第48話 普通を求めた天才
今ここにいるのはエリサとルア。
二人は少し広い部屋まで来ていた。
(『アース』のメンバーは誰もいない。これなら良いか)
「さて、始めましょうか。空を裂け、虚空の荒波!プレジャーガモン!」
「重なる壁、我が身を護れ、五鳳壁!」
先程と同じ技を同じ技で防ぐ。
「飛び立て、真紅の鳥!ロスト・バード!」
赤い炎の鳥がエリサに向かって飛んで行く。
エリサはそれを簡単に躱す。
「どうしたんですか?何故攻撃しないんです?」
「特に理由なんてないわ」
そう言いながらもちゃんとした理由はある。
それはルアの魔術を見る為。
エリサの術には中間の強さの物が無い。
初級の物と上級、超級のみ憶えている。
(はぁ…。やっぱり中級も覚えとくべきだったなぁ)
何故覚えていないのか。
それはエリサの性格故だった。
10年前。
エリサ・スレット8歳。
彼女には才能があった。
彼女はこの頃から魔術を使えた。
そこまでは別段珍しくない。
しかし彼女は違った。
普通この頃の子供なら初級、もしくは中級魔術を使うのがやっと。
普通の子供が初級魔術を使う中、彼女は上級、更には超級魔術を扱ったのだ。
超級魔術は大人でも扱える者はそうそういない。
周りの人間はエリサの才能を見た。
エリサという人間としては見てもらえなかった。
「楽しくない」
「私だって皆と普通に遊びたい」
「そう、普通が……一番なんだ」
それから彼女は初級の術ばかり練習した。
普通になりたいが為に。
しかし彼女は魔術士と一対一で勝負した時、負けた事は今までに一度もない。
(けど本当はそれじゃ駄目だったんだよなぁ……)
「勝負中に考え事とは余裕ですね!!飛び立て、真紅の鳥!ロスト・バード!」
「その地に祀られし聖なる水よ、アクアシュート!」
炎の鳥を水で相殺させる。
今のエリサは全くと言って良いほど集中できていなかった。
「……私を舐めているのか?」
「違う、私は本気を出したくない」
「なんだと…?」
ルアから輝力が大量に発せられる。
「自分で言うのもなんだが私は『聖冠団』の副隊長を任せられるほどだ。本気で来られても構わないぞ!」
その言葉にエリサはピクッと揺れる。
過去を思い出す。
本気でやればいつも恐れられるか、変な目で見られるかだ。
「もう良い、終わらせます!天空を揺るがす波紋の力、その身に刻め魔の刻印!ファイナリーエンブレム!!」
ルアが展開した黒い魔法陣から小さな魔法陣がエリサに向かって飛んで行く。
そしてエリサを覆った。
「ロックオン!」
「死の烙印、魔の系譜、妖の共鳴……」
魔法陣に力が溜められる。
「蒼穹に瞬く流星を見よ、遥か彼方の栄光を見よ!」
「3……2……」
エリサも大きな魔法陣を一つ作る。
「聞こえるか!渇望の序曲!!」
「1……終わりだ!発射ぁ!!」
黒い魔法陣から黒い波動が放たれる。
それと同時にエリサが展開した魔法陣の周りに小さな魔法陣が8つ出来る。
黒い波動が魔法陣によってかき消される。
「なっ…!」
「撃ち砕け、八つの生命、一つの創世!!」
「超級…魔術……!!」
「八星と日輪の蒼穹撃!!!!」
「魔術士の名の下に沈め」
その言葉と同時に全ての魔法陣から白い光線が放たれ、ルアを呑み込んだ。
エリサはそれを見て溜め息をつく。
「やっぱり本気なんて出すもんじゃない」
「そんな事……無いですよ…?」
エリサがゆっくりと声のした方を見る。
そこにはボロボロのルアがいた。
「まだ終わっていませんよ…?」
(加減してないのに立てるなんて凄いわね……)
「飛び立ち羽ばたけ!業火の怪鳥!ロスト・フェニックス!」
今度はロスト・バードとは違いかなり大きい炎の鳥をエリサに放つ。
エリサはギリギリ躱すが、ロスト・フェニックスは迂回して戻ってきた。
「ロスト・フェニックスは敵を燃やし尽くすまでその翼を休めません」
「我に水壁の防御を!純水牢壁!」
エリサの背後に大きな水の壁が出来る。
それにロスト・フェニックスが激突すると一瞬で消えてしまった。
「くっ、私は、負けない…っ!」
「私だって負けたくない!……というより負けられないんだ」
リルを助ける為に。
エリサは何があっても負けられない。
「これで最後にしましょうか」
「ええ」
二人が構える。
「天空を揺るがす波紋の力、その身に刻め魔の刻印!ファイナリーエンブレム!!」
「その爆撃は天下をも轟かす!その極光は地の果てまで照らす!オーバーレイン!!」
エリサが上に光の弾を放つ。
少し上がると光の弾は分裂し、降り注ぎ、地面やルアに当たると爆発した。
対するルアの攻撃はエリサに直撃し吹き飛ばした。
「いたた……」
エリサは壁を支えにして立ち上がる。
部屋の壁や床はクレーターが幾つも出来ていた。
「ちょっとやり過ぎちゃったかな」
エリサが周りを見るとルアがあおむけで倒れていた。
「……私の負けです」
「その格好で勝ったって言われても困るけどね」
エリサとルアは苦笑する。
「貴女は…その力を仲間に隠しているのですか?」
「……隠してるわけじゃない。ただ私は弱いだけよ」
「そんな事はありませんよ。貴女は…十分強いです」
「いや、私は弱い。正確には弱くありたかった」
ルアは黙ってエリサの話を聞いている。
「私は自分の才能が嫌でずっと弱いフリをしていた。そうすれば私も普通になれると思ったから」
「でもそうじゃなかった。私は結局普通になんてなれなかった」
「天才だと煽てられても嬉しくなかった。普通になりたかっただけなんだから」
そこまで言ってエリサはハッとした。
ゆっくりとルアの方を見る。
ルアは少し微笑んだ。
「私にもいますが貴女には仲間がいる。今はそれだけで良いのではないですか?」
「そう、ね」
エリサはもう、普通に憧れるのは止めた。
何故なら仲間がいて、守って守られる。
それが今のエリサにとっての普通だけど、とても大切なものだと気付いたから。
只今の『アース』vs『聖冠団』の戦績
5勝1敗1分け:1勝5敗1分け
残り人数:9対6
「まぁ、勝負が着いた所で早速だけど聞かせてもらうわ……」
「カインとあなた達について」
(雪龍)
「最初に言っときます。今回グッダグダでしたね」
(シュード)
「それがあなたらしさじゃないですか~」
(雪龍)
「……嬉しくない」
(シュード)
「まぁ、次回はグダグダ感控え目で頼みますよ?」
(雪龍)
「頑張ります!」
(シュード)
「では、次回もお楽しみに」