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「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」  作者: きりざく


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第2話 “当たり”の証明は、下水路から始まる

ギルドの扉を出た瞬間、外の空気がやけに冷たく感じた。



「……レインさん。本当に、私で大丈夫でしょうか」



セリアが木札を握りしめたまま、恐る恐る聞いてくる。



「大丈夫。大丈夫じゃない要素があるなら、今ここで潰す」


「……潰す?」


「不安の原因を、鑑定して潰す」



俺は掲示板から剥がした依頼書を広げた。



《下水路の魔物調査》

危険度:低

内容:スライム類の駆除、発生原因の確認

報酬:銅貨三十枚



「低……ですよね?」


「表記はな」



俺は依頼書に意識を向ける。



《真理の鑑定眼》。


——危険度:低(表記)

——実際危険度:中

——原因:個体数の増加/巣の存在

——追加情報:酸性ガス発生(軽度)

——最適解:火魔法+換気+撤退判断



「……中?」



セリアの顔が青くなる。



「でも、依頼は下段ですよ……?」


「下段でも、当たり外れはある。だから鑑定が必要になる」



俺は落ち着いて言った。



「怖いか?」


「……怖い、です」


「正直でいい。怖いなら、怖いまま進めばいい。止まらなければ勝てる」



セリアは目を瞬いた。



「……勝てる?」


「成功できる、って意味だ」



俺は空を見上げた。


夕方に差し掛かっている。暗くなる前に終わらせたい。



「まずは準備だ。セリア、昨日の『火を灯す』はできるな?」


「……はい。あの、昨日より少し大きくも……」


「いい。今日は“確実に当てる”を最優先にする。威力は要らない」


「はい……!」



返事の声が、少しだけ強い。


それだけで十分だ。



下水路の入口は、広場の端にある石造りの蓋だった。


近くに立つ衛兵が、面倒そうに言う。



「下に降りるのか? 臭いぞ」


「仕事だからな」


「……新人か。死ぬなよ」



忠告というより、事務連絡の声だ。


俺は蓋を指差す。



「開けてもいいか」


「勝手にしろ。終わったら閉めろよ」



俺は蓋に触れる。



《鑑定眼》。


——下水路入口

——状態:老朽化(崩落リスク小)

——危険:ガス滞留(入口付近は軽度)

——対策:換気/火種注意(引火リスクなし)



「引火はしない……けど、臭いはするな」


「う、うぅ……」



セリアが鼻を押さえる。



「吸い込むと気分が悪くなる。口で呼吸するな。鼻で浅く」


「は、はい……!」


「……レインさん、慣れてますね」


「慣れてない。慣れてるフリをしてるだけだ」


「ふ、フリ?」


「怖いときに怖い顔をすると、余計に怖くなる。だから平気そうにする。単純だろ」



セリアは一瞬きょとんとして、ふっと笑った。



「……じゃあ私も、平気そうにしてみます」


「それでいい。平気そうにして、手だけは手順通り動かす。人間はそれで意外と勝てる」



俺は蓋をずらし、梯子を確認する。


足場、問題なし。



「俺が先に降りる。セリアは三段空けて来い。落ち着いて」


「分かりました」



俺はゆっくり降りる。


暗い。湿っている。水音が響く。


だが、恐怖より先に“情報”が入ってくる。



《鑑定眼》が、周囲の気配を拾っていた。


——スライム(小)×3 接近

——攻撃性:低

——弱点:熱

——注意:分裂(一定条件)



