36品目――秋御膳――
昼時――それは全ての飲食店にとってかき入れ時であると同時に、繁忙時間でもある。特にうちの学校の文化祭では、飲食店の開店や加工食品――パンやお菓子など――の追加補充、ステージイベントなどが行われる時間帯であり、それらを目当てにご来場されるお客様がどっと増える。
もちろん、全てのお客様が飲食目当てではないだろうが、模擬飲食店にはどんなに簡単な店舗でも結構な数が流れ込んでくる。
それを迎えるべく、うちのクラスも全員体制――休憩してもらってた朝のメンバーも全員――で各担当配置から手順までを再確認していた。
「給仕担当はとにかく持って行く時に番号を間違えないようにしてね。伝票台の裏に配席図も貼ってあるけど、解らなくなったらすぐにでも私に聞いていいから」
既に着物に着替えた茉莉彩は給仕担当の女子達を前に、最後の注意を伝えている。
彼女は昼から女将として店内に立ち、給仕をする女子達の陣頭指揮とお客様からの苦情等が万が一あった場合の対応などを受け持つ事になるんだよね。
しっかりと着物を着こなした彼女は、才色兼備の若女将という出で立ち――薄紅に白の花柄という女将としてはちょっと派手目の色合いの着物姿だけど、あまりにも似合いすぎて美しいので誰も文句を言わなかった――で、給仕担当からの質問に答えたり、実際にやって見せたりと、かなり丁寧に仲居を担当する女子達に対応していた。
……なんかあたしより立派な女将って感じだ。ちょっと自分の能力を疑ってしまうよ。
でも、そんなことで自信を無くしてくよくよなんてしてられない。こっちはこっちでやらなきゃいけない事だってあるんだし。と、自分を叱咤して調理担当の生徒達――給仕と違ってこっちは男子も含む――に向き直り、声を出す。
「各種の調理担当はとにかく火傷と怪我に注意して。手順が解らなくなったら直ぐに聞いてね。あと、洗い物担当はお湯で洗ってから拭くようにしてもらって、洗う係と拭く係は途中で交代するようにしてね」
とそれぞれに指示を飛ばす。
ヒロや親方のように何でもかんでも出来るわけじゃないけれど、料理の種類ごとに担当者を置いて放課後の練習もしたんだから、皆の腕は担当料理に関してはかなり上がっている。問題はお昼時という早さを求められる状況に皆が耐どれだけ耐えられるかって事だけど、ま、やばくなったら調理責任者――なぜか松尾と川中は板長と呼ぶけど――のあたしが入ってフォローするつもりだ。
それと洗い物、これは料理に苦手意識がある者や、洗い物が得意という者――流石に少ないけど――が担当する。料理に苦手意識がある者は家事全般が苦手と思ってる場合がほとんどのため、少しでも時間を短縮するためにお湯で洗うように指示をする。お湯で洗えば油汚れや洗剤が落ちやすいし、拭き取り切れない微細な水滴が残っても乾くのが早いしね。ただ、お湯でずっと洗ってると手荒れの原因にもなるし、ふやけて痛くなることがあるので、洗い係と拭き係は交代しながらやってもらう。
調理や補助作業の注意点と説明を続けて行い、料理の最終確認を終えた頃には良い時間になっていた。
「小夜子、こっちはいつでも行けるわよ」
「藤原、掃除と箸やおしぼりの補充、終わった」
茉莉彩達は給仕の身形を整えたこと、松尾達――本人は爆睡中なので代理のメガネ男子――は店舗の清掃と小物補充を終えたことをそれぞれ報告してきた。
そして、あたし達は調理と作業の確認を終えている。
「こっちも準備OKよ! さあ、開店といきますか!」
茉莉彩とメガネ男子の顔を見て、あたしは声を上げた。
――――――――――――――――――――
通っている大学の近く――近所と呼べる場所にある高校で文化祭が開催される。入学早々にその情報を掴んでいたが、彼――山内洋介は興味を持った事にしか関心が無いという性格が災い――幸い?――して、3年目になるまで近付いた事が無かった。
