第37話 氷の少年
「さて、追い込まれちゃったな」
シュードとニット男は村の外れの崖まで来ていた。
高さはおよそ200m。
登って逃げるというのは無謀だ。
「どうしますか?今村人達を元に戻すなら氷漬けにするだけで許しますけど」
「その氷を俺が溶かしてやるってのは無いの?」
「はい」
ニット男は困ったように頭を掻いた。
その時後ろから黒い煙がシュードを襲う。
それをなんとか躱し、ニット男を見る。
するとニット男の足が黒い煙になっていた。
「どうこれ?カッコよくない?」
「趣味が悪いとしか言えませんねー」
「じゃあ、こんなのどうよ!!」
シュードを囲むように黒い煙が集まる。
黒い煙はシュードに近付いていく。
シュードは黒い煙を凍らせようと手を伸ばす。
しかし、黒い煙は凍らずシュードの体に巻きつく。
「こんなに簡単にいくとは思わなかったな。じゃ、サヨナラ」
黒い煙はシュードを潰そうと更に押し寄せて来る。
だが、シュードは地面から氷の槍を出し自分の体ごと黒い煙を切り離した。
「自分を傷つけるとはね……痛くないの?」
「痛いって感情は忘れましたよ。氷矢の爪牙」
シュードは手を前に出し氷柱を何本か発射する。
ニット男は浮遊しそれを躱す。
「気持ち悪い煙ですねー」
「おもしれぇだろ。この煙って色んな能力があってさ。一個目が『人身支配』。これで村人達を操ってた訳」
黒い煙を鎌の形にして両手で持つ。
それをシュードに向かって振り下ろす。
シュードは氷で受け止めるが簡単に砕け、右肩から腹にかけて斬られる。
「そして二個目が『硬化』。俺の思い通りの硬さに変えられるんだ。あともう一個が……」
シュードは氷で止血しておく。
「普通煙ってさ。物が燃えた時に出るじゃん?けどこの煙は違って……」
黒い煙がシュードの左腕に付く。
すると煙が燃え上がった。
「この煙は燃えるんだ!おもしれぇだろ」
「炎……僕、炎って嫌いなんですよ」
シュードの周りを冷気が漂う。
するとシュードの周りに生えている草や木、更には地面までが凍り出した。
「今思えば不思議ですね。何かを嫌いになるって感情があるなんて」
腕の炎も消える。
「凍て付け…」
「清冷の氷塊で」
シュードが手を前に出す。
するとそこからとてつもない速さで氷の鎖が出る。
ニット男はあまりの早さに躱す事ができず、グルグル巻きにされた。
「氷の冷死城」
ニット男の足元から氷が出てきてニット男を襲う。
鎖で縛られているため動けずニット男は氷漬けにされる。
「氷槍の葬送」
氷漬けにされたニット男の周りに七本の氷の槍が現れる。
シュードが手を振ると氷の槍は一斉に発射される。
その時、ニット男が黒い煙を爆発させ氷を溶かす。
そして、矢を躱すが完全には躱せず、腕や腹、足などを貫かれた。
「っ……マジかよ。容赦ねぇ…!」
「容赦?」
ニット男が視線を上に移すとそこには氷の槍を持っているシュードがいた。
「そんな事する筈―――――」
シュードが後ろに跳ぶと、元いた場所に数本のナイフが突き刺さった。
崖の上を見上げると、そこには肩にかかる位の黒髪に黒い団服を着た青年がいた。
「何をしている」
「あれ?隊長、来てたんですか」
ニット男は浮遊し、隊長と呼ばれた男に近付く。
だがシュードがそれを許す筈もなく、氷の鎖で縛る。
「ちょっ、隊長助けて」
「仕方ない……」
男は崖から飛び降りる。
だが傷一つなかった。
「どういう仕掛けですか?」
「答える気はない…」
男は素早い動きでシュードの前に移動し殴り飛ばす。
シュードは5mほど飛び、樹に当たって止まった。
「さっすが隊長!」
「いや、もう一人いる」
男の視線の先には炎を灯した槍を持って走ってくるカレンがいた。
「はぁぁあああ!!!」
カレンは思い切り槍を振り下ろす。
男は難なく躱す。
「……何であなたがいるんですか?」
シュードはよろよろと立ち上がる。
