第81話 爆撃の果てに
彼はまた、一人で道を行く。
何にも捕らわれず、我が道を行く。
誰が何と言おうとも、自分の信じた道を決して曲げない。
「アイツ等……何回言ったら俺から離れずにちゃんとついてくるんだ」
そう、彼―――リーフ・クリークははぐれたのである。
更に言うと、道に迷っている。
だが、彼は決して自分を疑わない。
迷惑なことだが、自分ではなく、周りの人間が道に迷う方向音痴だと思っている。
「……とりあえずどっかの部屋に入ってみるか」
最寄りの扉の前に立つと、どうやって開けようか悩む。
選択肢は二つ。
蹴破るか、銃弾で粉々に粉砕するか、である。
普通に手で押して開ける、という選択肢はリーフに、というより、クリーク兄弟にはない。
「よし、やっぱコッチか」
そう言って、銃に手をかけた瞬間、背中に悪寒が走り横に跳ぶ。
それとほぼ同時に扉が爆発した。
「な、何だ……?」
「あ~、なんかいると思ったらお前か。リーフ」
爆炎の中からノソノソと出て来たのは、長い金髪の青年だった。
地面スレスレの長い黒いコートが足に絡まって歩きづらそうだ。
「コレウザいな……」
言って、足に絡まるコートを引きちぎった。
とにかく不恰好になってしまったコートを気にせず着ていられる精神はどうなのだろうか。
「クラウン……お前、何でこんな所に……」
「……ふむ、オレだけじゃなさそうだがな」
クラウンは顔をリーフのいる方とは逆の方に向ける。
そちらにいたのは真っ白な長髪をなびかせた忍。
右手には長刀、左手にはクナイ。
「やっと見つけた。始末する」
「アダン、お前……」
「リーフ、そこをどけ」
リーフは二人を交互に見る。
アダンの顔には明確な殺気。
クラウンは殺気を向けられているが、どこ吹く風と言わんばかりに涼しい顔をしている。
「アダン、お前何やってんだよ」
「良いからそこをどくんだ、リーフ」
「……どかねーよ」
クラウンの前に立ってアダンに銃口を向ける。
ぶつかり合う二つの殺気。
「こんな所で身内で争ってる場合じゃねーだろ」
リーフが言い終わるのが早かったか、アダンが動き出したのが早かったか。
いや、正確にはアダンが相手の、この場合はリーフの隙を突いたのだ。
ほんの一瞬の気の緩み、常人には気付くことすらできないような隙を、アダンは決して見逃さない。
「邪魔だ」
アダンは右腕でリーフを突き飛ばす。
次の瞬間、視界が光に包まれたかと思うと、激しい爆音とともに大きな爆発が起きた。
リーフが立っていた場所から。
「なっ……!?」「リーフは外れたか。アダンも右腕だけ。腕が落ちちまったのかもな」
「クラウン、何しやがる!」
「まだ解らないのか」
アダンが冷めた口調で言う。
いや、口調は常に冷めているのだが、先程の言葉には明らかな呆れの色が混じっていた。
「コイツは、クラウン・ジョーカーは、闇の幻影の副総統。つまり―――」
クラウンは表情を崩さず、じっとアダンを見ている。
「敵だ」
アダンの右腕は、肩の辺りから消し飛んでいた。
悲鳴。断末魔。阿鼻叫喚。
様々な呼び方があるが、そのどれにも当てはまる共通点は、"恐怖"から起きるということだ。
今、彼女を見た者がいたら、あまりの恐怖に悲鳴すらあげられないかもしれない。
そのくらいに今の彼女―――スウェル・マクシードは異常だった。
彼女から溢れ出る輝力も、殺気も、彼女にまとわる何もかもが異常だった。
「スウェル・マクシードだな。お前はここま―――」
「邪魔や」
「でっ―――」
その赤い髪は血と同じ色。
その血は全て返り血。
彼女を恐れぬ者はいない。
彼女を畏れぬ者はいない。
恐れた上で、畏れた上で思うだろう。
何故、彼女はあんなに悲しそうな顔をしているのだろう、と。
爆発と共に建物が揺れる。
今のクラウンに迂闊に近づいてはいけない。否、近付けない。
触れたものを全て爆発させる、今の彼には。
「逃げてるばっかりか?」
「作戦会議中だ」
