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「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」  作者: きりざく


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第3話 最低評価の剣と、見抜かれる覚悟

ギルドの空気が、微妙に変わったままだった。


依頼達成の報告を終えても、

周囲の視線は、はっきりと俺たちを追っている。



「……なんか、見られてますよね」



セリアが小声で言う。



「気にしなくていい。気にするほど、相手の思うつぼだ」



俺は掲示板の前で足を止めた。


だが、視線の理由は分かっている。


新人。

鑑定職。

そのくせ、依頼を“正しく”終わらせた。


ギルドにとって、一番扱いにくい存在だ。



「……次は、どうしますか?」


「少し、観察する」


「観察?」


「今は、動くより見た方がいい」



俺はそう言って、壁際に立った。


すると——



「おい」



低い声が、背後からかかる。


振り向くと、昨日も見かけた中堅冒険者が立っていた。

鎧はくたびれているが、動きは悪くない。



「……何か?」


「さっきの報告、聞いた」



短く、要点だけ。



「本当に、下水路に巣があったのか」


「鑑定結果と、実地確認の両方でな」



男は腕を組み、少し考える。



「……俺たち、三日前に同じ依頼を受けた」



セリアが小さく息を呑んだ。



「だが、何もなくて終わった。危険度は低いままだ」


「表層だけを見れば、そうだ」



俺は否定も肯定もしない。



「だが、増殖は“途中段階”だった。今はもう一段進んでいる」


「……つまり?」


「君たちは、たまたま早かった」



男は舌打ちした。



「運が良かったって言いたいのか」


「違う。情報が足りなかった」



俺は落ち着いて言った。



「運じゃない。構造の問題だ」



男は数秒黙り込み——

やがて、短く笑った。



「……鑑定屋ってのは、面倒だな」


「褒め言葉だと受け取っておく」



男は肩をすくめ、去っていった。


セリアが小さく呟く。



「……怒られませんでした」


「怒る理由がないからな。事実を言っただけだ」


「……それで、空気が変わるんですね」


「少しずつな」



ギルドは“実績”の場所だ。

一度の成功で信用はされないが、

失敗が少ないほど、評価は動く。


——鑑定は、その失敗を減らす力だ。



しばらくすると、ギルド奥の酒場スペースから、

例の派手な男がこちらを睨んでいるのが見えた。



セリアも気づいたらしい。



「……さっきの人、まだ見てます」


「放っておけ。ああいうのは、注目されると増長する」


「……はい」



その時。


ギルドの隅。


古びた剣を抱えた男が、ゆっくりと立ち上がった。



「……」



視線が合う。


男の年は、三十前後だろうか。

服装は質素。

装備は、剣一本。


だが、その剣——



《鑑定眼》が、警告のように文字を走らせる。


——古剣(封印)

——評価:最低

——実際価値:SS

——危険:暴走(手順厳守)

——解放条件:鑑定者の宣言



「……やっぱり、気づいたか」



男が低く言った。



「普通の鑑定屋じゃ、目を逸らす。だが、お前は違う」


「……何者だ?」


「名乗るほどのもんじゃない」



男は自嘲気味に笑った。



「ギルドじゃ“呪われた剣持ち”って呼ばれてる」



セリアがびくっとする。



「……呪い、ですか?」


「そう言われてる。触った奴は不幸になる。近づいた奴は仕事が減る」


「だから、最低評価」


「だから、誰も関わらない」



男はそう言って、剣を少し持ち上げた。


鞘に収まっているのに、

中身が“生きている”気配がする。



「……忠告だ。鑑定屋」



男の目が、俺を射抜く。



「そいつは、見ちゃいけない類の剣だ」


「見た結果は?」


「見た奴から、運が消える」


「……それは、鑑定結果じゃないな」



俺は一歩、近づいた。


セリアが慌てて言う。



「レ、レインさん……!」


「大丈夫。触れない」



俺は男に向き直る。



「君の言葉は“噂”だ。だが、俺の鑑定は“事実”だ」



男の眉が、ぴくりと動く。



「……言い切るな」


「言い切る。鑑定屋だからな」



俺は《真理の鑑定眼》を、最大限集中させた。


——古剣(封印)