「来る」



俺が小声で言うと、セリアが緊張した声で返す。



「は、はい……!」



暗がりから、ぬちゃり、と音。


ゼリー状の塊が三つ、こちらに滑ってきた。



「セリア。昨日のやつをそのまま。小さく、短く」


「……《フレイム》!」



火球は小さい。


だが、狙いは正確だった。


一体目が焼け、溶ける。



「……できた!」


「今のまま。次」



二体目。


セリアが詠唱し、焼く。


三体目。


少しだけ遅れたが、当たる。



「……っ」



セリアが息を吐いた。



「……倒せた」


「倒した」



俺は言い直す。



「『倒せた』だと、偶然に聞こえる。君がやったんだ」



セリアの頬が赤くなる。



「……はい。私が……やりました」



その一言が、今日の勝ちだ。



奥へ進む。


道は二手に分かれていた。


左は水量が多く、流れが速い。


右は乾いているが、臭いが強い。



「どっち……ですか」



セリアが掲げた杖先の火が、ふっと揺れた。



「……風、ですか」


「ガスの流れだ。流れがある方が安全。滞留してる場所は危険が増える」


「……分かりますか?」


「分かる。……というか、見える」



俺は自分の目を指で軽く叩いた。


「鑑定で“空気の状態”も、ある程度は拾える」


セリアが小さく息を呑む。



「……すごい」


「すごいのは能力だ。使うのは俺の仕事」



俺は迷わない。


鑑定するからだ。



——左通路:魔物反応少/ガス薄

——右通路:魔物反応多/巣に近い/ガス強



「右だ。短期で終わらせる」


「……分かりました」



セリアの声が震える。


だが、足は止まらない。


よし。


右へ。


数分歩くと、壁に粘液が増え始めた。



「巣が近い」


「……え、巣……」


「大丈夫。巣は“対処できる形”にする」



俺は壁の粘液に意識を向けた。


——粘液

——性質:酸性(弱)

——用途:薬素材(薄)

——危険:衣服腐食(軽)



「セリア、ローブの裾を濡らすな。少しずつ溶ける」


「は、はい!」



この一言だけで、恐怖は“管理可能な危険”になる。


人間は、分からないものが怖い。


分かれば、怖くても動ける。


——俺は、そのために鑑定する。



ぬちゃ。


ぬちゃぬちゃ。


音が増える。


前方に、広い空間。


水面が泡立ち、スライムが十体以上。



「多……っ」



セリアが息を呑む。



「数は多い。でも強くない。焦らなければ勝てる」



俺は短く指示を出す。



「一体ずつ。群れの中心じゃない。端から」


「……はい!」



セリアが火球を放つ。


一体、溶ける。


二体、溶ける。


三体目で、スライムが二つに割れた。



「えっ……!?」


「分裂だ。今の条件は“過熱が中途半端”」



俺は落ち着いて言う。



「次からは、火を少しだけ長く当てる。焼き切る」


「……分かりました!」



セリアは詠唱を短くしたまま、集中だけを増やす。


火球が当たり、今度は割れずに消える。



「よし。いい」



セリアが頷く。



「……私、できる……!」



スライムを焼くたび、甘ったるい臭いが一瞬だけ強くなる。



「……うっ」



セリアが顔をしかめた。



「気分が悪いか」


「少し……頭が……」



俺は即座に鑑定する。


——セリア

——状態:軽い眩暈(ガス吸入)

——対策:一時退避/水で口をすすぐ/深呼吸禁止



「下がれ。今は戦わないでいい」



俺は水筒を渡す。



「口をすすいで、吐き出せ。深呼吸はするな。浅く」


「は、はい……っ」



セリアが指示通りに動くと、顔色が少し戻った。



「……すみません」


「謝るな。体調管理も戦闘だ。倒れたら負ける」


「……はい」



セリアが頷き、目に力が戻る。


その瞬間、空間の奥で、ぶくり、と大きな泡。


水面が盛り上がり、巨大なスライムが姿を現した。



「……でかい」



セリアが固まる。


俺は鑑定する。


——スライム(大)

——危険:中

——耐性:物理/低火力魔法

——弱点:高熱(一点集中)

——注意:体内に核(破壊で即死)



「核……」



俺はセリアに言う。



「怖がらなくていい。倒し方は見えてる」


「……見えて、る?」


「中心に核がある。そこだけ焼けば終わる」



セリアが唇を噛む。



「……私の火で……?」


「できる。昨日できた。さっきもできた。だから今日もできる」



言葉は短く、確実に。



「狙いは“真ん中”。火は小さくてもいい。外を焼くな。刺す」


セリアは深呼吸する。



「……《フレイム》!」



火球が飛ぶ。


当たる——が、表面で弾かれた。



「……っ!」


「いい。次。今のは外だ。もう一度。少しだけ角度を上げて」


「は、はい!」



二発目。


火球が、わずかに沈み込む。


巨大スライムがぐにゃりと揺れ、怒ったようにこちらへ滑る。



「来る!」



セリアが震える。


俺は前に出た。



「セリア。後ろ。壁際」


「……!」



セリアが下がる。


俺は杖も剣もない。


代わりに、足元の鉄杭を拾う。


鑑定。


——鉄杭

——強度:中

——用途:核露出用(刺突)



