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始まりは溜息から  作者: このこな
第一章 幼少期編
9/19

馬車に揺られて

「アリスちゃん、忘れ物はない?」


「大丈夫ですよ、これも持ちましたから」


 アリシアは母に推薦状を出して見せた。


 あれから数カ月が過ぎ、いよいよ入学式も近くなった。それに伴い準備をしているのだ。

 学園がある都市はそこまでではないものの、一日程度で着く距離ではない。従って早めに発つ必要があるのだ。

 幸い、都市や村などの間を定期的に順行する馬車がある為、移動に困る事は本来ないのだが、逃すと一月は待たなければならないのが問題点である。


 その馬車は今日来るので、彼女は荷物を確認していたのだ。


 学園は基本的に寮生活になる。その為に荷物は多くなってしまうのである。家具などは備え付けらしいので、主に衣服などを含めた身の回りの生活用品となるが、塵も積もれば何とやら。衣類で1つ、他で1つのバッグを占領し、更には手持ちにアリシアお手製の(製本した)魔法のメモも加えて手に持ち、乗り合い馬車に押し込んだ。


「アリシア、入学祝いだ」


 アルは彼女に何かを手渡した。それは小さな小さな鍵であった。しかも2種類のが2つずつ。


「これは……?」


「片方は倉庫の鍵だ。学生時代に作った道具が山ほどあるから使ってくれ。もう1つは鍵の……、いや学園内の何かの鍵だ」


 意味深であるが、深入りはせずに受け取った。


「アリスちゃん、私からはコレを」


 パトリシアが渡したものは1つの封筒とコイン状のもの。


「ギルドに登録する時に出しなさい」


「分かりました、お母様。お父様もありがとうございます」


 アリシアは深々と頭を下げてから、馬車に乗り込んだ。





 馬車の中は馬車にしては人が多く、彼女を含めて3人であった。


 一人は精悍な顔立ちの男で、数多の修羅場を潜ったのではないかと感じさせる風貌であり、大剣を手にしている。鞘の形状などからして普段は背中に付けるものであろうが、馬車内の為に持っているのであろう。


 もう一人は打って変わり頼りなさげな少年であった。見た目はアリシアよりも年上ではあるも、中身は明らかに細いと見えた。


「皆さんはどちらへ?」


 彼女が2人に問う。別に意味のない行為ではあるが甚だ暇になるであろうなら無駄話も無駄にはならない。


「俺はずっと馬車の中さ。馬車守だからな」


 先に精悍な方が返した。

 馬車守とは名前の通り、道中馬車を守る事が仕事である。この定期馬車は常時おいているというのだが、アリシアはそれを知らない。


「お仕事お疲れ様です」


 アリシアは彼に一礼した。


「嬢ちゃんに労って貰えるとはな。役得だ。嬢ちゃんは何処に行くんだ?」


「学園、ラタニア大学園です」


「お使いかい?それなら……」


「違います」


「もしかして……家出かい?」


「娘の家出を笑顔で見送る親がいますか?」


 アリシアの年齢は7であり、そんな年齢の子供には都市までの買い物なんてさせない。お使いも然り。


「私は入学するんです!」


 馬車の中にアリシアの声が響く。

 それに黙っていた少年も反応し、耳をたて始めた。


「面白い冗談だな。いつか入れる様に頑張れよ、嬢ちゃん」


「嘘じゃありません!」


 アリシアが言うが説得力はないに等しいといえる。早くとも10前後で入学するという一般常識の前には彼女も成す術はなかったのである。


「少年は何処に行くんだ?」


 男が話題の転換をした。


「僕もそちらの女の子と同じ場所です。理由も同じです」


「ほう、試験はどうだったんだ?」


「魔法理論が難しかったですね。ですよね?」


「知らないわよ。私は受けてないもの」


「おいおい嬢ちゃん、ますます嘘臭くなっちまうぞ?試験受けないで入学なんて。……あと、二人とも無理に敬語使わなくていいぞ?」


「分かったわ」


「僕は素ですよ。ところで本当に入学生なのか甚だ疑問ですが」


 男も同感と言わんばかりに首を振る。


「失礼ね、ちゃんと実技は受けたわよ」


「実技なんてあったか?」


「ありませんね」


 少年は一般試験に対し、彼女は推薦かつ特待生の試験。その違いに彼らは気付いていない。彼女が口にしないのが原因なのだが。


「ちなみにどんな問題だったのかしら?」


「そうですね……、回復魔法の効率化に必要な事、とかです」


「適切な症状の判断と知識。また、度合いから最低限治療出来る魔法の選択。そして、出来る限り2人以上で行う事。その理由は周囲の警戒などもあるけれど対象の体力管理も気を付ける為。……と、こんな感じかしら?」


