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吾輩はスライムである。しかも賢者である。

作者: 緑川剣次

 処女作ですから至らぬ点はご容赦ください。

 世界観とかはテキトーですから軽い気持ちで読んでください。

 吾輩はスライムである。しかも賢者である。

 通常のスライムは人間に例えると幼児並みの知能であるが、吾輩はそれを凌駕する知能を持っているのである。だから偉いのである。

 『けんじゃたまえらい~』『えらい~』

 この通り他のスライム達も吾輩を敬っているのである。

 『えらいってなに~』『なんだろ~』

 『わかんな~い』『けんじゃたまあそぼ~?』

 『あそぶ~?』『あそぶ~』『あそぼ~』

 『わ~い』と言いながらさっきまで吾輩の周りにいたスライム達が一斉に何処かへ行ってしまった。

 そして残されたのは吾輩だけなのである。

 「………」

 こうして賢者である吾輩は周りのスライム達から敬わられるながら日々を過ごしているのである。




 さて、吾輩は賢者であるが、その前にスライムである。

 そのスライムであるが、とにかく弱い魔物というのが一般的な認識である。

 姿はジェル状で饅頭のような形の液体生物で、感触はぶよぶよしている。どんな所でもでも町を出たら最初にすぐ見つけるのがスライムと言われるほど世界各地に生息しており数も多いである。人間を見つけるといきなり飛び掛ってくるほど好戦的なのである。

 しかし飛び掛ってきてもただ纏わりつくだけでダメージは全く無いのである。

 木の棒で何回か叩いただけで動かなくなりやがて形が崩れてただの液体となり、そして地面に吸い込まれて消えるのである。僅かながら経験値も入り、時折アイテムや金銭も落としていくのである。

 獰猛であるが無害と言っていいほど弱く子供でも倒せるので、冒険者見習いの訓練や子供に魔物の倒し方を教える為に戦わせる事さえよくあるほどである。

 これがスライムに対しての常識である。



 ………そう、人間達の(・・・・)一般常識である。

 つまり真実は全く違うのである。

 実はスライムという魔物は絶対に死なない。つまりは不死身の魔物なのである。

 人間にとってはスライムとの戦闘はスライムにとっては遊んで貰っているという認識である。

 それでは何故そこまで認識がずれてしまっているのかという疑問が出てくるのは当然であるが、それには理由があるのである。

 スライムという魔物は通常言語を覚えるほど知能が高くなく、良くて一言二言記憶に留める位である………大抵それもすぐに忘れるであるが。おそらく記憶容量が少ないのが原因ではないかというのが吾輩の考えである。スライム達は一日経てば殆どの事を忘れている事からもその推論は正しいものだと伺える。さらに吾輩はその考えが正しいものであるという 確信が浮かぶ(・・・・・・)。そういう時は絶対正しいのである。何故なら吾輩は賢者だからである!

 スライム同士ならテレパシーで言語に頼らずとも感情を伝える事ができるので吾輩達だけであれば問題は無いが、それは人間相手にはできないのである。

 ちなみに吾輩は人間達の言語をちゃんと話せるのである。何故なら吾輩は賢者だからである! 声帯の無い液体生物である吾輩がどうやって話せるのかというと、体を振動させて音声を作り出しているのである。普通のスライムはできない………というよりいくら教えてもやり方を理解させる事ができなかったのである。しかし吾輩はできる。何故なら吾輩は賢者だからである!

