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「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」  作者: きりざく


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23/30

第23話 中ボス戦——非殺傷で掴め

お待たせしました、第23話です!


旧坑道で待っていたのは、“実働”の中ボス格。

狙いは最初から一つ——証拠を燃やして、逃げる。


だから今回は、派手に勝たずに“確実に勝つ”回です。

非殺傷で掴む。封緘で残す。台帳に落とす。


そして押収品に混じる、あの“甘い匂い”……。

前兆は、前兆のままでは終わりません。


それでは、第23話をお楽しみください!!

旧坑道の入口は、思ったよりも“口”だった。


石で塞がれていたはずの場所が、半分だけ外されている。

崩したんじゃない。

音を出さずに、抜いてある。


「人の手だな」

ギルドマスターが低く言った。


「人の手順だ」

俺は返す。

「崩すと音が出る。音が出ると、来る。……来るのは獣じゃない」


セリアが小さく息を吸った。

坑道の奥へ、風が吸い込まれていく。


「……風が逆です。外へ出るんじゃなくて……中へ吸ってます」


「煙を外へ出さない」

俺は結論だけ置く。

「中で燃やす。証拠を“処理”する気だ」


ローヴァンが舌打ちした。

「こっちは拾いに来たのに、向こうは燃やしに来てる、ってか」


「燃やさせない」

俺は短く言う。



ここへ来る前に、俺は一枚だけ紙を増やしている。


魔法屋。

表の棚じゃない。

奥の、薄い魔導書が積まれた木箱。


売り手は派手に宣伝しなかった。

むしろ、嫌そうに言った。


「……それは、揉め事を止める魔法だよ」

「揉め事?」

「壊す前提の連中には嫌われる。火を付けたい奴には特にね」


俺が欲しかったのは、派手な火力じゃない。

“秒”だ。


燃やす初動。

壊す初動。

その一拍だけ遅れれば、確保が間に合う。


ギルドマスターは証札を切り、ヴァレルは台帳を開いた。

買い物を、買い物で終わらせないために。


「用途」

ヴァレルが淡々と言う。


「現場の証拠保全」

俺は言う。

「開封、破壊、加熱の初動を鈍らせる」


「魔法名」


「ライト・シール(光封(こうふう))」

俺は答える。


ヴァレルのペンが止まらない。

「台帳記載。証札添付。封緘番号——二四」


封緘番号が付いた瞬間、これは“俺の私物”じゃなくなる。

公的に使える。

公的に責任が付く。


外から見える勝ちを、先に作ってから現場へ行く。

それが今の俺のやり方だ。



坑道へ入る。


ロード・ブーツが地面を噛む。

滑らない。

足を取られないだけで、判断が一段上がる。


暗い。

湿っている。

そして——油の匂いが濃い。


「……鉄と油。倉庫街の匂いに近い」

ハルトが短く言った。


「外で嗅ぐ匂いを、わざわざ中へ持ち込む」

俺は言う。

「燃やす準備だ」


床は古いのに、踏み跡は新しい。

踏み固められている。


《真理の鑑定眼》

——坑道床(土)

