第80話 『アース』の人間は皆
「こぉぉんにぃちはぁぁぁぁ!!」
カレンとダルトが部屋に入ると、いきなり大声で叫ばれた。
叫んだのは地面に付くほど長い白髪の男だ。
前髪で顔は全く見えない。
その隣には鼻から左頬にかけて傷跡がある、セミロングの赤い髪の女性がいる。
「来たね来たよ来まぁしたねぇぇぇ!」
「うるさいぞ、ローデスク。これ達はあれ等を倒すだけだ。少し黙れ」
「はっはぁぁい!了解しまぁしたぁぁぁ!リィィオォナさぁぁん!」
ローデスクと呼ばれた男は相も変わらず黙ろうとしないが、元から本当に黙らせる気は無かったのか、リオーナと呼ばれた女性はそれ以降何も言わない。
「殺し合いを始めようか。ああ、別に名乗らなくても良い。物の名など一々覚えている暇はない」
「……何なのコイツ等」
カレンが呟いた瞬間、部屋が真っ二つに割れた。
否、分裂した。
「―――――っ!」
「な、何だ!?」
「『セットアップルーム』。ローデスク、それは任せたぞ」
「まぁぁかさぁれ―――――」
最後まで言い終らぬうちに、部屋は完全に二つに分裂した。
(幻覚……では無さそうね。だとしたら物を分裂させる能力……?)
「考えている暇は無いぞ」
リオーナが言った瞬間、カレンの足元から刃が飛び出し、カレンの足を貫く。
これは比喩ではなく、本当に刃が飛び出したのだ。
「なっ―――――!」
「これの力は最強だ。これには勝てない」
「……あー、めんどくさっ」
刃から足を引き抜く。
血が溢れ出る。
「最強?なら私は最最強よ」
案外子供っぽい返しをするカレンだった。
もう片方の部屋で強烈な音が響く。
そしてローデスクが吹っ飛ぶ。
「がっはぁぁぁ……痛いぃぃぃ……!」
「……何だコイツ……弱いな」
「だけど負けるわけがナァッシィィング!」
ダルトにとって、ローデスクはあまり得意なキャラではなかったのだろう。
「……一気に終わらせる」
初っ端から破動を使った。
地面から飛び出す刃を躱しながら、カレンは少しずつだがリオーナに接近して行く。
「案外避けるのだな」
これはカレンをバカにした言葉ではない。
先程足を貫かれたにも拘らず、ここまで動ける事に驚いているのだ。
(何故此処まで動ける……?)
「くら―――」
カレンは槍を振りかぶる。
まだリオーナとは5m程距離がある。
「えぇッ!!」
「………?」
その場でカレンは槍を振り抜いた。
というより、素振りをした。
当然当たる訳が無い。
カレンの槍は約2m、腕の長さを入れてもリーチは約3m。
「何をして……」
「隙ありぃ」
そう言うや否や、カレンは動き出していた。
槍を地面に落としての全力疾走。
そして、全力疾走の勢いをそのまま拳に乗せ、リオーナを殴り飛ばした。
「よしっ!」
「ぐっ……、貴様……!」
「ん、それはやっと私を人間と認めてくれたって事なの?」
「………ゴミが」
一瞬、リオーナの体から黒い靄が出る。
しかし、突然部屋を包んだ光によって、二人の視界が遮られる。
その光が小さな爆発を起こすと同時に二つの影が飛び出してきた。
「がぁっはぁ……!」
「ッ………」
二つの影はダルトとローデスクだった。
どちらもボロボロだが、ダルトの方が傷は深そうだ。
「もう終わったのか?」
「もうすこぉしでぇぇす!!」
「……そうか」
リオーナもローデスクのテンションは苦手なのだろう。
一瞬本気で嫌そうな顔をした。
「ちょっ、アンタ!大丈夫なの!?」
「大丈夫とは、言い難い……」
カレンはダルトとローデスクを交互に見る。
二人の様子からして、力はほぼ互角。
カレンはそう考えたが。
「言っておくが、互角なんかじゃない……。途中までは、勝っていた。だが、アイツの能力、アレは相当に厄介だ……一撃で、このザマだからな……」
「……ったく、面倒なのが増えたってことね」
カレンの考察。
リオーナの能力は、この部屋を自由に扱えるというもの。
ただし、本気を出していないのか、出来ないのかまでは解らないが、大仰かつ繊細な操作はできないようだ。
その証拠に、自分が立っている地面以外の全ての場所から刃を出すという、最早最強ともいえる技を繰り出していない。
そしてローデスクの能力。
これはダルトの話を聞いただけなので、一撃に重点を置いた何か、という事しか解らない。
だがこれだけで、情報は十分とは言わないまでも、足りている。
「つまり、気を付ければ良いのはあの男の攻撃だけ。あの女の攻撃は大した事ない」
「ほぅ、ならば―――」
リオーナは細い目を更に細めて言った。
「後は全て、ローデスクに任せよう」
そして、天井が崩れ落ちた。
「……大丈夫か?」
ダルトが崩れてきた天井を全て粉々にして、二人は助かった。
瓦礫の重さで床が抜け、一階まで落ちたようだ。
と言っても、元いた階は一階だが。
