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子供警察  作者: tkkosa
3/14

その2



○登場人物


  成宮保裕・なりみややすひろ(特別刑事課、過去に事件でトラウマを抱えている)


  金井睦美・かないむつみ(特別刑事課、成宮と同期、あっさりした性格)


  成宮心・なりみやこころ(成宮保裕の妹、兄と同じ事件でトラウマを抱えている)


  正代豪多・しょうだいごうた(特別刑事課、リーダーとして全体をまとめる)


  薬師川芹南・やくしがわせりな(特別刑事課、自分のスタイルを強く持っている)


  住沢義弥・すみさわよしや(特別刑事課、人間味のある頼れる兄貴肌)


  井角・いのかど(特別刑事課、正代とともにリーダーとして全体をまとめる)


  根門・ねかど(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)


  六乃・ろくの(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)


  壷巳・つぼみ(特別刑事課、成宮と同期、頭脳班として事件に向かっている)


  但見・たじみ(特別刑事課課長)


  筑城晃昭・ちくしろてるあき(麻布警察署少年課、成宮と過去に事件で接点がある)


  大床・おおゆか(麻布警察署刑事課、成宮と過去に事件で接点がある)


  鍋坂・なべさか(子供警察署長)





 専用車には正代さんを除く実績派4人が乗り、現場へと急いでいた。空は暗くなって


いる。事態の重さをはかったように。車内には通常のような緩さはなく緊張感が走って


いた。


 特別事件課の部屋にブザーが鳴り響いたときにはその場にいた全員が同じ危惧をはし


らせた。まさか、と思った。そんなことない、と思いたかった。しかし、そんな思いは


すぐに散らされた。


 「港区南麻布5丁目、有栖川宮記念公園内で3人の学生が銃で撃たれた模様。犯人は


そのまま逃走、被害者は全員意識なし」


 放送が終わるとともに実績派の面々は立ち上がり、上着を片手に駆けだす。被害者が


学生であるということに気ははやっていく。


 車を運転しながらも心内は急くようになっていた。容疑者の言葉が何度も頭をめぐっ


ていく。ティアラという何者かが彼の、コンビートの代わりに復讐を実行するという言


葉。あの後、一通りを喋ったコンビートは一変して口をとざした。ティアラと約束につ


いての情報を聞きだそうとしても何も答えようとしない。言ってみれば、その時はふわ


ふわと浮いているような感覚もどこかにあった。全てはコンビートの虚言であって何も


起こりはしないんじゃないかという思いもあった。不安が現実になるかもしれないこと


への恐れもあってかもしれない。ただ、現実的に考えてもコンビートが逮捕されてから


2日以上が経過している。報道でも今回の事件は取りあげられている。実名が出てない


にせよ、年齢や時間や場所から彼であることを思いつくのは難しくはないはずだ。それ


なのに何の変化も起こっていない。コンビートの携帯やパソコンへの連絡もない。ティ


アラなんて存在しないんじゃないかと思うには充分だった。


 なのに、新たな事件は起こった。関連性の有無は分からないが、もしもティアラによ


るものならタイミングが良すぎる。こっちの状況を知っているかのような展開だ。どう


なってるんだ、一体。


 目的地へ到着すると現場へと急ぐ。一刻も早く状況を知りたい気持ちが自らを急かせ


ていた。他の3人も同じように浮遊する心内をなんとかしたいという思いで歩を進ませ


ていく。


 現場は公園内にあるトイレだった。何事かと集まる人だかりを分けて男子トイレに入


っていくと無残な光景がそこにはあった。壁と個室と便器に1人ずつ傾けるようにして


倒れており、銃弾を受けたと思われる体と後部には血の跡が広がっていた。近くの交番


から警官が来たときにはすでに3人とも死んでいたらしい。それぞれが複数箇所を撃た


れていて苦痛のまま命を落としていったのが歪んだ表情から見てとれる。刑事をやって


いても中々目にしない残酷な様だ。


 捜査をした結果、事件時にこのトイレの周辺にいた人間はいなかった。公園内には多