【総合:D/戦闘:—/索敵:—/判断:—/魔力:—】

【HP:—/MP:—】

【危険度:2/状態:踏圧新】

【欠陥や原因:靴底痕(複数)/油滴付着/灰微量】


灰がある。

燃やしたい。


俺は手を上げて止めた。

全員の呼吸が一段落ちる。


前。

金属が擦れる音。


「……鎖?」

セリアが耳を澄ませる。


「違う」

俺は言う。

「輪。箱の金具。外してる」


ギルドマスターが短く命じた。

「触るな。見て、書いて、封して、運ぶ。——現場で開けるな」


「分かってる」

俺は返す。

「開けた瞬間、燃やす口実になる」


ローヴァンが鼻で笑う。

「口実、な。……向こうは口実作りが仕事みたいなもんだ」


「だから、紙で折る」

俺は言う。


ヴァレルが帳面を開き、治安隊の男が印章のケースを腰から外した。

坑道の中でも、印章は重い。


「現場記録、開始」

治安隊の男が言った。

「立会い班、同行。目的、密輸実働の確保。非殺傷、優先。押収品は封緘登録し、引き渡し——」


「その通り」

俺は短く返す。


ミーナが息を呑んだ。

それでも、前を向いている。


「……怖いです。でも……ここ、来ないと……」


「背中は守る」

俺は言う。

「前だけ見ろ」


ミーナが頷いた。

目が、地面へ落ちる。

次に、壁。

次に、天井。


道を“覚える目”だ。



曲がり角の先で、灯りが揺れた。


火皿じゃない。

油布に染みた黄色い灯り。

匂いが、さらに濃くなる。


そして、その灯りの前に——人影が三つ。


一人は背が高い。

肩が広い。

胸当て。

腕の革防具。

腰の短い斧。


倉庫街の運び屋じゃない。

現場を回す側。

“実働”の中ボス。


もう一人は細い。

箱の金具に指をかけ、手元が忙しい。


三人目は奥。

壁に背を付け、火打石と油布を握っている。

燃やす係。


背の高い男がこちらを見た瞬間、迷いなく叫んだ。


「来たぞ! 燃やせ!」


火打石が鳴る。

火花が散る。


俺は結論だけで動く。


スキル《クイック・ステップ》。

距離が、一拍ずれる。


光属性魔法《ライト・トレース(光跡(こうせき):一定時間、足跡・接触痕・粉の流れが淡く発光して残る)》。

床に薄い線が走る。

逃走線を、先に描く。


「ッ——!」

細い男が後ずさる。

足元の光跡が、逃げ口を示すみたいに光る。


逃げ道を、最初に潰す。

それが勝ち筋だ。


燃やす係が油布を投げる。

火を移す。

坑道の中は一瞬で地獄になる。


俺は手を伸ばした。


光属性魔法《ライト・シール(光封(こうふう):開封・破壊・加熱の初動を鈍らせ、触れた痕を残す)》。


光が、油布の縁に刻まれる。

派手じゃない。

白い線が一筋、薄く走るだけ。


だが——燃えない。


火花は出た。

油布も近い。

なのに、燃焼の“立ち上がり”が遅れる。


燃やす係の目が見開かれた。

「……なに、だ……!?」


「秒を買った」

俺は言う。


セリアが前に出た。

光属性魔法《フラッシュ(閃光(せんこう):目眩しで視界を潰す)》。

白が爆ぜる。


三人の動きが一瞬止まる。


ハルトが滑り込む。

刃は喉へ行かない。

手首へ。


浅く走り、握りが落ちる。

短斧が石に当たって跳ねた。


背の高い男が唸る。

「チッ……!」


ローヴァンが肩でぶつかる。

拳じゃない。

体重で押し、壁へ縫い付ける。


「殺すなよ! 生かせよ!」

ローヴァンが叫ぶ。

叫ぶのは自分への命令だ。

熱くなると、手が出る。


背の高い男が暴れる。

力がある。

実働だ。


俺は“止める”だけを選ぶ。


雷属性魔法《サンダー・スパーク(雷火花(らいひばな):小放電で手の動きだけ止める)》。

小さな放電が膝へ走り、踏み込みが消える。


倒れない。

だが、前へ出られない。


その瞬間、セリアが光を伸ばした。


光属性魔法《ライト・バインド(光縛(こうばく):光の帯で手首・足首を絡め取り、動きを鈍らせる)》。


白い帯が腕と胴へ絡む。

男が力で引きちぎろうとする。

だが、光は動かすほど締まる。


「非殺傷だ」

俺は淡々と言う。

「暴れるほど、締まる」


細い男が逃げようとした。

光跡の上を踏む。


足元が淡く光り、逃げの線が“記録”になる。


「そこ」

俺が言うと、ハルトが回り込む。

刃じゃない。

柄で脛を叩く。


骨を折らない角度。

でも、足が抜ける。


細い男が倒れ、呻いた。

ローヴァンが膝で押さえる。

「動くな。動くと痛ぇ。動かなきゃ痛くねえ」


燃やす係が、もう一つ袋を取り出した。

火種じゃない。

粉。


撒いたら終わる。


ミーナが声を上げた。

怖いのに、声が出る。


「セリアさん、前! 粉です!」


セリアが反射で光を広げる。


光属性魔法《ライト・ヴェール(光幕(こうまく):薄い光の膜で“掴み・刃・投擲”の初動を弾く)》。


薄い膜が前面に張られる。

粉が当たって弾け、落ちた。


完全には防げない。

だが、撒く手が止まる。


その一拍で、勝つ。


俺は燃やす係へ歩く。

近い。

喉の奥がざらつく。


《真理の鑑定眼》

——無名(人間)

