学校の授業2
入学式が過ぎ、いよいよ本格的に授業が始まる様になった。
この頃から学園では課外活動の活動が激化しており、アリシアも少し波に呑まれてしまいそうにはなった。しかし、彼女の答えは基本的にはノーであった。
物理学を突き詰めたり、スポーツをしたり、と、在り来たりなものばかりであり、頑なに拒んだのである。前世においてそこまで運動好きであれば『WORLD』という代物には目も向けなかっただろうが、『彼』には生憎当てはまらず、運動を好んでやりたいとは思い至る事はなかった。
前世でそうであるのに今世で変わるかといえば、答えは否。人の習慣や性格はそう簡単には変わらないものである。
彼女は無視を貫き、自室へ戻るという行為を選択し続けたのだった。
ある日、彼女が帰ると、部屋の前に1人の女子が立っていた。その風貌は銀糸の様な長い髪に不思議な紫の瞳が際立つ。
「貴女を待っていた」
彼女はアリシアにそう告げると、手を取って隣の部屋に連れ込んだ。アリシアには突然の事で成す術もなかった。
「貴女、私をどうする気よ?」
アリシアは警戒しながら彼女に尋ねた。
「貴女を私の課外活動に誘いたい。どうしても貴女が必要だから」
彼女は淡々とアリシアに自らの要求を告げた。
「嫌よ……、と言いたいのだけれども、まだ何も聞いていないから断りはしないでおくわ。何をしているのか教えてくれないかしら?」
アリシアは少し期待をしながらも嫌そうに聞いた。
「魔法と科学の研究。貴女の魔法は優秀で、また知識も素晴らしい」
「研究ねぇ……。最近分かった事とかによっては是非参加させてもらうわ」
アリシアはどの程度のレベルまで研究されているのかを知りたかったのだ。それ次第では考える事を条件として提示したのはその為である。
「例えば……、高周波の魔力は物理干渉するという事」
それに対する彼女の応答はアリシアの予想を遥かに上回るものであった。
「は?えっ?……、つまり前提として魔力は波なのかしら?」
「理解がよくて助かる」
「それで密の高い魔力は物理干渉をすると?」
「そう。でも、理論上は可能でも実験は出来なかった」
「何でよ?」
「私は普段魔法をまともには使えない。それに」
「それに?」
「通常、人の感知出来る域を超えている。乗じて、そこまで扱える人物もいない」
アリシアは関われば厄介だと感じ始めた。ここで何とか逃げなければならないと。
「私がそこまで使えるとでも?」
そう、証拠がなかった。アリシアはそこにつけこむ。
「これ」
それに対して彼女は電池を取り出した。
「貴女の魔力を感じる。理論上、物理干渉を起こす事が出来るはずの魔力量。元に使われている魔石からは貴女の魔力しか感じ取れなかった。つまりは貴女が石ころから魔石を作れるという事。違う?」
アリシアはぐうの言葉も出なかった。
一部の者に聞けば、電池については調べる事も容易であり、また、彼女の魔力感知の高さも相まって、もはや返す言葉はなかった。
「その……通りよ」
苦い顔をしながらも肯定の道以外はなかったのだ。
「それに加えて、貴女は無詠唱魔法を使用している」
アリシアは目を見開いた。
彼女は魔法を使う時に確かに無詠唱魔法を用いるが、魔法の発生場所とタイミングは完全に指を鳴らしたものと一致する。
媒体の有無は基本、熟練の者でも判別は困難だが、音を媒体にした場合は判別が不可能だ。それは物体を媒体とした場合はそれから魔力の感知が出来るが、音では媒体が見えないので不可能であるからだ。
それこそ見えていなければ。
「だいたい私は貴女の前で魔法を使っていないわ」
「授業の時に見た」
「なるほど……」
魔法技術の授業は学年クラス問わず、同じ場所である。ただ存在するのは段階毎に分けられているだけ。つまりはいくらでも誰のでも見る事が出来るのだ。
「でも無詠唱とは言い切れないじゃないの」
しかし、アリシアは食い下がる。
前述の通り判別は不可能だ。アリシアは母との訓練によって、それを理解している。
「私は言った。見た、と」
「それだけで何が分かるのかしら?」
「私の『魔眼』で見た。間違いはない」
「魔眼?何よ、それ」