くの人間がいたため、銃声を聞いた証言は多かったが犯人を見た者はいなかった。銃声


は10発ほどという証言がほとんどで実際に3人を貫通していた傷跡も11個だった。


そして、被害者の持ち物から3人がコンビートと同じ中学校の同じクラスであることも


分かった。最悪の事態だった。我々が抱いていた不安がそのまま形になったようで気色


悪かった。




 マンションの一室、はやる思いを抑えながら飛びこむように部屋へ入っていく。なん


とか留めていた爆発しそうな感情を解き放ち、静かに声をあげて笑った。今まで身体の


中に閉まってきた本物を外へ放った開放感、それはどうにもならないぐらいに心地いい


ものだった。


 悪を制圧させる正義の真実。そうさ、これが本来のあるべき形なんだ。悪が笑い、正


義がおとしめられる現実なんてあっちゃいけない。なのに、この世界にはそれがあまり


にも多すぎる。そんなの間違ってる。悪はいらない。いらないものは排除されるべき。


でも、ほとんどの悪が見過ごされている。誰にも手をかけられない。だから、この手で


やる。


 人を殺したのは初めてだった。人を殺したいと思ったことは数えきれない。その対象


は当然決まってる。悪を宿らせた人間。無差別な殺意なんか抱かない。それこそ悪だ。


この胸に生じた殺意には全て意味がある。あってはならない勝手本意な悪へ向けたもの


だけだ。


 銃を撃ったのも初めてだった。銃を撃ちたいと思ったことはない。銃の知識は今回の


ために多く入手したが、そのものに興味はない。言ってしまえば、殺せさえすれば凶器


は何でもかまわなかった。余計な不安を残さないために最も効率のいい武器がこれだっ


ただけのこと。接近戦を避けられるし、短時間で数多くの罰を撃ちこめる実に良い道具


だ。コンビートが接近戦用の凶器を選んだのは対象への憎しみに身体が覆われたから。


それに対し、こちらはコンビートの対象への直接的な憎しみはない。冷静さを失うわけ


にはいかない。自分が為すべきはコンビートの代わりに対象を抹殺することだけ。それ


を忘れはしない。


 両方の手のひらを広げ、しばらく眺めていた。まだ弾き金をひいた感覚が残ってる。


銃を向けたときの脅威へ変わる顔、一発目を撃ったときの苦痛に歪む顔、何発と撃ちこ


んでいくときの人形のように何も無くなっていく顔、どれもが喜びをこの心に与えてく


れた。これを望んでたんだ。抵抗をしない正義が今は多い。それを突くように悪が利用


していく。そんな関係はもう終わりだ。正義は正しき旗をかかげ、悪という悪を消滅さ


せる。


 そうだろ、コンビート。君の復讐は君の最も望む形では果たせなかったけどきっと満


足してくれるよね。君の正義を突く悪が排除されることがなにより為されるべき罰だっ


たんだから。早くみんなで一緒に喜びあいたいな。その前にそんなところから出てこな


いとね。




 警察へ戻って現場報告をするとすぐに取り調べが再開された。容疑者の、コンビート


の様子に変化が見られている。窓の方へ顔を向けることなく正代さんと井角さんのいる


前へとちゃんと向いている。表情も掴みどころのない穏やかさだったのが現実的な穏や


かさへ変わってるように見れる。自供をしたことで事件によって失われていた彼自身の


心的要素が戻ったのかもしれない。


 「さっき、君の事件現場から程遠くない場所で殺人事件があった」


 井角さんの切りだした話にコンビートは反応した。外見では下を向いていた顔が上が


った程度にしか見えないがこれまでとは違うはっきりとした反応であるように思えた。


正代さんが先程の事件についての詳細を伝えていく。事件現場、犯行時間、周囲の状況、


被害の様子、被害者の身元、加害者の情報の皆無。話し終えるとコンビートは満足そう


にフッと笑みをもらした。


 「やっぱりね。ティアラがやってくれたんだ」


 薄く微笑む様に苛立ちをおぼえる。自らの発信でこんなことになっているのを喜んで


いる。それが彼の目的なんだろうが、彼のやられたことに対して考えれば重すぎる罰し


方だ。


 「この被害者3名は君をいじめていた人間か」


 「そうだよ」


 「君はティアラという人物が君の代わりに犯行を行うと言った。どういうことだ。何


でそのティアラは君のためにこんなことまでする」


 「仲間だからさ」


 「ふざけるなっ」


