第68話 通じたのだから
やっぱこういうの苦手だよー!
……え?なら得意なのは何なんだって?
……(つまらない)ギャグ?
「レッ君がどうしたって?」
「レックス様の様子がおかしいんですわ!」
トルージュが怒鳴る。
突然カインの家に押しかけてきたのだ。
因みにトルージュと話しているのはリーフとリリカである。
「何とかして下さいませ~!!」
突然押しかけてきて怒鳴り、終いには泣く始末。
(どうすりゃいいんだ?てかカインとリルは?)
(二人一緒に出かけてるわ。何か家に居たら休めない気がする、とか言って)
(……あいつ予知でも出来んのか?)
「聞いてますの!?」
「ああ、はいはい、聞いてる。で、具体的にはどうおかしいんだ?」
「私に……とても優しいんですわ」
「「………はい?」」
リーフとリリカは同時に首を傾げる。
二人は今こう思っている筈だ。
……それのどこがおかしいんだ?
「いや、レッ君は大抵優しいだろ」
「そうなんですけど、今までとは違うんですの」
「……具体的には?」
「この前なんて私が荷物を持っていたら持ってくれたり、デートも快く受けてくれたり……」
二人は今こう思っている筈だ。
……こいつのろけ話をしに来たのか?
「それの何がおかしいんだよ。のろけ話しにきたなら即刻帰れ」
「だって可笑しいではありませんか!普段なら嫌がるのに!!」
二人は今こう思っている筈だ。
……嫌がられてんの、解ってたんだね。
「つーか、お前が言うおかしくなったレッ君にどうしろって言うんだ?」
「それは勿論、治して欲しいですわ」
「嫌だよ面倒くせぇ。他の奴に頼め」
「………はぁ、そうですわよね。どうせ私の頼みなんて誰も聞いてくれませんわよね。『他の奴に頼め』ですか。はぁ、貴方達が最後の頼みの綱だったのですけれど……仕方ありませんわね……」
トルージュは言いながら玄関に向けて歩き出す。
ため息交じりの声が震えている。
リリカはこんな状態のトルージュを見ていられなくなってしまった。
後数秒耐えれば部屋から出て行っていたが、その数秒が耐えられなかったのだ。
「ト、トルージュ!わかったわ!どうにかするから!」
「リリカ!?」
「本当ですの!?」
「勿論よ!悩める女の子の頼みだもん!」
「えぇ~……」
リリカは、レックスがおかしくなってしまった原因を探る事となった。
何故かリーフも同伴で。
というより別におかしくなった訳ではないのだが。
両側にたくさんの商店が並ぶ道を一組のカップルが歩いていた。
一人は長い桃色の紙を揺らす、顔が真っ赤な女性。
もう一人は目に掛かるか掛からないか位の長さの金髪で、いつも以上に笑顔の青年。
言うまでも無くトルージュとレックスである。
今、二人は手を繋いで歩いている。
「やっぱレッ君おかしいわね」
「どこがだよ。普通だろ」
「いや、おかしいわ。だっていつもならトルージュが先導するのに、レッ君が先導してるもの」
「あ~確かに。てか、お前楽しがってねぇか?」
「そんな事ないわよ~」
(ならその笑顔は何なんだ……)
リーフとリリカは建物の陰からこっそり二人の様子を見ている。
「てかこっからどうすんだよ」
「私に任せて。アレを使うわ」
「こんな所でアレを!?……ってアレって何だよ」
「見守る」
「既にしてるだろ!」
リーフは馬鹿馬鹿しいと溜め息を吐く。
その時、何かに気付いた。
「レッ君、大剣持ってねぇな」
「あ、本当ね」
「珍しいな。アイツ大抵武器持ってんのに」
「忘れただけでしょ」
そう言われたがリーフは納得できなかった。
言っていなかったが、花見の時にも大剣を持って来ていた。
なのに今日は持って来なかったのか。
「当初の予定通り様子を見ましょ」
当初の予定。
それは二人が別れた後、レックスに話を聞いてみる、という単純な物だ。
……別れた、と言ってもそう言うアレではないよ?
