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始まりは溜息から  作者: このこな
第一章 幼少期編
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学校


 時は流れ、アリシアが五歳の頃、学校に通う事となった。


 この学校は各町や村にあり、通う事は(少なくともアリシアの住んでいる国では)義務である。義務教育といえど、通うのは長くとも一年弱であり、最低限の教育―例えば文字の読み書きや簡単な計算など―を行っている。

 必要課程を修了すればすぐにでも卒業が出来るが、出来なければ十になるまでは通わなければならない。十になってしまうと追い出されてしまうのだ。とはいうものの、至極簡単な内容であるので過去に追い出された人はいないとか。

 そして入学の資格は五歳の誕生日を迎えた事だけである。必要な道具類は全て学校負担であるので必要なものは主に勉強意欲と弁当だけだ。

 10時に始まり12時まで授業、12時から13時に昼休みがあり、13時から15時に午後の授業をして下校である。遠い者でも片道に一時間もかからないので通学も容易だ。

 なお、教師は国から派遣された者たちで、人格判断込みの教育力テストを切り抜けて来た子供好きである。高給取りであるが、欲に走ると合格は出来ない為、人の悪い教師はまずいない。


 さて、初めて行くにあたって場所が分からないアリシアは母と二人で行く事になる。近所にはアリシアと同い年はいようとも幼なじみではない。母はこれを機にアリシアにも人間関係を持って貰おうと考えていた。









 アリシアが学校に着くと母は帰って行った。アリシアが促され、中へ案内されるとあったのは机と椅子一式。


「最初に学校の説明をする」


 アリシアの案内役である教師が黒板に四角を6つ描く。


「まずは君にテストを受けて貰う。私が質問するのでこれから配る用紙に絵でもいいから答えを書いてくれ」


 アリシアは無言で頷く。


「テストの結果から君が最初に入るクラスを決める。結果が良ければ上のクラスから入る事が出来る」


 彼は真ん中辺りの四角に上から矢印を書き入れた。


「そして、そのクラスで習う事が分かったら一つ上のクラスに上がる事が出来る」


 先程矢印で挿した四角から右隣りの四角へ矢印を走らせる。


「そして、最後のクラスでテストをして合格したら卒業出来るからな」


 アリシアはうんうんと頷く。


「じゃあテストを始める」


 机の上に真っ白な紙とペンが置かれた。


「では、自分の知っている事を描いてくれ」


「文字はダメですか?」


「は?あ、ああ……、構わないが」


 アリシアはそれを聞いて、すらすらと紙を黒く染めて行く。

 魔法についての考察と知っている魔法、この世界の神話について、物理法則、などなど……。


「とりあえずこれだけで勘弁してください」


 渡された紙を見て、彼は思わず聞いてしまう。


「君は魔法が使えるのかい?」


「簡単なものなら使えます。知識として知るものは多々ありますが」


 全てにおいて規格外であった。義務でなければ通う必要はない程である。


「君のクラスは決まった。最後に教室で自己紹介をしてもらうから準備しておいてくれ」








 教室の前でアリシアは待たされていた。


「じゃあ入って来い」


 アリシアが入ると七歳前後の子供がたくさんいた。


「では、自己紹介をしろ」


「私はアリシア・レイ・イットリアといいます。年は五歳です」


「彼女は既に君達以上の知識を持っているからな。いくら五歳といえども侮れないぞ」


 先程の彼―このクラスの担任であった教師―が言う。彼の担当クラスは第6、つまりは最高クラスであった。

 アリシアは最初から卒業の一歩前からスタートを切ったのである。


「そうだな……、今日の午前は彼女と仲良くなる事にしよう」


 アリシアが面倒だと思う反面、他のクラスメイト達の目は輝いた。





 さて、彼女のフルネームはアリシア・レイ・イットリア。レイはミドルネームで、イットリアは姓である。

 母の名前はパトリシア、専業主婦だが昔は名を馳せていたとか。青髪赤眼、髪は軽い波をうっている。なお、アリシアの赤い瞳は母親譲りである。

 父の名はアル、主に特殊な道具の製作を行っており、魔道具も稀に作る。黒髪碧眼であり、アリシアにもその髪色は見られる。





 自分のクラスメイトは皆が皆、年上であり、アリシアは恐縮してしまう。そう周りからは思われているのか、積極的に彼女に寄って来る者がいなかった。アリシアはマズイと思い、一言告げる。


