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無能と追放された私の魔法は、生活魔法レベルです  作者: 希羽


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第27話 公爵夫妻の華麗なるお披露目

 王城の大広間は、数百人の貴族たちで埋め尽くされ、むせ返るような熱気に包まれていた。

 今夜は建国記念舞踏会。

 しかし、人々の関心は王家の祝い事よりも、まもなく登場する「ある夫婦」の噂話に集中していた。


「おい、聞いたか? あの『呪われた英雄』ジークフリート公爵が戻ってくるそうだ」

「まさか。彼は呪いで醜い化け物になり、廃人になったと聞いたぞ」

「その妻というのが、あのベルベット伯爵家の『家出娘』らしいな」

「あぁ、借金のカタに売られたという……。きっと、見るに堪えないみすぼらしい夫婦に違いない」


 扇子で口元を隠しながら、好き勝手な憶測を囁き合う人々。

 悪意と好奇心が入り混じった、粘つくような視線が扉に向けられている。

 その重厚な扉の向こう側で。

 私は緊張のあまり、心臓が口から飛び出しそうになっていた。


「うぅ……やっぱり帰りたいです……」


 私はドレスの裾をギュッと握りしめた。

 あんな大勢の人に見られるなんて。もし転んだら? もしダンスのステップを間違えたら?


「リナリア」


 隣に立つジークフリート様が、私の冷たい手をそっと包み込んだ。


「顔を上げろ。お前は何も恥じることなどない」

「でも……」

「俺を見ろ」


 見上げると、そこには自信に満ちた、とびきりハンサムな旦那様の顔があった。

 金色の瞳が、優しく私を射抜く。


「お前は、この国を救った英雄(おれ)が選んだ、ただ一人の妻だ。……胸を張れ。俺が隣にいる」


 その力強い言葉に、震えが少しずつ収まっていく。

 そうだ。この人がいるなら、何も怖くない。

 私は深く深呼吸をして、しっかりと頷いた。


「……はい、旦那様」


 その時、ファンファーレが高らかに鳴り響いた。


「――ジークフリート・ヴァン・ハイゼル公爵閣下、ならびにリナリア公爵夫人、ご入場でございます!!」


 ギィィィィ……。

 重厚な扉が、ゆっくりと左右に開かれる。

 眩いばかりのシャンデリアの光が、私たちを照らし出した。

 会場のざわめきが、一瞬で消える。

 そして。

 水を打ったような静寂が訪れた。


「……あ……」

「あれが、公爵……?」

「嘘だろう……」


 誰かの呟きが漏れた。

 そこには、彼らが想像していた「化け物」も「みすぼらしい娘」もいなかった。

 漆黒の礼服を完璧に着こなし、圧倒的な威厳と野性味を漂わせる美丈夫、ジークフリート。

 その腕に手を添え、夜空のような紺碧のドレスを纏った、清楚で可憐な美女、リナリア。

 二人が並ぶ姿は、まるで神話の挿絵から抜け出してきたかのように美しく、そして神々しかった。


「行くぞ」


 ジークフリート様のエスコートで、私たちは大階段をゆっくりと降り始めた。

 一歩、足を踏み出すたびに。

 会場の空気が変わっていく。

 私の体からは、緊張で少し強めに漏れ出した無自覚の聖女オーラが、キラキラとした光の粒子となって漂っていたらしい。

 それが会場全体に広がると、人々の心にあった猜疑心や悪意が、スーッと浄化されていく。


「なんだ……? すごく、いい匂いがする」

「見ているだけで、心が洗われるようだ……」

「なんて美しいんだ。あれが本当に、あのベルベット家の娘なのか?」


 軽蔑の眼差しは、いつの間にか羨望と、崇拝の眼差しへと変わっていた。

 人々は自然と左右に分かれ、私たちのために道を開けた。

 まさに、モーゼの十戒だ。

 その道の先で、国王陛下が満面の笑みで待っていた。


「よくぞ参った、我が友よ! そして、我が国の至宝よ!」


 陛下が両手を広げると、ジークフリート様は優雅に臣下の礼をとった。

 私もそれに倣い、カーテシー(膝を折る挨拶)をした。

 マダム・ローズとの特訓の成果だ。背筋は伸び、指先まで完璧な所作。


「陛下。……遅くなりましたが、帰還いたしました」

「うむ! その顔が見たかった! ……さあ、皆の者!」


 陛下は会場を見渡し、高らかに宣言した。


「見よ! 彼こそが、魔王の呪いに打ち勝ち、生還した英雄ジークフリートである! そして彼女こそが、その呪いを『愛の力』で解き放った奇跡の淑女、リナリア公爵夫人である!」


 わぁぁぁぁぁ……ッ!!

 割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。

 もう誰も、私たちを悪く言う者はいなかった。


「では、ファーストダンスを頼めるかな?」


 陛下の合図で、楽団が演奏を始めた。

 優雅なワルツの調べ。


「踊ろうか、リナリア」

「はい……!」


 私たちはホールの中央へと進み出た。

 ジークフリート様の手が、私の腰を支える。

 彼と視線が合う。

 周りの景色が滲み、彼だけがはっきりと見える。

 タン、タ、タン。

 私たちは踊り始めた。

 特訓の時よりも、ずっと軽やかに。ずっと滑らかに。

 まるで氷の上を滑るように、あるいは風に乗って舞うように。

 彼のリードは完璧で、私はただ身を任せるだけでよかった。

 回転するたびに、ドレスの裾が美しい花のように広がる。


「……夢みたいです」


 私は彼を見つめて呟いた。


「実家の屋根裏で震えていた私が、こんな素敵な場所で、大好きな人と踊っているなんて」

「夢じゃない」


 彼は顔を寄せ、誰にも聞こえない声で囁いた。


「これが現実だ。そして、これからの俺たちが歩む未来だ。……愛している、リナリア」

「私も……愛しています、ジークフリート様」


 クライマックス。

 音楽が高まり、私たちは最後のポーズを決めた。

 その瞬間。

 感極まった私の体から、パァァァッ! とまばゆい光が溢れ出した。

 それはホール全体を包み込み、居合わせた人々の古傷を癒やし、疲れを取り、明日への活力を与える大規模祝福(ブレッシング)となって降り注いだ。


「おおお……!」

「体が軽い! 痛みが消えた!」

「奇跡だ……! 本物の聖女様だ!」


 人々は涙を流し、私たちに向かって惜しみない拍手を送った。

 それは、私たちがこの国に、そしてこの世界に「最高の夫婦」として認められた瞬間だった。

 こうして、公爵夫妻のお披露目は、伝説として語り継がれるほどの大成功を収めた。

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