 ………話を戻すである。

 つまり、通常人間とスライムが意思疎通をすることはできないのである。

 そして人間ともスライムとも意思疎通のできる吾輩が戦闘を見ると真実が分かるのである。

 それでは回想シーンである。



 回想シーン(会話のみ)


 「よ~し、今日も魔物狩りだ! 依頼のゴブリンは北の森だったな」

 『わ~い、にんげんだ~』『あそんであそんで~』

 「うわ、スライムかよメンドくせぇ。スライムなんて相手にする見習い時代はとっくに卒業したってのによぅ。しかも二匹」

 『それ~』『いけ~』

 「うわっ! 引っ付くな! コノ野朗、オラァ!」

 『ひゃ~』『うわ~い』

 「オラ! コノ!」

 『ぼよんぼよ~ん』『ぶよんぶよ~ん』

 「たく、経験値低いくせにしつこいし多いしでメンドくせぇ魔物だぜ。これでどうだ!」

 『ごろごろ~』『ぐるんぐるん~』

 『だら~ん』『ぐで~ん』

 「二匹共崩れたな。はあ、やっと死んだか」

 『たのしかった~』『おもしろかった~』

 『もうかえる~?』『かえる~?』

 『かえる~』『かえるかえる~』

 『じゃあね~』『またね~』

 『これあげる~』『おれいあげる~』

 「お! アイテムと金落としたな。まあスライムはやくそうや5Gくらいしか落とさねぇけどな。さて、気を取り直して北の森に行くか!」


 回想終了



 ………とてもシュールである。

 茂みの中で見ていた吾輩が思った事はそれである。

 ちなみにスライムには痛覚というものが無く、いくら叩かれたりしても痛くはないし、液体状である為ダメージも無い。切られたとしても引っ付いて再生するし真っ二つにされたら分裂してスライムが二匹になるだけ。後で引っ付けばまた元通り。火魔法も液体なので燃えないし、雷魔法でも電気を帯びるだけでダメージ無し(むしろその状態で纏わり付かれたら人間のほうがダメージを受ける)。氷魔法だと凍らせる事ができるがそれだけ。氷が溶ければまた活動する。

 だから人間のスライムへの対処法はとにかく叩く、殴る。剣だと増えるし、一部の魔法は逆に危険なのでそんな単純方法が一番の撃退法だとされている。そうすれば死んで、死骸も残さず(時折アイテムや金銭だけを残して)消える。そう思われている。

 だが実際にはすぐに飛び掛ってくるほど獰猛ではなく単に遊んで欲しいというおねだり。

 叩かれてもダメージを受けないどころかスライム達は遊んでもらっている認識。

 形が崩れて死んだのも単に飽きてだらけているだけ。

 地面に吸い込まれて死骸も残さず消えるのも住処に帰っただけ(スライム達は地中で寝る)。

 人間に言っても信じて貰えないであろうが(というより信じたくはないであろう)これが真実である。 まさに事実は小説より奇なりである。

 まあスライム達は不死身であり攻撃されても遊んで貰っているという認識なので敵意は無い。むしろ好意しかない善良な魔物である。

 遊んでもらうのも基本スライム達は飽きっぽいので少し戯れたらすぐ帰るのである。

 ………まあ、もしスライムが飽きっぽい性格でなかったとしたら不死身生物が延々と纏わり付くというある意味最悪の魔物として恐れられていたであろうなのである。人間にとっては幸いだったのである。



 スライムの事を粗方話し終えた所で次はお待ちかねの吾輩の事である。

 吾輩はスライムである。そして賢者である。賢者だから賢いのである。何でも知っているのである。だから凄いのである。偉いのである。これ以上の言葉は無いのである。何故なら吾輩は賢者だからである!

 ………本当なのである。吾輩は生まれた時から賢者だったのである。吾輩は生まれた時から何でも知っていた。疑問があり、分からなければ答えが浮かび、考えたことが正しければ確信が浮かび、間違っていれば答えが浮かぶのである。そして何故吾輩はスライムでありながらこのような能力を身に着けてしまった考えた。そして答えは………吾輩は賢者だからである! である。確信が浮かんだので間違っていないのである。だからそうなのである。

 そしてそんな偉大な賢者である吾輩は普段何をしているかというと………実は特に何もしていないのである。

 吾輩は賢者で賢いであるから何かを知りたいという知識欲くらいはある。しかし賢者であるから知らないことが無いのである。

 スライム達に教育を施してみようとした事があったが、知能の差がありすぎて無理だと判断した。さすが吾輩である。しかし少しだけ寂しかったである。落ち込んでいると『けんじゃたまだいじょ~ぶ?』とスライム達が慰めてくれたのである。何で落ち込んでいるのか分かっていないであろうがとても元気がでたのである。賢者である吾輩にも不可能はあるのである。

