第70話 ヴァンパイアの苦悩
「へぇ、最近は甘党で面倒ぐさがるけどいざという時に活躍出来る人が人気なのですか……」
暗い部屋で雑誌を読み、せんべいを食べる青年。
暗い部屋だが彼には雑誌の文字がくっきりと見えている。
「やっぱり……ヴァンパイアって人気ないんですかね……」
そう、彼の名はリアン=ヴァンパイア。
名の通り『血を扱う者』。
だが皆が思うように、ニンニクや十字架は苦手ではない。
ただ、日光に少し弱いだけ。
「こうなったら、あの人達に相談してみますかね」
リアンは部屋を飛び出した。
「で、何でここに来たの?」
「貴方達ご兄弟は町の女の子達に人気ではないですか」
「あのな、ここは皆の相談室じゃねぇんだぞ…?」
リアンが来たのはカインの家。
正確にはリリカとリーフの家。
リアンの話し相手は前々回同様リーフのみ。
カインではない理由も前々回同様。
彼らにリリカも同行。
リーフだけ面倒だと断った。
因みに前々回もだが、ミラは風邪をひいて寝込んでいる。
この話は次回位に。
「そんな事言わず協力して下さい」
「やだよ、面倒だ」
「いえね、よく考えればヴァンパイアの生き残りってそれ程珍しいキャラではないじゃないですか。だから職業を変えてみようかと……」
「聞いてねぇよ!!てか職業だったの!?」
新事実発覚。
某RPGの様に職業チェンジが簡単に出来るらしい。
「いや、出来ねぇだろ」
「はい、出来ません。僕が言いたいのは心構えの問題です」
「無茶言うな。お前がヴァンパイアじゃなくなったら輝流使えねーじゃん」
「そこは都合良く使います」
「都合良過ぎんだろ!」
「ですからさっきも言ったように心構えの問題です」
要するに、ヴァンパイアという本質は変えずに、キャラだけを変えたいという事だ。
「なら聞くけどどうゆうキャラになりたいんだよ」
結局相談に乗っているリーフはお人好しだろうか。
「人気者になりたいんです」
「いや、だから具体的に……てか何で突然そんな事を?」
「人気者になれれば出番が増えると思いまして」
「おいおい……」
確かに増えるだろうけど。
というよりこの小説のキャラって誰が一番人気あるんだろう…。
「具体的には甘党で面倒ぐさがるがいざという時に活躍出来る人になりたいです」
「どんな奴だよ!いや、確かに主人公とかにありそうなキャラだけども!」
「正直言うとモテたいです」
「本当に正直だな!!」
……何かこんな事ばっか言ってたら誰かに怒られそう。
具体的に言うと『甘党で面倒ぐさがるけどいざという時に活躍できてモテる主人公』さんに。
怒られる前に謝っとこう。
申し訳ございません。
「まぁ良いや。とにかく俺は協力しないぞ」
「ここまで話を聞いといてですか?」
「ああ、面倒事はもうごめんだ」
「そうですか、残念です……お礼に高級宿の宿泊チケットを差し上げようと思っていたのですが……」
「何……?」
「これでリリカさんと二人で高級宿に行かれては、と思ったのですが……仕方ないで―――――」
「しょーがねぇなぁ、協力してやるよ」
安い男である。
まずは甘党になる事から始めよう。
……と思ったのだが。
「も、もう…無理です……」
「…………………」
マカロン一つで気分が悪くなってしまった。
確かにあれは甘いがそこまでなる物だろうか。
「……お前さ、普段甘い物とかどの位食うの?」
「主食は血です。もしくは鉄を食べます」
「お前ヴァンパイアキャラで貫き通せ!一般人になることからして無理だ!!そして血は食いもんじゃねぇ!つーか、誰の血なんだ!?」
血を飲み、鉄を食べる人間などいないだろう。
もしいたとしてもかなり特殊な人だ。
「まぁ、それは冗談ですが、甘い物はせんべいが限界です」
「せんべいは基本甘くねぇぞ!?お前はどんなせんべい食ってんだ!?」
「『激辛 悪魔の舌をも地獄に叩き落とすせんべい』です」
「それ絶対辛いだろ!辛さを極めてんだろ!!」
リーフはツッコミを終えると肩で息をする。
元々ツッコミキャラではない為、疲労は大変なものになるだろう。
「甘党キャラはやめだ!面倒ぐさがりだが(以下略)だけで行こう」
