第18話 交わる斬撃 後編
「お主を切り捨ててくれる」
「望むところだ」
先に動いたのはヤグモだった。
一気に間合いを詰める。
だが
「旋風刃!」
「なにっ!」
向かってくるヤグモに対し、佐祢丸が居合斬りをすると斬撃が地を這い、ヤグモを襲う。
しかしそれを少しは驚いたものの簡単に避ける。
それを見て今度は佐祢丸が動いた。
「焔王刃!」
「葬雷!」
佐祢丸の炎を纏う刀に対し、ヤグモは電気を纏う刀で応戦する。
「その年で中々の腕前。だがその程度では私には及ばない」
ヤグモは刀を振り上げ
「閃雷衝覇!!」
それを振りおろすと斬撃と共に雷が出て来て佐祢丸を襲う。
「ぐああぁあぁぁあああ!!!」
電撃をまともにくらい、よろけながらも立つ佐祢丸。
「ほぉ、あれをくらってまだ立つか」
「あの程度で倒せると、思っておったか…」
「そこまで言うのなら私の全ての力で貴様を沈めてやろう」
そう言うとヤグモは刀を前に突き出す。
「魔錬具強化改造!!」
そう言うと刀が光り出す。
その光がやむとヤグモの刀は柄だけになっていた。
「柄だけになった…」
「あれは『魔錬具強化改造』って言ってな。上位の武具士が出来る、魔錬具を変形し、強化させる力だ」
リルは心配そうな表情で佐祢丸を見る。
だがカインは安心しろと言う。
ヤグモが柄だけの刀を振ると、なんと光の刃が現れた。
「行くぞ!!」
ヤグモは間合いを詰めて佐祢丸に斬りかかる。
「雷核鎖霆刃!!」
刀を横に振ると、今までより大きな電撃が佐祢丸に襲いかかる。
だが佐祢丸は刀を前に突き出し
「魔錬具強化改造!!」
ヤグモの時と同様に佐祢丸の刀も光り出す。
そして光がやむと佐祢丸は片手に一本ずつ、計二本の刀を持っていた。
そして向かってくる電撃を左手に持っている刀で弾き飛ばした。
「なっ!何だとっ!?」
「ここからは拙者も本気で行かせてもらう」
ヤグモは向かってくる佐祢丸に斬りかかる。
だがそれを左の刀で受け止め、右の刀で斬る。
ヤグモは腕に少し掠ったものの、避ける事に成功した。
「くっ、まさか貴様も出来るとはな」
佐祢丸はニィと口角を上げ、刀を鞘に納める。
「双刀奥義―――十乃字桜!!」
鞘に納めた刀を一気に居合抜きをすると、十字の斬撃がヤグモに飛んで行く。
それを躱し、正面に向きなおすがそこには佐祢丸の姿は無く、ヤグモのすぐ隣に来ていた。
(なっ、速い!!)
「斬り裂く…」
佐祢丸は二本の刀を合わせて一本にし
「神速の剣戟で!!!」
そのまま横に一閃させて終わった。
「そいつどうすんの?」
勝負がついた佐祢丸の所に来てカインは聞いた。
「ふむ、その事なんじゃがな―――」
「殺せ……」
倒れていたヤグモが上半身だけ起こして言った。
「敗者には死しか残っておらん。殺せ」
カインとリルは黙って佐祢丸を見た。
当の本人はと言うと
「いや、そんな事はせん」
「!!」
その答えを聞いて、カインはやっぱりなと苦笑する。
だがヤグモは
「何故だ!私には死しか無いのだ!!」
佐祢丸は黙って聞いている。
「それとも何だ!!私に生き恥をさらせとでも―――」
「五月蠅い!!」
佐祢丸は我慢の限界が来たのか、刀を納めている鞘でヤグモの頭を叩いた。
「ぐっ!何をする!!」
「ごちゃごちゃ五月蠅いんじゃ!!殺せじゃと?ふざけた事をぬかすなボケ!!」
「っ!!―――――」
「そんなに死にたければ一人で勝手に死んでおれ!!」
ヤグモは俯いて黙って聞いている。
「じゃがな、それで死んだとして何が変わるというんじゃ!!お主を大切に思っている人を悲しませるだけではないか!!」
「私にはもうそんな人はいない…ずっと一人なんだよ…!!」
ヤグモはポツリポツリと呟くように話す。
「私は昔から一人だった。友達も、親も、何も無かった」
「じゃあ、これから作っていけばいいじゃろ」
「そんなこと…」
「できる」
「何を言うのだ!出来る筈が―――」
「そりゃ、今更親は作れんがな…」
「仲間なら作れるじゃろ」
そう言って手を差し出す。
それをヤグモは驚いた表情で見る。
「『アース』に来い。そうすれば問題は解決できる」
「俺もそうした方が良いと思いますよ」
佐祢丸の後にカインも続く。
「どうせアンタ行くとこないんでしょ?」
「……こんな私でも良いのか?」
「何を言うのじゃ。拙者から誘っとるんじゃ。良いに決まっているだろう」
ヤグモは差し出された手を掴み
「…ありがとう…ありがとう」
消えそうな声で何度もお礼を言った。
「さ、帰りますか」
カインのその言葉でヤグモを含めた一行は、夕焼けの中を帰って行くのだった。
「そういえばお主何歳なのじゃ?」
突然佐祢丸はヤグモに質問した。
「私は26歳です」
「結構年上なんじゃな」
「ボスより年上だな」
「その方は今何歳なのですかな」
今はこの場にいないとはいえ、女性の年を聞くのはどうかと思うが…というよりまだヤグモは知らなかった。
『アース』のボスが女性だという事を。
「「23歳」」
カインと佐祢丸が上手い事にハモった。
「随分と若いのですな」
ちなみにリルも知らなかったそうだ。
後日ヤグモがスウェルに会った時、女性だと知ってとても驚いたのは別の話。
如月佐祢丸
Kisaragi.Sanemaru
【武具:日本刀/18歳/男/175㎝/63㎏】
黒髪で昔の侍のような格好した青年。
喋り方も独特で、一人称は『拙者』。
カインに会う度に決闘を申し込むが毎回断られる。
『魔錬具強化改造』をすると、刀が二本になる。(一本にもできる)
ちなみに、これは作者が書いている途中に思いついたダジャレから来ている。
決め台詞は「斬り裂く、神速の剣戟で」
闇王の名前を変えました。
既に他の場所で使われていたので。