 人間に興味を持ち、町へ行ったこともあるのである。コミュニケーションをとる為に人間の言葉を話せるように頑張ったのである。しかし結果は………。



 回想


 ついに完璧に話せるようになったのである。これならどんな人間とも会話できるのである。抜かりは無いのである。

 そして町の入り口が見えたのである。中々大きいのである。スライムと人間では大きさが違うので当然であるな。

 そして入り口近くまで来た所で門番を見つけたのである。

 「なんだ? スライムじゃないか。こんな所まで来るなんて珍しいな」

 門番も吾輩を見つけて近づいてきたが、吾輩は初めて人間と会ったので緊張して固まっていたのである。

 「それにしても大人しいスライムだな。ここまで近づけば普通襲い掛かってくるのに」

 ついに目の前まで来たのである。緊張するであるが、話すである、話しかけるである、会話するである。………うむ、心構えが出来たである。

 「………ホントに何もしてこねぇなぁ。しかし門の前に魔物を置いとく訳にもいかねぇし、追い払うか退治するか」

 意を決して吾輩は話しかけたである!

 「ご………」

 「ん?」

 「こ、ごこ、ここごおこおこごこんにがぎゃあーーーーーーーーー!!!」

 「………」

 「………」

 ………か、噛んでしまったである。失敗である、賢者にあるまじき失敗である! ど、どうしようである。彼の顔を見れないである。呆れられているであるか? そういえばさっきから話し声が聞こえていたような気がするである。正直緊張していて気が付かなかったである。もしかして無視してしまったであるか? 失礼な事をしてしまったである。怒ってないであるか?

 ………と、とりあえず怒ってないか確認するである。覚悟を決めて彼を見るである。

 「………」

 ………? 無表情である。いや、これは疑問であるか? よく分からないが怒ってはいないようである。良かったである。

 ………いや! もしかしたら呆れているのかもしれない、「何やってんだこいつ」と思っているのかもしれないである。どうしようである。

 ちなみに吾輩はスライムなのにどうして見たり聞いたり出来るか疑問であろうである。

 実は吾輩、なんと通常のスライムは使えない魔法が使えるのである! 何故なら吾輩は賢者だからである! 熱感知や音波感知といったあらゆる感知魔法を使い、賢者による疑問解決能力で補完すれば人間以上に見えるし聞こえるのである。もちろんその気になれば読心も可能であるが、あくまで今回の目的は人間との会話、ズルは駄目である。

 ………現実逃避はこれぐらいにして、やっぱりこのままは駄目である。また意を決して会話に挑むである!

 「………びっくりした。何だこのスライム、鳴き声あげやがった。スライムって鳴かなかったよな?」

 喋った、今である!

 「ご」

 「お、なんだ? また鳴くか?」

 頑張るである。負けるなである。

 「ご」

 「ご?」

 彼もちゃんと待ってくれているようである。なんと心優しい人間であるか。彼の期待に応えねばである。

 そしてついに吾輩は、

 「御機嫌よう門番殿。吾輩はスライムである。しかも賢者である」

 言った。

 「………」

 吾輩はやったである。ついにやったである。話しかけることに成功したである。

 今までに無い達成感が吾輩の心を満たしていくのである。初めて生の実感を味わった気分である。

 「………」

 おっといかんである。このままでは吾輩が彼に話しかけただけである。吾輩が望むものは会話である。今度は受身になって彼の言葉を待たなければ。

 「………」

 「………」

 中々話しかけて来ないであるな。発声もうまくいったはず、言葉もあれだけ練習したである。完璧なはずである。そのはずであるな? ………確信が浮かぶ。やはり大丈夫であるな。

 「………」

 どうしたであるか彼は? 吾輩の言葉を根気強く待ってくれたほどの御仁だ。挨拶を返さぬ礼儀知らずなわけではないはずである。

 ………よもや彼も緊張しているのでは!? そうと分かれば今度は吾輩が根気強く待つである。

 「し」

 お、きたであるか?