「……はい」


 彼女の回答は彼には口を挟める程ではない完璧さであった。実際言った事は正しいのだが1割程抜けている点はある。しかし、彼には分からなかった。


「ああ、あと魔力の相性云々もあったわね」


 彼女は残りの1割を付け加えた。


「嬢ちゃん、いくつだい?」


「7よ。まだ、たったの7歳。家に貰い物の本がたくさんあるのよ。だから知っていても不思議じゃないわよね?」


「そうかもな」


 彼らはあまり納得出来ていない。当たり前だろう。しつこいようではあるが彼女は不自然なのだから。


「年下に……」


 少年は愚痴を零していた。


「少年」


「なんですか?」


「世間に出れば年の差なんて関係ねぇ。出来るか出来ないかだ。お前はまだまだ未来があるんだから何とでもなるさ」


「ありがとうございます」





 しばらく世間話などをしていると突然馬車が止まった。


「どうしたのかしら?」


「俺が見て来よう」


 男が馬車の外へと出て行った。





「野党だ!」


 突然男が叫んだ。彼女は慌てて外に出る。


「嬢ちゃん、中にいな」


 彼は1人で3人の相手をしていた。

 3人とも柄の悪い顔で頭に赤黄緑の色違いのバンダナを巻き、粗末な上着に半ズボンである。それぞれサーベル状の剣を持っている。

 3対1。これでは彼の分が悪い。


「可愛い餓鬼もいるじゃねぇか……。使った後に売って大儲けだな!」


 彼らは豪快に笑う。下卑た笑みを彼女へと向ける。

 対して彼女はゴミ屑を見る目へと変えた。言葉の意味を考えただけで吐き気がしたのである。使うとは欲のはけ口に、後者は奴隷であろう。


 奴隷はアリシアたちのいる国では認められていない。大罪者に管理付きの強制労働はあるものの人権はあるのだ。魔法を用いた隠せない調査の結果、改心していれば釈放と、再犯も防がれている点は立派だといえる。


