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始まりは溜息から  作者: このこな
第一章 幼少期編
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特別試験


 翌日、アリシアは母のパトリシアと共に学校へ赴いた。

 先日、ラタニア大学園から推薦をされたのだが、特待生にするに値するかテストするという。

 推薦であれば金銭面でやり繰りしようとする輩が出て来る。しかし、だからといって彼等を断れば学園は社会的に危うくなる時もある。たいていは貴族がしてくる行為であるからだ。


 この世界における貴族は二分される。

 一つは血統によるものだ。少し馬鹿らしいかも知れないが、それなりの家柄であったり、ましてや王家などといったら学園にも箔が付く。

 もう一つは実績を上げて成り上がったもの。こちらは先天的な才を持つ子供が多いのが特徴だ。

 どちらも貴族には変わりないのだが、前者は後者に比べて人間が悪い者が多かったりする。


 特待生の制度はパトリシアが提案したもので、身分に関わらず実力で優遇する事を示す役割を持つ。というのが表向きで、実際は親の威光を借りて入学した者を最上に優遇しないために設けられた、推薦よりも上の優遇処置である。

 特待生は授業料は免除であり、学園側にはメリットはないと思える。しかし、能力のあるものになる可能性が極端に高い者であれば将来的に学園の名も売れ、結果としてはプラスになるのだ。


 さて、そのテストを受ける事になったのだが……、


「お母様、何をなさるかご存知なら教えて欲しいです」


「ダメですよ。教えちゃったら準備しちゃうじゃない」


 彼女は心の準備がなっていなかった。


「おや、待たせたかい?」


「いえ」


「アリスちゃんをよろしくお願いします」


 パトリシアが一礼した。


「まだ決まった訳じゃないですよ、パトリシアさん」


「あら、敬語は不要ですよ?」


「失礼」


 アリシアとしては長ったらしい社交辞令はどうでもよかったので軽く聞き流していた。早く始めてくれないかしら、とか呟いていたのだが二人の大人には聞こえていなかった。





「では、テストをする。簡単な実技をしてもらうだけさ。知識面では申し分ないのは証明されてるからね」


「はい。何をするんですか?」


「まず、ラタニア大学園は一教育機関であるというのは分かるね。当然、フィールドワークもあるんだけど、それに関するテストになる。少し学園のシステムの説明をするけど、入学したら冒険者ギルドに所属してもらう事になるんだ。その時受け取るギルドカードには名前と身分、つまりは学園生である事が示されて、それが学生証の代わりにもなる。それで、単位……、成績の中には依頼の達成も含まれるんだ。聡明な君ならもう分かるだろう?」


「より難度のある依頼の達成が好成績に直結して、学園もそうして欲しい訳ですね」


 彼女が答えると満足げに彼は頷く。


「そうだ。そしてそれが魔物などの討伐依頼だ」


 魔物の討伐。彼女は過去に魔法の的となった憐れな魔物を思い出した。


「それが出来るか。魔物は用意出来ないから私が相手をしよう、というわけだ。つまりは戦闘技能が見たい」





 学校の中庭で二人の人物が立っていた。

 片方はグレイ・ラタニア。少し細身で短くも長くもない黒髪の男性である。刃は潰してあるもののそれなりの大きさの剣を持っている。

 片や、アリシア・レイ・イットリア。黒髪に赤い瞳。背中からは蝙蝠の様な翼がパタパタしている。そして得物はなし。


「本当に武器はいらないのかい?」


「下手に使うよりはない方がいいです」


 『WORLD』内においての彼女の得物は様々でほぼ全ての普通の武器スキルは人外に達している。そもそも何を武器に用いても構わない様な自由度ではあるのだが、上位プレイヤーであれば一般的に武器と呼ばれるものの修練度は有り得ない数字となっている。一部の人物は一種程の武器を愛し続けたが。

 前世の彼女は様々なものを使っていた部類だ。上位レベルまで達する程に戦えば様々な武器を使っていても達人レベルにはなってしまう。


 さて、彼女はそれを全て引き継いでいる訳で、不自然に映ってしまうのは確実。


「それじゃあ君はどうやって戦うつもりだい?」


「素手と魔法で戦います」





「始め!」


 パトリシアの声とともに始まった。

 先に動いたのはグレイだ。剣を寝かせて切り掛かる。その速さは剣を持っているとは思えないもの。

 それに対してアリシアは指を鳴らす。


「素手も使わないでいいわね」


 音とともに魔法陣が現れた。もちろん演出であるのだが、それだけで彼は制動し来たる攻撃に構える。魔力の波長から炎を放射状に打ち出すものであると判断したのだ。

 彼は即座に左に飛んで回避を始める。


「もっと大きく避けないと……」


 彼女は呟く。彼は一般的な直径で打ち出されるのを予想し、経験則で避けたのだが、彼女の放った火炎の直径は五倍。


「これは……、困ったな。防げ!」


 彼は苦笑いをしながらも魔法で盾を作って防御をした。やはり経験則で、範囲を大きくするために威力を落としたと判断したのだろう。

 盾に阻まれ呆気なく攻撃は霧散した。実を言うと彼女は直撃をしても問題ない(というと少し語弊があるが)威力で放ったのだ。つまりは見かけ倒し。


「本命はこっちよ」


 いつの間にか彼の背後に回った彼女は剣の腹に拳を入れた。


ガキン


と金属どうしの様な衝突音が響いた。


「痛い……」


 彼女は真っ赤になった手を振りながら、自らの翼で滞空している。


「私の勝ちかしら?」


 目に少し涙を浮かべながら彼に問う。


「まだ終わりではないでしょう?」


 彼は武器を構え直した。


「いえ、おしまいにしましょう。ラタニアさん、貴方は何で戦うんですか?」


 パトリシアが制止する。


「その武器はもう死んでいます」


 彼はまさかと思い、軽く剣を小突いてみると、そこからひび割れ、砕けてしまった。


 彼女は格闘系補助スキルの武器破壊を行ったのだ。これは武器のウィークポイントが的確に分かるというものだ。しかし、本来は身体強化の魔法と併用するものである。相応の力は必要だからだ。強化もせずに殴れば痛いに決まっている。


「ここまで見せ付けられたら合格としか言えないよ」


 彼は何かを彼女に渡した。


「入学の際にそれを提示すればいい。それが特待生の推薦状だ」


「ありがとうございます」


 パトリシアは微笑みながらその光景を見ていた。


「私も身体を動かしたくなって来ましたね……。ラタニアさん、一戦どうです?どうせ手を抜いて消化不良だったのでしょう?」


「いや、遠慮しておくよ。勝てそうにない」


「私だってもう長年身体を動かしてませんもの。いいハンデになりますよ」


 パトリシアは少し妖艶に言葉を発する。


「はあ、何をおっしゃって……、現役時代に下位種であったとしてもドラゴン相手に一人で勝った貴女に勝てる訳がない」


 彼は困った顔をして言葉を吐き出す。


「お母様……、本当ですか?」


 そして娘からは驚かれる始末である。


「アルがいたからこそ。彼がいなければ私でも無理でした。彼が武器を作ってくれたの。まだ学園に残っていませんか?」


「あれは誰にも扱えないと思うよ」


「あの……それはいったい?」


「見れば分かるさ。パトリシアさん、貴女とは死んでも戦いませんからね」


「あら、帰っちゃうの?」


「帰ります!」


 彼はズンズンと足音が聞こえる様な足取りで学校へ入って行った。






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