——本来用途:対魔・対呪特化

——副作用:使用者の精神摩耗

——封印理由:制御不能

——現在状態:安定(仮)

——最適解:解放は“今ではない”



「……」



視界に流れる情報を整理する。



「この剣は、呪われてるんじゃない」



男が息を呑む。



「“危険すぎる”だけだ」


「……何だと?」


「力が強すぎる。だから封印された。扱い方を知らなければ、持ち主を壊す」



周囲の空気が、静まっていく。


何人かの冒険者が、こちらを見ている。


派手な男も、笑いを消していた。



「……じゃあ、俺はどうすりゃいい」



剣を抱えた男の声が、わずかに揺れた。



「このままじゃ、仕事もねぇ。剣も手放せねぇ」


「……死ぬまで、最低評価だ」



俺は即答しない。


答えを出すには、段階がある。



「今は、何もしない」


「……は?」


「解放は、今じゃない。準備が足りない」



男が歯を食いしばる。



「じゃあ、いつだ」


「俺が“大丈夫だ”と判断した時だ」



ざわ、と周囲が揺れる。



「随分と、上からだな」



派手な男が割り込んできた。



「鑑定屋の分際で、剣士様に指図か?」



俺はそちらを見ない。



「……君は、黙っていた方がいい」


「何?」



俺は、静かに言った。



「この剣が暴走したら、一番近くで死ぬのは君だ」



場の空気が凍る。


派手な男が、口を開けたまま固まった。


剣士の男が、低く笑った。



「……こいつ、嘘は言ってねぇな」


「分かるのか」


「分かる。長年、付き合ってる」



男は剣を見下ろし、呟いた。



「……俺は、待つ」



そして、俺を見た。



「お前の鑑定を、信じてみる」


「それでいい」



俺は頷いた。



「君の価値は、剣だけじゃない。だが、剣も含めてだ」



男は、深く息を吐いた。



「……名前を、聞いてもいいか」


「レイン」


「俺は、ガルドだ」



それだけ言うと、ガルドは剣を抱え直し、

ギルドの奥へ戻っていった。


周囲が、ざわつく。



「……待て、だって?」


「鑑定屋に従った……?」


「呪われた剣を、制御できるかもしれない……?」



声が広がっていく。


それを、俺は止めない。


噂は、勝手に育つ。



「……すごいです」



セリアが、呆然と呟いた。



「剣に、触れてもないのに……」


「触れなくても、分かることはある」


「……鑑定、って……」



セリアは、俺を見上げる。



「人の人生も、見ちゃう力なんですね」


「だから、使い方を間違えると危険だ」



俺は歩き出す。



「評価を動かす力は、刃物と同じだ」


「……怖いです」


「怖くていい。怖いまま、正しく使う」



それが、鑑定屋の仕事だ。


受付に呼び止められる。



「レイン。ちょっといい?」


「何だ?」


「……今のやり取り」



受付は、周囲を気にしながら声を落とした。



「上が見てる。ギルドマスターに、報告が行くわ」


「そうか」


「驚かないのね」


「驚く必要がない」



受付は苦笑した。



「……面倒ごと、増えるわよ?」


「面倒ごとは、最初からあった」



俺は答える。



「見える者は、目立つ」



受付は、少しだけ真面目な顔になった。



「……セリア。次の依頼、受けられる?」



セリアが、はっとして頷く。



「は、はい!」


「下水路の件で、評価が一段上がった。正式依頼が来る」



セリアの目が輝く。



「……本当ですか?」


「本当。——ただし、簡単じゃない」



受付は俺を見る。



「あなたも、同席して」


「当然だ」



俺は頷いた。


受付は、依頼書を一枚、差し出した。


《旧区画・倉庫街調査》

危険度:中

内容:魔物反応/装備紛失

特記事項:過去に複数の失敗例あり


《鑑定眼》が反応する。


——失敗理由:判断ミス

——最適解:鑑定による事前選別

——関与者:複数



「……なるほど」



俺は依頼書を畳んだ。



「次は、“人の判断”が原因か」



セリアが不安そうに聞く。



「……行きます、よね?」


「行く」



俺は迷わない。



「鑑定屋の本領は、ここからだ」



ギルドの奥で、ガルドの剣が、

かすかに鳴った気がした。


——まるで、次を待っているかのように。。。


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