第58話 LOST
「全員、スランを逃がす事を第一として考えろ」
フライスは全員の前に立ち、言った。
この中で音速で移動できるスランが一番逃げるのが可能な上、冷静な為状況を正確に伝えられると思ったのだ。
横でソール=Sが怪訝そうに見ている。
「オレも協力してやんヨ」
「はぁ?お前は逃げねぇのか?」
「ジョーダンかましてんじゃねぇヨ。誰が逃げるカ」
ソール=Sの表情には怒りが見て取れた。
「オレ様を駒にした挙句、使い捨てにしやがるとハ……どう刻んでやろウカ…!!」
「それよりまず命を守れよ」
スランはフライスの後ろ姿を目に焼き付けて音速で走り出した。
自分がまた戻って来た時、彼はまだ―――――
「くそっ!考えるな!」
目の前に兵が立っていた。
「邪魔だぁぁあぁああぁぁああ!!!!!!!!」
スランは自分の持てる力を全て拳に乗せ、兵を殴り飛ばした。
そして一心不乱に走る。
スランが本部に帰って来れたのは走り始めて15分後だった。
流石にずっと走るのは無理だったので休憩しながらだったが、かなり早く帰って来れた。
「おい!シエン!!どこだ!!」
「珍しく五月蝿いな。というより貴様依頼に行ったんじゃなかったか?」
シエンが耳を抑えて近付いて来る。
「その事なんだが……嵌められてたんだ!!」
「……やはりか。だが、それを承知で貴様を連れて行ったのだろう?」
「そうなんだが数が問題外だったんだよ!!」
シエンはどの位だったのか尋ねる。
「約五千だ…!!」
「五千だと!?アイツ一人の為にそんなに……」
「とにかく全員連れて早く行こう!」
「……ああ」
その後、シエンは今本部に居る者全てを引き連れて丘へと向かった。
隊長、副隊長、その他約三千人全てを引き連れて。
丘に付いたのはおよそ50分後。
つまりスランがここを発って1時間と少し経っていた。
「何だ、これは……」
シエンが着いた時には血溜まりしかなかった。
生きている者どころか、死んでいる者すらいなかったのだ。
「おいおい!どうなってんだ?団長はどこ行ったんだ!?」
シンが周りを見渡して言う。
流石に死体一つ見当たらないというのは不自然過ぎる。
「既に処理されたのか…?そうだとしたら誰に……」
「処理されたって言っても何千人もいたんだろ?そんな数をたかだか1時間でどうにか出来ねぇだろ」
全員冷静を装っていたが、内心かなり焦っていた。
フライスの強さを信じているからこそ、生きているだろうという希望。
死体一つ見つからない不自然さから来る不安と絶望。
その感情が入り混じっていた。
「……ここに居ても仕方ない。帰ろう」
「おい!団長はどうすんだよ!!」
カインがシエンの胸倉を掴む。
「見つからないんだ。それなのに居ても仕方ないと言ったんだ」
「テメェ…!!少し遠い所に居るかもしれねぇだろ!!」
そこまで言うと、カインの腕をアルバシスが掴む。
「お前も解るだろ。近くにアイツの輝力どころか気配すら感じないのを」
「それは俺達が感じれてないだけで―――――」
「いい加減にしろ!!現実を受け止めろよ!!アイツはもう死んだんだよ!!」
「……テメェ、今何つった…?」
カインはシエンを離しアルバシスに向き直る。
「死んだ?アイツが?ふざけんなよ」
カインは踵を返し、歩いていく。
少し歩くとカインの身体から炎が溢れてきた。
赤い炎ではなく、青い炎でもなかった。
その炎はどす黒い炎だった。
「カイン、お前その炎は…!?」
アルバシスが言うと、黒い炎は消えた。
「この依頼、王からの直々のモンだって言ってたよな?」
「あ、ああ。そうだ」
「カイン…。貴様まさか」
カインは何も言わず歩いていく。
そのカインの方をシエンが掴む。
「王を殺す気か?」
『!!』
シエンの言葉に全員驚愕する。
「離せよ」
「話す訳がないだろうが。王の下へは私が行く」
「うるせぇよ…!!テメェらじゃもう信用なんねぇ。俺が行く…!!!」
「………落ち着け」
シエンは輝力で鎖を作る。
その鎖がカインに巻きついていく。
「おい!ほどけよ!シエン!!」
「少し寝てろ」
シエンが言うと、そこでカインの意識が途切れた。
「帰ったらカインを部屋に入れて出すな。もし出たら『聖冠団』総出で捕えろ」
「何もそこまでしなくても……」
「そこまでしないと本当に王を殺しに行くだろうが」
シエンはカインをアルバシスに任せて歩き出した。
「話は私とスランで付けに行く」
ここは城の一室。
「ええ、『聖冠団』が乗り込んでくるでしょう。その時は…頼みますよ?」
「かしこまりました。この―――――」
「ブライソル・サムレングスにお任せを」
皆さん、この急展開に付いて来れてます?
ここで出てきたブライソル・サムレングス。
…誰?って思った人、前の方を読み返してみようか。
ところで今回の最後、城の一室とかで話をしている描写がありますが、あれはカインとリルには見えていません。
見えているのは『聖冠団』のメンバーが居る所だけです。
今回はこの辺りで終わります。
では、次回もお楽しみに。
感想待ってまーす。