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「友達がいなくて寂しくないのかい」
「寂しくなんてないわ。ここでは先生も看護婦さんも優しくしてくれるもの。あなたのボールだって、昨日私が看護婦さんに言って拾ってもらったのよ」
なぁんだ、そうだったのかと私は思いました。
「それに」
そう言うと、トモちゃんは何だか照れ臭そうにモジモジしています。
「キョウ君」
トモちゃんが不安そうに言いました。
「時々でいいから、また遊びに来てね」
私は、おやすい御用だと思いました。
川の中から水面を眺めた時のような、きらきらと輝く蒼白い光に満ちた笑顔に、そのときの私はすっかり魅了されていたのかもしれません。
「うん、もちろん」
私が、当たり前じゃないかといったふうに自信をもって答えると、トモちゃんは嬉しくて、今にも涙があふれそうになるくらい喜びました。
さて、私がしばらく学校のことやこの町のことをいろいろ話して聞かせてやっていると、遠くで寺の鐘が、ごぉんと鳴りました。
病室の時計は、ちょうど五時を回ったところです。
「あぁ、いけない」
トモちゃんが言いました。
「そろそろ先生が回診にくる時間だわ」
「なら、僕も帰るよ」
私は来たときと同じように木の幹に、がっしりしがみつきます。
「気を付けてね、ばいばい」
トモちゃんは、名残惜しそうに私に手を振りました。
「うん。きっとまた来るよ。必ず来るから」
私は窓辺に立つ彼女が見えなくなるまで手を振りながら、その場をあとにしました。
私がご機嫌のまま建物の角を曲がると、ちょうど向こうの影から歩いてきた人とぶつかりそうになりました。
「わっ、あぶない」
見ると、眼鏡をかけた若いお医者さんでした。
「あぶないじゃないか、君。それにこんな所で何をしているんだね。君は地元の子かい?ここは遊ぶ場所じゃないんだよ」
その青年医師は少し怒った様子でしたが、私は彼が気の弱そうなのをいいことに、あかんべぇをしてやりました。
「まて、この」
青年医師は私をつかまえようと手を伸ばしますが、足がもつれてよろめいておりました。
こうしてこの日も私は、逃げるように家路についたのです。