「立てれる作戦なんかねーし、立てる必要もねーよ」
リーフは両手に握っている銃を投げ捨て、その代わりに破動で銃を生み出した。
「一回お前をブッ潰したかったんだ。良い口実ができた」
「……来いよ」
「破壊神の怒りの極刑!」
銃から放たれたのは光の巨人。
ただ以前のものよりは力をセーブしているので、それに比例してサイズもいささか小さい。
それでも、威力は甚大だ。
「………はぁ」
だが、光の巨人は、クラウンの溜め息と共に爆発し、消え去った。
「この程度なら本気を出す必要はないな」
「っ……!」
誰が見てもわかる。
今のままのリーフではクラウンには勝てない。
元々の力の面でもそうだが、今のリーフは心の底の、自分でも気付かない辺りで手を抜いてしまっている。
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
まだ心の中では、クラウンのことを仲間だと思っている。信じている。
「……退け、リーフ」
「あぁ?俺はまだやれる」
「正直に言う。ここにいられると邪魔だ。目障りだ。消え失せろ」
今や片手だけとなってしまったが、心の中で無意識のうちに手を抜いてしまっているリーフよりは、アダンの方が役に立つだろう。
アダンには、そういう心はない。
仲間を思う気持ちはない。
彼は、スウェルを守るためだけに、"生き返ったのだから"。
「ウザってぇな」
クラウンの声音が変わる。
見ると、ちょうどタバコに火を付け終えたところだった。
それと同時に姿が本当の年齢のそれとなった。
「いい加減ウゼェ。お仲間ゴッコは終わりなんだよ」
「……先程までとは比べ物にならない輝力だな」
少し動いただけでも死んでしまいそうだ。
まるで、周り一帯が地雷原と化したようだ。
「リーフ、俺が特攻すると同時に逃げろ。コイツがこうなってしまっては俺達二人でもまず勝ち目はない」
「はぁ?ふざけんな!誰が逃げるって―――」
「良いから逃げろ。お前、あの方に何と言われたのか忘れたのか」
あの方、アダンがこの言葉を使うときは十中八九スウェルのことだ。
スウェルは解散前に言った。
「死ぬな」と。
スウェルの意思はアダンの意思と言っても過言ではない。
「………生き残れ」
そう言うや否や、アダンはクナイを握って特攻した。
しかし、爆発。
全てを無に帰す、無にする爆発。
あと数十㎝というところで、アダンの体が爆ぜ、消し飛んだ。
「…ダン………アダンッ!!!」
「お前も死ね。リーフ」
そして、クラウンを中心に起きた巨大な爆発が、全てを呑み込んだ。
名は無かった。
だがある日、彼女が名を付けた。
それから彼女は俺の大切な人になった気がする。
何をしても、どうなっても、絶対に守り抜こうと思った気がする。
いつも、俺は彼女の側にいた。
彼女が見ていないところで、俺は彼女を見ていた。
あの日、あの戦争の日、彼女は壊れかけた。
それを守れたのだから、死んでしまったが悔いはなかった。
なのに、またこの世に戻ってきてしまった。
何の因果か、誰の意図か。
だが俺は生き返ってもあの人を守る。
それだけは変わらない。
爆心地に佇むクラウン。
うっすらと目を開けている。
横たわっているリーフは生きていた。
外傷が酷く、虫の息に近いが、確かに生きている。
「クラウン……そういやこれが初めてやなぁ……」
リーフの目前に立つ後ろ姿。
それは見間違える筈のない後ろ姿。
「お前と殺し合うんは……!!」
セーブ『アース』のボス。スウェル・マクシード、その人だった。
(風見燈環)
「……ジャスト5か月ぶり」
(カイン)
「とりあえず、死んどこうか」
(風見燈環)
「待て待て待て待て!ホント悪かったって!」
(カイン)
「どこの誰が許そうと、俺と読者は許さねぇぞ!」
(風見燈環)
「ホントにスミマセンでしたぁぁあああ!!」
※ゴミを焼却中
(カイン)
「次回もお楽しみに」
(風見燈環ver.黒コゲ)
「お、お楽しみに……」