 「し、ししっ喋ったぁぁああああああおうああああああああぁぁぁぁぁぁっぁぁ――――」

 「………」

 い、行ってしまったである。というよりも逃げてしまったである。どうしようである。

 「………」

 来ないである。いったい何がいけなかったであるか?

 ………お! 彼がこちらに戻って来たである。いや、彼だけではない、もう一人………格好からして門番仲間であるな。

 「なあ、いい加減変な事言ってないで目を覚ませ、そして俺を休憩に戻させろ」

 「ホントなんだよ! なあ頼むよ信じてくれよぉ。ホントにスライムが喋ったんだって!」

 「ふーん。なんて?」

 「御機嫌ようって」

 「ぶふぉあ!」

 「ホ、ホントなんだよぉ」

 も、もしかして今度は二人同時にであるか!? 難易度が二倍になったである。

 「う、うぷぷ。んで、そ、その御機嫌ようスライムは何処だよ」

 「あれだよあれ!」

  来たであるか! どんどん近づいて来てるである。

 「お、あれかぁ。やけに大人しいスライムだな」

 「まあ確かに襲い掛かったりしねぇんだけどよ」

 ついに目の前まで来たである。

 「んで、もうしゃべったか?」

 「いや、まだだ。てかお前も聞いてないだろ!」

 「だって俺はお前の幻聴なんて聞けねぇし」

 「やっぱり信じてねぇかこの野朗!」

 「当たり前だろ! いいからさっさと休憩に戻せ!」

 ん? 何であるか? 喧嘩しているであるか? もしかして吾輩が原因であるか?

 やはりあの時ちゃんと挨拶したつもりが何か粗相を仕出かしてしまったのだろうか。

 しかし吾輩ではなく仕事仲間相手に喧嘩はいけないである。責任を取って吾輩が仲裁せねばである!