「誰か私に聞きたい事とかないかしら?」


 アリシアの素の口調は敬語ではない事とともに周りには彼女の願いが伝わる。


「じゃあ……入学試験で何の絵を描いたんだ?」


 一人の男の子が質問を投げ掛ける。

 あれ程教師が称賛したのだから余程のものを描いたと思ったのだろう。


「そんなのいちいち覚えていないわ。だけど……、そんなにたくさん絵を描いてないわね」


「じゃあやっぱりお情けなんだ!」


 周りの者が非難を浴びせる。アリシアがいるのはあまりにも不自然であるから何かをしたと判断したのだろう。


 アリシアは黙って教室を出て行った。


 教室ではアリシアが出て行き、余計に疑問に溢れていた。もしかしたら本当だったのではないか、と皆が思い始めた。





 バン、と音が鳴り、教室の扉が開け放たれる。


「待たせたわね」


 アリシアが一枚の紙を持って帰って来たのだ。


「わざわざ無理を言って持って来たわ。さあ、嘘だと思うならこれを見なさい」


 彼女が持って来たのは自らが書いたテスト用紙である。わざわざ職員室で貰って来たのだ。いや、正確には借りて来たのだが。


「うげ……まじかよ……」


 言い出しっぺが言い出した。


 アリシアの提示した紙は遠くから見ても分かるくらいに真っ黒であるからだ。

 それを机に置く。


「質問があったら遠慮はいらないわ。出来る限り答えるわよ」









 さて昼休みも過ぎ、午後からは授業である。


 しかしアリシアにとっては退屈である。小学生レベルの問題を仮にも前世で義務教育を終えていた者からすれば障害にも成り得ない。


 だから、彼女はひたすら紙に日本語で魔法について書いていた。実はこの行為、母親には秘密でしていた記号の羅列の実態である。

 もはや書き過ぎて量が増え、冊子にしてしまった魔法のメモ。魔法についてコツなどが書かれたそれは一種の魔導書となっている。魔力を持たない魔導書とは皮肉なものであるが、この世界の研究者が仮に読めれば泣いて喜ぶ代物であろう。


 さて、本には各魔法に一頁。この世界が『WORLD』に酷似していて魔法も一致している事をいい事に、全ての魔法の頁を用意し効果を書いてある。が、最後の頁だけはまだ何も書かれていない。

