第43話 一発逆転の槌
(この子……ヤバい!)
アイシュは金槌を前に構える。
ヤイトはまたニコニコと笑っている。
「随分余裕だね……」
「あれ?そう見えますか」
アイシュは金槌を更に大きくし、ヤイトに向かって振り下ろす。
しかしヤイトが手をかざしただけで跳ね返された。
「えっ!?」
「金槌が武器なんて相性が悪かったね」
ヤイトが再度手をかざすと、今度は手に吸い込まれるかのように金槌が動き出した。
(まさかこの子の能力は…!!)
アイシュはヤイトの能力が少し分かった気がした。
アイシュは金槌を思い切り投げる。
するとアイシュは止まり、金槌だけが猛スピードでヤイトに飛んでいく。
「もう気付かれたか……ま、良いや」
突然金槌がアイシュの方に向きを変える。
「えっ、ちょっ、わわわわ」
驚いて思わずしゃがむ。
金槌は頭すれすれの所を通り過ぎた。
「あっぶな~…」
気を抜いていると今度は目の前に鉄製の槍が飛んできて地面に刺さる。
「え、えーと……」
「そろそろお別れにしますか」
ヤイトから無数の槍が飛んできて、多少は躱すが肩や足などに傷ができていく。
一体どこにこれほど隠し持っていたのかわからないがとりあえず今は…
「逃げる!」
猛スピードで逃げた。
金槌を使う自分にとってヤイトの能力は相性が悪すぎるのだ。
「仕方ないなぁ……鬼ごっこですか」
ヤイトも歩いて着いて行った。
アイシュは今何処かは分からないが演習場を出て、身を隠している。
「ふぅ……あの子の能力には勝てないかなぁ……」
アイシュはそう言いながらも周りに使えそうなものが無いか探してみる。
色々な物が綺麗に並べて置いてある。
アイシュはあるものを見つけた。
「これ使えるけど……何でこんな所にあるの?ここは宝物庫か何か?」
アイシュは見つけた物を改造し始めた。
―――『聖冠団』本部の廊下
「はぁ、昔から鬼ごっこはあまり好きじゃなかったな……かくれんぼもだけど」
「じゃあ遊びは終わりにしようか」
アイシュがヤイトの前に現れる。
手には透明な石で出来た槌を持っている。
アイシュはその槌を大きくし構える。
「何が来ても僕には……」
「君の『磁力』にはもう負けない」
「気付いてたんですか。でも過信は良くないですよ!」
ヤイトが手を前に出す。
先程までなら金槌が手に吸い込まれるように引き込まれたり、飛ばされるように離れたりしたが今はそれが無い。
「なっ…!」
「これは反磁性体のみで造られた槌。だから君の『磁力』の感傷を受けない」
「そう言う事ですか!」
ヤイトは先程使っていた槍ではなく懐から鉄でできた物を大量にを取り出す。
「君実は暗器使いとかじゃないよね……」
「さぁ…ね!」
一斉に鉄が飛んでくる。
アイシュは槌を自分が隠れるほどに大きくし、鉄から身を守る。
「反磁性の掃討槌、解放」
槌をヤイトの方に向ける。
「何をする気ですか?」
「それはお楽しみだよ」
ヤイトは冷や汗と少しの笑みをこぼした。
その時アイシュの槌の先に着いている棘の様な物が光り出した。
「吹っ飛べ……」
「希望の大槌で!!」
「高圧噴射!―――水の巻!」
先端からとてつもない勢いで水が噴射された。
かなりの圧力を掛けた水は岩をも切断すると言う。
威力はかなり加減したが、ヤイトは10m程吹っ飛んだ。
「水も反磁性体なんだけど……この威力じゃあんまし関係無かったかな……」
只今の『アース』vs『聖冠団』の戦績
1勝0敗1分け:0勝1敗1分け
残り人数:11対10
「……あなたどこに隠れてました?」
「……宝物庫?」
(まさか……)
ヤイトの頭には一つだけ思い浮かべている事があった。
「かはっ……それはダイヤモンドですか…?」
「たぶんね」
その答えで確実に彼の物だと分かった。
『聖冠団』で最も怒らせてはならない者。
「早く逃げた方が良いと思いますよ……」
「えっ?―――――」
その時アイシュに重圧が圧し掛かる。
ゆっくりと振り返るとそこには紫色の長い髪と目で、黒いコートを着た男が歩いてきていた。
「私のコレクション部屋に誰かが侵入したから見に来たが……まさか玩具にされてるとはな」
アイシュが構える。
しかし、そのたった一瞬の内に紫髪の男は目の前に移動していた。
「え―――――」
「私のコレクションを傷つけた罪……死んで詫びろ」
男は袖に隠し持っていた小刀でアイシュを切り裂いた。
その様子を『アース』メンバーの中でも最も見てはならない者が見ていた。
その者とは―――――
「てめぇ……よくもアイシュを…!!」
灰色の髪を持つ男、ヒルグ・エニージオ。
只今の『アース』vs『聖冠団』の戦績
1勝1敗1分け:1勝1敗1分け
残り人数:10対10
(雪龍)
「次週はヒルグだよ~」
(ヒルグ)
「やっと俺の初舞台か~」
(雪龍)
「僕も楽しみだな~。頑張れよ!」
(ヒルグ)
「ああ、あのクソ紫をぶっ殺してやる…!!」
(雪龍)
「ヒルグが本気だ……」
(ヒルグ)
「次回もお楽しみに」