第10話 不敵な大剣使い
私達の待ち合わせ場所は噴水のある広場だ。
「遅ぇなぁ」
「今日来る人ってどんな人なんですか?」
私は期待に胸を躍らせていた。
「そんな期待すんな。悪い奴じゃねぇけど良い奴でもねぇ」
「そんな事言うなんて、僕悲しいな~」
「うわっ!」
後ろから急に話しかけられたので、リルはかなり驚く。
そこに立っていたのは、金髪で背中に大きな剣を背負った青年だった。
「遅ぇぞ、レッ君」
「レッ君?」
「本名はレックス・セルベシア。皆レッ君って呼ぶから君もそう呼んでね~」
あまり喋ってないからよく分からないが、レックスに対するリルの第一印象は"軽い人"だった。
とにかく軽い人だった。ただの印象だが。
「私はリル・コークレインです。よろしくお願いします」
「うん、よろしく!ところで…」
まだ続けるようだったので、黙って聞く。
だがこんな事を言われるとは思わなかった。
「リルちゃんかわいいね!付き合って」
「えっ!?」
「おいおい……」
まさかの発言である。
生まれてから一番驚いたのではないだろうか。
「そんなことよりどんな任務なんだ?」
「えーと…山賊退治」
レックスはすんなり切り返した。
本気ではなかったのだろう。
ちなみに後で聞いた話だが『かわいい子にすぐに告白する』これはレックスの真骨頂らしい。
はた迷惑な真骨頂である。
「じゃ、さっさと行こうぜ」
こうして私達3人は山賊退治に出向くのだった。
「で、カインとはどうなの?」
「ひぇっ!?」
レッ君が小さい声でこんな事を聞いてくるので、思わず声を上げてしまった。
「そ、そんな…何でもないで…す…」
「はははっ!リルちゃん面白いねぇ」
完全にからかっている。
でも面白い人なんだろうと思った。
そう思わないとやっていける気がしなかった。
「まぁ、こういう話題で僕からは逃げれないよ~」
どうやらこの手の話は大が1000個ほど付く位好きらしい。
というより、かなり敏感なんだろう。
だがここでカインが助けてくれた。
「気をつけろよリル、そいつの言う事の半分はデタラメだから」
「……はい」
「ありゃ、元気がないね…どったの?」
「お前がなんかしたんだろ?」
「やだなぁ、まだなんもしてないってば」
「まだってことはなんかするつもりだったんだろ」
「…カイン君鋭いねぇ」
そんなやり取りを見て少し羨ましくなった。
リルにもこんな軽口を叩き合える、友達が欲しいのだろう。
「こんな所で…」
「おでましですか…」
カインとレックスの言葉に気になって周りを見てみると、数十人のいかにも怪しい男達に囲まれていた。
「お前らが山賊さん?」
「そうだてめぇら!金目の物全部置いていけ!」
「うわぁ……古ぃな、脅し文句」
「なんだとガキ…!なにもんだ!?」
「てゆーか、一個聞いて良い?」
山賊が質問をしてきたにも関わらず、お構いなしに手を上げて質問を質問で返すレッ君。
その質問の内容は
「ココ山じゃないけど何で出てきたの?『山』賊でしょ?」
確かにここは山ではない。
平原と言ってもいいぐらいだ。
だが山賊は
「山に人が来ねぇからだよ」
(理由ショボッ!!)
本当にショボい理由だった。
だがレックスは
「じゃあ、山賊なんてやめれば?」
(それ言っちゃうの!?)