傷は余りにも深く、立てるのが不思議な位だった。
「村人達が急に気を失ったからもう良いかと思った。それより…」
カレンは男を睨みつける。
「何か嫌な予感がした。だから来た」
「お前では俺には勝てない。諦めろ」
「何だとコラ…!!」
カレンの怒りの言葉を無視し、男はカレンの後方にある気を見て言った。
「俺が気付かないとでも思ったか。出てこい」
「バレてたか。まぁ、オレ的にはどうでも良かったんだが」
男が見ていた木の後ろから現れたのはスランだった。
「スラン、お前……何故俺達を裏切った?」
「裏切った?何も知らねぇガキが……なぁ?ユーレン君」
「……お前と戦うのは避けたいんだがな」
「そりゃオレもだ。退いてくれよ」
その時、ニット男がスランを後ろから攻撃しようとしていた。
だがスランは後ろを見ずに肘でニット男の腹を殴った。
「お前じゃこいつには勝てない」
「……そうみたいッスね」
ニット男は浮遊し男の横に行く。
そして二人は黒い煙で姿が隠れていく。
「いずれ我々『聖冠団』とお前達は戦う事になるだろう。覚悟しておけ」
「覚悟すんのはそっちだ」
二人は黒い煙で完全に見えなくなり、黒い煙が晴れた時には二人とも消えていた。
「何でアンタがこんな所にいんのよ!」
カレンは少々怒っている。
見ず知らずの男に『お前では勝てない』と言われた事や、その男に何もできずに逃がしてしまった自分に腹が立っているのだ。
「ヒルグから話を聞いてな。ちょっと確認したい事があった」
「確認したい事って何よ」
「それは今は言えねぇ。ただこれだけは言っておく……」
スランは真剣な顔でカレンとシュードに言った。
「今日あった事は絶対にカインには言うな」
「入るぞ」
スランはスウェルの部屋に入る。
そこには椅子に座ってマンガを読んでいるスウェルがいた。
スウェルはスランに気付き、マンガを閉じる。
「どないしたん?そんな顔して~」
「残念ながらいつも通りの顔だ」
スウェルは冗談冗談と言って笑った。
「で、ホンマに何があったんや?」
「仕事でシュードが負傷、リリカに治療を受けてる」
スウェルはそれを聞いて不思議に思った。
そんな事ならよくあることだ。
仕事で傷付き、リリカに治療されるというのは一々報告されるまでもない事だ。
何故リリカに治療されるのかと言うと、リリカは治療専門の魔術士で、要するにそれが仕事だからだ。
「もっと簡潔に言わんかい。長話は嫌いやねん」
「シュードの相手は『聖冠団』の奴だ」
スウェルはそれを聞いて目を細める。
「アイツ……エエ加減止めさせなアカンな」
そう言うとスウェルは立ち上がり眼鏡を取る。
その瞬間部屋の空気が変わった。
「こんな所でそれ取んのやめてくれね?」
「ん?スマン」
「ま、それだけ本気って事か」
スウェルは部屋を出ようとドアノブに手を掛ける。
「どこ行くんだ?」
大体答えは分かっていたが一応聞いてみる。
「直接行って文句言ったる」
そう言うとスウェルは勢いよくドアを閉めた。
誰もいなくなった部屋でスランはと言うと…
「……これ面白れぇのかな」
スウェルが置いていったマンガを読んでいた。
「あの人に伝えた方が良いかな」
そう言いつつもスランはマンガを読んでいた。
―――報告―――
7月、8月の投稿が中々出来ないかもしれません。
9月以降もあまり出来ないかもしれませんがご了承ください。
ですが、決して連載をやめるわけではありません。
そこは勘違いしないでください。
シュード・フリーザー
Sude.Freezer
【性質:冷気/15歳/男162㎝/46㎏】
白髪に黒い線が二本入っていて、一年中マフラーをしている少年。
時々間延びしたような喋り方をする。
感情の変化が殆どと言うか無い。(本人曰くもう忘れた)
『冷酷の死神』と呼ばれる事があり、その呼び名通り的には容赦をしない。
決め台詞は「凍て付け、清冷の氷塊で」