「彼らは殺してもいいかしら?」


「いや、そこまで手配されていない。身柄拘束して突き出せばいい。嬢ちゃんは危ないから下がってな」


 今、馬車にいるのは少年と馬子。そこへ戻れという。全くもって正論である。


「貴方1人では厳しいでしょう?1人は任せなさい。伊達に学園の実技試験でグレイ・ラタニアに勝ってはいないわ」


「……っ!それが本当なら是非任せたい」


「まあ、武器を壊しただけよ」





 彼女は緑のバンダナ男に対峙する。


「嬢ちゃん、運がなかったなぁ」


「うるさいわ。おとなしく帰りなさい。今なら許してあげるわ」


 彼女はじっと彼を睨み付ける。


「余裕だな……。だがその顔を泣きじゃくらせてやるぜ!」


 この男、最悪である。


「はあ、胸糞悪いわ。手早く気絶させてっと」


 パチンと彼女が指を鳴らすと、紫電が走り男に当たる。


「がっ……!?」


「魔法よ。加減違いで気絶はしなかったものの体は動かないはず。威力を落とし過ぎたかしら」


 彼女は動かないそれを引きずって彼の元へ戻った。





「くっ……」


「ほらほらどうした?」


「ははははは!」


 男は彼らに翻弄されていた。


「まさか魔法を使えるとはな……」


 相手の片方あるいは両方が魔法を使えるらしく、苦戦を強いられていた。


「援護するわ」


「嬢ちゃん、終わったのか?」


「あとは縛るだけよ」


 彼女が痺れて固まった男を指差す。


「そこの餓鬼、何者だ!」


 男(赤ダンダナ)が叫んだ。


「ただの吸血鬼よ」


 バサッとアリシアは背中の翼を広げた。そのまま飛び上がり少し高めに位置取り、滞空する。


「こんな昼間に吸血鬼がまともに動ける訳ねぇ!」


「だいたいそんな吸血鬼はこんなところにはいねぇ!」


「ここにいるじゃないの」


 はぁ、と溜め息をついた。


「嬢ちゃん吸血鬼だったのか?」


「そうよ?言ってなかったわね」


 皆、豆鉄砲をくらった様な表情になった。


「言われてみれば……、特徴があるな」


 赤い瞳に八重歯、翼だけではあるが十分である。


「吸血鬼なら尚更高く売れるぜ!」


「しかも吸血鬼だから子供は出来にくいとなればいいこと尽くめだぜ!」


 つくづくこの男たち、最悪である。


「早く縛り上げましょう?不愉快だわ」


「ああ、そうだな」


 彼女は指を鳴らし、彼にいくつかの身体強化魔法をかける。


「魔法使えるのか?」


「使ったわよ」


「指鳴らしただけだよな?」


「そうね。説明は後でするわ。先に片付けましょう」


 初めに男たちが動いた。赤い方は手に持つ得物で馬車守の相手を、片や黄の方は魔力を練っていた。


「いくぜ!氷よ貫け!」


 氷の刺が男たちに迫る。


「邪魔させないわよ」


 彼女は援護射撃に対して指を鳴らして炎の壁を作り出す。


「くそっ、邪魔しやがって。お前からやってやる!」


「やってみなさい」


 彼女は挑発をかける。


「雷よ、空に佇む者を落とせ!」


 彼女の上空から雷が落ちて来た。

 この魔法は自然を用いる為に難易度は高く、少なくともそこらの野党には扱えない。彼の正体を彼女は訝しむ。

 そうしていると彼女に雷は見事に命中してしまった。


「間抜けな奴だぜ!」


「そうね、少し呆けていたわ」


 空には変わらずアリシアが佇んでいた。


「な、なんで平気でいられるんだ!」


「貴方、吸血鬼に魔法とか馬鹿じゃないの?種族的に耐性が高いのよ、私は。そんな雷効かないわよ」


「大型の魔物も墜落する雷が全く効かないなんて異常だ!」


「ピリッとは感じたわよ」


 彼女はさらりと告げながら両手の指を鳴らす。それを合図に2つの球体が具現した。片方は水、そして電気。


「なっ……、多重詠唱!?」


 多重詠唱とは、2つ以上の魔法を同時に発動する事である。指を鳴らしたりと詠唱はしていなくとも便宜上そう呼ばれる。

 ただ難しく、易々と使えるものではない。例えるなら両手で別の文章を書くくらいである。


「驚いている暇はあるのかしら?」


 彼女は水球を当てた。


「なっ……あっ……それは止めろ!」


 彼にゆっくりとバチバチと音を起てながら電気の球が迫る。彼女の意図を理解したが身体がすくんで動かないのである。


「大丈夫よ、ビリッとしたら意識を失うはずだから」


 その言葉は意識を失う程の電撃である事を意味していた。


「おいおい凄い事になってるな」


 馬車守の男がぐるぐるに縛られたゴロツキを肩に担いで見に来た。


「縛るものはまだあるかしら?」


 彼女が聞いたまさにその時、残りのゴロツキの意識が失われた。





 再び走り出した馬車の中には3つの新たな影があった。


「あの……、これはどうしたんですか?」


「国か何かに突き出すのよ」


「まあ、嬢ちゃんが2人仕留めたけどな。それで嬢ちゃんが何者か聞きたいんだが」


 馬車の外で、後で説明する、と言った事を彼女は思い出す。


「何があったんですか?」


 少年が先程の説明を求めた。少年は馬車の中にいたので何があったか知らなかったからだ。


「嬢ちゃんは種族が吸血鬼なんだ。そして魔法も……、俺は魔法をよく知らないから何とも言えないが、多重詠唱とかっつうのを使ったらしい」


「使えるんですか!?」


 彼女は少年にガシッと手を握られ迫られた。感動と興奮の最中な少年は自分の行動に気が付いてはいない。


「あの……、離れてくれないかしら」


 さすがの彼女でも一歩引いてしまう程である。


「はっ……、あ、すみません」


 怖ず怖ずと彼女から少年は離れた。心なしか顔が赤くなっている少年はそのまま彼女から遠い席に着いた。


「はははは!ウブだな少年。それで嬢ちゃんは何者なんだい?」


「そうね、それならまず自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら?」


「そうだな、その通りだ。俺はウォルフ・フランクリン。馬車守は依頼として度々受けているが本職はギルドのBランカーだ」


 ギルドのランクは上からS、A……E、Fとある。Bランクというとそれなりに実力はある事になる。


「俺はこれくらいしか言う事はないな。さて、嬢ちゃんの番だ」


 アリシアはしまっていた翼を再び広げて事を始めた。


「私はアリシア、アリシア・レイ・イットリアよ。種族は吸血鬼、吸血鬼の……特異点(ポイント・ゼロ)。ラタニア大学園から推薦を受けたわ。お母様の差し金だと思うけど……、って2人ともどうしたのよ?」