「狙いは妙齢の女教師!」
「いちいち口に出すな」
露骨な希望を口にする福田に、入口で手渡されたパンフレットでスパーンという軽快な音を立ててツッコミを入れる。
「あイタ」
「折角、女子が多い高校なんだから、女子高生狙えばいいのに」
スマホを操作しながらも、ヤレヤレといった風の岩村が小声で言う。恐らく、海水浴に一緒に行ったノリの良かった娘――マリアとかいったか――にメールでも送っているのだろうとあたりを付け、山内は余り感情の乗らない声を出す。
「それで、場所は分かったのか?」
「場所はパンフレットに載ってる見取り図の通り、店構えはこんな感じだってさ」
返信されたメールに添付してある模擬店の入口が撮られた写真を、画面に最大サイズにして岩村は、山内と福田の両名に見せる。
「意外と外装も頑張ってるんだな」
福田が言った通りスマホの画面には、布で手作りしたとおぼしき暖簾、障子風の模様に変えられた窓に木材に見える柱、間取りを除けば純和風と言っていい模擬店が写っていた。
写真で見た外装の模擬店まで来ると、ちょうど開店だったのか、入口に並んでいた2~3組の客が暖簾をくぐって行った。
それを見て彼は仲間の二人に行こうぜ、と短く言って店内へと続く。
「いらっしゃいませ~」
和装も顔も平凡といった目立ち過ぎない出で立ちの仲居――仲居としては一番良い出で立ち――が出迎えてくれるが、岩村のメール相手ではなかった。
山内にとっては茉莉彩に比べればこういった娘の方が好みではあるのだが、幸か不幸か、彼は最近入り浸っている店で最も好みと言える仲居の娘を見てしまっている。
当該店の“仲居”は漆黒の長い髪が似合う美しい顔で、それを表に出さない出で立ちと上品な立居振舞、挙句に若いにも関わらず落ち着いた話し方まで出来ており、それらは彼が関心するほどレベルが高い。即席の仲居とは質が違い、彼女はプロだということは解っているのだが、ついつい二人を比較してしまっている自分がいた。
(やっぱり、アキさんと比べると振舞や話し方が子供っぽいんだよな)
席に案内されるまでの間にそんな感想を抱きつつも、表面にはおくびにも出さず、案内された席へ三人揃って着く。
「こちら、お昼限定の定食メニューとなっております」
仲居から渡されたメニュー表の中に、目当てのものを見つけた。
他にも仲居が何か言っていた気もするが、はっきり言ってどうでもいい。
「注文、良いですか?」
メール相手の娘を探している岩村と、メニュー表に見入って悩んでいる福田を無視し、彼はお茶を注いでいた仲居に声をかける。
「え? あ、は、はい!」
元々慣れていなかったのもあるのだろうが、作業の途中でもあった仲居の声が上擦った。
二杯目まで注いでいたお茶ポットを置き、腰元から注文票を取り出――そうとして見事に落としてしまう。
「も、申し訳ありません!」
――これは混乱フラグが立ったな。
耳まで赤くした仲居を見て山内がそう思った所で、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「申し訳ありません、ご注文ですね」
先程の仲居とは比べ物にならないほど落ち着いた謝辞に顔を上げれば、天然の栗色を後ろで綺麗に括り、優雅な動作で一礼する女性――いや、女子生徒が視界に入り込んでくる。
聞いたことがある声、見たことがある顔立ち。にもかかわらず、気付くのが遅れてしまった。
「あ、茉莉彩ちゃん。着物、めっちゃ似合ってるな」
一番に気付いた岩村が注文そっちのけで声を出す。
「おおっ! スバラシイ」
発音だけ変だったが、福田も真面目に称賛する。
「お久しぶり」
自分だけが淡々と、他人行儀な声をかけた。
「いらっしゃいませ。来て頂けたのですね」