【総合:D/戦闘:36/索敵:42/判断:38/魔力:31】

【HP:54/MP:17】

【スキル:手先、投擲、逃走】

【危険度:47/状態:焦燥、命令束縛(弱)】

【欠陥や原因:命令文言の反復癖/合図音への依存/失敗への恐怖(強)】


命令束縛(弱)。

薄いが、ある。

上から線が伸びてる。


「命令は誰だ」

俺が言う。


燃やす係の目が泳ぐ。

口が開く前に、背の高い男が唸った。


「喋るな!」


「喋らせる」

俺は言う。

「紙にする」


治安隊の男が印章ケースを見せた。

それだけで空気が変わる。


燃やす係の肩が落ちた。

「……俺は……知らねえ。役職も……名前も……」


「それでいい」

俺は言う。

「知らないなら、知らないと書く」


ヴァレルがすぐに書く。

“供述:上位不詳。命令系統不明。末端、命令で動く。”


紙が増える。


背の高い男が光縛の中で笑った。

口元だけで。


「……お前ら、外まで来て、何ができる」


「できる」

俺は言う。

「押収して、封緘して、台帳に落とす」


笑いが止まる。

男の目が、初めて揺れた。


台帳。

それは“逃げ道が消える”言葉だ。



確保が終わると、次は手順だ。


俺はまず、全員の位置を指で切った。

触る順番を決める。

触った者が責任を持つ。

責任線が曖昧だと、後で“紙の外”へ逃げられる。


ギルドマスターが低く言う。

「触るのは最小。見て、書いて、封して、運ぶ」


「最小で最大を取る」

俺は返す。


ヴァレルが帳面を開く。

治安隊の男が印章を出す。

ギルドマスターが立会い印を用意する。


現場検分。


木箱が二つ。

布袋が一つ。


どれも油が付いている。

燃やす準備をしていた痕だ。


「まず外観」

ヴァレルが言う。

「破損、欠け、匂い、付着物」


「匂いは書け」

俺は言う。

「油、灰、焦げ。——意図だ」


ミーナが顔をしかめながら頷いた。

「……焦げの匂い、強いです。けど……変です。甘い匂いが……混ざってます」


甘い。

砂糖じゃない甘さ。

喉の奥がざらつく甘さ。


セリアが小さく息を呑んだ。

「……光が、嫌がってます。膜が……薄くなる感じ」


俺は箱の金具へ手を伸ばす。


光属性魔法《ライト・シール(光封(こうふう):開封・破壊・加熱の初動を鈍らせ、触れた痕を残す)》。

今度は“押収品”として刻む。


白い線が薄く走る。

開けたら痕が残る。

燃やそうとしても初動が遅れる。

触れた指の痕も残る。


治安隊の男が淡々と言った。

「公的押収。封緘番号、七四。——品目、木箱一。木箱二。布袋一」


ヴァレルが紙を差し出す。

封緘番号が書かれ、立会い印が押される。


ギルド印。

治安隊印。

監察導線の印。


「現場検分書」

ヴァレルが言う。

「品目、数量、外観、匂い、付着物、位置——」


「位置も書け」

俺は言う。

「坑道のどの曲がり角か。入口から何歩か。——逃げ道を潰すために」


ハルトが短く数える。

「入口から……六十七。右へ曲がって二十。奥に灯り」


ミーナが補う。

「ここ、風が中へ吸ってます。煙が外へ出にくい場所……わざとです」


紙が増える。


俺は布袋へ目を向けた。


布は厚い。

縫い目が新しい。

でも糸が古い。


縫い直しで中身を隠す。

匂いを油で潰す。

燃やす準備をしていたのに、燃やしきれない何かがある。


《真理の鑑定眼》

——布袋(物)

