第22話 空気を統べる者
「ところで一つ聞いて良いか?」
男はカインとリーフに対し、右手を上げて質問する。
「どうして俺の封印を解いたんだ?」
「そうしねぇとあの子が成仏できねぇんだよ」
「やっぱそう言う事か…」
男は何かを考え込むように俯いて黙る。
「何だ?嬉しくなかったのか?」
「まぁ、今から倒されるんじゃ喜べねぇだろーよ」
「ちげーよ。てめぇらは一つだけ勘違いしてる事があってな」
男の言葉にカインとリーフはどういう意味か尋ねる。
「あの嬢ちゃんが成仏できねぇと言ったが…」
「…?」
「嬢ちゃんは死んでねぇよ」
「「!!!」」
男の言葉に二人は驚愕する。
「あの子は身体を生贄に封印されただけで、死んじゃいねぇんだよ」
「そ、そんな事…!」
「ほら、来たぜ」
男の指さす方を見ると、リルが走ってきていた。
「大変なんです!アリスちゃんが!!」
「まさか本当に…」
リルは後ろにいる少女―――アリスを見せる。
するとやはり、足は地面にしっかり着いており、身体も透けていない。
「私…生き返ったんです」
カインはそうではないと言い、先程聞いた真実を告げた。
「じゃあ私は元から死んでいなかった…?」
「そう言う事だ。リル、アリス連れて下がってろ」
カインはリルとアリスを下がらせ、男の方を向いた。
「随分優しいじゃねぇか。待っててくれるなんてな」
「……お前ら、名前は?」
「リーフだ!」
「バカ!こういうときは『人に名前聞くときはまず自分から名乗れ』だろ!」
「知るか!」
カインとリーフがコントを繰り広げていると、男は溜め息をついた後、手から黒い靄を出し再度尋ねる。
「俺の名前はバルデス。お前は?」
「……カインだ」
「カイン?…そうか。お前がカインか…」
カインは手から炎を出し、リーフは銃を取り出す。
「行くぜ!」
「フィアフルショット!!」
リーフはバルデスに向かって、大きな弾を三発放つ。
バルデスはそれを避けるが、避けた先にはカインがいた。
「炎焦崩穿!」
カインが手を振り下ろすと同時に、炎が上からバルデスを襲うが、手に纏っていた靄で相殺させてカインの目の前に立つ。
慌てて炎で盾を作るが、それを破ってカインに靄が襲いかかる。
「いってぇ…」
「何ぼさっとしてんだ!あれやんぞ!」
カインはリーフに近寄り、肩に手を置く。
「「炎の穿撃砲!!!」」
銃から放たれた大きな炎の弾が、バルデスに当たり爆発を起こす。
「やったか!?」
「あー、ちとなめてたわ」
「なっ!」
カインとリーフの最大の技でも、バルデスに多少なりとも傷はあるものの倒せていなかった。
「コイツ、中級って言ってるが、上級に近い…」
「要するにやべぇって事か…」
「お前らが破動輝流士ならやばかったな」
バルデスの言葉にカインは反応する。
「まぁ、これで終わりだ。ご苦労さん」
バルデスの手に途轍もない大きさの靄の塊が集まる。
「無への路」
カインとリーフに大きな闇の塊が迫ってくる。
カインは首巻に手を掛け外そうとするが、誰かに止められ、更に闇の塊もどこかに消える。
「ったく、仲間がおる所でそれ外したらアカン言うたやろ?」
「ボス!?」
「何であんたが…?」
そう、闇の塊をどこかへ飛ばしたのはスウェルだった。
「封印が解けた感じがしたから来たんやけど、どうやらギリギリセーフっぽいな」
「……そうか、助かった」
「まぁ、一応ボスやし。それに…」
スウェルはバルデスを睨みつけ、続ける。
「闇を光で照らすのが大地を照らす13星座の役目やからな」
「!! 大地を照らす13星座だと!?」
「せや、大地を照らす13星座が一人、魚座として、アンタを倒す」
スウェルは手のひらに大きな透明な立方体を作りだす。
「聞いたことがある。空気を操る輝流士が、大地を照らす13星座にいるとな」
「うーん……アンタの情報は少し間違っとる」
バルデスは闇の塊をスウェルに投げつけるが、当たる前に消える。
