第57話 窮地
「断る……だと?」
「はい」
ここは城の中のとある一室。
フライスはそこで王と直接話をしている。
たった今、あの話を断った所だ。
「勿論オレの意思は『聖冠団』全員の意思だと思って下さい」
「……王である私を脅しているのか?」
「いえいえ、そんな訳ではありませんよ」
フライスは笑顔で言うが心から笑っている訳ではない。
突然、息子にやらせるからお前は辞めろ、と言われて憤りを全く感じない者はいないだろう。
「言っときますけどオレ達、結構短気な奴らばかりですから。オレも含めてね」
ここまで来たらもう立派な脅しだろう。
通常の人間ならこれだけで討ち首かもしれないが、そこは『聖冠団』の団長だ。
王も簡単に殺そうとはしない。
というより、団長が殺されでもしたら『聖冠団』全員で反逆するかもしれない。
そうなれば一日でこの国は堕ちる。
(オレも人に野蛮とか言ってらんねーか?)
「……もう良い。下がれ」
「解りました。失礼します」
そう言うとフライスは部屋を出ていく。
フライスが部屋を出ていって数秒すると、天井から長身痩躯の男が降りてくる。
長い白髪で、前髪を隠れていて、くねくねと動いている。
俗に言う、"気持ち悪い奴"だ
「キヒャッ、アイツ、殺して良いのかァ?」
「ああ、だが城内で殺すな。私が奴らに依頼を出す。その行った先で殺せ」
「チッ、メンデェなァ」
男はそう言うとジャンプして天井に張り付いて移動する。
まるでトカゲの様だ。
「ふむ……あのような奴が大地を照らす13星座の蛇遣い座とはな」
当時大地を照らす13星座の蛇遣い座、ソール=S。
これから起こる事件の発端であり、その後の事件にも拘わってくる事になるのだが、それはまだ先の話。
数日後。団長室
『聖冠団』に国王直属の依頼が来た。
内容は『脱獄囚の捕縛』である。
先日、城の牢に閉じ込めていた犯罪者が逃げ出してしまったらしい。
「何でも相当危険な奴らしくてな。オレに行って欲しいそうだ」
「確実に何か裏があるぞ、それ」
シエンが苦笑しながら言う。
この間頼みを断ったフライスをわざわざ指名するというのは、裏があると考えて当然だろう。
「そう言うと思った。だからスランを一緒に連れて行こうと思ってる」
「それは良いんだがアイツが何処にいるか解っているのか?」
「それなんだよ。あのサボリ魔を見つけるのはいっつも苦労すんだよ」
「苦労しているのは私達なんだが」
「あん?そうだったっけか。お前は細かいな」
「貴様はガサツ過ぎるのだ」
フライスが愉快に笑っているが、シエンは溜め息を吐いている。
一通り笑い終えると、フライスは立ち上がった。
「ま、今回だけはオレが探しに行くよ」
「……?」
「見つかったら直ぐ行くわ。じゃあな」
シエンは何か違和感を感じた。
それと同時に不安の様なものも感じた。
シエンの勘というのは良く当たる。
今回ばかりは叶って欲しくないとただただ願うしかない。
―――もう……見る事は無いのか?
フライスは廊下を当ても無く歩いていた。
適当に捜した所で見つかる筈も無い。
『聖冠団』のメンバー全員に見かけたら団長に伝えるように、とまで言われるほどだ。
「はぁ~、何処にいんのかねぇ」
「誰を捜してんだ?」
「!! ……お前だよ、スラン」
「知ってるよ」
いつの間に居たのか、スランが壁にもたれかかり腕を組んでいた。
「知ってるってまさか……」
いつもはしているヘッドホンを外して、首にかけている。
このヘッドホンは特注品で、通常の人間なら付けていると何も聞こえなくなる程の物だ。
「盗み聞きは趣味悪ぃぞ」
「人聞きが悪いな。聞こえてきただけだ」
「ってことはもう準備はできてんのな?」
「オレの隊の奴には既に言ってる」
「よし、なら30分後に出発するぞ」
スランはそれを聞いて黙って何処かに行った。
案外早く見つかった事でフライスは少しホッとした。
「脱獄囚一人捕まえるのにこんなにいらなかったかな」
今回連れてきた人数は軽く100人を越えている。
脱獄囚が居る場所はこの先の丘らしい。
というより何故脱獄囚の居場所が書かれてあるのだろうか。
「やっぱ怪しいんだよなぁ」
色々と怪しい所はあるが、問いただしたところで「知らない」の一点張りだろう。
それが面倒で何も言わずフライスは出てきたのだ。
丘の上に人の姿が見える。ソール=Sだった。
「ヒャハ~、残念だったな、お前ラ~」
「何がだ?」
「オレは脱獄囚なんかじゃねェ。お前ラは騙されてたんダヨ!!」
「やはりな」
フライスはそうだと思っていたが、まさか向こうからバラしてくるとは思わなかった。
何か様子がおかしい。
「まァ、オレもあのクズに騙されたんだけどヨォ」
「何だって…?」
その時、スランは何かを感じ、ソール=Sの背後を見る。
「何だよこりゃあ……」
「どうした?スラン」
スランはフライスに向き直り言った。
「騙された…!!」
「一体何がある……なっ!?」
フライスはその光景を見て驚いた。
数百人の兵がいたのだから。
「ちっ、そう言う事かよ!全員逃げろ!!」
「し、しかし!」
「良いから全員走れぇ!!」
「そうではなく―――――」
「全方位を囲まれています!!」
フライス達は全方位を囲まれていた。
兵の数、およそ五千人。
「だから言ったロ?オレタチ騙されたんだよ!あのクソ野郎によォ!!」
急展開過ぎますね~。
ちなみに後書きでカイン達が出て来ないのは、何となくです。
過去編終わるまで出てきません。
では、次回もお楽しみに。