「十分」



スライムが迫る。


俺は冷静に、鉄杭を突き立てた。


ぐにゃり。


スライムの体が割れ、中心が一瞬だけ見える。



「今!」


「……《フレイム》!」



三発目の火球が、露出した核へ吸い込まれる。


次の瞬間。


ぱんっ、と乾いた音。


巨大スライムが、一気に崩れ落ちた。



「……!」



セリアが口を押さえる。



「た、倒れ……」


「倒した」



俺は繰り返す。



「君が、核を焼いた」



セリアの目に、涙が浮かぶ。



「……私……できた……!」


「できたじゃない。できる、だ」



俺は笑った。



「今ので証明できた。君は、できる」




巣の原因を探す。


空間の奥、壁の亀裂に粘液が集中している。


近づいた瞬間、むわっと臭いが強くなった。



「くっ……」



セリアが咳き込みそうになる。


俺は手で制す。



「無理するな。ここから先は換気が必要だ」



鑑定。


——亀裂

——原因:腐敗物の堆積/微弱な魔力汚染

——結果:スライム増殖促進

——対処:浄化(火+風)/封鎖(簡易可)



「魔力汚染……?」


「軽い。だが放置すると増える。今、封鎖すればいい」



俺は周囲の石を集め、亀裂の前に積む。



「セリア。小さく火を当てて乾かす。熱で固める」


「……はい!」



セリアが火を灯し、石と粘液を乾かす。


臭いが少しだけ引いた。



「……できました」


「よし。依頼の目的は達成だ。撤退する」


「え、追撃は……?」


「不要。欲張ると事故る。今日は“成功体験”を持ち帰る日だ」



セリアが小さく頷く。



「……はい。持ち帰ります」




地上に戻ると、夕陽が眩しかった。


衛兵が鼻をつまんで笑う。



「お、帰ってきたか。生きてるな」


「生きてる」


「……新人の割に顔色がいい。やるじゃねえか」



軽い褒め言葉。



それだけで、セリアの背筋が少し伸びた。


ギルドに戻る。


受付の女性が顔を上げた。



「早いわね。どうだった?」



俺は淡々と報告する。



「スライムの群れ。巣の兆候。原因は亀裂の堆積物。封鎖済み」



受付が一瞬だけ固まる。



「……封鎖?」


「簡易だが、今夜は増えない。恒久対策は衛兵に引き継ぐ」


「ちょっと待って」



受付が身を乗り出す。



「危険度“低”よ? そこまでの内容、普通は出てこないんだけど」



周囲の冒険者が、ちらちらこちらを見る。


例の派手な男も、酒場スペースから顔を向けた。


俺は落ち着いて答える。



「表記が甘い。実際は中。ガスもあった。分裂個体と大型も出た」



ざわ、と空気が揺れる。



「中……? 嘘だろ」


「新人が盛ってるだけだ」



派手な男が笑う。



「ほら見ろ。鑑定(笑)」



派手な男がカウンター前に出てきて、わざとらしく腕を組んだ。



「じゃあさ、その“鑑定”で当ててみろよ。俺が次に言うこと」


「……何を?」


「俺が今、心の中で思ってることだ。ほら、見抜けるんだろ?」



周囲がどっと笑う。



セリアが身を縮めた。


俺は落ち着いて、男を見る。



鑑定。


——内面:面子を守りたい/失敗してほしい/怖い(評価が揺れる)



