第12話 漆黒のヴァンパイア
リース・ベットの森に行ってから早2日。
今回も待ち合わせ場所まで歩いている。
今回の待ち合わせ場所とは
「お迎えにあがりましたよー、お坊ちゃまー」
家だ。
しかもなかなかの豪邸だ。
……家に来ている時点で、待ち合わせ、という言葉が正しいのかは分からない。
(こんな豪華なお屋敷に住んでる人…どんな人なんだろう?)
玄関が開く。
中から出てきたのは黒い帽子に黒いマントを羽織った青年だった。
歳はカインと同じぐらいだろう。
「すいません…わざわざ呼んでしまって」
「良いよ別に、お前が陽の光に弱いってことぐらい知ってるし」
(あれ?案外優しそうな人…)
何故リルがそう思ったのかというと、それは昨日―――――
「なぁリル」
リルは夕食後の自由時間にリリカと話をしていると、カインに呼ばれた。
「はい、何ですか?」
「リルって怖いの苦手?」
「え!?…まぁ、得意ではないですけど…」
「そうか…」
そう言い残すと自分の部屋に戻ってしまった。
「まさか…今度はあいつなのかしら…」
「知ってるんですか?」
リリカは少し顔が強張っている。
「多分だけど…そいつはかなり暴れん坊で、一回暴れ出したらなかなか止まらない…」
そして最後にこう付け加えた。
「輝流を使いだしたらカインの後ろに隠れてた方が良いわよ」
―――――という事があったからだ。
内心かなり怖かった。
「初めまして、リル・コークレインと言います」
「僕はリアン―――むぐっ」
突如カインの手がリアンの口を塞ぐ。
(下の名前は言わないでくれるか?)
(…分かりました)
(サンキュー)
「どうしたんですか?」
「いや、世間話をちょっとな…」
リルにはちゃんと全て聞こえていたが、敢えて追及はしなかったのだ。
「それはそうとどんな仕事なんだ?」
「えーと、最近小さい村に襲撃事件が多数発生してるんです」
「で、その調査に?」
「はい」
そんなこんなで三人は歩き出した。
「さて、着きましたよ。ここがフォルテギアの村です」
前回に引き続き、そんな名前は初めて聞くが、今回もそれは置いておこう。
「何でこの村って分かるんだ?」
「確かに…小さな村ならいくらでもありますよね」
「それはですね…これを見てください」
そう言って出したのは地図だった。
五箇所に☓印がしてある。
それを出すと説明を続けた。
「この☓印は最近襲撃を受けた村の場所です。これを見て気付く事はありますか?」
リアンは誰にでも分かると言わんばかりの言い方で聞いてきた。
「これは…『血』か?」
「正解です」
「どういう事ですか?」
「お嬢さんには難しそうなので説明します。この☓印を襲撃を受けた順番に繋げると、『血』という文字になるんです。で次の点はこの辺りになるかと」
最後まで聞いてようやく分かったリル。
「ちなみに、生きていた村の住人の方の話によると犯人は一人で…」
「一人で村を!?」
「ええ、さらに『ヴァンパイア』と名乗っていたそうです」
「ヴァンパイア!?……吸血鬼ですか?」
「まぁ、そうですね」
リアンは少し何かを考えるかのように俯いた。
「ようこそフォルテギアへ。わしはこの村の村長をしているグーライズといいます」
「俺はカインだ。こっちはリアン、でそっちがリル」
一通り挨拶も終わったところで本題に入る。
「村の襲撃事件ご存知ですよね?」
「はい…まさかとは思うのじゃが…」
「そう、おそらく次はここが狙われるでしょう」
「それで来てくれたのですな?」
「はい、我々にお任せください。あとあまり外には出ないように住民の方々に伝えてください」
「分かりました」
一通り伝えると村長はそれを住民に伝えるために歩き始めた。
だがカインの横に差し掛かった時―――――
(炎の子と闇の子…また会うときはお主にとって苦しい時であろうぞ)
(どういう―――)
「では、失礼しますじゃ」
カインは村長を呼びとめようとしたが、もう歩いて行ってしまっていた。
ここは宿の一室―――――
「リル、さっきのじいさんの言葉聞こえてたか?」
「?、いいえ…何も」
「そうか…」
カインが考え込んでいるとリアンが入ってきた。
「少し見てきましたけど、何も異常はありませんでした」
「そうか」
「今は休んでおきましょうか」
そうして三人は少し眠ることにした。
だが
「なんだか外が騒がしいですね」
「まさか…!」
「でしょうね」
「行くぞ!」
案の定だった。
背の高い男の周りに何人かの住民が倒れていた。
全員、傷は負っているものの、誰もまだ死んではいないようだ。
「……あなたがヴァンパイアですか?」
「いかにも、私はベルゲールと申します」
「ヴァンパイアは全滅したと聞いていますが」
「私はその生き残りです。私は今血に飢えていましてねぇ。美味い血を求めているんですが、中々あり付けなくてね」
べルゲールはリアンに走りかかってきた。
「やっぱりな。お前はヴァンパイアじゃねぇ」
(急に口調が変わった?)
べルゲールは懐からナイフでリアンを突き刺そうとする。
「純血の盾」
「何!?」
突如リアンの腕から血が出てきて、それが固まり盾となりリアンを守る。
「何ですか?あれ」
「リアン…フルネームはリアン=ヴァンパイア、本物のヴァンパイアだ」
「えっ!?でもさっき全滅したって…」
「リアンは唯一の生き残りだよ」
カイン達の会話はべルゲールにも聞こえていた。
「な、お前…本物の…ヴァンパイアなのか!?」
「あぁそうだ」
リアンは先程までとは違い緑色の眼は赤くなり、牙が伸びている。
「あれはヴァンパイアモード」
「ヴァンパイアモード?」
「あいつが能力を使う時、あの状態になるんだ」
リアンは先程盾にした血を鎌の形に変えた。
「さっきお前は『血をよこせ』と言ったな」
「そ、それがどうした」
リアンはニヤッと口角を上げ続ける。
「ヴァンパイアは『血を吸う者』じゃねぇ…」
べルゲールは冷や汗を垂らしながらも、それがどうしたと威勢よく尋ねる。
「ヴァンパイアとは……『血を扱う者』の事だ」
べルゲールは構えなおし、またリアンに襲いかかった。
「純血の大鎌」
リアンはべルゲールのナイフだけを器用に弾き飛ばす。
「畏怖せよ…」
リアンは血を鎌から大きなハンマーの形へと変えた。
「純血の裁きを」
リアンはハンマーを振りかぶり
「純血の大槌」
打ち倒した。
「本当に良いのですかな?」
「はい、我々はこいつを監獄にぶち込みに行かないといけないので」
リアンは縄でぐるぐる巻きにされているべルゲールを指差して言った。
「では、さようなら」
「ありがとうございました。いつでもお越しください」
「では、僕はこいつを監獄に連れて行かないといけないんで」
「そうか、じゃあな」
私達は帰り道の途中で別れた。
振り返ってリアンを見てみると、漆黒のマントが翼のように見えたとか。
リアン=ヴァンパイア
Lian=Vampire
【性質:血/18歳/男/172㎝/61㎏】
全滅したとされるヴァンパイアの生き残りの青年。
普段は丁寧な口調でおとなしい性格。しかしヴァンパイアモードになると性格が激変する。
実は結構な金持ち。
原流士で性質は血(ヴァンパイアは皆)。能力を使う時だけヴァンパイアモードになる。
決め台詞は「畏怖せよ、純血の裁きを」