 「なあ、さっさとこんなスライム追っ払って忘れようぜ。こんな大人しいスライムならわざわざ退治しなくてもいいだろうし」

 「………ああ、そうだよな。スライムが喋るわけないよな。」

 「そうだよ、お前疲れてんだよ。もう俺休憩いいから代わりにお前が休め。な?」

 「ああ、ありがとう」

 「け、喧嘩は良くないである。仲直りするである」

 「そうだよ、こんな事で喧嘩なんて見っとも無かったな」

 「悪い、俺が変な事言ったせいで」

 「良いって。お前、急なシフトで夜勤明けで仕事してんだろ? 無理ねぇよ」

 「ああ、確かにな。変わりに明日は休みだからゆっくりして疲れを取るか」

 「それが良いである。疲れは万病の元である」

 「そそ、あとストレスも溜まってんだろ? 今日と明日は休むとして、明後日は二人とも夜勤ないだろ? 飲みにいっていつも以上にハメ外そうぜ!」

 「いいな! たしか給料日も明後日だしな!」

 「お酒であるか。吾輩飲んだ事ないである」

 「何だよそうなのか? 奢ってやるから一緒に行こうぜ」

 「本当であるか!? ありがとうである」

 「ようし、今回奮発して酒場じゃなくて色町で一晩過ごすか! 一緒に童貞捨てて来い。酒もまだなら女もまだだろ?」

 「はわわわ、娼館でありますか? 吾輩いいのであるか?」

 「良いに決まってんだろ! 先々月良い所見つけてよ、経験豊富な御姉様もいるからその人に貰って貰えよ」

 「何! 聞いてねぇぞそんな事! 何で教えなかったんだよ」

 「まあまあ、ポロっと聞いちまったんだけどよ、そろそろ見習いの子達に初仕事を宛がうかもしれねぇって話だからな。そん時に教えようかなって」

 「………つ、つまり」

 「初々しい美少女の初体験のお相手をうまくいけば………」

 「おおおおおおお! 漲って来たぁ!! でも普通初物なんて上客にいくだろ」

 「ふ、店見つけてから今まで通い詰めて常連と呼ばれる位になったぜ。その話をお気に入り娼婦から聞きだした位信頼されている良客としてな」

 「本気だなお前、色々と」

 「で、でも本当に吾輩が行ってもいいであるか?」

 「ああ? まだ言ってんのかよ。そんなもん捨てれる内に捨てとけよ。拾ってくれる女が待ってれば現れるなんて童貞の妄想だぞ」

 「でも吾輩初めてであるし、スライムであるから性別などもなく性行為は………」

 「アホ、誰だって最初は初めてだろ」

 「そうそう、それにスライムが何だ! アレが無くても人間に不可能な触手プレイがあるじゃねぇか!」

 「そうだぜ! 触手プレイという男にとっての禁断の夢は人間には不可能でもスラ………スライム?」

 「そうであるか! それで相手の女性を悦ばせればいいのであるな!? まかせるである!」

 「あれ、そういえばさっきから俺達誰と喋ってんだ?」

 「………だか、ら。最初に俺が、その、スライムがだな」

 「ああそういえばお前がスライムが喋ったってぇぇ………」

 「ぬ?」

 ご両人がこちらに顔を向けて固まっている。何であるか?

 「どうしたであるか? ご両人」

 「「………」」

 「酒も性行為も任せるである。確かに経験は無いが吾輩は賢者である。何も問題無いである」

 「「し」」

 「し?」

 「「し、ししっ喋ったぁぁあああああああああああおぼうあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ―――――――――」」

 「………」

 ま、また行ってしまったである。というより全力逃走である。

 ………どうしようである。


 一時間後


 「………何故であるか?」

 「うおっ! また喋ったぞコイツ」

 「何なんだこのスライム!」

 「変異種か? だったらやべぇかもしれねぇぞ!」

 「変異種は通常よりも強いから気をつけろ!」

 今現在の状況を簡潔に言うと、囲まれているである。物凄い人数に囲まれているである。

 あれから門番達から始まり、人を呼んではその人たちに話しかける。……そして逃げられる。それの繰り返しである。そして何時の間にかこのような状況に。

 「何故であるか? いったい何がいけなかったであるか!?」

 「また喋ったぞ! 何だコイツ」

 「教えて欲しいである! いったい何がいけないのであるか!?」

 吾輩はただ彼らと話がしたかっただけである。なにやら誤解がある様子、早々に誤解を解かねばである!

 「お願いである、誤解は解きたいのである! いったい何故囲まれているのであるか!?」

 「んなもんスライムが喋ってるからだろうがっ!」

 ………あ。そうだったである。大事なことを忘れていたである。つまり答えは、

 「普通のスライムは喋らないである!」

 確信が浮かんだ。正解である。

 考えてみれば当たり前である。至極当然である。正直人間と話すのを楽しみにし過ぎて忘れていたである。しかも無害なほど弱いという認識であっても、スライムは獰猛な魔物という事になっているである。 そして彼らが口にしている変異種とはそのままの意味で突然変異した種である。

 色が違う、角がある、奇怪な行動を取ると色々あるが共通している部分がある。

 それは通常種よりも強くて凶暴だということである。

 そんな魔物が町のすぐそこで出現すればこうなるのは当たり前である。門番達が最初のんびりした対応だったのは最弱の魔物スライムであったからである。

 そしてよくよく考えてみれば、

 「吾輩、喋ってると怪しいであるか?」

 「怪し過ぎるわぁ!」

 やっぱりである。種族の壁を甘く見ていたである。

 ………しかし諦めてはいけないである。ここで会話を諦めてしまえばそこらの凶暴な魔物である。ここは紳士的に行動するである。何故なら吾輩は、

 「賢者でぇえええぁああああああるぅうううう!!!」

 「っ! ビックリした、今度は何だ!?」

 「吾輩は賢者である! だから喋ってもおかしくないのである!」

 「いやおかしいだろ! 何だよ賢者って!?」

 ………駄目であるか。やっぱり吾輩など賢者である前にスライムという魔物であるか。

 「………なあ、コイツさっきから攻撃してこねぇぞ」

 「おい! 油断するなよ」

 「でもさあ、結構話通じてね?」

 うぬ?