「君は今、『こいつが外したら皆で笑ってやろう』と思ってる」



笑い声が一瞬止まった。


男の顔が赤くなる。



「ち、違う!」


「違うなら、何だ?」



男は言葉に詰まり、視線を逸らした。


受付が咳払いをする。



「はい、そこまで。ギルド内での挑発は禁止」



派手な男は舌打ちして引き下がった。


ざまぁは要らない。


“言い返せない空気”だけで十分だ。


受付が眉をひそめる。



「証拠は?」



俺は頷き、袋を取り出した。



「スライム核の欠片。あと、粘液のサンプル」



鑑定眼で“素材”として価値があると分かっていた。


受付が受け取り、目を丸くする。



「……本物ね」



派手な男の笑いが止まった。



「それと」



俺は一歩引いて、セリアを前に出した。



「魔法は、彼女が担当した」



セリアが固まる。



「えっ……」


「君の功績だ。言っていい」



セリアは震えながらも、口を開いた。



「……私が……火で……群れと、大型の核を……焼きました」



一瞬の静寂。


次の瞬間、ギルドのあちこちで低い声が漏れる。



「……あの落ちこぼれが?」


「核を焼いた? 大型を?」


「昨日、門前で追い出されてた子だろ……?」



受付がセリアを見て、ふっと表情を和らげた。



「……やるじゃない。セリア、だったわね」



セリアの目が揺れる。



「は、はい……」


「次も来なさい。低ランクでも、実績があれば道は開く」



その言葉は、セリアにとって“承認”そのものだった。


セリアは、泣きそうな顔で頷く。



「……はい。行きます」



俺は横で静かに息を吐いた。


——積み上がった。


一段、確実に。


派手な男が、歯ぎしりするように呟く。



「……まぐれだ」



俺は見向きもしない。


まぐれじゃない。


再現できる。


それが、鑑定の強さだ。



ギルドを出る前、掲示板の前に立つ。


セリアが不安げに尋ねる。



「……次も、私が……」


「次も君がやる」



俺は言った。



「俺は、君の価値を“証明し続ける”」



セリアが小さく笑う。



「……はい」


の時、背後の気配に鑑定眼が反応した。


ギルドの隅。


古びた装備を抱え、うつむいている男。


——評価:最低

——実際価値:異常

——危険:抱えている剣(封印)



「……」



思わず、足が止まる。


封印?


男は誰にも見向きもされず、掲示板を眺めていた。


セリアが気づいて、首をかしげる。



「レインさん……?」


「次の“当たり”がいる」



俺は小さく言った。



「——そして、少し厄介だ」



男の腕の剣が、ほんのわずかに震えた気がした。


《鑑定眼》が、警告のように文字を浮かべる。


——解放条件:レインの鑑定

——失敗条件:触れるな



「……触れるな、か」



俺は笑った。


面白い。


次は、仲間探しだけじゃ済まない。


そんな予感がした。


俺はその男に近づいた。


セリアが小声で言う。



「……話しかけるんですか?」


「今は、近づくだけ。触れない」



男は顔を上げ、くすんだ瞳で俺を見た。



「……何だ。新人か」



声は低いが、妙に落ち着いている。



「剣が……重そうだな」



俺がそう言うと、男は苦く笑った。



「重いさ。呪いみたいなもんだ」


「呪い?」


「手放せねぇ。売れねぇ。捨てられねぇ。……だから最低評価ってわけだ」



周囲の視線が、また薄く刺さる。


“関わるな”という空気。


俺は、それを無視して鑑定眼を走らせた。


——古剣(封印)

——価値:SS(条件付き)

——危険:暴走(解放手順必須)

——解放鍵:鑑定者の宣言


男が囁くように言った。



「忠告しとく。そいつには近づかない方がいい」


「……なぜ?」


「近づいた奴から、運が消える。そういう剣だ」



迷信でも、放置はしない。


俺は静かに頷いた。



「忠告、受け取る。——でも、俺は“見える”」



男の眉がぴくりと動く。



「見える……?」


「君と、その剣の“本当の価値”だ」



俺がそう言った瞬間、古剣がかすかに鳴った。


——まるで、返事をするみたいに。


セリアが息を呑む。



「……レインさん」


「大丈夫」



俺は笑った。



「次は、これを“安全に当てる”だけだ」




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