「はい……」
「ヒック……ヒック……」
道で帽子を被った少女が泣いている。
それを青年二人が見ていた。
勿論、リーフとリアン。
「どうしたんだ?」
リーフがごく普通に話しかける。
「実は……」
「ん?この声……」
「どうすればいいんですか~!!」
「アリス!?」
帽子を被っていたので顔が見えずに判らなかった。
「ど、どうしたんだ?」
「お財布をっ!盗まれました~!」
「財布を盗まれた?誰に……つっても解らないか」
「あっちに逃げて行きました……」
「よし、任せろ」
リーフが走り出そうとすると、横を黒い何かがもの凄い飛んで行った。
リアン=ヴァンパイア。
背中から血の翼を生やし、財布泥棒を追っていた。
「俺達も急ぐぞ」
リーフはアリスを抱えると全速力で走り出した。
先程の場所から少し離れた場所。
男がアリスの財布から金を出していた。
「へへっ、ガキの割には結構持ってるじゃねぇか!」
「待ちやがれェェッ!!」
「な、何だ!?」
男が振り返る。
鬼が飛んでいた。
正確には鬼の様な形相のリアンが飛んでいた。
「う、うわぁぁっ!!」
男は恐怖して逃げ出す。
しかし、足が着いて来ずに盛大に転んでしまう。
「テメェ……」
「ひ、ひぃっ!お、俺が悪かった!金は返す!許してくれ!」
アリスを抱えたリーフがやっとの事で10mほど先にリアンを発見した。
「俺に謝ってどうすんだ?俺に金を渡してどうすんだ?」
「あ、あぁぁ……」
「お前は俺の知り合いの家族を泣かせた。これがどういう事か解るよなぁ?」
リアンが拳に力を込める。
「や、やめてくれ…!!」
「はぁ……しょうがねぇなぁ―――――」
男は少し安堵した表情を浮かべる。
だがリアンは拳を振りかぶる。
「誰が許すかぁッ!!」
「ぐぼぉっ!!」
リアンの拳が男の顔面に突き刺さった。
「あ、ありがとうございました!」
アリスは少しびくびくしながら礼を言う。
流石にさっきの状態のリアンは怖かったのだろう。
「いや、良いんだよ。それより財布が返って来て良かったね」
「は、はい!」
アリスは笑顔で言った。
「リアン、やっぱお前変われねぇよ」
「………………」
「大体人気なんて無くたって良いじゃねぇか」
「………………」
「お前の優しさを知ってる奴さえいれば、な」
その言葉を聞いてリアンは少し俯く。
「……そんな人、いるんですかね」
彼はヴァンパイアの生き残り。
ヴァンパイアは凶悪な種族として言い伝えられている。
いつも避けられ、苛められ、蔑まされてきた。
そんな自分を優しいと思ってくれる人など…。
「少なくともここに一人、お前の優しさを知ってる奴がいるだろ」
「え…?」
「な、アリス」
「はい!」
アリスは財布をギュッと握る。
「リアンさんは怖い所もあります。でも……」
「それ以上に、とっても優しい人ですよっ」
そんな事を言われたのは生まれてこの方初めてだった。
少し視界がぼやける。
「……ありがとうございます」
無理に気張る必要なんてない。
自分らしく、それで良い。
そうしていれば、きっと、自分を解ってくれる人がいる筈だから―――。
(雪龍)
「何かトンデモない発言が目立ったね」
(リーフ)
「そして無理矢理良い感じに終わらせようとしたな」
(雪龍)
「僕ってそういう事多いよね」
(リーフ)
「自覚あんのかよ……」
(雪龍)
「自覚なかったらこんな事言ってないよ」
(リーフ)
「確かに」
(雪龍)
「そう言えば今回地味に次回予告したっけ」
(リーフ)
「ああ、ミラが寝込んでカインが―――――」
(雪龍)
「それ以上言っちゃ駄目!!」
(リーフ)
「後誰が人気あるんだろうって言ってたな」
(雪龍)
「そうそう!人気投票やろうかと思ったんだけど……面倒なんだよね」
(リーフ)
「………………」
(雪龍)
「なのでお気に入りのキャラがいれば教えてください。何人でも良いんで」
(リーフ)
「おい、それ人気投票だろ」
(雪龍)
「いや、面倒だから集計はしないよ」
(リーフ)
「………………」
(雪龍)
「では、次回もお楽しみに!」
(リーフ)
「……感想待ってまーす」