「魔法が可視化される。つまり、あらゆる魔力は私には丸見え。ちなみに目を開くだけで莫大な魔力を消費するし、解除も出来ない。これが私の魔法をあまり使えない理由でもある」
魔眼とは諸刃の剣であり、それこそアリシアの様な魔力量でなければ小さな魔法すら難しい。
魔眼を持つものの、魔力量が少なく、衰弱死が大半な為、彼女は生まれつき魔力量は多かったのだと推測も出来た。
魔眼は目を閉じれば魔力は消費しないので、彼女は目を閉じれば大きな魔法も容易に行えそうなのは予想出来る。
「そう……、なら私は貴女の力になるわ」
アリシアは少し生まれた未知への希望と、逃げ道のない状態から、参加を選択した。
「よろしく。私の名前はティタ。ティタ・メナカイト。ちなみに第3学年」
「ええ、こちらこそ。改めて自己紹介させてもらうわ。私はアリシア。アリシア・レイ・イットリアよ。先程までの態度は済まなかったと思っているわ」
「そう。気にしてない」
「そ、そう……」
この後、アリシアは活動場所を聞き、自らの部屋へと戻った。
「魔眼……ねぇ……」
アリシアはベッドで額に手の甲を当てながら寝転ぶといった形をとっていた。
既に寝る準備は済ませており、まどろむまで考えに浸ろうというのだ。
「研究と魔眼は何か関係があるのかも知れないわね……。まあ、本人に聞いても答えるかどうか」
彼女は自らの翼が鬱陶しく、うつ伏せになり、顔を枕に沈める。
「協力すると言ったからには力にならないとダメよね……」
そんな彼女の考えは杞憂に終わる事になるのだが、今の彼女には知り得ない。
利用されるし、利用する。そうやって世界は成り立っているのだ。
入学から3ヶ月が経ち、1年生全体で初めてのフィールドワークの授業が行われた。
2人1組で指定の薬草を採取するというものだった。
その為に午前に薬草の簡単な知識や内容の説明がされた。午後の選択授業は免除となる。代わりにその授業が入るのだが。
今回行われるのは学園近隣の森で、特に強い魔物などもおらず、比較的安全な場所で行う。しかし、万が一もあるのですぐに教師などが向かえる様にと小笛が全員に配られた。
目標はクレと呼ばれる止血効果を持った薬草を5本を根っこごと採取しなければならない。
アリシアは同クラスのメリーという女子と組になったのだが、彼女は貴族であり、ややプライドが高かった。名前も長く、面倒なので覚えてはいるのだがフルネームでは呼ばない。それについて本人は気に入らないものの了承していた。
メリーが先行する中、アリシアは荷物を持ちながらダルそうにしていた。
彼女がアリシアに荷物持ちを命じたのだ。とはいっても常識はあるようで、あくまで任されたのは薬草を入れる袋だ。
アリシアは長袖長ズボンに腰には特製のポシェット――小物入れと電池入れが脇にあり、後ろには本の入るショルダーがある――を身に付けている。
片やメリーは長い金髪を一括りにして、小さなショルダーバッグを背負うという形だ。
「なかなか見付かりませんわね……」
「そうね」
欠伸をしながらアリシアは応えた。実はいくつか見逃しているのを知っているが黙っていたりする。
「もっと、こう、群生してるとかないのかしら?」
「してれば苦労しないわね」
クレは散在しているというのを午前中に習っただろう、とアリシアは思うも口にはしない。余計な口喧嘩をする気もなかった。
「もっと奥に行きません?」
メリーがそう提案した。
「危険よ、私たちには」
さすがにオウム返しする訳にもいかず、アリシアは止めようとする。
いくら安全な森とはいえ、奥にはやはりそれなりに強い魔物や動物もいる。
ギルドのランクが他より優れているメリーといえども、1つ上なだけであり、魔物と対峙した事はないのだ。
「大丈夫ですわ。私はEランクですし、魔法も扱えますわ」
しかし、それでも他より優れている事は危険な余裕を生み出す。貴族は魔法を英才教育されるものも多く、彼女も例外ではなかった。
彼女が授業にて放った魔法は木の的を跡形も無くしてしまう程には強力であった。
アリシアから見たら大したものには映らないが、普通の視点ならばそれなりであった。