 「強いかもしれねぇってんならとりあえず穏便に話し合って無駄な犠牲を出さないほうがいいかもしれねぇぞ?」

 「………いやでも、スライムだぞ。魔物だぞ」

 おお、さっきから唯一こちらの呼びかけに応えてくれた戦士風の冒険者が説得してくれている。

 これは期待に応えねば。

 「何もしないである。吾輩は人間と会話したかっただけである」

 「………本当か?」

 やはり応えてくれる! 今現在絶体絶命の危機、唯一の味方である。

 「本当である、信じて欲しいである!」

 「よし、人間を襲う気も無いんだな?」

 うまくいきそうである。

 「ないである。何でもするから信じて欲しいである!」

 「分かった、それじゃあ………」

 もう一押しである!

 「とりあえず今日の所は森へかえ」

 「触手プレイで一晩中悦ばせることもできるである!!」

 「殺せぇ!!!」

 何故であるか!? 唯一の味方にいきなり裏切られたである!

 わわ、一斉に襲い掛かってきたである!

 「オラァ!」

 ベチャ!

 吾輩が大男に巨大な戦槌で潰されて辺りに飛び散ってしまったである。

 「なんだよ一撃で終わっちまったよ。所詮スライムはスライムだな」

 「警戒して損したぜ。結局何もしなかったしな」

 「怖かったである、痛くないであるが怖いである」

 「ああそうかい、そいつぁ………は?」

 まあスライムである吾輩はいくら潰されようが飛び散ろうがすぐに元通りである。

 「まだ生きてやがったか」

 「これでも食らえ!」

 今度は鞘に入ったままの剣で殴られる。当然痛くないしダメージも無い。

 「うら!」「このやろ!」「ふん!」「さっさと死ね!」

 一斉に何度も殴られているが当然無傷。

 「何だコイツ、まだ死なねぇぞ」

 「やっぱり変異種か」

 それでもまだ殴られ続ける。

 「皆の者きい」

 ボゴッ!

 「てくれないかね、吾輩はべ」

 グシャッ!

 「つにあらそ」

 ドゴッ!

 「うき」

 ドン!

 「は」

 ゴリ!

 「な」

 ドスン!

 「………」

 怖いである~~~!!! 痛くはないし死なないけれど血走った目で武器を手に何人もの人間から攻撃されるのは物凄く怖いのである!!!

 「いい加減話を聞いて欲しいのである!!」

 ブワッと風が吹いたかと思うと吾輩の周りにいた人間達が吹き飛ばされた。

 「ぐあっ!」

 「何!」

 もう我慢できなくなった吾輩は風魔法を使って周りの人間達を吹き飛ばした。もちろん怪我をしないように手加減付きである。

 「「「………」」」

 周りが少し静かになったである。これはチャンスである。

 「皆の者、落ち着いて聞いて欲しいのである。吾輩は…」

 「「「魔法使ったーーーーーーー!!!」」」

 え? 何であるか?