 彼女が心配するのも無理はない。揃って目が点になっているのだから。


「その……お母様って誰なんだ?」


「パトリシアよ……って本当に大丈夫?」


 再び彼らが呆ける。


「まあ、彼女が母親なら理解は出来ます」


 少年が頷きながら言を発する。


「お母様を知っているのかしら?」


「嬢ちゃん、知らない方がおかしいくらいだ。1人でドラゴンに向かって行って倒したって伝説になってもおかしくないくらいの偉業をしたんだからな」


「その話はよく聞くけどいつものお母様からは想像もつかない話なのよ」


 あのほんわかしたパトリシアからはドラゴンを驕る様な姿は到底思い浮かばないと彼女は感じていた。


「嬢ちゃん、そんなに気になるなら今度本人に聞けばいいじゃねぇか」


「それもそうね」


 彼女は納得して一度座り直す。


「あの……、僕は特異点という事が疑問なのですが……」


「解析魔法を使えばいいじゃない」


「僕はまだ魔法を使えませんよ。魔法を使って役立てる事が出来る様にするために学園に入るんですから」


「そう。同じ学園ならまた会う機会もあるんじゃないかしら?それならその時でもいいんじゃないかしら」


「そうですね」


 彼女は解析魔法が使える時でいいと少年に告げたのだが、どうにも彼はそわそわしていた。


「そんなに気になるなら早い方がいいわよね。名前を教えてくれないかしら」


 そうすれば探せるから、と彼女は追加する。


「あ、はい。僕はルイス・スティブムといいます。お二方には遥かに劣ってしまいますが……」


「気にするな、少年。嬢ちゃんが異常なだけさ。俺とは時が解決してくれるだろうが」


「ちょっとフランクリンさん、人の事を異常だなんて失礼しちゃうわよ」


「とか言いながらも納得してる顔じゃねぇか。あと2人とも俺の事は名前で呼んでくれてもいいぜ」


 若干不服なアリシアに彼は豪快に笑い飛ばした。


「あの……、ウォルフさん、イットリアさん、よろしくお願いします」


「ああ、着くまでだけでも仲良くな!」


「ええ、学園でもよろしく。それから私も名前で構わないわ。貴方とは長い縁な気がするの」


 両者様々な返し方だが、どちらも少年に対し友好である返事であった。


「はい分かりました、アリシアさん」


 そして、自分で許可をしておきながら少しむず痒く感じるアリシアであった。





 この後、学園に着くまで何故か暴露大会が行われた。

 ウォルフ・フランクリンは実は貴族の生まれで、貴族生活に嫌気がさして家出したという事。そして、師事した人物に魔法はからっきしと言われた事。

 ルイス・スティブムはエルフと人間のハーフだという事。魔法関係に強いエルフの母親には危険だからと言われて未だに魔法を使えない事。そして入学を機に魔法使用の許可を得た事。

 アリシア・レイ・イットリアは学校卒業までは自分が吸血鬼である事を母親に隠蔽されていた事。5歳程で魔法を一通り使えた事。実は多重詠唱は難しくはない事。自らが特異点である為に歳相応の身体の成長は諦めた事。実は無詠唱まで可能な事は曝していない。