 井角さんは机を叩きつけ、声を荒げた。すると、コンビートは怯むどころか鋭い視線


になった。


 「ふざけてるのはそっちさ。警察こそ身内の不祥事を取り消したりするんだろ。その


被害者の気持ちなんて考えずに自分たちに良いようにおさめるんだろ。大した仲間関係


だよ。それに、警察だって時に犯人を殺すだろ。法に守られてれば何をしてもいいって


いうのか」


 人殺し、とコンビートは不気味に笑った。その様にはさすがに正代さんや井角さんも


苛立っていた。


 気持ちは分かる。仲間だからと言われても納得なんてしきれない。ここまでする必要


はない。コンビートとティアラはあくまでネットワーク上での関係だ。そう直接的な関


係がない人間のためにする行為じゃない。第一、ティアラと被害者の間には何の関係も


ない。こんな仲間意識どうかしてる。


 その後は怒りをあらわにしたこちらへの反発からかコンビートは何の情報も発しなか


った。黙りこくりもせず、あざけるように「さぁ」「どうだろう」「ふぅん」とわざと


挑発するようにしてきた。そんな安いものに感情は動かすまいと踏みとどまるが進展の


ない展開への焦りもあった。


 「なんか厄介になりましたねぇ」


 特別事件課へ戻り、成果の無さに息をつく中で金井がもらす。肩先をかきながらゆっ


たりと椅子にもたれる様はいい気なものに見えたが彼女の楽天的な部分はこういうとき


にうらやましくもある。


 「これでティアラっていうのが存在するのがはっきりしたわけですもんね。最初は容


疑者がホラふいてると思ってたんですけど。なんか何考えてんのか分かんない感じだっ


たし」


 金井の言うとおりだった。初めはティアラなんてもの、半信半疑のところはあった。


容疑者の創りあげた空想の存在にすぎないんじゃないかと。だが、ここまできては信じ


ざるをえない。ティアラはコンビートを操るようにして犯罪に加担し、自らも殺人を決


行した可能性が高い。


 ただ、現時点ではどうにも次へ動けないことがある。我々にはティアラに繋がる情報


がもう無い。




 自宅へ帰ったのは日付が変わった後だった。外からは明かりが見えなかったのでもう


寝たのかと思ったけど帰宅すると心の部屋にはまだ電気がついていた。扉は閉まってる


が隙間から明かりがもれている。メールのやりとりでもしているんだろうか。一応、帰


ってきたことを知らせるために扉をノックする。扉の向こうから「はぁい」と気のない


返事が来る。


 「ちょっと開けるぞ」


 返答はない。それが許可をする代わりになっている。扉を半分開け、半歩だけ部屋へ


と入る。ずけずけと入っていくとデリカシーのない兄と思われて怪訝にされるんじゃな


いかと遠慮がはいる。年頃の異性ってこともあってか妙にそういうところは気にしてし


まう。妹は机に向かって勉強をしていた。正直、普段はあまり見ない光景だったから意


外だった。


 「勉強してんのか」


 「うん、もうすぐ試験だから」


 試験か。そういえばそんな時期だな。学生時代の行事感覚は次第に抜けてきてしまっ


ている。自分のことならいいが妹のことについてはまずい。保護者であるわけだから行


事の類が頭に入ってないのは関心がないと思われても仕方ない。また妹への申し訳なさ


が生じる。


 「夕食、置いたままにしてあるから」


 「あぁ、悪いな」


 思いにふけっていると妹の方から言葉をだされた。不意をつかれたようになったのを


抑えながら返し、部屋を後にする。


 疲労の重みのようにソファへ勢いよくなだれこむ。本当は勉強の一つでも妹に教えて


やれればいいんだけど仕事が固定的でないため疲れがたまる。明日も同じような一日に


なるんだろうと思うと今日のうちに解消しておきたくて変に動きたくなくなる。必要な


ことだけをやって眠りにつきたい。そこに留まってしまう。まぁ、高校の授業で習った


ようなレベルは忘れてしまってるというのもあるんだけど。成績自体も平凡なものだっ


たし。こんなところばかり似てしまうのか、妹も同じ程度の成績だ。試験の数日前から


終了日までしか勉強なんてしない。


 そんな考えに多少滅入りながらだらだらと過ごす。家にいるときの自分は比較的だら


しないと認識している。家でまで頑張って仕事に支障をきたすのは避けたい。その分、


