第53話 真空の管弦楽団
スランは相手の出方を見ようと先に動き出す事は無かった。
しかしダルトも動き出さない。
「そう言えば……君の名前は?」
「スラン・フォン・フォニムだ」
声が小さいがスランにとっては何ら問題は無い。
ヘッドホンをしていても通常の人間よりかは聞こえる。
「……来ないならこっちから行く事にするよ」
(それを待ってたんだけどな)
ダルトはポケットから石を取り出して放り投げる。
地面に落ちた所で石が光り出す。
「何だ…?」
「出でよ、豪王の魔神サタン」
石から真っ黒い巨人が現れる。
白い長い髪にゴツイ体、頭部には二本の角と見た目からしてかなり強そうだ。
「イグルスと同じ召喚士か」
「行け」
サタンが右腕をスランに振り下ろす。
スランは音速で躱し、ダルトの背後に移動する。
「音導弾―――回旋曲」
音の衝撃波が回転しながらダルトに迫る。
しかし何かに遮られる。
「今度は何だよ」
その何かと言うのは白い腕だった。
「出でよ、理念の覇王ルシファー」
今度現れたのはサタンの真逆で真っ白い体の巨人。
髪が黒いという部分を除いてサタンと同じ。
「こんな化物を同時に呼び出すとはな」
ルシファーとサタンがダルトを護るように立つ。
そして二体の巨人が同時にスランに腕を振り下ろす。
(今だ…!)
スランは音速で腕の隙間を掻い潜り、ダルトに接近する。
しかしダルトは何もしようとせず不敵に笑みを浮かべている。
「甘いよ」
「なん―――――!!」
スランは全身に激しい衝撃を感じた。
次の瞬間には壁に激突していた。
巨人二体に蹴り飛ばされたのだ。
(中々の反応だな。それに力も強ぇ)
スランは口に溜まった血を吐きだし、立ち上がる。
「オレもたまには真面目にやるか」
スランが目を閉じる。
すると部屋全体が揺れ始めた。
「二匹の悪魔と眠りな。永遠の揺籃歌」
大きな音の衝撃弾は二匹の巨人と共にダルトを包んだ。
オレは何を失ったろうか。
それすらも解らない。
暗闇に灯された真っ赤な炎。
その炎がオレの行く道を灯してくれていたのかもしれない。
オレは色んな事から目を背けてきたが、お前は全て受け止めた。
どうしてお前はそんなに強いんだ?
どうしたらお前みたいに強くなれるんだ?
なぁ、カイン。
「倒したか?」
「スラン!!まだ終わってねぇ!!」
「何…?」
スランが叫んだアルバシスの方を向いた瞬間、景色が変わり壁に叩きつけられた。
そして頭を掴まれ、持ち上げられる。
「何……だ…?」
スランは自分の頭を掴んでいる者の顔を見る。
その人物とはダルトだった。
「コイツ、こんな力があったのかよ……」
「ちげぇよ、ボケ」
「!?」
先程まで温厚だったダルトの口調が一変している。
それに二体の巨人もいない。
「これは俺の破動、『人獣融合』だ!!」
「召喚士の…破動だと…!?」
スランは今までそんな事を聞いた事が無かった。
故に召喚士に限って破動は存在しない物だと勝手に仮定してしまっていた。
「そう、召喚士の波動は呼びだした召喚輝獣と融合し、その力を自ら扱う事が出来るんだよ!!」
「……化物が」
「うるせぇよ」
スランは蹴り飛ばされる。
あの巨人二体の力を扱っている為、力がかなり上がっている。
「ッ!音導弾―――円舞曲」
無数の音の衝撃波が放たれる。
しかし、ダルトはいとも簡単に全て避けた。
(音速以上の速さ…!?)
「そろそろクタバレ」
ダルトはスランの前に移動する。
音速以上の速さで移動した為スランは目で追えない。
「死ねッッ!!!」
ダルトの突きがスランの腹に減り込む。
「ガハッ!!」
「……終わりだ」
「……ハッ、終わりじゃねぇよ」
スランは何とか必死に立ち上がる。
「いや、テメェはもう戦えねぇだろ」
「この部屋、さっきから揺れてると思わねぇか?」
確かにかすかに揺れている。
「それがどうした?」
「言ったろ…。オレも真面目にやる、ってな」
部屋の揺れがますます強くなる。
「音は振動。その振動はさらに大きな振動を生む。振動は空気を尖らせる」
スランが言った瞬間、ダルトの頬に切り傷ができる。
振動は人体に多大な影響を及ぼす場合がある。
「なっ…!?」
「アルバシス、巻き込まれたくなきゃココを離れな」
スランは手に輝力を溜めている。
スランは少し笑っている。
アルバシスは何処かへ瞬間移動した。
「これが、オレの最強の技だ。室内専用だがな」
「音速程度で俺を倒せるとでも思ってんのか!!」
「これは速さは関係ない。全方位無差別攻撃」
スランは手に溜めていた輝力を一気に放った。
「真空の管弦楽団」
ダルトの腕に切り傷が出来る。
「奏でろ……」
その傷は一つ、また一つと増え、
「至高の旋律を!!」
全身に無数の切り傷が生まれる事となった。
「流石に……オレも、無理か……」
只今の『アース』vs『聖冠団』の戦績
6勝2敗4分け:2勝6敗4分け
残り人数:3対2
(雪龍)
「次回はやっとこの男が登場だ!」
(カイン)
「よっしゃ!出番ねぇのかと思ってたぜ!」
(雪龍)
「因みに次回とその次の回で『総力戦ゲーム編』は終了です。あぁ、長かった」
(カイン)
「まだ終わってねぇんだから。気抜くなよ」
(雪龍)
「ごめんごめん、だって10回位戦闘が続くのってきついんだよ?」
(カイン)
「そうだな。それも俺で最後なんだから頑張ってくれよ」
(雪龍)
「うん、頑張る!」
(カイン)
「じゃあ次回もお楽しみに!」
今回の技は現実的にあり得ない技かもしれません。(今更?)
しかしそこは小説の中だから、と優しく見守って下さい。
……今回に限ってではありませんが。