アリシアはその時にはわざわざ杖を借り言葉を発して魔法を使い焦がす程度になったのだが、あくまで加減の練習であり、やろうと思えば的が何で作られていようとも無意味なレベルの魔法も可能だ。必要がないので行わないだけである。
余談はさておき、メリーは自らのアドバンテージに自信を持っていた。それが故の発言であった。
「まあ、2人だし大丈夫よね」
アリシアは説得を諦め、メリーに現実を痛感してもらう事に決めた。
特に何も起こらずに奥に進み、ノルマを達成したのでメリーは帰ろうと提案する。当然アリシアもその気であった。
しかし、上空からの風を切る音を感知したアリシアはそれを止めた。
「危ないっ!」
咄嗟にメリーを撥ね飛ばしたアリシアに不可視の刃が襲い、肩を浅く傷付けた。
「な、何ですの!?」
メリーは少し動揺するも先程の自分の位置を見る。
そこには一筋の線があった。
もしアリシアがいなければメリーは真っ二つであったのだ。
「来るわよ」
アリシアは空を見上げる。
そこには翼膜をはためかせる緑の蜥蜴がいた。
「フロウ……リザード……」
フロウリザードと呼ばれるそれは、リザード種の空を飛べる中では最も弱かった。それでもCランカーが相手にする程度には強い。
メリーが相手をするには強すぎるのだ。
フロウリザードは鎌鼬といった不可視の風の刃を使う点で厄介であり、また爪を使った接近戦も強力である。
「メリー、笛は吹いちゃダメよ!」
アリシアは前もって注意をした。
相手は音に敏感であり、大きな音を出せば危険に晒されてしまう。
「じゃあどうすれば……」
「戦うわよ。私たちじゃとても逃げられないもの」
「で、でも、武器なんてないですわ」
「魔法があるじゃないの」
アリシアは敵から気を逸らさずに呆れるといった器用な事をしている。
「私はまだいいですわよ。けれども貴女は大丈夫ですの?」
メリーはアリシアの魔法を見ていないのだ。つまりはアリシアの実力が分からないのだ。
「気にしなくていいわ。メリーは火炎系ではない魔法で後方射撃を頼むわ」
森林火災なんて馬鹿らしい話であろう。
「わ、分かったわ」
その言葉を聞いてアリシアは魔法を使う。
「アースチェイン!」
岩で出来た鎖が蜥蜴を縛ろうと追い回す。
「サ、サンダーボール!」
さらに小さな雷の球が標的へと真っ直ぐ向かう。だが、それは敵の小さな咆哮だけで掻き消されてしまう。
「何してるのよ!」
その咆哮の隙をついてアリシアは捕縛に成功し、地面へと叩きつけた。
「腰が抜けて……、ま、魔法も……」
わなわなと震えへたりこんでいるメリーを尻目に、フロウリザードが視認できない速さで足を降り下ろし首の骨を踏み砕くアリシア。
2人の間の差は明らかであった。
「た、倒しましたの……?」
「ええ、殺したわ」
「わ、私は……役に立てなくて……」
「分かったわよね。如何に貴女が無力だったのか。戦いは如何に冷静でいられるかよ。貴女みたいに動揺していたら命がいくつあっても足りないわ」
アリシアは冷たい眼差しで彼女を見下ろす。少し返り血で染められた顔は例え年下であろうと決して逆らえる様なものではない事を如実にも示していた。
「でも、貴女ならきっと出来る様になるわよ。私も昔は貴女と同じだったもの……」
アリシアは今でこそ物怖じもせずにやっているが、初めの頃はそうもいかず、敵の存在には怯えなかったものの、殺した後には吐き気が止まらずに寝込んだのである。
そんな時の事を思い出し、しみじみとしているが、すぐにアリシアは表情を変える。
「じゃあ、帰るわよ」
「た、立てな……」
「じゃあ野性動物の餌ね。私じゃ貴女は大きすぎて運べないから貴女に歩いてもらうしかないのよ」
「わ、分かりましたわ」
ゆっくりと木を支えにしてメリーは立ち上がる。それを見ながらアリシアは周囲に気を配る。
「安心しなさい。周りには危険な生物はもういないわ」
実際にはいるのだが、これ以上腰を抜かされたらたまったものではない。
アリシアは軽く泥を払い、ついでに払った音を媒介にして気配隠蔽の魔法を2人分行使する。
「何か魔法を?」
メリーはアリシアの魔法に気が付いた様だが、何の魔法かは分からなかった様であった。
「何もしてないわよ」