妹に対して積極的になれてないのも分かっている。寝るために自分の部屋に行くときに


は妹の部屋の明かりは消えていた。こんな兄を妹はどう思っているんだろうか。父親と


同じ道を歩んで刑事となり、特別刑事課にまで配属されている尊敬すべき対象なのか。


家にいる時間が少なく、ろくに家事もせず、妹にかまってやることも出来ない情けない


対象なのか。本心は探ろうにも手を伸ばせなかった。




 翌日もコンビートへの取り調べは続けられる。しかし、新たな情報を望むこちらの思


いを察するように相手は交わしていく。自分をいじめていた者たちがいなくなったこと


で完全に勝者になったつもりでいる。今までの辛く淀んだ毎日から反転し、人生は意の


ままに動くものなんだと優越感にひたっている。その錯覚によって全身が自信に満ちあ


ふれ、警察を対しようとも揺らがないメンタルになっていた。普段の彼の様子は話でし


か知らないが人間ここまで変われるものなのかと思わされる。これが良い方向への変化


なら感心できるぐらいに。


 正代さんと井角さんが根気比べの取り調べを続ける中、並行して捜査も進められてい


く。頭脳派チームはコンビートがティアラと知り合ったきっかけであろうサイト「ボル


ト・フロム・ブルー」の調査、実績派チームはいじめに関する調査を担当。


 学校や加害者の家族や被害者の家族にいじめの実態を追求していった。だが、黒ずん


だ実態の部分はそうたやすく暴けるものじゃなかった。学校側はあらかじめ内部調査を


していたが、結果いじめの存在について否定した。誰の認識もないし、それ自体があっ


たのかどうかと白を切った。この対応には憤りをおぼえた。我々も実際に現場を目撃し


たわけじゃないがいじめは存在していたと思う。そのことについてのコンビートの言葉


に嘘は感じられないし、加害者の3人が殺されたというのが決定的だろう。学校はイメ


ージを守りたい一心なのだろう。こんな事件が続けて起こったのだからこれ以上の落ち


度はあってはならないという。同じようなケースでもそうだ。学校側は目撃していない


という理由で「いじめはなかったと思う」と曖昧な否定をする。教師の目の前でそんな


ことをする奴がいないことぐらい分かるだろうに。その裏側に気づいてやるのが学校側


のすべきことと指摘したい。


 加害者の家族もそろっていじめを否定した。現場を目にすることもないし、加害者の


変化を察知するのは難しいとも思うのでそうしたい気は分かる。そして、どこの家庭で


も「ウチの子は被害者なんです」と母親が涙を流していた。確かにそうはなっている。


ただ、おそらく彼らは加害者になっていなければ被害者にはなっていない。その加害者


の部分を否定してるため、家族には被害者の部分しか残らない。だから、この先いつま


でも疑問を抱いたまま生きていかなければならない。彼らが被害者になった理由を打ち


消しているのだから、ずっと理由に辿りつけない。苦しみを避けたがために別の苦しみ


に悩まされていくことになる。


 被害者の家族は否定はしなかったがいじめの認識はなかった。加害者の家族と同様に


現場を目にする可能性は少ないが被害者本人と毎日接触している。それでも気づかなか


ったのは加害者と被害者の両側によるものだろう。コンビートの証言によると、加害者


側は証拠が残らないようにと体に強い暴行をくわえることはしなかったらしい。その代


わりに精神的には芯から折られるような思いを何度とされたようだ。相手を殺したいと


思うほど。ただし、そのことをコンビートは家に持ち帰りはしなかった。自分の弱さを


さらけることを恥として家族の前では通常でいることに終始した。


 コンビートは闇に染まっていく心を周囲の誰にも伝えずに仕舞いこんだ。でも、それ


は次第に増長していく。やがて自分の中には収めておけないものになる。それを解消し


たのがあのサイトだったんだろう。どうやってあのサイトを見つけたのかはまだ分から


ないがそこは彼の拠り所となった。日々の歪に振れていく心をなんとか解いていった。


それだけならよかった。ただ、そこにはティアラという者が住んでいた。その出会いが


彼を犯罪へと導いてしまった。壊れそうな彼の心を最もやってはいけない方法で解消さ


せた。


 悪いのは誰なんだろうか。学校、加害者、加害者の家族、被害者、被害者の家族、テ


