第61話 逃亡
カインとスランは森の中をただただ歩いていた。
行くあてがないのだ。
「これからどうするよ、スラン」
「オレはお前に付いていく。と言いたいところだがそんな事を言ってられる状況じゃないな」
二人は丸三日ほど何も食べていない。
それどころか一睡もしていない。
「マジで考えないと捕まる以前に餓死しそうだ」
「つーか、森の中なのに何で食い物らしきモンが見つかんねぇの?ここ何?」
「通称『無の森』。ここには木しかないためそう呼ばれている。因みにここに入ったら一生外の景色を拝むのは無理だと……」
「何でそんなとこ入った訳!?解ってんなら入らなくて良かったじゃん!!」
スランはそれについて何も返さない。
ここでこれ以上喋ると体力を無駄に消耗してしまうと思っているからだ。
その時、スランの耳に声が届いた。
「……誰かいるの?」
「いや、それはこっちの台詞だったんだが……何故ここに居る?」
「質問に違う質問で返すなよ……」
カインはスランに言うと声が聞こえた方に近付く。
カインが木の裏で見つけたのは蹲って震えている少女だった。
綺麗な黒髪はボサボサになっていて、良く見ると手や足に傷がたくさんある。
「……何してんの?」
「お前も質問してるじゃないか」
「うるせぇな。で、名前は?」
「質問変わってるぞ」
スランの的確なツッコミを無視し、少女と同じ目線までしゃがむ。
「あなた達、『聖冠団』だったの!?」
「あぁ、つってもこの間追い出されちまったけどな」
あの後、少し少女と質問合戦を繰り広げていた。
そこで解ったのは少女の名前と素性。
「えーっと、ミラちゃんで良いのか?」
「呼び捨てで良いよ。私もカインって呼ぶから」
少女の名前は天城ミラ。当時14歳。
彼女も訳があって『聖冠団』に追われているそうだ。
そして、逃げている途中でここに迷い込んでしまったらしい。
「さて、行くあてあるのか?無いなら一緒に……俺らも行くあてないんだったな」
「いや、無いわけじゃない」
カインの言葉を否定し、スランは続ける。
「カイン、お前には弟がいたよな?しかもセーブに所属してるっていう」
「ああ、いるけどもしかしてリーフを頼るのか?俺嫌なんだけど……」
「だがそれしか道は無いだろ?それに言っておくがオレ達はそこに向かっているんだぞ?」
「は?こんな森に迷い込んじまってそんな事言ったって仕方ねぇだろ」
「ならアレを見てみろ」
スランが指さす方向を見るカインとミラ。
その方向には森の出口があった。
「ってえぇ!?ここ出れない森じゃなかったのか!?」
「オレの輝流『音』さえあればどの方向に何があるのかなど簡単に解る」
「……お前今盛ったろ。知ってんだぞ。お前遠くの物判別するのはかなり集中しなきゃなんねぇって」
「とりあえず早く出るぞ」
スランはさっさと歩きだす。
カインはミラを背負って後ろを付いて行った。
何故ミラがおぶられているかというと、空腹、怪我、意識が朦朧とする、などの症状がある為だ。
三人は何とかカインの弟であるリーフがいる町まで辿り着いた。
まずは何かを食べたいところだが、生憎持ち合わせがない。
「よーし、さっさとリーフ探して奢ってもらうか」
「さっきまで頼るのが嫌だと言っていたのはどこのどいつだ?」
ジト目でにらむスランをスルーし、リーフ探索を始める。
因みにカインとスランは途中で団服を脱ぎ捨ててきているので、服で素性がバレてしまう様なヘマはしない。
「……カイン」
「ああ、先に行っててくれ。ついでにミラも頼む」
カインはそう言うとミラをスランに渡す。
「音膜」
そう言うとミラに何かが纏われる。
その何かによって通常の人間が音速で移動しても平気になるのだ。
スランはミラを抱えて音速で走り出した。
それを見てカインも裏路地の方に走り出した。
そのカインを追う者達が数人いる。
「この辺りで良いか」
カインは一通りのない通りに出た。
横には大きな川が流れている。
ここまで人がいないのは逆に不安になってしまうが、別に何か事件等があった訳ではない。
「そろそろ出てこいよ」
「カイン隊長……」
カインが振りかえると数人の兵士が現れる。
『聖冠団』の者達だろう。
「隊長じゃねぇよ。俺はただのカインだ」
「……カイン・クリーク。貴様を要注意重罪人として捕縛させてもらう。尚、抵抗するようなら殺しても構わないそうだ」
「そうかよ」
カインは強がってみせているが、かなり限界である。
炎を使うのは殆ど無理だ。
それどころか動くのもままならない。
「来いよ。言っとくが手加減はしねぇぞ」
「抵抗の意思を確認した。全員、やれ」
勝負は簡単に着いた。
否、勝負にすらならなかった、の方が正しい。
カインは少しは攻撃を避けていたものの殆ど喰らっていた。
一人の兵の剣がカインの腹に突き刺さる。
「グフッ……」
「今だ!捕えろ!」
「冗談じゃねぇ……誰が捕まるかよ……」
そう言うとカインは一歩ずつ後ろに下がって行く。
そして、最後の力を振り絞って川に飛び込んだ。
そこで意識が途切れた。
「なっ……」
川の流れは意外に速く、カインの姿はすぐに見えなくなった。
「クソッ、早く見つけ出せ!!」
一人の兵の命令で、全員が動き出した。
はい、先日1月17日でこの話も一周年を迎えました!
一年で60話ですか…。
6日に一回くらい?遅いっすね。
さて、この過去編もそろそろクライマックス。
最初に少し考えていた流れを大幅に脱線していってます。
まぁ次回もお楽しみに。