 『彼』だけの魔法だ。こればかりは分からない。今まで彼女が試したのは運営が開発した魔法。『彼』だけの魔法はそれらとは全く勝手の異なるものであったからだ。


 ところで今は授業中である。授業に集中していないと何が起こるか。


「イットリア、これを解け」


「これがこうで……」


「イットリア!」


「ひゃい!!」


「これを解け」


 教師にかけられるのだ。









 放課後、教師一同は一枚の紙について論議していた。


「流石はパトリシアさんの子供だが……」


 担任の彼が呟く。


「常軌を逸しておる、とな。同感じゃ」


 そう返したのは老後生活を満喫していそうな男性。彼はこの学校の校長であった。


「この年でこの才能……、彼女を来年にでもあの場所へ推薦しましょうか」


「いや……、今すぐじゃ。彼女なら来年には既に卒業してしまっているじゃろう」


「そうかも知れませんね。ですが……」


「ああ、分かっとる。推薦はいらないかも知れないしの」


 二人は溜息をついた。









 ある日の事である。アリシアはやはり授業を受けていなかった。しかし、彼女のメモは既に最後の頁以外が完全に埋まっていた。

 そう、遂に残す魔法は一つとなったのだ。


「イットリア!」


「何ですか?徹夜して眠いんです……」


「いいからこれを解け」


 既に日課となった応酬であった。


「先生、魔法使ってもよろしいですか?」


「私にか?」


 しかし今日ばかりはいつもと違う。アリシアが別の応答をしたのだ。


「違います」


 アリシアがパンと手を打った。それを媒体として魔法を発動、チョークを操って黒板に答えを書いた。


「どうですか?」


「はあ……、もういい。正解だ。だがな、イットリア、授業には励んでくれ」


「嫌です。ですが、先生が嫌いな訳ではありません。授業が存分に分かるので自分の研究の結果を纏めているんです」


「研究とはなんだ?」


「昼休みに説明しますから授業を続けて下さい」









 昼休み、アリシアは職員室に呼び出された。


「授業を放棄してまでする研究はなんだ?」


「これです」


 アリシアは紙の冊子を渡した。


「なんだ……これは?」


「魔法について纏めてあります」


「全く読めないが……。それ以前に文字なのか?」


「はい。但し、読めると問題になると思いましたので別の文字を用いていますが」


 アリシアは事実を述べる。

 対象を即死させるものや蘇生するもの、通常の威力ならば国すら滅ぼす殲滅魔法なんか知られたら危ないからだ。

 実はそれらの魔法は魔力の消費が激し過ぎてアリシア以外には一人で一回使えればいいところであろう複数人専用の大規模魔法なのであるが。


「例えばこれは何だ?」


 彼がとある頁を開く。


「範囲回復の魔法です。魔力の消費と範囲や効果の関係が纏めてあります」


「ほう……。ではこれは?」


 また新たに頁を開く。


「それは使ってはダメです」


「何故だ?」


「自らの魔力を全て使い、魔力に比例した魔力的ダメージを対象に与えるものだからです。魔力が少しでもあれば大木が消し飛ばせます。調整は効きません」


 某ゲームのマダ〇テのような魔法である。アリシアが放てば恐らくアリシア以外の者は何も残らないだろう。残りの魔力が少なくなっているのならば話は別だが。

 そんなものを仮にも使われたらこの村は吹っ飛んでしまうのは想像し得る。


「分かった。詳しくは聞かないでおこう。最後に……誰から、何からこれらを知った?」


 アリシアは返答に困ってしまう。

 生まれる前から知ってました、だなんて言える訳もない。まさに盲点であったのだ。


「え……あ……その……」


「どうした?」


 彼はニヤニヤと笑いながら更に彼女を攻める。


「その……何と言うか……」


 明らかにアリシアの目が泳ぎ始める。彼女は冷や汗をダラダラとかきながら冷静になろうと努める。


「では、君の母親に聞くとしよう」


「え……」


「臨時家庭訪問だ」









「なんで……どうして……」


 彼女が帰る時、彼も着いて来たのだ。

 そして、今、まさに母と教師が話している。ちなみに父親は仕事でいない。


「そうですか……アリスちゃんが……」


「はい。成績はいいので文句も言いにくく……」


「後でしっかり言っておきますので」


 アリシアが気まずい気持ちで母の隣で座っている。三人で一つのテーブルを挟んで座っているのだ。アリシアは母と、反対側に彼がいる。


「本題ですが……娘さんは魔法がお出来で」


「はい。それはもう私もびっくりです」


「ところが未だに知られていない魔法まで知っているのは……」


「そうなの?アリスちゃん」


 アリシアは首を激しく横に振る。内心では、やべぇやべぇやべぇ……、など連呼しながら。


「イットリア、あれを出せ」


「は、はい!」


 彼女はカチコチに緊張して例の冊子を机に置いた。


「それには魔法が書いてあるらしいです」


「そうだったの?」


「はい、お母様……」


 もはや彼女に逃げ道はなかった。


「それで……」


 彼は魔法について説明を始めた。

 アリシアは母から教わっていない魔法を伝えてしまっていた為、冷や汗が止まらない。


「……という訳です」


「それは……、……私が教えました」


 アリシアは目を丸くする。母が嘘をついて彼女を擁護するという予期せぬ出来事。しかし、彼女にとっては有り難かった。


「ですが、魔法の教え方は……」


「発動しなければ教える事は出来ます」


 パトリシアは強い語調で言った。


「イットリアさんが言うのなら……、そうなんでしょう。お忙しい中、お邪魔してすみませんでした」


「いえいえ。こちらこそ娘がお世話になっております」


 そこから社交辞令が続き、教師が帰って行った。





「アリスちゃん、話を聞かせてちょうだい」


 しかし、彼女が安堵したのもつかの間であったのだった。





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