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「悪いが、もう見舞いには来ないで欲しい」
屋上に着くと、その青年医師は私に告げました。
「あの娘はもうじき遠い所へ行くんだ」
私には、彼の言っていることが全く理解出来ませんでした。
「東京に帰っちゃうってこと?」
「……違うよ」
青年医師は、諦めと憤りが交じった複雑な顔を浮かべています。
やがて彼は、大きなため息をひとつついて、諭すように言いました。
「いいか、少年。はっきり言おう。トモちゃんはもう、一ヵ月もたないんだ」
「えっ…?」
私はさらに、わけがわからなくなりました。
トモちゃんの病気は徐々に善くなっていると思ってましたし、その時の私には、この先もずっと彼女と友達でいられるような、妙な自信があったのです。
「でたらめ言うなっ」
私は語気を荒げて、そう強く叫びました。
「最近、顔色がよくなったって、みんな言ってるじゃないか。そうだ。きっと、先生は僕をトモちゃんと会わせたくないだけなんだ!」
「…違うよ」
そう言ったきり、彼はしばらく黙ったままでした。