第33話 死の力より ~本当は四人で~
「いやぁ、危ねぇな。オレの『空域』が吹っ飛んじまった」
「惜しい。もう少しであなたもズタズタにできたのに」
「はっはっは、テメェじゃ無理だ」
シルゴートは地面に膝を着く。
先程の技で輝力を使い果たしたらしい。
「後はお願いしますよ」
「へいへ―――っ!!」
レイルはとてつもない殺気を感じて振り返る。
そこには両手に銃を持っているリーフがいた。
「アイツは……俺にやらせてくれ」
「あぁ?テメェじゃ無理だ。すっ込んでろ」
リーフはレイルの顔面すれすれに弾を放つ。
弾は壁に着弾すると、壁を大きく抉った。
「こいつは俺にやらせろ…!!」
「なっ…!!」(こりゃただの破動じゃねぇ。まさか……)
リーフはスラークの10m程前に立つ。
すると、スラークは鼻で笑った。
「貴様のようなガキが私の相手か?」
「ああ、そうだ」
「笑わせてくれる。私に勝てるとでも……」
リーフは何も言わず、左手の銃で弾を放つ。
速さは避けられないわけではなかったが、問題は大きさだった。
直径30m程で、スラークは避けられずに直撃した。
「があっ!!…はぁ、はぁ…」
「年甲斐もなくシャシャッてんじゃねぇよ」
「ガキがぁ…!!」
スラークはよろよろと立ちあがる。
「あれが……リーフの破動?」
「いや、ありゃただの破動じゃねぇ」
エリサの問いにレイルが冷静に答える。
「ただの破動じゃない?」
「ああ、正確には輝流でもねぇ」
「じゃあ、あれは何なの!?」
レイルはエリサを落ち着かせ、話し始める。
「オレも見るのは初めてだが……あれは『死力』だ」
「死力?」
今度はリルが尋ねる。
エリサも知らないのだがリルの方が早かった。
「死力は輝力ではなく、人の命を使うんだ」
「人の命を!?」
「ああ、本来死力を使ったものは……死ぬ」
エリサとリルは驚いて声も出ない。
要するにリーフは死んでしまう、というのだ。
「そんな……」
「助ける方法はないの!?」
「無茶言わないでくださいよ」
レイルの代わりにシルゴートが答えた。
「彼は自分で選んであの力を使っているんですよ。それで死んだって彼のせい……でしょ?」
「アンタねぇ…!!」
エリサは手を強く握る。
「やるんなら相手しますよ?輝力が尽きかけているとはいえ、ただの魔術師には負けませんから」
「シルゴート、その辺にしとけ。嬢ちゃんも、な?」
エリサは握っている手の力を強めた。
自分が何もできない事に腹が立っているのだろう。
(そろそろ体に変化が起きる筈だが…)
「帝王の即決断罪!!」
リーフの左手の銃からかなりの速さで銃弾が発射される。
それはスラークを捕え、壁に高速で激突し爆発する。
「左は相殺、右は破壊…」
「何ですか?それ」
エリサの呟きにリルが尋ねる。
「リーフの銃の……使い方って言うのかな。左手の銃で敵の技を相殺し、右手の銃で破壊する」
「えっ、でもまだ……」
「ええ、左であの強さ……右で撃ったらどうなるの…?」
「待ちや!!カイン!!」
「誰が待つかよ!!」
カインとスウェルは廊下で追いかけっこをしていた。
どちらも遊びとは思っていないが。
「何で俺が行っちゃいけねぇんだよ!!」
「大人の事情や!!そんくらい分からんかい!!」
その時、カインは少し前の壁が崩れているのを見つけた。
それを見るためにカインは足を止めた。
「やっと……諦めたか…」
「いや違う。見ろ」
そう言ってカインは崩れている壁の下の辺りを指差す。
そこには何かはよくわからないが、穴だらけの死体があった。
「これは……」
「見てみ!あっちにも誰かが倒れとるで!」
そう言ってスウェルは反対側の壁(だった場所)の向こう側を指差す。
そちらには銀髪の青年が倒れていた。
こちらはまだ息がある。
「おい!大丈夫か!!」
「お前は……リーフの仲間か…?」
「リーフを知ってんのか!?」
「そうか……リーフは、僕を…許してくれるかな…」
「おい!答えろよ!!」
カインがそう叫んだ瞬間、青年の体が光り出す。
それに合わせて青年は苦しそうに顔を歪める。
「うっ!ぁぁぁあぁあぁああ!!!」
「大丈夫か!?」
「これは…!」
「どうしたんだ?」
「まさか……死力を使ったんか」
「死力?何だそれ」
スウェルは死力についての説明をする。
それを聞いて、カインは目を見開く。
「って事は……リーフは!?」
「リーフ…僕は…君に、酷い事をした…」
「あ!?俺はリーフじゃ…」
カインの肩をスウェルが掴み、首を横に振る。
その動作を見てカインは黙る。
「僕は…自分の、弱さを、棚に…上げて……ぐっ!」
青年がまた苦しそうにする。
すると、青年の足が消えかかる。
「僕のせいで…君を、苦しめて…」
青年の頬に一筋の涙が流れる。
「ごめん…!」
青年の声が震えたものになる。
それと同時に足が完全に消え、胴体が消えそうになる。
「ごめんよ、リーフ…!!」
胸の辺りまで消えた。
「僕は、本当は…四人で…」
とうとう声も出なくなるが、口は動いていた。
口の動きだけでカインは何が言いたいのか大体は分かった。
青年の体は全て消えてしまった。
「……カイン」
「リーフも辛い過去を背負ってたんだな……」
「せやな……」
二人の間に重く、冷たい空気が通っていた。
リーフ、聞こえているかい?
君には八年前から心に重荷を背負わせていたんだね。
僕が弱いせいで……本当にごめん。
もう、僕には何もできそうにない。
先にセルシアの所に行ってるね。
でも、君の力の一部となって君を護り続けているから。
今更こんな事って思うかもしれないけど、何があっても僕はリーフの味方だよ。
本音を言うと、贅沢を言っているように聞こえるかもしれないけれど。
もしかしたら君を更に苦しめてしまうかもしれないけれど。
最期の言葉だから聞いて欲しいんだ。
―――僕は、本当は四人で……
ずっと笑っていたかったんだ…。
(雪龍)
「さて、今回の話はかーなり重たい話でしたね」
(カイン)
「作者の力量不足のせいで大したことなくなったけどな」
(雪龍)
「そんな事言わないでよ…」
(カイン)
「まぁ、諦めなかったら良い事あるって」
(雪龍)
「まさかのアメとムチ!?…まぁ、いいや。今回の話で少しでも感動してもらえたら嬉しいかぎりです」
(カイン)
「だから無理だって」
(雪龍)
「もしかしたら―――」
(カイン)
「絶対ない!!!」
(雪龍)
「…グレるぞ」