口調は接客用のそれを変えず、彼女は小首を傾げてニコリと微笑んでくれる。
岩村の鼻の下がいつもより長く見えるのは、きっと気のせいだと頭を切り替え、持っているメニュー表に書かれた文字列を指さす。
「この秋御膳をお願いします」
「かしこまりました。秋御膳をお一つ。他にはございませんか?」
細くて白く可憐な指に握られたペンが優美に用紙へと字を走らす。
「俺、アジ御膳!」
「かしこまりました。アジ御膳がお一つ。岩村さん、後でお伺いに参りましょうか?」
福田の注文で、慌ててメニューを開く岩村に、優しい声がかかった。
「え、いや、俺はサンマ御膳で」
ほとんど条件反射的に、お昼のメニューの一番上に書かれた膳の名が上がる。
「慌てて決めなくても、後で来てもらえばいいじゃん」
残った空の湯呑に勝手にお茶を注ぎ、それを口にしながら山内が言う。
彼はパンフレットに載っている店舗紹介に書かれた代表メニューから、何を頼むのか決めており、店内のメニューを見たのもその確認に過ぎないのだ。
「いや、いいんだ。ちょうどサンマを食いたかったし」
「では、秋御膳お一つ、アジ御膳お一つ、サンマ御膳お一つをお持ちします」
サラリと注文を確認した後、茉莉彩は踵を返すのだが、彼女の出で立ちから立居振舞までが他の女子生徒とは比べ物にならない程――そう、例の仲居に匹敵する程に美しかった。
若くしてそれができるのは彼女だけでは無いのだと、一瞬ではあるが驚かされるが、彼が関心を示すのはここまでで、例の仲居には届いていないと思ってしまうのだった。
注文を終えてから野郎同士の他愛ない会話に興じている所に、最初の仲居を先頭に三人の仲居が御膳を運んで来る。
仲居の中に茉莉彩が含まれていないことで、岩村が露骨にガッカリしていたようだが、山内は我関せずとばかりに会話を打ち切り、運ばれてきた膳を受け取った。
季節を名に入れているだけあって、ご飯物から吸物に至るまで秋を旬とする食材が多くを占めており、旬でないものは肉類と葉物くらいだというのが彼が最初に感じた印象だった。
「いただきます」
両手を合わせ、小声で言って即座に吸物に手を伸ばす。
ナメコと薬味の小ネギに加え、楓の形の飾り麩が一つ浮いている。
まずは汁に口を付け、口内を湿らす程度に含むと、ゆっくりと喉へと落として行く。
(……本店のよりはちょっと薄味か? いや、御膳の吸物ならこれくらいが美味いな)
先日、呑みに行った時のシメに飲んだ別の吸物の味と比べるのだが、当時は自分が酒を呑んでいた事を思い出して顔に出さずに苦笑――酒を出す料理屋の汁物は濃いめの味付けされている場合が多い――する。
続いてとばかりにナメコへ狙いを定めるのだが、幼少期より親に鍛えられた箸捌きはぬめりをものともせずに一発で挟み取る。
ニュルンとしたぬめりが舌の上を滑り、奥歯へと当たって止まる。条件反射で噛んでみれば、しっかりと大きくなったナメコ特有の、ぬめりに包まれたシャクシャクとした歯応えが楽しませてくれる。
(やっぱり、ちゃんとしたナメコは美味い)
おっと、汁ばかりに気を取られているべきでは無いと、早々に椀を置き、栗と茸の炊き込みご飯がよそわれた茶碗に手を伸ばす。
具材の栗、シイタケ、シメジ、ニンジンの朱が美しく入るように飯を挟み取って口に運ぶと、ふんわりと、醤油と茸の香りが口腔を抜ける。
次に、ほろりと栗が崩れ、秋を代表する甘味が舌に乗った。
山内は元来、甘いものがあまり好きではないのだが、この栗は生の栗を使ったのだろう、手抜きで使われる甘露煮とは違い、ベタベタした甘さを感じないどころか、炊き込みご飯に含まれた塩分に刺激された口内を爽やかにしてくれる。後味に広がるのはシイタケとシメジの旨味だった。
(おいおい。この茶碗じゃ足りないんじゃないか?)
