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少し開いた窓からは、夏の風のにおいがします。
「最近、顔色がよくなったねって、みんな言ってくれるの」
トモちゃんは私に嬉しそうに言いました。
「喘息の発作も出ないし、きっとキョウ君のおかげだわ」
それを聞いて、私はとても嬉しかった反面、彼女が病人であるということを再認識しました。
私といるときのトモちゃんは、いつも明るく笑っている、ひまわりのような女の子でした。
だから、彼女が病人であるということを、私はすっかり忘れてしまっていたのです。
彼女もあえて病気のことに触れたりはしませんでした。
「早く治るといいね」
私がそう言うと、トモちゃんは少しうつむいて言いました。
「私が遠くに行っても、キョウ君、忘れないでね」
「忘れるもんか。退院して東京に帰っても、必ず会いに行くよ」
「ありがとう」
そう言ったときのトモちゃんは、なぜか少し寂しそうでした。
「こほん、こほん」
トモちゃんが、少し変わった咳をした様に感じました。
「ごめん、今日はちょっと疲れちゃったみたい」
トモちゃんは私に、申し訳なさそうに言いました。
「じゃあ、今日は帰るよ」
「うん、またね」
そして私とトモちゃんは、いつもと同じように手を振って別れました。
「やぁ、少年」
廊下の突き当たりを真っすぐ行ったところで、私は、ちょうどトモちゃんの回診に向かう医師に呼び止められました。
前に私をつかまえようとした、あの若い青年医師でした。
私はあの時から、彼にはあまりいい印象をもっておりませんでしたし、彼もまた、私がトモちゃんと会うことをよく思っていない様でした。
「今日もお見舞いかい」
「そうです」
私が無愛想に言うと、彼も引きつった笑みを浮かべます。
「ちょうどいい。君に話がある」
青年医師は私に、一緒に屋上に行くように言いました。
あまり彼とは一緒にいたくない私でしたが、それでも嫌とは言えないくらい、彼の眼には強い決意がこもっていました。