していなかった紀乃が悪いのだがすっかり自分のことは棚に上げている。)
騎士の横から前方を覗き込むと、階段の途中の壁に扉があったこの扉は実に簡素である。
「中に入れ。」
「・・・はい。」
あれ、私勇者として召喚されたんじゃなかったっけ。それなのに命令口調なのか?やっぱりあの中で一番平凡な見た目だからなめられてるのだろうか。ぺろぺろか。(なめられてるの後にぺろぺろか。を付けるのをやってみたかったのだ。)
騎士が扉を開けてくれたので中に入る。中はソファーが置いてあるだけの小さな一部屋だった。後ろで扉を閉める音がする。騎士のほうに向きなおると騎士がいきなり兜をとる。
かなりかっこいい初老のおじさんだ。きっとモテるのだろうな。白髪の混じった柔らかな薄紫の髪に優しい金色の瞳でこちらを真面目な顔で見ている。
「・・・えっと・・・。」
どうしよう、何を話そう。初対面の、しかも異世界の人となにを話せというんだ。凄い見られてる。
「・・・ああ、すまない。異世界人とは我らとあまり見た目は違わないのだなと思ったのだ。」
そう言って騎士はすまなそうな顔で微笑む。きっとこれだけでかなりの女の子を落とせるだろう。あまり差別意識とか持たれなくてよかった。見た目違わないというけれど、さっきから美形ばかり見ている気がする。クルルサーガとかいうおっさんも太ってるけど顔は整ってるし。
「さて、すまんがおぬしには死んでもらわなければならぬ。」
私が変なところに思考を飛ばしていると、突然声をかけられた。
「・・・・・はい?」
私はたっぷり三秒くらい言葉の意味を悩んでしまった。
「ふむ、問答無用というのはあまりにもかわいそうであるからな。説明しよう。」
騎士のすまなそうな眉尻が益々下がっていく。そして、ゆっくりと騎士は話し出した。それは、子供におとぎ話を聞かせるような優し気な口調で、それでいて、聞き分けのない子供をたしなめるようなはっきりとした発音で。
「おぬしらは、まずこの地に姫様によって勇者として召喚された。・・・それは分かっているな?」
私は神妙にこくりと一つ頷く。
「そして、あの召喚の塔の儀式の間で水晶に触ったはずだ。あれはな、識の水晶と呼ばれている。識の水晶は触ったモノの本質を見極めるそうだ。ここまで言えば察しがついたやもしれぬが・・・おぬしだけは、勇者では無かったそうだ。勇者では無いのに召喚された異世界人など我らにとって不穏因子でしかない。よって、クルルサーガ様よりおぬしは殺せとお達しを承ったのだ。」
ああ、私は簡単に理解してしまった。
結局、私は、どんなに憧れても、渇望していても・・・特別になどなれはしないのだ。