しかし、彼女は悟られるのも嫌なのでしらばっくれた。
到着した時には日が傾き始めていて、アリシアとメリーは1番遅かった。
森の奥まで踏み入り、魔物を殺して、途中の小川でアリシアが服や体を軽く洗い、それらを乾かしてから来たのだから遅くなるのは必然であった。
「さて、無事に帰って来れた様だが……、遅くなった言い訳を聞こうか」
教師が顔を少ししかめながら2人に問う。彼女らの1つ前の組は数時間前には帰って来たのだ。その不自然な遅さは疑いの種となるのは当然といえた。
「私がけがをしてしまって薬草をいくつか使ってしまったの。だからその分を追加で採取したわ。そしたら予想以上に見つからなくて遅くなってしまったのよ」
「そうですわ。私も大変でしたの」
メリーは口裏を合わせようとしたのだろうが見事に失敗していた。そんな彼女を一瞥するアリシアにたじろぐメリーがいた。
当然それが原因で嘘もばれる。
「イットリア、どこをけがしたんだ?」
「そ、それは……」
手足ならば見せろと言われるであろう。背や腹などといった部分ならば見せろとは言われなくとも森でけがをしたには不自然だ。
クレには止血効果はあるが、劇的に現れるものでもなく、もし追加でそれこそ数時間も遅れる程のけがであれば、別の手段を用いた方がよい。
クレは掠り傷に磨り潰して使うものであり、1回で1本使うか否か。
アリシアは言葉を詰まらせた。
言い訳にしては矛盾が多すぎている。つまりは嘘が意味をなしていない。
「私が悪かったのですわ!」
突然、メリーが叫んだ。
「私が奥へ行こうと誘ったのがいけなかったのですわ。そしたら……、フロウリザードに遭遇して……」
メリーは堪えきれず告白した。それによってアリシア代わりに受けようとした罪を、本来受けるべき自分へと変えたのだ。
メリーとてプライドはあろうが、命の恩人に対してプライドを優先する程愚かではない。
時には自らの失態を晒すのも必要な事は知っていた。そして、それがこの時だと判断したのだ。
「成る程な。して、そのフロウリザードはどうした?」
教師の方はそれよりも1年生がどう切り抜けたのかが気になってしょうがなくなった。
フロウリザードは危険度Cの魔物。2人ならば苦戦して然るべき相手であり、ましてや実力も不足した(と教師が見る)彼女らには敵う相手ではないはずだ。
さらにフロウリザードの習性からして笛の使用は危険である事。
それらから鑑みるに彼女らの生還は奇跡的でもあった。
だが、彼には1つ、はかり違えたものがあった。
「フロウリザードは……、私たち、いえ、イットリアさんがが殺しましたわ」
彼は彼女の存在を知らなかったのだ。
「イットリア、それは本当か?」
「ええ。ただし、彼女も戦ったわ。私たちでフロウリザードを殺したの。笛も事実上使えないのだからそれしか手段はなかったわ。まあ、そんな強い相手でもなかったし」
アリシアは一転していつもの表情で報告した。
「フロウリザードを2人で、か」
「わ、私はその場にいただけで何も出来てませんわ!」
メリーは精一杯訂正を求めた。
「ではイットリアが1人で殺したというのか?」
教師はまさかそんな事はないだろうという顔をする。
「だいたい遅れた言い訳にフロウリザードを使っただけじゃないのか?」
例年、そういうのが数組いるのだ。教師がそう思っても不思議ではない。
所詮口だけの彼らは嘘もばれてしまい、自らの無能さを思い知る事になる結果に終わる。
しかし、彼女らの言は信じ難いが事実には変わりない。
アリシアはどうにかしてこの事態を脱却しようと思考を巡らせた。もちろんメリーも同様であった。
「そうね……、分かったわ。場所は覚えているし、案内するわ。ただ、メリーは残して、ね。メリーには悪いけど、この時間から森に行くには足手まといだからよ。それでいいかしら?」
日も傾いているというのにその様な提案をした彼女に対して彼は反対した。
アリシアはそれを拒否する。
「そんなのんびりしてたら熊にでも食べられてしまうわ」
「けれども時間が足りない。後日だ」
「ダメよ。それと時間は足りるはずよ」
「どうして断言出来る?」
「先生なら生徒の全速力には着いて来れるでしょう?」
