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子供警察  作者: tkkosa
14/14

その13



○登場人物


  成宮保裕・なりみややすひろ(特別刑事課、過去に事件でトラウマを抱えている)


  金井睦美・かないむつみ(特別刑事課、成宮と同期、あっさりした性格)


  成宮心・なりみやこころ(成宮保裕の妹、兄と同じ事件でトラウマを抱えている)


  正代豪多・しょうだいごうた(特別刑事課、リーダーとして全体をまとめる)


  薬師川芹南・やくしがわせりな(特別刑事課、自分のスタイルを強く持っている)


  住沢義弥・すみさわよしや(特別刑事課、人間味のある頼れる兄貴肌)


  井角・いのかど(特別刑事課、正代とともにリーダーとして全体をまとめる)


  根門・ねかど(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)


  六乃・ろくの(特別刑事課、頭脳班として事件に向かっている)


  壷巳・つぼみ(特別刑事課、成宮と同期、頭脳班として事件に向かっている)


  但見・たじみ(特別刑事課課長)


  筑城晃昭・ちくしろてるあき(麻布警察署少年課、成宮と過去に事件で接点がある)


  大床・おおゆか(麻布警察署刑事課、成宮と過去に事件で接点がある)


  鍋坂・なべさか(子供警察署長)





 工業地帯の外れの海岸沿いを吹き抜ける風は空しくこの体をさわって過ぎていく。人


影もなく、人影の可能性もない残酷な跡地に目を向ける。ここに2つ並んでいた倉庫は


その姿をなくした。あの大爆発とともに倉庫にあった形あるもののほとんどは消え、そ


れ以外のものは原型を留めない状態となった。あれから1ヶ月の時が経ち、ここに残さ


れているのは倉庫内にあった多くの木材の果てた姿だった。どこを探したとしてももう


ここに妹の姿はない。


 あのとき、発砲を受けた体で金井に支えられながらなんとか倉庫から離れるところま


で行けた。もっと判断に迷っていたらこの跡地と同じ運命になっていたかもしれない。


最後に妹が背中を押しだしてくれたおかげで今ここにいる。「お兄ちゃんが変えてよ」


という言葉で。あの言葉とともに妹の思いを託された気がした。だから、生きる道を選


択できた。


 その後、入院している間に事態は終息を迎えた。一連の事件はサイトを通じて起こり


続けた連続殺人事件として大きく取り扱われた。犯人は成宮心、サイトで知り合った仲


間たちを苦しめる相手を次々と手にかける殺人犯。そこまでは事実の通りだったが最後


は違った。犯人は警察に追い詰められた末に自殺。言葉では正しいように見えるが実際


のもくろみはそうじゃない。10年以上前の両親の事件が警察によって揉み消されたも


のであるという犯行の動機が隠されたから。警察が世間へ発表したのは己に都合のいい


ものでしかなかった。これだけを見たら全員が警察を正義、妹を悪とするだろう。妹が


命をかけた叫びはまったく世には届かなかった。それは自分にとって怒り以外の何物で


もなかった。こんなことがあっていいのか。妹がどんな思いでこの10年以上を過ごし、


どれだけの思いで今回の事件を起こしたのか。それが権力によってあっさりと潰され、


この身は燃え上がるほどの感情に奮われた。警視庁だろうが警察庁だろうがどこだろう


と乗りこんで徹底的な抗議をしてやろうかと何度も思ったがそれで何が変わるわけじゃ


ないことも分かってる。それをしたところで怪訝に扱われ、警察にいられなくなり、苦


痛とともに一生を過ごすことになるだけだ。それじゃあ妹の思いは報われない。もっと


自分にはやるべきことがある。


 「うっす」


 後ろから近づいてくる足音に振り向くと金井だった。


 「どうした」


 「どうした、じゃないでしょ。別に私が来たっていいじゃん」


 そう言うと金井は倉庫の跡地に置いた自分が持ってきた花束の横に手にしていた花束


を置き、静かに手を合わせる。


 「足の具合はどう」


 戻ってきた金井に足元を指される。退院はしたがまだ松葉杖は必要な状態だ。当然、


現場復帰もしていない。


 「ぼちぼち」


 「正直さぁ、早く帰ってきてほしいんだよね。薬師川さんも住沢さんもまだだから実


績班の人手が全然足んないんだよ。刑事課から人は回してもらってるけどあんま使えな


くてさ。困ってんだよ」


 そりゃ、こっちだって早く戻りたい。ただ、素直にそう言いきれもしない。特別刑事


課のメンバーは正義を持った人たちばかりだけど、今回の事で警察という組織の腐った


部分も目の当たりにした。そいつらの下で働くことの嫌悪感はどうしても拭えないと思


う。これからはきっとその葛藤と闘いながらいかなければならない。ただ、それでも警


察を辞めるという決断はしない。


 「これからどうするつもり」


 「戻るさ、特別刑事課に。やらなきゃいけないことができたからな。どれだけ時間が


かかってでも這い上がってやる」


 妹の代わりに自分が変えるんだ。警察を、組織を、制度を。妹のやりかたじゃなく、


自分のやりかたで。


 「あいつの見れなかった景色、俺が絶対に見てやるよ」


 両親の無念を晴らし、妹の果たせなかった未来を形にする。だから、どこかでそれを


見ていてくれ。そんで、たまに挫けそうになったりしたら「何やってんだ」って背中を


押してくれ。



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