【総合:C/戦闘:—/索敵:—/判断:—/魔力:52】

【HP:—/MP:—】

【危険度:68/状態:封縫い新】

【欠陥や原因:内側に微量の“異物”付着/油で匂いを隠している/針穴が不自然】


“異物”。


視界の端が僅かに滲んだ。


耳の奥で、紙が擦れるみたいな音がする。

頭の中で、何かが擦れている。


鑑定ノイズ。


来る。

禁忌が近い。


だが、今は倒れない。

倒れたら手順が止まる。

手順が止まれば、勝ちが逃げる。


俺は息を吸って、吐く。

結論だけ置く。


「触らない」

ローヴァンが眉を上げた。

「え? でも、それ——」


「触らないで封緘する」

俺は言う。

「現場で開けるな。開けた瞬間、燃やす口実になる。……押収して、台帳へ」


治安隊の男が頷いた。

「妥当。危険物扱いで封緘強化。番号、追加」


ギルドマスターが唇を引き結ぶ。

「禁忌か」


「前兆だ」

俺は言う。

「確定じゃない。でも、確定に近い匂いがする」


ヴァレルが淡々と書く。

“鑑定反応:ノイズ。危険度上昇。現場開封見送り。封緘強化。”


紙が、また増える。



拘束具で三人を繋ぎ、俺たちは坑道を出る準備に入った。


背の高い男が最後にもう一度だけ笑った。

今度は声を出して。


「……台帳、台帳って……笑える。台帳に落ちる前に、燃えるだけだ」


「燃やさせない」

俺は言う。

「燃えるなら、燃える瞬間を紙にする」


男の笑いが止まった。


坑道の口が見えた瞬間、風が変わった。

外の匂いが入ってくる。

土と草と冷たい空気。


治安隊の控えが、入口の陰で待っていた。

灯りは小さく、視線は鋭い。

見た瞬間に分かる。

ここから先は、“搬送”という手順だ。


「引き渡し確認」

治安隊の男が言う。

「確保者、班長。被確保者、三名。負傷、軽微。——押収品、木箱二、布袋一」


「封緘痕の確認をする」

ギルドマスターが言った。

「現場で封が崩れていないことを、立会いで残せ」


俺は木箱の金具を指で示す。

薄い光封こうふうの刻みが残っている。

開けていない証拠。

壊していない証拠。


ヴァレルが淡々と書く。

“封緘状態:異常なし。封緘番号七四、確認。追加封緘番号、確認。搬送担当、氏名記載。”


治安隊の控えが、受領の札を差し出した。

受領印が押される。

搬送責任が紙に乗る。


背の高い男がその紙を見て、喉を鳴らした。

紙は、殴らなくても効く。


俺は最後に一行だけ追加した。

“現場にて光属性魔法ライト・シール(光封)を使用。証拠焼却の初動阻止。封緘番号二四の魔導書に基づく。”


紙が増えた。

増えた紙が、明日の逃げ道を減らす。



外へ戻る道の途中、光跡ライト・トレースがまだ薄く残っている。

暗闇で、道が“記録”になっている。


ミーナがそれを見て、小さく言った。

「……戻れる道……ほんとに、あるんだ」


「ある」

俺は言う。

「紙と同じだ。残せば戻れる」


同時に——背中がぞわりとした。


布袋の奥。

“異物”が、震えた気がした。


鑑定ノイズが、もう一度だけ頭の奥を掻く。

短く。

鋭く。


俺は歩みを止めない。

止めたら手順が崩れる。


「帰るぞ」

俺が言うと、全員が頷いた。


背中には押収品。

手には紙。

足元には光跡。


外から見える勝ちを、抱えたまま。


だが——勝ちの匂いに、別の匂いが混ざっている。


甘い匂い。

焦げを食っても残る匂い。


禁忌の匂いだ。


まだ前兆。

でも、前兆は前兆のままでは終わらない。。。


次は、確定になる。


その気配だけが、外の風より冷たかった。。。

お読みいただきありがとうございました!!


「燃やす」「逃げる」「知らない」——その逃げ道を、全部“紙の内側”で折っていく回でした。

非殺傷で確保して、封緘して、受領して、搬送責任まで残す。

外から見える勝ちが積み上がるほど、相手は動けなくなっていきます。


ただ、押収品に混じった“鑑定ノイズ”だけは別格で……。

次回、前兆がどこまで“確定”に近づくのか——ぜひ見届けてください。


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