「私は大丈夫だけど、こんな事したらアイツ等……」
「アイツ等が、何ですってぇぇぇ?」
ローデスクは瓦礫の中心に立っていた。
立っているのもやっと、という感じだ。
「………あの女は?」
「リオーナさんですかぁぁ?その辺でぇ潰れちゃってるんじゃあないんですかぁぁ?」
「……あぁ?」
何を言っているんだ、と思った。
仮にも、いや、仮でなくとも、仲間だったのに。
「………のかよ」
「すいまっせぇぇぇん!聞こえませんでぇぃしたぁぁぁっ!」
「……仲間じゃ、なかったのかよ」
「仲間でしたよぉぉ?仲間だからこそ、私にぃ任せてくれたんでぇぇすよぉぉ!」
「お前―――」
「流されるなよ」
ダルトは冷たく呟く。
だが、それはしっかりとカレンの耳に届いていたようだ。
「『アース』の人間は皆こんな奴だから困るんだ」
「……どういう事?」
「自分の仲間がやられたら怒る。これは普通だ。だが、自分達とは全く関係ない奴等も、自分達と同じだと思っている」
「……………」
「つまり、他人が仲間を傷つけたら、怒ってしまう」
一番分かりやすいのはカインだ。
彼は、『聖冠団』での過去も相まって、"仲間を大切にしたい"という気持ちが強い。
「正直怒られる方からしたら、迷惑だし理不尽だし鬱陶しい。自分達の考えを押し付けんな」
「別に、押し付けてなんか……」
「と、ユーレン隊長が言っていた」
「ここで人のせい!?」
ダルト自身も少なからず思っているだろう。
「別にどう思われようと構わない。私はイラッと来たからアイツをサクッとぶっ飛ばすだけ」
「それこそ、理不尽だろうけど―――」
右肩を回す。
ちゃんと動く。
左肩は……動かせない。
脱臼してしまったのだろうか。
「まぁ、こっちだけ動けば、十分か」
「……準備オーケー?」
「万全じゃあ、ないけどな」
「アイツ、倒すわよ」
「ああ……」
丁度、話が終わった所で、ローデスクが笑いだした。
全身から黒い靄が出ている。
「体の中に、闇族か……」
「来るぞ!」
次の瞬間、ローデスクは跳躍した。
手には大きな瓦礫。
「はははぁぁあぁぁぁあああ!!」
勿論、それを二人に向かって投げ落す。
「避けるな!!」
カレンはその言葉通りに、その場を動かない。
ダルトは右手に力を込める。
「はぁぁあああ!!!」
ダルトの突きで、瓦礫は粉々に砕け散る。
それと同時にダルトの右腕も砕ける。
だが戦いの最中にそんな事は一々気にしていられない。
ローデスクが降りて来るであろう上空を見上げる。
しかし、既にローデスクの姿は空中に無かった。
「こっちでぇぇすよぉぉ!!?」
「え……?」
カレンの背後、ローデスクは腕を伸ばしていた。
ローデスクの人差し指とカレンの背中まで、後30㎝。
「そいつに触られるな!!」
「遅いでぇぇす!」
「っ……!」
触れられた。
ただそれだけで、カレンは吹っ飛んだ。
吹っ飛んで、瓦礫に激突した。
「『カウントカウンター』。自分が受けたダメージを、そのまま返して差し上げましたぁぁ!」
だから、ダルトの方が傷だらけだったのだ。
ダルトが付けた傷の分を、ダルト自身が返されていたのだから。
正確には、上乗せされていたのだから。
「かはっ………」
ローデスクは血を吐き出す。
先程までの傷が響いている、訳ではない。
いや、それもあるだろうが、腹に深々と刺さった槍の傷のせいが一番大きい。
「なぁああぁぁ……?」
「ただじゃ、やられない、か……」
重たい右腕を、必死に上げ、外れていた左肩を治す。
次が、最後の一撃。
「いくら返そうと思っても、やられちゃ返せないよな」
左手でしっかりと槍を掴み、逃がさない。
「終わり―――」
右腕を振りかぶる。
痛みなど、関係無い。
「だァッ!!」
ダルトの拳がローデスクの顔面に突き刺さり、吹っ飛ばした。
ダルトは瓦礫を足でどけて、カレンを捜している。
「……大丈夫、か?」
輝力が尽きたのだろう。
破動が解けて、口調も元に戻っている。
「大丈夫とは、言い難い……わね」
そう言う表情は少し笑っている。
「終わった、ようね」
「……ああ、終わった」
「あー……なんか、締まらない……勝ち方ね」
納得いかないわ、そう最後を締めくくって、カレンは目を閉じた。
(風見燈環)
「約一ヶ月半も待たせてしまって申し訳ありません。今後も今回の様に遅れてしまう事があると思いますが、ご了承ください」
(カイン)
「理由も言わずにそれは勝手過ぎんだろ」
(風見燈環)
「理由は、学校が忙しくて……」
(カイン)
「何だって?」
(風見燈環)
「学校が……」
(カイン)
「何だって?」
(風見燈環)
「がっ……」
(カイン)
「な、ん、だっ、て?」
(風見燈環)
「……すいませんでした!!」
(カイン)
「まぁ良いや。次回もお楽しみに」