ィアラ。選択肢は多いが判断に迷う。誰も悪い気さえする。そもそも正しさとは何なん


だろう。捜査を進めていくほど悪循環に入りこんでいった。


 頭脳派チームの調査ではサイトの詳細の情報が入ってきた。「ボルト・フロム・ブル


ー」に頻繁に出入りをしていた住人は8名。コンビートやティアラの他、それぞれがそ


れぞれの傷を癒やし癒やされる関係を保っている。居住地区は都内に3人、それ以外の


関東が2人、東北と関西と九州に1人ずつ。詳しい発信地も調べたがティアラは不特定


多所からのアクセスを続けている。根門さん曰く、漫画喫茶のような場所から毎回送信


しているか発信地は同じだろうがそのたびに違うサーバーへ侵入して送信しているかの


どちらからしい。後者だとしたら、わざわざそんな面倒なことをしているってことは初


めからこうして罪を犯すつもりでいたのかもしれない。足がつかないよう、用意周到な


戦略を。


 掲示板は更新が続いている。速い回転ではないが誰かの立てたスレッドには必ず全員


が返信をしている。当然だがコンビートの返信は数日前から途切れている。それについ


て心配をする文章も並んでいるがティアラがうまくなだめていた。そのティアラは昨日


から送信の記録がない。




 その日と翌日、六乃さんと都内の漫画喫茶をいくつか巡った。無論、休息の意味では


なく。頭脳派チームが解析したティアラが掲示板への投稿時に使用したポイントを一つ


一つあたっていく地道な捜査だ。根角さんが予想した通りにティアラがアクセスに利用


していたのはどれも漫画喫茶だった。そこまで調べられるのも驚きだったが頭脳派チー


ムは店どころか個室番号までを特定してくれた。捜査がやりやすいのは助かるがここま


で調べあげられるなんて自由権に疑問をおぼえたくなってしまう。技術と機材さえあれ


ば誰にもこんな侵害が可能ってことに。


 漫画喫茶へ着くとアクセスの記録のあった個室に入り、六乃さんが室内のパソコンの


データを調査していく。その間に自分は個室の前を映していた監視カメラの映像を調査


していく。投稿時間の周辺をそれぞれの店で探っていったが怪しむような対象は見つか


らなかった。そこから送信された記録はあったものの、監視カメラの映像に説明がつけ


られない。それぞれの投稿時に個室にいた人物は一致せず、特徴も年齢も性別もバラバ


ラだった。それどころか個室に誰も入っていなかったこともあった。なのに、送信の記


録が残されている。根門さんの予想の通りとするしかないだろう。ティアラは同じ発信


地から投稿のたびに違うサーバーへ侵入して送信している。そんな高等な技術、並大抵


の人間がなせるものじゃない。ティアラは相当なネットワークの知識者とするしかない


だろう。


 2日に近い捜査を終えて警察へ戻り、結果報告をするとみんな一様に息をついた。残


って捜査を続けていたメンバーもとりとめて成果はあがってないらしい。そんな中での


この報告はキツイものがあるだろう。ティアラの特定はおろか、その手強さを証明して


きたようなものなのだから。


 「どうなんですか。ウチの頭脳班と比べての差っていうのは」


 金井の投げかけは興味のあるところだった。ティアラの腕をはかるには身近なところ


を対照するのはとても分かりやすい。


 「正直、分からないな。現段階なら勝てると思うが相手が実力を出しきってるかの保


障がない」


 それはそうだ。これがティアラの全力とはかぎらない。となると、もっと上かもしれ


ないってことか。実績班には到底着いていけないとしても頭脳班にしても分からないと


しか言えないなんて。子供警察といえど特別刑事課、若手のトップクラスといえるチー


ムだ。それが確信を持てないとは。


 「今現在の仮定の通りにティアラがコンビートと同じ年代の学生だとすれば恐ろしい


存在なのは間違いない」


 仲間とはいえ、ネットワーク上の関係だったコンビートのために犯罪を促し、凶器を


揃え、自らが残虐に手をくだし、足跡を辿られないように完璧に逃げている。警察を相


手に。こちらも子供だと侮れば足元をすくわれるだろう。非道な犯罪者、そう位置づけ


て追う必要がある。



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