第二日目ー4
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~国 場面~
今井はただただ苛ついていた。梅雨明けしたはずなのに何ともいえないじめじめ感と曇りや雨の日々。今年はエルニーニョ現象でこのような気候が7月中旬まで続くであろうことは重々承知はしていたが、やはりやりきれなかった。
今井がやりきれない理由はこればかりではなかった。今実行されている、"大血修学旅行"というテロプロジェクトに支障がありそうな気がしてならないのである。コロン島本部からも沖縄宮殿からも連絡が途絶えており、今井にしては珍しい焦燥感に駆られていた。
ーーまぁ、"最強"を送ったからよい。
などとたかをくくって、強気を己に感じさせて見るも、その肝心のやつからも連絡は途絶えていて焦りは募るばかりである。敵はやはり名門の期待高校、侮れないということもあり、心配の念もあった。
「今井くん。これ!今井くん。」
「は!何でしょう」
自分の回想の感慨にふけってる中、現実の会議に引き戻された。この会議は次のテロプロジェクトのためのものであったが、それも今回のテロがうまくいく前提であったために、今井は心配にふけっていたのである。
「はぁー。話も何も聞いとらんかったのか。」
国の会議、いわば国会ともいいたいところだが、これは違う。政府、つまり内閣の会議、閣議だった。司会はこの首相。名前を盃。
「すいません~」
平和機密国家組織という今年から作られたテロプロジェクト組織の総長である今井は国の最新の技術を使って、"殺し"の許可まで出ているものの、やはりこの会議上ではまだまだ身分的な関係では低く、会社で言えば部下のような存在であった。
「おい!しっかりしろよ!」
「なに、ぼーとしてやがるんだー」
そんなこんなで、上司、言わば他の前年度からの既置の大臣は今井に皮肉がごとく、ヤジを浴びせてくるものであり、今井はさらに苛立ちを隠せずにはいられなかった。
ーーどうするか。
ただそれだけを今井は考えていた。
そんな今井を睨み付ける大臣たち。その顔ぶれは総務大臣の男鹿、法務大臣の香川、外務大臣の小池、財務大臣の仲野、文部科学大臣の中村、厚生労働大臣の須郷、農林水産大臣の新渡戸、経済産業大臣の日比野、国土交通大臣の阪元、環境大臣の円山、そして普段は口ひとつ空けない元暴力団総長にして東大卒の謎防衛大臣の蔡示、国務大臣唯一の女性牧野、他もろもろである。
国家のエリート軍団ともいえたこの会議、いまさらながら題は恐ろしいものであった。
"人体実験襲撃"
このとき、今井を苛つかせていた天気は決してエルニーニョ現象だけよるものではないということを天気予報は語っていた。しかしこの知らせを今井が聞くのは少々、あとになるだろう。
~池戸 場面~
宮殿前、池戸は目をさました。南の世界の夏だというのに外でこの寒気に違和感を感じつつ、池戸は起き上がった。寒気を与えていたのは、打ち付ける雨により体の体温が奪われていたことだろうか、起きたときはやんでいたものの、水溜まりをそこらじゅうに感じさせ、体はべたべただった。どうして自分がこんなところで寝ていたのかと池戸は思いだそう思いだそうと考えに考えていたが、答えが出せそうにも出せず、途方に暮れていた。しかし、寝起きでぼーとしているのも、間もなかった。池戸の目に入ってきたのは"鮮血"だった。多くの水溜まりの中で、一際目立つそれに、横山が死んでいた。
「おい!よこやま!」
全てを思い出した。ここに俺は古川と横山を助けるために来た。しかし、家三 夏世の反対もあって、曾右 夢莊は横山を見殺しにすることにしたんだ。
ーーくそやろう。
※※※
俺にも実は古川と同じように家族を人質に同じことをされた。だから今言えば俺は、夢莊の敵なのかもしれない。でも俺たちはこれまで学校生活を共にしてきた仲間とも言える、いや言いたかったから、俺はこの横山を見殺しにしたことを許せなかった。そして夢莊が古川についてこれから知るであろう運命にも惨めな気持ちでいた。
※※※
などと考えている間に、その感慨からか池戸の目からは雨でもない、鮮血でもない液体がこぼれ落ちていた。
「ちょっとあんた、目、覚ましたの!めんどくさいことになったわねー!」
後ろから聞いたことあるような女の声が聞こえて、池戸は振り返った。
「お、おまえは!!」
池戸は目を見開いた。
「もう一回、おねんねねー!」
池戸はパイプで叩かれ、倒れこんだ。
女は当たりを見回し、息を吸い込んみ、吐いた。
「やはりここらへんから途絶えていているわね、夏世……」
女の目は冷酷かつ心配というところだろうか。いったいどちらが本物なのだろうか。
~???~
画面をタッチし、男は冷酷でかつ暗黒がごとく笑った。男は妙に上機嫌であった。男は普段から人に感情を出すようなことはしないものであったのに、この行動はとても珍しいものであった。
※※男の過去場面※※
20年も前のこと、俺がまだもの心つきたてのことであった。俺は父親から強度の虐待にあっていたようだった。父親は当時は無職で感情的にも不安定で人に当たることで感情の維持を図っていたようだった。言わば、一種の病気。ただ俺の母親はそれを見ているしかしなかった。自分にその刃が降りかかるのが怖かったのだ。だから俺は勉強に逃げるしかなかった。俺はひたすら勉強して、力をもって、この家を出ると考えていた。そんな生活の中、学校が唯一の娯楽の場であった。だが、そんな学校でさえ、父親の権限でやめさせられた。俺は大学も入学することができず、ただ浪人の日々を送っていた。家に帰れば暴力や母親からは大学へ入れず落ちこぼれていることへのパワハラがきて、家にも帰らず、いつも橋の下でホームレスをしていた。そこに来たのは俺の人生を救ったある組織だった。俺はこのグループで人について、殺人について、いろいろ学んだ。そしてやっとの思いでこのグループの頭首になれた折りには家族を全員、殺した。
それから組織は国からの弾圧もあり、厳しい情勢を辿っていった。しかし今は何とか、この組織は滅んだとされているが、その中でひそかに生き残り続けていられる。
こんな世界で次に計画したことは、世界に予言書を作ることと、それに基づく"洗脳"だった。そして未来からやってきた未来のこの組織の女とともに俺たちはこの世界で活動していくこととなった。
そんな男はその計画とも言える、この事業の進行の上手く行き具合には、にやついてしまっていた。
「ふははははは。みよ!悪魔神!この世界もいつか滅びる。全てはこの計画書通りにな。」
「頭首、頭首に会いたいと来ていますが。」
「俺にか、珍しい。」