第二話 召喚
光が収まるとそこは大きな広間だった。地面に敷かれている透明度の低い大理石に刻まれているるのは教室で見たあの文様だろうか。それにしても広い。天井は高すぎて距離が測れないが、色んな青のガラスが光を通してキラキラかがやいている。
「皆さん、ようこそおいで下さいました。」
はっとして目の前の男に顔を向ける。いや、完全に他の人の存在を忘れていたようだ。ペラペラ話し始めたのは四十代後半くらいのうさんくさい太った男であった。周りには鎧を着た騎士(?)が大勢立っていて、男の後ろには座り込んで荒い息を整えている銀髪の美しい少女がいる。少女は淡い青色のドレスに身を包んでまさにお姫様といったところだ。少女の周りには藍色の髪の美人メイドさんと軽装だが立派な剣を腰にさげているこちらも銀髪の若い男が駆け寄っていた。
「ここはユドナシア大陸にあるウィブラータ王国、召喚の塔の大広間でございます。あなた方は勇者としてここにおられるウィブラータ王国皇女 ユリティア・アリア・ウィブラータ様によって異世界より召喚されました。あ、ちなみにわたくしは宰相補佐を務めております、クルルサーガ・メルソンと申します。」
そう言ってクルルサーガは優雅にお辞儀した。(もっとも、お腹がつかえたらしく背中がまるまっただけであったが。)
その後ろから、歩く所作さえも見惚れるような美しい動きで銀髪の少女がでてきた。
「はじめまして勇者様、紹介にあずかりました、わたくしユリティア・アリア・ウィブラータと申します。気軽にユリティアとお呼びください。」
「姫様、下々に気軽に名前を呼び捨てなどにさせてはなりませんっ。」
ユリティアが挨拶をすると、クルルサーガが口を出す。おやおや、下々とは、ずいぶんと下に見られているようで。
「クルルサーガ、勇者様達はこの国のために欲しい人材なのです。彼らはわたくしたちと同等に扱うべき存在です。」
ユリティアは厳しい顔でそう言い放った。そのあとに少し申し訳なさそうな顔をしたのは気のせいだろうか。
「皆様方、よろしければ名乗ってはいただけないでしょうか。」
ユリティアの声にようやく他の面々は我に返ったようだ。順に自己紹介を始めた。とりあえず私も普通に名乗っておく。
それぞれが名乗り終わると、ユリティアはメイドさんからサッカーボールくらいの透明な玉を受け取った。
「皆様、順にこの玉に触れってくださいませ。」
私たちは順に玉に触れていく。手を乗せると白い光が淡く輝いた。順に手を置くたびに玉をひっこめて、銀髪の男が何やら玉を見ながらクルルサーガと話していた。私の順番になりそっと触ると同じように輝く。だが、クルルサーガなぜかちらりとこちらを見て蔑むような目を向けた。少し気になりはしたが、何を話していたかよく聞こえないので分からなかった。
「皆様、どうぞこちらへ。ああ、紀乃様はこちらへ。」
クルルサーガはにこりと人の好い笑顔で私以外の五人を真正面に見えていた大きい扉に連れて行った。
「お前はこっちだ。」
鎧を着た騎士らしき大柄な男に声をかけられた。とりあえずついて行くしかないだろう。