彼女は教師に微笑んでみせた。
「ふむ、1年生が全速力で往復出来る距離ならば時間は足りるな。ならば解散だ。イットリアは案内しろ」
メリーは何だかんだで解放されて自らの寮部屋へ足を向ける。
「さて、魔法のアシストは使わないと間に合わないわ」
アリシアはそんなメリーを見てから指を鳴らして、運動能力の向上と風の抵抗の緩和と飛行アシストの魔法を重ねて行使し、翼を広げる。
「準備はいいかしら、先生?」
「あ、ああ」
教師は彼女を1年生だからといってなめていた。なのでしばし呆然としていたのだが、我に返る。
「付いて来なさい!」
彼女は弾丸の如き初速で森へと飛び去る。教師は全力で慌てて追うも距離はどんどんと開いてゆく。
彼女としては全力ではないのだが、彼は全力で追いかけている。
「イットリア……、ま、待て!」
彼が焦ってその言葉を放つとピタリと彼女は止まった。
「何よ」
彼女は目上の者に対する態度としては最悪な態度をとりながら彼を待った。彼女としては彼を敬うべき相手として認識してないのが原因であるのだが。
「もう少しゆっくりと……」
「しないわよ。間に合わないもの。そうね……、飛行魔法は使えるかしら?空を飛べば幾分かは速くなるのだけれど」
「飛行魔法?」
彼は首を傾げる。
この世界において発見されていないから、彼が知らないのは当然である。
「ない……のかしら?」
彼女はそれを察して顔色を悪くする。
「ないな」
彼女は頭を抱えた。
「ああ、もう!魔法をレジスト(抵抗)しないでちょうだい!分かったわね!?」
彼女は彼に魔法を行使し、空から無理矢理運ぶ事で無事に現場へと到着したのだった。
「――――という訳よ」
彼女はその授業の内容を細かに説明した。
「それはそれは」
それを聞いて彼女――グリーン・ラタニア――は苦笑いをする。
あれから数日、彼女は唯一まともに話が出来そうな場所へと足を運んだのだった。
あの後、証拠を見せて学園へ同じ方法で戻り、面倒なので彼には理事長に話をつければ分かる、と丸投げしたのである。
アリシアはアリシアでメリーと共に罰を受ける事になったが、彼は彼で職務怠慢としてまた処分をくらったのだ。とんだとばっちりである。
彼女らへの罰は謹慎であり、アリシアはその間に理事長室に来たのだ。まるで謹慎の意味がなかった。
「生徒に謹慎とか何の意味があるのかしら?」
「まあ、形だけですから。彼にも彼女にも教訓となったでしょう」
教師は前々から子供だからと生徒をなめている節があったらしく、これを機会に考え方を変えてくれるだろう、と。
また、メリーは実地で体験する事で野生の厳しさなどを身をもって知ったのだろう、と。
「時に貴女」
グリーンはアリシアに話をふった。
「なぜ貴女も謹慎処分となったのかは理解していますか?」
そしてアリシアにももちろん理由はあった。
「メリーを止めなかった事かしら?」
「違います。貴女が彼女を止めなかった事は特段問題はありません。彼女の様な人物はたくさんいますから、むしろ良かったと言えます」
「じゃあ、何よ」
アリシアは顔をしかめる。
「仮に、仮にですが彼女が死んでしまっていたらどうなりますか?」
「それは……、私も悪いわね」
「そしてその時、貴女はチームだった彼女の死に対しての責任は取れましたか?」
「責任?」
アリシアはさらに顔をしかめた。
「そうです。貴女はもう少し先を見据えて動く事を考えていかなければいけません。とはいっても、まだ人生経験が浅い分、難しいかも知れません。その場合、火の粉はその周りへと降りかかります。貴女ならこの言葉は理解出来るのではないですか?」
アリシアは部屋に戻り、ベッドに仰向けになる。
「責任ね……」
自分にはまだまだそこまでの責任を負うほどの器はない。そう彼女は考えた。
人生経験は年の割には転生したのも理由として豊富である。しかし、そんな事とは関係無しにこの世界ではまだ10年も生きてはいないのだ。当然、親からは独立も出来ず、責任も流れてしまう。
「私はもう少しゆっくりすれば良かったのかしら?」
彼女は自問する。
そして彼女は顔を横に振り、自らの答えも出ぬまま眠りに就いたのだった。