「ルイス、貴方に解析魔法を使ってもいいかしら?」


「あ、はい、どうぞ。でもどうしてですか?」


「貴方の母の行動が気になったのよ」


 そう言いながら指を鳴らす。ちなみに何度も告げるが基本彼女は無詠唱魔法を使う際に指を鳴らしているだけである。


 なんとなく解析をしたアリシアはルイスを見て驚きを隠せなかった。


「どうかしたのか?嬢ちゃん」


「え、ええ。ルイス、よく聞きなさい」


 彼女は少年の正面に立って、両肩を掴んだ。


「貴方には風の精霊王の加護がついているわ」


 精霊とは自然に存在している霊的なものであり、魔力を糧に成長する。精霊は2種類いて、自然になんとなく存在しているものと何らかの力を持ったものがいる。

 前者は生まれたての精霊といわれていて、気にいられると少し運がよくなったかなぁ、くらいの効果がある。

 後者はそれぞれの自然や事象に存在している。これらは特定の自然から魔力を得たといわれていて、それぞれの力を持っている。

 精霊王は後者のそれの頂点である。


「たぶんこれのせいね、貴方の母が魔法を使わせなかったのは」


「どうしてですか?」


「精霊は自分の属性に上乗せをするの。だから仮に貴方が風の魔法を精霊とちゃんと意思疎通が出来ない状態で使えばどうなるかは分からないわ。ましてや精霊王よ。桁が違うわ」


 彼女は言葉通りに軽く村1つは吹き飛ぶだろう、と加える。


「でもどうやって疎通をすれば……」


「さあ?私にもさっぱり。私は加護なんてあまりないもの」


 『WORLD』での“加護”は、ある特定の条件を満たす必要があったのだ。彼女は精霊の加護については満たしてはいなかったのだ。


「待て、嬢ちゃん。あまり、って事はいくつか持っているのか?」


 彼女の言葉にウォルフは待ったをかけた。


「僕も気になります」


 ルイスも食いついた。

 彼女は記憶を探り、言えそうなものを挙げる事にした。


「そうね……、鍛冶神の加護とか治癒神の加護とか……、魔神の加護とかもあったわね。他には……」


「もういい、嬢ちゃん。そういう知識に疎い俺でも凄いのは分かる。稀に神の加護を持つ奴がいるんだが2つ以上は聞いた事ないしな」


「はい、それと魔神の加護は聞いた事ありませんし」


 ルイスは首を傾げながらも目では探求心を訴えていた。


「あれは呪いに近いものよ。魔法効果の大幅な上昇が得られる代わりに魔力を出している間は体力が奪われ続けるの」


 『WORLD』においてはスタミナと呼ばれる数値が削られてゆく加護であり、体力は削られないが、スタミナがなくなれば行動時に体力が減ってゆくので、結果としては体力を削っているのかも知れない。

 体力とスタミナにステータスが振られる様にした場合は、ほとんどが魔法を使えず、また逆も然り。よって人気のない加護であった。


 基本的には加護とは、それに準ずる効果の補正が得られるものが多い。

 鍛冶神の加護は装備の製作と修理に強化のスキルに、治癒神の加護は治癒系統のスキルに補正がされる。


 通常のRPGにおいて最初の村周辺でラスボスを倒せるくらいに地道に研鑽を続けた廃人だったからこそ、他のトッププレイヤーと比肩出来たのである。


「えっ?じゃあ嬢ちゃんはさっきも……」


「そうなるわね」


 先程も魔法を使っていた事についてであろう。


「例えばこれ」


 彼女は先程同様の水球を出現させた。


「これで腕立て伏せ3回分くらいよ。そして……」


 彼女はもう一度指を鳴らし、水球を新たに49個作り出す。


「50個で小村3周を歩き回るくらいかしら」


「じゃあ嬢ちゃん、奴を気絶させた電気のはどれくらいなんだ?」


 ウォルフが疑問に思った様で彼女に尋ねた。


「腕立て伏せ5回くらいよ」


 何せ初級魔法である。そんなに使う訳がない。


「それで聞いてどうするのよ。興味を持つのは分かるけど」


「知れるものは知っておくべきだと思います!」


 ウォルフの代わりにルイスが返事をした。彼女は何も言わずにウォルフに目配せをする。


「ん?何だ?嬢ちゃん」


「いや、貴方に言って欲しかったのよ。私じゃ説得力ないじゃない。まだ10に満たない私では」


「そうかい。じゃあ言っておくが少年、知らない方がいいものもある。楽を知るな、苦しめ。……と、これでいいのか?」


 彼女は小さく首肯した。


「私も人生苦しんでみるわ」





 こうして長かった暴露大会も終わった時には日も暮れていた。






豆知識

 人の体表面を濡らしていない状態で電気椅子にかけると炎上します。アリシアさんが水を使ったのはこの為かも知れません。



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