 「おい、アイツ今魔法使ったよな!?」

 「魔法使うなんて上級の魔物くらいだぞ」

 「しかも一瞬で俺達吹き飛ばすくらいの風魔法展開しやがった。無詠唱だぞ!?」

 「わ、吾輩が魔法使うとおかしいであるか?」

 「もうおかしい通り越して危険だよ!」

 がーーーん! である。ついには危険認定である。

 「もうこうなったらぶった切ってやる!」

 「な!? おい馬鹿やめろ! スライムに」

 「喰らえ!」

 今度は大剣を持った大男に吾輩は真っ二つにされた。そして、

 「「怖いである。いい加減やめて欲しいである」」

 「「「増えたぁーーーーーー!!!!」」」



 この事件により当の町は一時的に大混乱に陥った。

 結局原因である変異スライムは逃がしてしまった。

 しかし逃がしてしまった冒険者や兵士非難が行く事は無かった。

 何故ならその変異スライムは聞けば聞くほど出鱈目な存在であった。

 会話できるほどの知性を持ち、総出で攻撃しても倒せないほどの耐久力。

 辺りに飛び散るほど潰しても瞬時に再生。

 本来なら上級の魔物しか使わない魔法を無詠唱で即時展開、しかも推定中級クラスの風魔法を使う。

 分裂も可能。そこは通常種と一緒かと思いきや互いに連携して行動して包囲網を脱出して逃走したそうだ。

 もともとそれほどの規模でもない町に常駐していた冒険者や兵士には荷が勝ちすぎた魔物だ。

 その町は他方へと連絡してすぐさま腕利きの冒険者を招集、周辺での大規模なスライム狩りを開始した。最弱の魔物であるスライムを緊急依頼として処理されたのはこれが初めてであり、おそらく今後も二度とないであろう………と思いたいものだ。

 かなりの数のスライムを狩り尽くし、絶滅はありえないといわれたスライムが一週間ほど目撃例が無くなったほどだ。

 しかしそれだけ探しても例の変異スライムらしきものは討伐どころか発見さえできなかった。

 成果が得られぬまま捜索は打ち消されたものの、その変異スライムには懸賞金が懸けられた。

 なにせそのスライムは人間に対して会話を求める一方でその人間を辱めると宣言したのだ。

 人間に対して並々ならぬ関心を持っている事も伺えた為に大変危険だと判断できる。

 だからこそ奴は必ずいつか再び人里に現れるであろう。

 大人しいスライムであっても油断してはいけない。そいつこそおそらく最凶最悪ともいえる魔物なのだから………。


 回想終了



 ………そう、結果は大失敗である。しかも賢者の能力で調べてみた結果まるで怪談のように語られていることもあるというである。

 「奴はいつか必ず君達の前に姿を現す………」などと言われても正直その時の事で人間がトラウマになってしまったである。行きたくても行けないである。

 あの後何とか逃げ出した吾輩を出迎えて心配してくれたスライム達を見て吾輩は感動してこの者達と一生離れないと心に誓ったである。

 つまり今は特に何もせずに時折スライム達と遊ぶ日々を過ごしているのである。

 今でもスライム達がなにやら集まって………というか積み上がっているぞ。

 『あつまる~』『あつまれ~』『わ~い』

 『おうさま~?』『おうさま~』『おうさまごっこ~』

 どうやら王様ごっこらしいが、何故積み上がって王様なのであるか?

 ………王とは一人で成り立たず、臣下や国民からの国があってこその王であるという意味であるか。

 ふむ、深いである。何時の間にかこの者達もそんな事を考える事ができるようになったのだな。

 そうか、ついに吾輩の教育の成果が出たのだな! やっと、やっとか。吾輩感動である。

 『くっつく~』『がったい~』『がったい~?』

 『しないよ~?』『しないね~』『でもたのし~』

 『たのし~たのし~』『きゃ~』

 ………どうやら深い意味は無いようである。………吾輩恥ずかしいである。



 賢者であろうと吾輩はやっぱりスライムなのである。何だかんだ言ってスライム達と一緒にいるのがとても楽しいのである。もう人間はこりごりである。だからこそもう一度ここで心から誓うである。





 「人間と関わらずに一生引きこもってスライム達と暮らすである」

 吾輩はスライムである。そして賢者ひきこもりである。

 賢者は基本引きこもりですから間違ってはいないはず………たぶん。

 某有名RPG4作目に出てきた人間を目指した回復役魔物はすごいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 賢者おまえ実はあんまり賢くないだろww 語尾の「である。」がだんだん可愛く思えてきたw 周りのスライム可愛い! [一言] どうも、通りすがりの者です。 どなたかの割烹で偶々作者…
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