第73話 思い出されつつある感情
今回に限って主人公はシュード・フリーザー。
少しばかり彼の紹介。
15歳、性別男、身長162㎝、体重42㎏、原流士、性質は冷気、感情を忘れた死神、一部の者からは『冷酷の死神』と評されている。
そんな彼も、生まれた時から感情が無かったわけではない。
元々は、ただの少年だった。
そう、輝流を使えない、ただの少年。
そのただの少年は、親に捨てられ、実験台にされた。
今回は、そんな元ただの少年であり、現死神である、一人の人間の過去物語―――――
5歳の時。
少年は親に捨てられた。
というより、実験台として売られた。
貧困な家庭だった為、金欲しさに子供を売ったのだ。
その時、勿論少年は泣いた。泣きじゃくった。
しかし、少年はすぐに泣きやむ事となる。
否、泣く事が出来なくなる。
本人曰く、感情を忘れてしまったから。
楽しいとも、悲しいとも、嬉しいとも、辛いとも、怖いとも、痛いとも思えなくなってしまったのだった。
6歳の時。
少年は実験施設に捨てられた。
実験自体は一週間ほどで終わるのだが、観察期間が一年あるのだ。
その一年の間で、用済みとなってしまった者は、捨てられる。
しかし、少年は捨てられた事に何も思い、感じる事が出来ず、スタスタと無表情で去って行った。
その様子を見ていた研究員達は気味悪がっただろう。
少年は三日間歩き続けたが、力尽きて倒れた。
雪の中に倒れた。
だが、少年の命はそこで終わる事は無かった。
少年が倒れた場所の、直ぐ近くにある村の老夫婦が偶然助けてくれたのだ。
少年は、老夫婦の家に住む事になった。
時は大きく飛んで12歳の時。
老夫婦は少年を捨てなかった。
逆に、大切に、大切に育ててくれた。
事件はある日突然、唐突に起きた。
何の事は無い、歴史にも残らないであろうただの事件。
村が盗賊のグループに襲われた。
ただ、言ってしまえば、それだけの事件。
一つ珍しい事があるとするなら、村人が誰も死ななかったという事。
だが、村人が死ななかった代わりに、盗賊のグループが、全員死んだ。
殺された。少年に。
少年は人を殺した事に何も感じなかった、感じられなかった。
老夫婦は少年を捨てた。
いくら自分達を守ってくれたとは言え、無表情で、残酷に人を殺している姿を見てしまって、流石に気味悪がっていた。
少年は一人になった。
その日も、雪が降っていた。
「あー……」
少年は一人呟く。
呟くというより、呻くという表現の方が近い。
「おい、アイツ等もしかして全員死んだんじゃねぇか?」
「はぁ?ただの農村だろ?」
「だけどよ、半日くれぇで帰ってくるだろ。けど三日だぜ?」
盗賊のグループの残党であろう数人の男達が話している。
少年は、その男達の歩く道の前で座っていた。
「あ?何だこのガキ。何してやがんだよ」
「あなたたち、この前死んだ人たちの仲間ですか?」
「死んだ…?そりゃどういう事だガキ!」
「すいません、その人たちなら殺してしまいましたー……」
恐らく、本当にすいません、等とは思っていないだろう。
いや、何度も言い変える必要が無い気がするが、思えないだろう。
「殺した?お前みたいなガキがか?笑わせ―――――」
その瞬間、男の首が飛んだ。
周りで笑っていた男達の顔が引きつる。
「んー……やっぱり、何で捨てられたのか、よく分からないなぁ……」
「どうなってやがる!ガキ!一体何しやがった!!」
「何って、人を殺しただけなんですけど……駄目でしたか?」
「このガキ…!おい、コイツ、生け捕りにしてボスの所に連れてくぞ」
男達が、少年に近寄る。
その日、その場所では、赤い雪が降った。
少年は、その後も、出会う人を殺していった。
幸い、というのはおかしいが、その中には、盗賊や山賊しか含まれていない。
少年は、殺した者達の食料などを奪って生きていた。
