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翌日も私はその少女に会うために、サナトリウムに向かいました。
放課後、友達が再び野球をやろうと誘ってくれても、私は学校にいたときから何だか胸の中がそわそわして、それどころではなかったのです。
サナトリウムに着くと、私はなるべく人目に付かない場所を選びながら進み、少女のいる病室の真下まで来ました。
近くに落ちていた、小指の爪くらいの大きさの小石を二つ三つ拾いあげ、私はそれを窓にぶつけます。
しばらくすると少女が不思議そうな様子で、窓からきょろきょろと顔を出しました。
「おぅい、ここだ、ここだ」
私が手を振って見せると、彼女の顔が、ぱぁっと明るくなりました。
「ちょっと待ってて」
私はそう言うと、昨日と同じようにするすると木を登っていきます。
「うれしい。今日も来てくれたのね」
ちょうど病室の窓の横に着いたとき、そう言って少女は私に微笑みました。
「うん。約束だからね」
私は木の幹から伸びる太い枝の上に腰掛けます。
「私の名前は友子。みんなトモちゃんって呼ぶわ。あなたは何ていうの?」
「みんなキョウって呼ぶよ」
友子という名のその少女は、私のあだ名を胸に刻みこむように、何度もキョウ、キョウ、とつぶやきました。
「トモちゃんはここで何をしているの?」
私がそう尋ねると、トモちゃんは少しうつむいて、「病気の治療」と言いました。
「学校には行かないのかい」
行かないわ、とトモちゃんは首を横に振ります。
「病気が治ったら、私は東京に帰るの」
「東京」、この町からほとんど出たことのない私にとって、その響きは、何だか遠い異国のような気がしてなりませんでした。