ついつい、炊き込みご飯だけで二口、三口と箸を進めてしまい、そんな事を思ってしまう。
欲求と自制心のせめぎ合いの末、何とか次の料理へと箸を向ける彼の目は、美食家のそれだった。
「……洋介、怖い顔で食ってるが不味かったのか?」
「いや、美味い」
アジの刺身に舌鼓を打っていた福田が小声で聞いてくるのだが、顔も上げずに短く一蹴すると、サラダが入った小鉢に狙いを定めた。
ちょっと黒っぽいポテトサラダかな? それが第一印象。
箸を通して伝わる感触も、マッシュポテトにマヨネーズを練り込んだようなものだが、口に入れた瞬間に、予想と違っていた事に気付く。
ジャガイモよりもネットリとした食感と懐かしい風味。
どこかで、しかも多く、サラダ以外で食べたことのある味なのだが、出てこない。もどかしさを感じて視線を泳がせば、答えは福田の御膳の中にあった。煮物になっているそれ。
(サトイモだ!)
ジャガイモ並にどっしりと、それでいてサッパリと食べれるサラダだった。だが、サッパリしている要因はそれだけではない。
(一つはこれ、ツナ缶ではなく鶏肉――多分、胸肉――のお蔭。もう一つは……)
また一口、箸を進める。
(……味噌、か。そのお蔭で油濃さが和らげられてるから、サッパリ感じるんだ。しかしこれ、結構ボリュームあるな)
炊き込みご飯を食べている時に感じた物足りなさが、このサラダで見事に補われている事に気付かず、そんな感想が頭をよぎっていた。
例えボリュームがあろうと、万が一腹が膨れていようと、若い男ならば決して残さない主菜に、彼もまた進む。
主菜である牛筋の煮込みだ。これだけは唯一旬から外れた食材だが、時期を見てもギリギリ旬に入って無いと言わざるを得ないだけで、これを残すような理由は無い。
(しかもこれ、銀杏まで添えられてるときたもんだしな)
秋の味覚で酒のアテに彼が好んで食べるものまで付いていては、尚更拒む理由は無い。彼の箸はもはや進むというより、突撃を敢行していた。
トロリとなるまで煮込まれ、醤油と生姜の風味がしっかりと染み込んだそれは、昼だというのも忘れて酒を頼みたくなる欲求を喉元まで押し上げる。それをすんでのところで押し留めている、ねっとりとした食感の何か。これが煮込んだ事により濃くなって、肴にピッタリになっているハズの味を、ギリギリおかずとして保っていた。
(アキレス? いや違う。おでんの牛筋櫛で同じようなのを食べた事があるから、筋に変わりはないはず)
つい、おかずだという事も忘れてこればかりを食べてしまうが、彼がその正体に到達する事はこの時点ではなかった。
普通、筋肉として使われるのは肉を処理する段階で出てくる各所の筋で、その出自がバラバラであるこがほとんどなのだが、彼、山内が最後まで気付けなかったそれは、ロースと呼ばれる部位のみから集めた筋であり、ゼラチンの含有量が多い部位だった。
ロースの部分の筋はもともと筋肉としては柔らかく、煮込むことで更にとろけるほどまで柔らかくなる。しかし、ゼラチンが多い弊害か、煮方によっては味が染みにくい場合がある。
この事を母親伝手で知っていた町田が、牛筋煮込みの試作段階で今の調理法を取ったのだ。
牛筋煮込みには驚いたという言と共に、山内が小夜子から種明かしをしてもらうのは少し後の話である。
ご飯や汁、主菜、副菜とバランスよく食べすすめ、最後に汁椀を名残を惜しんで置くと、脇にあるもう一つの小鉢に気付いた。
(柿、か)
甘いものだし残してもいいかと思った所で、くし切りにしてある柿に備え付けられているものが楊枝やフォークの類ではなく、匙である事に気が付く。
(何で匙?)