「あたしは空気を操るだけやない…」
スウェルが手を前にかざし、握るとバルデスは固まったように動けなくなる。
「あたしは空間も操れる。最期に見せたるわ。アンタ等が大っ嫌いな破動をな」
スウェルの手のひらにある立方体がだんだん小さくなる。
そしてサイコロ位の大きさになる。
スウェルは動けないバルデスに近づいて行く。
「あたしの破動は空気圧縮。文字通り空気を圧縮させる事が出来る」
スウェルはバルデスの胸に空気を埋め込み、距離をとる。
「一個言い忘れたけど、あたしが空気を離すと一気に元に戻るんよ」
バルデスは目を見開く。
「どういう事かわかったみたいやな。あんたはそのまま…ドカン!!」
すると徐々にバルデスが膨らんでいく。
「弾けろ…」
「空気を統べる力によって」
そしてスウェルは呟く。
「アンタに罪は無い……ごめんな」
刹那、バルデスは爆発し、周りに血の雨を降らせた。
「で、アイツ何処行ったんだ?」
「さあ?逃げたんやろ」
カインの質問にスウェルは答える。
先程の戦いはスウェルしか知らない。
何故なら空気を歪ませて、幻を見せていたからだ。
「それよりこの子どうするん?」
スウェルが尋ねると何処からか声が聞こえた。
「誰だっ!」
『申し訳ありません。驚かせてしまって』
「う、そ……」
アリスの目から涙がこぼれる。
「お母さん……」
「「「「ええぇ!!?」」」」
『アリス、ごめんなさい、あなたに悲しい思いをさせてしまって…』
カイン、リーフ、リル、スウェルの四人は驚きで口が開いたままになっている。
「お母さん、お父さんは?」
『………………』
「…どうしたの?」
『あの人は闇に堕ちてしまった』
「えっ…」
『私は死んでしまったけどあの人は……闇族になってしまった』
「闇族に!?」
「ここはあたしが話すわ…」
スウェルが言うには、闇族は人の心が、強い負の感情などで、闇に落ちた時になるらしい。
『でも、いつか彼を救ってくれる人がいる。私は先に行って待ってる事にするわ』
「待って!行かないで!!」
アリスは母親に抱きつこうとするが当然ながらできない。
『うちの子を頼めますか?』
「任せとき!こいつらがしっかり面倒見るから!」
そう言ってカインの背中に乗る。
カインはバランスを崩し、危うく転びそうになる。
アリスの母親は微笑む。
もう肩のあたりまで消えている。
『アリス、私は空からあなたを見守ってるから…』
そこまで言うと、消えた。
「お母さん…」
「…どうする?こいつらの家に来るやろ?」
「………………」
「ここに残るか?ここに残ってもお母さんは帰ってけえへんで」
「おい!そんな言い方は―――」
「…そうですよね」
全員アリスの方を見る。
「ここに残ってもお母さんは帰ってこない」
「アリス……」
「だから、これからよろしくお願いします!」
アリスはカイン達に向かって頭を下げる。
「こっちこそよろしく!」
「一件落着ってことで帰ろうか。せや、何かおごったるわ!」
「マジか!?じゃあさっさと行こうぜ!」
そう言ってカインは歩き出そうとするが、突然目から大量の涙が溢れ出す。
「あれ…?」
「ぷっ、何泣いてやがんだ!!」
「うっせぇ!てか止まらねぇんだけど」
「そんなに嬉しいんか?」
一行はカインをからかいながら歩いて行く。
(まさか、闇族の心を…)
スウェルはカインを見ながら自分の考えを整理していた。
(カ)「あー美味かった」
(雪)「何おごってもらったの?」
(カ)「ラーメン、ハンバーグ、カツ丼etc…」
(ス)「財布の中空っぽやわ…」
(雪)「自分で言ったんだから仕方ないよね」
(ス)「それはそうと、あたしの一人称が『私』から『あたし』になっとったで」
(雪)「それはなんとなくだな」
(ス)「あっそ…」
(雪)「さて、次回は『アース』のメンバーが春恒例のあの行事をします!」
(カ)「強引に予告に持っていったな」
(雪)「久しぶりにまともな事が出来た」