とんでももない発言である。
なんて事を言ってるんだコイツは、と呆れるカイン。
山賊達の沸点はかなり低かった。
「おい、あんま調子乗ってると…痛い目見るぞ!」
その言葉が合図だったのかは知らないが、山賊達は一斉に武器を構えた。
それと同時にレックスも背中から大剣を抜く。
「リル、危ねぇから下がってよーぜ」
「でも…レッ君が」
「大丈夫だよ、あいつは」
カインが後ろに下がるので、それにつられてリルも後ろに下がる。
だがそれを見逃すわけもなく
「死ねぇッ!!」
一人の山賊がリルに斬りかかってくる。
だが、刃はリルに届く事はなかった。
レックスの大剣が守っていたのだ。
「女の子には優しくしないと駄目でしょ」
レックスの後ろから男が斬りかかる。
だがその男の刃も届かず
「一応やめれば?って聞いたからね」
レックスは黒い笑みを浮かべた。
「う、嘘だろ…」
全滅。
一人残ってはいるが。
ちなみに誰一人として死んではいない。
「レッ君の能力って…」
「レッ君の能力は魔錬具『破邪光神剣』を使う武具士だ」
カインはリルにかなり大雑把にレックスの能力の説明をした。
「く、くそぉッ!!」
残った一人はやけになってレックスに向かって走り出す。
「薙ぎ倒す…」
「うぉぉおおお!!!」
「大いなる一太刀で!」
「―――――旋麟乱刃」
空を切る一太刀は、鋭い衝撃波となって敵を吹っ飛ばした。
「で、ボスはどいつ?」
「ここには…いねぇよ…」
「どこにいんの?」
「山の麓の小屋だ…」
レックスは山賊からボスの居場所を聞き出すと黙って歩きだす。
それについていこうとしたリルだったが、カインに引き留められた。
「カインさん…?」
「ありがとね、カイン君」
「別に……あとは頼んだ」
「うん」
そう言うとレックスはまた歩き出す。
カイン達は逆方向に歩き出した。
「裏の顔はあんまり見せたくないからね……」
ドアの開く音と、閉まる音がした。
誰か―――山賊のボスらしき人物は奥に座っていた。
「おぅ、帰ったか、どうだっ――――――」
そこで山賊のボスらしき人者は喋るのをやめた。
「誰だ…てめぇ」
「お前を殺す男だよ」
そこに立っていたのはレックス。
先程とは別人のような表情だ。
「ほう…名前は?」
「教えても意味ねぇんだよ…死ぬんだから」
「んだとゴラ…!!二度と生意気な口聞けねぇようにしてやるよ…!!」
そう言うと鞘から剣を抜き、それを構えてレックスに向かって走った。
レックスは剣を前に突き出す。
「魔錬具強化改造」
そう言うと同時に剣が光り出した。
そして光が収まる頃には剣は少し姿が変わっていた。
鍔には羽のような装飾が施されており、刀身は10㎝ほど長くなり刃が青くなっている。
「お前輝流士だったのか…」
「だからどうした?」
「こ、殺すな!待て!!」
「駄目だ。頭さえ落とせばどんな獅子でも終わる」
レックスは恐ろしい笑みを浮かべている。
「切り刻む…」
「頼む…許してくれ…」
「絶望の斬撃で」
「うわああぁぁぁ!!!!!」
辺りは血の海と化した。
「この姿を見られると女の子に嫌われるんだよね…」
レッ君は顔に付いた返り血を舐める。
「もう良いや…帰ろう」
レッ君は暗闇の中に消えていった。
さて予告通り人物紹介をしようと思います。
主人公からじゃないけど…良いですよね?
レックス・セルベシア
Recks.Selbesia
【武具士:大剣/19歳/男/182㎝/68㎏/一人称:僕】
金髪で美顔の青年。語尾を伸ばして喋る事が多いため、かなり軽い印象を持たれる事が多い。人の恋話が大好き。
『破邪光神剣』という大剣を使い、さらに魔錬具強化改造が使える。
普段はおっとりとしているが、裏の顔という別人格を持っている。
裏の顔の状態になると普段の時とは真逆の冷徹で非情な性格になる。
愛称はレッ君。
決め台詞は『薙ぎ倒す、大いなる一太刀で』
裏の顔状態の時は『切り刻む、絶望の斬撃で』