気になって手に取った匙を、戯れとばかりに小鉢へと伸ばす。
くにゅり――そんな音がしそうな感触が伝わり、柿が歪む。
(熟し柿か。まさかここで出てくるとはね)
そんなに好きでは無い甘いものだが、ついに珍しさに負けてしまう。
たった二口分しかないそれはあっという間に彼の口、そして胃袋に消え、柿特有の甘すぎない甘さと、熟し柿特有のゼリーと羊羹の中間のような弾力に口内がサッパリ洗われた。
(最後に甘過ぎずサッパリさせてくれるデザートがあったのは嬉しい誤算だったな。でも、余計に本店に行きたくなったのは誤算だ)
食後のお茶を手に、まだまだ御膳を堪能している同級生二人を眺めながら、彼は今日の予定を頭の中で並べ、熟考するのだった。
――――――――――――――――――――
「テーブル席、秋御膳3、サンマ御膳1、ええと、あと牛筋煮込みのお持ち帰り3!」
「カウンター、秋御膳5!」
「お茶が切れたわ!」
「並んでるお客さんが出だした!」
「てか、多すぎるよ! 今の注文で50超えてるって、サラダの盛付け、間に合わないよ」
昼の厨房は怒号が飛び交う修羅場へと化していた。
「注文はゆっくりで良いから間違えないように伝えて。お茶は沸かしたのを流しで冷ましているからそれを使って。待ってるお客様には先にメニュー表を渡して。サラダの盛付にもう一人回ってもらっていい?」
それでも、女子たちから上がる怒号にあたしは適宜指示を出していく。もちろん、お茶を沸かしたり、盛付けのヘルプに入ったりしながらだけどね。
作業の合間に各料理の担当を見回ったり声をかけたりするのだけれど、忙しくて目が回るとの回答以外はどこも問題は無いようだった。
「そうだね、今日は大丈夫だよ。ただ、この調子で消費が続いたら……昼が終わるより先に今ある分が終わるかな」
とろ火に掛けた鍋から煮込んだ牛筋を器へとよそいながら、牛筋煮込みを担当している町田が言った。
この牛筋煮込み、季節の品と言う訳でもないのに、わざわざお昼の主力献立に抜擢しているのは理由がある。
牛筋の煮込みはその名の通り材料が牛という事もあって、学校の生徒を引き寄せれないかと考えたのが一つ。もう一つは持ち帰りメニューに載せて、先生達や子供の雄姿(?)を見ようと文化祭に来る保護者が夕食の一品にと買っていってくれないかというものだ。
しかし、予想以上に秋御膳も持ち帰りの牛筋煮込みが出ていることが影響したのか、昨日から仕込んだ分が残り少なくなっている。それを町田は言っているのだけど……この料理の仕込み、他の生徒はおろかあたしでも彼にはギリギリ及ばず、実質的に一人でやってもらっていたのだ。さてさて、どうしたものか。
「それは……かなりマズイじゃないの」
「うん。本当は今からでも仕込みをしたいんだけど、お客がこれだけ多くちゃね」
わざわざこちらを向いて話していても、器用に牛筋を器に盛付け、流れてきたお盆――御膳用の角盆――に並べていく。
「だったら、盛付けと膳立てはあたしがするから、町田は仕込みをして」
「え、いいの?」
それまで淡々と状況を伝えてきていた町田が、呆気にとられた顔をする。
だってね、仕込みは彼に優ることはできないけれど、盛付けならあたしは代われるのだ。だったら、盛付けと膳立てをあたしが、仕込みを町田に任せるのが最善手だ。今のところ、ここ以上に注文が殺到してるところもないしね。
だから、あたしは普段学校でしない顔で言ってのけた。
「予想外の時の為にあたしがいるんでしょ」
町田は内心はピンチだと思っていたのか、あたしが言った後に一瞬だけだけど、彼は微笑んでいた。




