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正義の過失(あやまち) ~大血修学旅行編~  作者: 総務省
第1編 大血修学旅行
6/11

第二日目ー1

第二章

1

~梓 (ナウ)場面(ローケル)

風の強く撃ちつけ、波打ち、雨打つ海の前、白い浜辺は夜遅くの暗さの中で光となりつつある今日の雲の中、月の明かりのない、ただただ暗い閑散とした世界の下でその風に抗う少女がいた。


私の名前は佐野(さの) (あずさ)。コロン島の民宿『極楽荘(ごくらくそう)』の看板娘としていつも佐野家の娘として施しているつもり。でも私は本当はここの家の娘じゃない。佐野 梓って名前も実名じゃない。私の本名は

矢倉(やぐら)

もうあの矢倉家はこの世にない。正確には私だけ。そう、あの血を人の生死をよく知ってしまったあの日までは。


~梓 過去(パスト)場面(ローケル)

9年前の2005年6月4日のことだった。私はまだ9歳、小学生4年生だった。その日は確か太陽がとても強く照りつけていて、湿度も高く、南の島といってもとても蒸し暑かったような気がする。普段通りの朝だった。その日は土曜日で父親も母親も妹も休みで、皆、9時までだらだらと寝ていた。父親は土曜日も仕事の週休1日制であり普通は休みだったが、その日はなぜか休みをとっていた。味噌汁をすすりながら、普通の朝食としていた。本当にいつも通り…のはずだった。何もない日常なはずだった!!

事件の序章は母親が出ていってからだった。父親と妹と私の3人の中、2時間ほど経ってあるインターフォンがなった。家は穴から見たり、窓から見たり、チェーンで見たりしない。普通に「はいー」と出るのだが、それが今回の穴とも言えた。出たのは父親だったが、出た瞬間、

パン

不審な者によって撃たれた。玄関は血の水溜まりと化していた。そして私たちの所へ進もうとしたとき、

「梓!美奈子!」

美奈子とは妹の名前だが、不審な男たちが玄関から入ろうとしたとき、ちょうど母親が帰ってきたのである。そして不審者たちの無言の制裁がごとく母親へ足を進めていった。だが母親は逃げず、不審者二人を抱き締めて取り押さえて、

「二人とも逃げて!!」

私たちは死ぬ恐怖とともに、裏口から逃げ出そうとした。

パンパン

抱き締めて押さえていた母親も撃たれた。本当ならこの時、逃げるべきじゃなかったのに、私はただただ死を恐れて逃げてしまった。裏口から逃げ出したが、二人の不審者が追ってきた。私はひたすらひたすら逃げた。死を恐れて無我夢中だったのだ。我に返ったとき、妹は一緒に逃げかいなかった。

あの日、私は自分の命の為に大事なものすべてを犠牲に、見殺しにした。

それから家族は全員死んだとだけ教えられ、犯人を含めてこの事件のすべてを何者かの強い権力によって揉み消され、私は施設に保護された。死を恐れて自殺もできず、生きる意味だけ失っていたところに佐野家が私を引き取ってくれた。佐野家は家族を見殺しにした恐ろしき私に対して普通に接してくれ、普通の家族のように扱ってくれた。私の意思を戻してくれた。それで私は生きる意味を感じた。この人たちは絶対に私が守る。この人たちの為に私はなる。

そして私は剣道を始めさせてもらった。興味あるという名目の理由で始めたが、指導者からはこっそり、"真剣"と呼ばれる本当の剣を使わせてもらい、2刀流も習った。すべては私の"家族"を守るため。

あの日、本当だったら父親も母親も美奈子も守るべきだった。私はただ逃げた、見殺しという大罪を犯したのに、生きることだって本当は許されないけど、今なら言える。

私は生きたい。生きて、もうなにも失いたくない。


~梓 (なう)場面(ローケル)

風が吹き荒れる中、梓はただ空を睨んでいた。

「ようよう、ねえちゃん、こんな雨風の深夜になにやってんだ?」

「テロリストね。それも国の職員。」

「てめ!!」

パン

バキッ

「無駄よ、ハンドガンの3丁ってとこね。全部、切っちゃった~」

「お前、何者なんだ!?」

「あなたに名乗る筋合いはないけど、今の種明かしだけしてあげようか。私は剣道の2刀流家8段、流派は松本派(まつもとは)。今のは早切り。そしてあなたの動きも持ち物も身柄もすべてお見通しなのは私が心理学者の探偵であるからよ。9年前、私の家族が謎のテロリストに殺された。犯人は謎の権力によって揉み消された。それは国なんでしょ?」

「…」

「私はあなたたちを絶対に許さない。」

「ちょっと、まってくれ!俺は俺は命令に従っただけなんだ!それにその"真剣"銃等法違反だぞ!」

「その命令に従って人を殺したんでしょ!そんなことが許されると思わないで。銃等法違反?何とでもいいなさい。」

そう言って、梓は一瞬で敵の後ろに回った。

「その鼓動、呼吸、目であなたの心はすべてお見通し。これから何しようとしているかも。だけど、私の早さには勝てないわ。」

そして剣を(さや)にしまう。そのしまったもので男の後ろ首を軽く叩いた。そこが人間の急所だったのか気を失った。

「また、コレクションが増えた」

冷酷がごとく、梓は言った。

梓はまた、友達も誰一人いなかった。そもそも高校生の年代で高校生というものすらわからなかった。時の流れの義務教育というものによって卒業することができた中学校を終えてから私は進学も就職もせず、極楽荘の看板娘として佐野家にふさわしい娘として尽くしてきた。だからこの島に修学旅行で来てくれる高校生には興味があった。普通の高校生のように話したいと思った。友達になりたいと。それから空をまた睨んで言った。

「ただ、渦に入って来なければいいけど。この胸の嫌な予感…」

そして彼女は荘に戻った。気を失った男を連れて。

雨はやんでいた。

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