動物的な本能として、飢えをしのいでいた。
かといって、毎回全員を殺せたわけではない。
逃がしてしまった事も多々ある。
そういう者達から噂は伝染していき、いつしか、『冷酷の死神』と呼ばれるようになった。
13歳の時。
少年は一人の女性と出会った。
長い赤い髪を持つ女性。
少年は、やはりその女性を殺そうとした。
しかし、殺せなかった。
逃げられたわけでもなかった。
ただ、敵わなかった。
「君が死神君?なんや、えらい可愛い子供やん」
「あなたは……何者ですか?」
「うーん、君に会いに来たただのおねーさんや」
「僕に会いに来た?それは僕に殺されに来たんですか?」
「ちゃうちゃう、うちの所にけぇへんか?って勧誘しにきたんやけど」
「はい?何言ってるか解りませんー」
女性は言った。
「せやから、君を助けに来たっちゅうこっちゃ」
「助けに来た?助けられる覚えはないんですけど」
「いやぁ、うちのメンバーの一人が、『せめてもの罪滅ぼし』やって言うて、君みたいな被害者を助けようとしとんねん」
「僕みたいな……被害者」
「君の事はよう覚えとるらしいで。何でも殆ど感情を失ってもうたって」
「……それで、僕は助けられて何かメリットはあるんですかー?」
「メリットを求めるて……君ホンマに感情失なっとんの?」
女性は苦笑して言う。
そして、人差し指を立てる。
「別にメリットがあるっちゅう訳やないけど……何か欲しいものあんの?」
「そんなのありません」
即答だった。
欲もないというのか。
「せやったらエエやん。ほな、行くで~!」
女性はいつの間にか、少年の腕を掴んでいた。
そして、その場から飛び立った。
跳んだのではなく、本当に飛んだ。
「これで君も『アース』の仲間入りや~!」
「……意味が解らないんですけど」
「意味なんてあらへんよ~!」
こうして、少年は、半ばどころか殆ど無理矢理だが、『アース』に入る事になる。
シュードはある村に来ていた。
雪が降り積もっている。
「……何でまたこんな所に来ちゃったんでしょうねー……」
そう呟いて、とある民家の前に立つ。
中からは二つの声がする。
とても、楽しそうな声。
「……はぁ」
シュードは溜め息を吐いて、しゃがみ込む。
そして、地面に手を翳す。
数秒後、シュードは立ち上がり、どこかに去っていく。
民家から一人の老人が出てくる。
「おや」
老人が見つけたのは、一輪の氷の花。
「氷……氷と言えば、あの子は元気かのぅ」
老人は昔を思い出す様に空を見上げる。
家から老婆が出て来て、老人の隣に並ぶ。
「どうしました?」
「いやのぅ……三年前のあの子はどうしておるか、と思うてな」
「あの子ですか……あの子には、悪い事をしてしまいましたねぇ」
「うむ、儂等を守ってくれたにも拘らず、儂等はあの子を……」
「……どこかで、元気にしてくれていると良いですねぇ」
「そうじゃなぁ……」
村の様子を上空で見ていた者がいた。
長い赤い髪を持つ女性、スウェル・マクシードだ。
「ふふふっ、シュードもおもろい事するようになったなぁ」
シュード・フリーザー。
感情を殆ど失った、本人曰く忘れてしまった少年。
殆ど、つまり、全てを忘れてしまったわけではない。
「そこそこ思い出したっぽいなぁ。良かった良かった」
『アース』に入ってからおよそ二年。
シュードの感情は少しずつだが、思い出されつつある。
彼が笑顔を見せる日は、そう遠くない未来なのかもしれない。
(雪龍)
「次回からは間違いなく新章突入です!」
(カイン)
「やっとか」
(雪龍)
「その名も、『咎めの闇編』です」
(カイン)
「おっ、なんともまぁ……アレだな」
(雪龍)
「アレって何だよ!」
(カイン)
「まぁ、期待一割不安九割だな」
(雪龍)
「不安の割合高っ!」
(カイン)
「……まぁ、次回もお楽しみに」
(雪龍)
「あ、行間章のアイディア待ってまーす」