おかしいとは言わないまでも、確かにレックスはいつもとは違った。
とりあえず優し過ぎたのだ。
いつも優しいのだが、今日は別格だった。
「じゃっ、またね、トルージュ」
「はい、レックス様」
挨拶をした後、二人は別れた。
「……リリカ、トルージュを連れてこい」
「え?……判った」
リーフには何か考えがあるのだろう。
そう思ったリリカは何も言わず、トルージュを追いかける。
「さて、俺は……っと」
リーフは勿論レックスを追いかける。
「レッ君!」
「ん?ああ、リーフじゃん。どうしたの?」
「トルージュから、お前がおかしいって聞いてな」
「僕がおかしい?」
レックスはとぼけてみせる。
いや、本当に解っていないのかもしれない。
「お前、何があったんだ?」
「別に何も―――――」
「大剣を持ってないの、関係あんのか?」
「………鋭いね」
誰にも言わないでね、と念を押して話し始める。
「僕の裏の顔、アレを封じる為に輝流を媒介にしたんだ」
「それって……」
「うん、今の僕には輝流が使えない。だから、大剣を持っている必要が無いんだ」
「……それに何の関係があるんだ?」
「うーん、自分ではおかしくなったって自覚はないんだけど、トルージュが言うんなら間違いないんだろうね」
レックスは苦笑して頭を掻く。
「僕ね、裏の顔のせいで手のつけられないやんちゃ者だったんだ」
やんちゃ者、と言っているがそんな生易しいものではなかっただろう。
かなりの罪を犯している筈だ。
「そんな僕がやっとの事であれを抑えられたのって、トルージュと出逢ったからだと思うんだ」
「出逢ったから?」
「そう、彼女は僕の裏の顔を見ても全く動じなかったし、怖がりもしなかった。心の奥底に眠ってた僕が、そんな優しい人を傷つけたくなかったんだろうね」
そんな事で、と思う人もいるだろうが、それでも真っ当な理由になるのだ。
優しさは時に、闇を光に変える力を持つ。
「でも、完全に抑え切れていたわけじゃないんだ。だから、彼女を傷つけてしまうかもしれない。そう思ってた」
ここまで聞いてリーフは得心が行った。
今までが、変だったのだ。
最近が、普通だったのだ。
「それで今まで距離を置いていたのか」
「そうしようとしてた、って方が正しいかな。だって彼女は優しいんだもん。僕から離れるどころか近付いて来たよ」
「ふぅん、でも、そう言う事は本人に言った方が良いんじゃねぇか」
「今更、言えないよ」
「そうでもねぇだろ」
「えっ…?」
リーフが後ろを見て言う。
レックスもそれにつられてリーフの後方を見る。
そこには、桃色の女性がいた。
「レックス様……」
「トルージュ……もしかして、聞いてた」
「はい、全て聞いていました」
「そっか、ゴメンね」
「謝ること、ないですわ」
レックスは空を見上げて深呼吸をする。
その瞬間に、リリカはリーフを掴み、高速で物陰へと移動した。
「……トルージュ」
「……はい」
「結婚しよう」
「…………………え?」
「「えぇええぇえええ!!!??」」
トルージュよりも先に、物陰に隠れている二人が大声を出してしまった。
レックスの突然のプロポーズ。
誰よりも驚いている筈のトルージュはただただポカンとしている。
「レ、レレッ、レック、レックス様……」
「君が好きだ」
(ちょっ、アイツ突然過ぎんだろ!普段女の子に話しかけまくってる癖に、こういうタイミングヘタクソだなオイ!)
(リーフだってどうせ下手でしょ!静かにしてよ、良い所なんだから)
これ以上聞くのはどうかと思うのだが…。
「あぁごめん、別に今すぐじゃなくても良いんだ。僕が伝えたい事は、伝えられたから」
そう言ってレックスは踵を返し歩き出す。
しかし、トルージュがレックスの腕を掴んで引き留めた。
「自分だけ言いたい事を言うなんて卑怯ですわ」
今まで、どれ程想いを伝えてきただろう。
けど、それは伝わっていないのだと、勝手に思っていた。思い込んでいた。
正直な所、一緒に居られればいいと、それだけを望んでいた。
一方的な想いで良いと思っていた。
それだけで幸せだったのだから。
でも今は、そう思ってはいない―――――
「―――――こちらこそ、お願いします」
想いは、通じたのだから。
(雪龍)
「もっと甘~いのが書きたかったよぉ!」
(リーフ)
「あれがお前の限界だ。仕方ねぇよ。経験無いもんな」
(雪龍)
「……ない。何でないんだーーーぁっ!!!」
少々お待ち下さい
(雪龍)
「落ち着きました。さて、今回どうでしたか?」
(リーフ)
「どうでしたか?じゃねぇよ。無茶苦茶じゃねぇか」
(雪龍)
「え、何このアメとムチ。何で急にムチ繰り出してんの」
(リーフ)
「よーし、では、次回もお楽しみに」
(雪龍)
「無視すんなよ!てか勝手に終わらせんなよ!このやり取り久々だな!!」
(リーフ)
「感想も待ってます」